デカダンスとグラマラスの詩集

デカダンスとグラマラスは永遠の恋人です。豪奢なる薔薇が降るときは、既に破綻が兆しているのである。

  第一 死の風景へ火を放て



  1 硝子の夜


赤々と燃え滾る太陽 唯一に生まれた儘の姿を赦された黄金の焔が
淫らな銀の夜を欲す、詩書きの賤しき男供の乱雑な腕に掻きまわされ、
あっけらかんと輝るが為に、直視をできぬ太陽の孕む真理諸共、
清んだ純潔神・神経的蒼穹の表面へ、塗りたくるように曳伸ばされ、

──ご覧。天空、太陽の黒い破片で欲情の満潮のように蔽われた、
かの真昼時 唯一に、壮麗にして完全無欠な裸体を啓蒙していた、
黄金の燃ゆる太陽は、玲瓏な冷然な漆黒な硬質な情欲煽る艶やかな素裸、
ぞっと美麗にして なべてを秘密と晒す皮革の艶をそれ照らしていて、
 
内より洩れる暗みに湿る肌に沈む ぬらぬらと燦りうつろう陰翳に、
嘗ての輝かしき太陽神の真理 豊かな腰付煽るがように泳がせて、
邪な水鳥の頭の如く浮んだり、とろみの水音散らし奥へそっと沈んだり、

嗚 そいつ、悉くを呑む官能的虚無の風景、滴り散れるは熱い体液。
この無秩序な原始の風景、硬く純粋な幻視へ澄まし「死」と重装させよう、
──虚空に盗んだ火を放て! 闇を硝子の花へ剥け! 融合い曳伴れ空へ舞え!




  2 レノアの神殿


月照る夜に壮麗に燦く かのレノアよ… ぼくはわが胸中に睡る、
隔てられた 銀と群青の暗みの風景に、淋しい神殿を建築したよ。
虚無と非情と孤独の金属夢 それ骨組なしに、音楽・光で綾織らせ、
虚空に盗んだ断末魔の火を放ち、霞の如く 茫洋な神殿が暗示された。

想いかえせば玲瓏な 冷然と、素気ない美ばかりを蒐集する、
死の清む燦き 月を透して憧れる、そんな少年であったよう。
非情はちかと閃く銀の殴打のように美しく、虚無に孤独漂う夢想、
それ唯一のわが寛ぎで、不条理に頭抑えられ、漸く湧くは生の意欲。

レノア 君は誰だ、何処から来た、不可解、されば君、永遠の女性だ、
つまりはぼくと無関係、きんと冷たく突き放す 蒼白の妖婦は月の光、
嗚 月よ、貴女がぼくの女神であったか、神殿を司る絶対神は、貴女。

想いかえせば独りぼっちの ぼく、きみばかりを書いていた、十二歳、
かの時書いた詩、貴女に花を渡された──ぼくは甘えていたようだ。
レノア 貴女に二つ名を付けよう、虚無に棲む詩人を炎やす、"理不尽"。




  3 白銀花の眸


白銀花を熔かし容れ 金属液としたたるように、
なよやかで、ましろき火のひとすぢうつろう肢体、
官能の翳 冷酷の眸に揺れている──蠱惑としなる白蛇よ、
きみのまなこは美しい、何故って、美への不感があるから。

さながらその美 海や空にも似ているよう、
壮麗精緻な現実の、冷然な照り返しにも似ているよう、
その眸、美さえ映さぬその虚空、閃く銀の紗の羽音、
その眼じたいが美しい、それこそ森羅の不思議である。

僕は君の視界の裡で、「わたし」を身振と奇怪にうごこう、
きみが眸に映る奇怪な僕は まるでのっぺりと滑稽だろう、
滑るように退行、するすると逃げ、低みに蹲る僕を見ておくれ、

自意識過剰な役者の僕が、そが眸の鏡面 わが肉に埋め秘め、
僕、同情不能な君の手前で犬死しよう、第一級の喜劇役者として。
──僕等を閉ざす 硝子の箱に、蜘蛛の無意味な涙がしたたる。




  第二 無比の野蛮



  4 Drive to The Dead World


紅泥と、煙り昇り淀みどぎつい渦巻き伴れて、
軟い脚くねらす「終世界」の喉元突出るよう、
黒々と優艶なスポーツカー 突進に戦慄いて、
定めた「死」へ乱痴気騒ぎ 土砂の如く爆走、

奴等の身 豪奢なハイファッションに包まれ、
轟然と傲然と周囲の車を轢き散らし 翳朦朧、
赤々と炎ゆる霧 靭ッつい泥濘な締付に腫れ、
絢爛な不良共 腫れる死破らんと速度に乞う。

──死んでもいいが死ねやしないのが御気楽、
  夭折に焦がれるも才も名誉も美貌もなく、
  殉教に値す信念・神すらなく果て、墜落、

奴等 Kurt Cobainへの憧れ籠め淫な息洩らし、
若気痛み憧れ涙涙轟々と諸共攣れ一条に垂れ、
破裂。BGMはLacrimosaギタア酷に歪み引攣り。




  5 アフリカの仮面


昔 私が仏蘭西の路上で、怪しげな男から購入した、
深紅の色と奇怪の線に塗りたくられ、衝動の儘に描かれたような
アフリカの仮面を被るなら、わが肉体の内奥 まるで裏がえって、
火のようなアフリカを闊歩する、わたしの本性 剥かれ昇るよう、

私はアフリカの大地で、褐色の肌 太陽のように晒して、
血色の好い頬で野生の儘に踊り、歓び、怒り、ワンワンと泣き、歌う。
──雄叫びながら後退りする儀式だ、酒をもってこい、音楽を鳴らせ、
なるたけ官能的なグルーヴがいい、乱痴気の墜落に 天へと跳ぶ想いさ。

されば私、浴びるようなアルコールに酩酊、どっと寄せる睡魔、
泥のように沈み寝て、黎明の光が、昨夜の躁がしい歌責めたてる、
土製のアフリカの仮面、床に転げ割れている、瓶割れた酒流れてる、

わたしは咽び泣きながら、双に割れた仮面をくっつけるも、
片方は毀れた酒に穢れて黝い、私はわが身がこの秩序にあること想い、
整列世界に抛られ蹴り跳ばれる、されば黝い私、此処にありつづける。




  3 鏡を殴打、血の流れる硝子、けたたましく泣く少女性




  6 溺れる月


今宵 空には月が不在です、
群青の夜天 きらびやかな硬質が、
冷たく頭上にはりつめているばかりです、
またたいてるのは、瑕のように燦る星々です。

夜の風景の底には 湖がございます、
湖上には月の翳がゆらめいて映り、
瑕の星々をきんと撥ねかえしながら、
悩ましげに 身を折るように震えています。

おそらくや、月は溺れているのです、
暗鬱の黒々となみうつ湖のなかで、
空に視えない月 その翳が溺れているのです。

苦痛に捩るようにわなわなと打つ波紋に、
いま 久遠の火が一刹那垣間見えました、
しんとした風景が、瞬間どぎつく鮮明に昇りました。




  7 星月夜の菫


星月夜に蔽われた暗みと湿度籠る裏庭の翳で、
貴女のしろいゆびさきが降るように光と毀れ、
うすむらさきの装飾のされた爪はそらを揺れ、
呪うように祈るように夢引掻き不在を撫でて、

貴女と密会するこの裏庭の翳は月に照らされ、
象牙製のその手はしなやかに不安の翳帯びて、
けぶるようにしらじらな陰翳揺れ渦巻もして、
色っぽいうすむらさきはちかとどぎつく赫う。

  *

不在の実在はわが身を夢と連れ渦巻へ飛ばす、
うすむらさき心臓に遺され月光がそれを射す、
されば花をこのむ私はまた一つの観念を抱く、
菫よ──情念・理念綾織る愛の砂浜への墜落。



  8 受難の人魚

    水面に漂ふ泡の真白な髪の網目の 中に、
    人魚の美少女の、稚い腹を
貪欲にも、溺れさせようとするのか
       ──ステファヌ・マラルメ「無題」


 1

受難に跳んだ 人魚の美女が、
きんと 硝子めいて硬い水面で、
白い腹 弓なりにしなりうねらせて、
真白の月影さながら 浮び沈みし揺らめいている、
 
  ──賤しきわたし、それ悲しむのを肉から歓ぶ。

受難に溺れる 人魚の美女が、
燦爛と 死を照らし誘う水面で、
濡れそぼる藍の髪 ぬらぬらと燦り垂らし、
陰の暗みへ昇り沈みし 鱗に緊縛された躰波うたせる。

  ──賤しきわたし、その不幸をわが悦楽とする。

受難に沈む 人魚の美女が、
ぞっと 青灰の虚空と剥かれた水面で、
苦痛に歪み ecstasyとも酷似した貌、
水底の深みの湿りへ堕ちて 苦痛と苦痛に結ばれる、

  ──賤しきわたし、共苦の震えに音楽を聴く。

 2

私は「我(わたし)」が後ろめたい、
「わたし」へ後ずさるがために、
わたしは「我」を解体する、
果して 「我」でない「わたし」はいずこにありや?

──骨を水晶へ、
──皮を銀へ、
──眸を硝子へ、
──巡る血は天蓋へ昇らんとする青き焔へ。…

  ──「おねがい、おねがいだから
     私を人形にしてほしい、
     "我"を使用し嬲って抜殻からにし放逐してほしい」
    「それは不可能でございます」

 *

受難に浸る 人魚の美女が、
真実のいたみで 美をみすえ、
唯一の韻踏み、死際の舞踏と善くうごく、
倫理の鱗に縛られた 断末魔の身振は舞踏である。

  ──賤しきわたし 助けもしない、
    何故って不幸撰ぶは romanticだ、
    片恋のひと模す 少年に似て、
    淋しいお歌を歌いながら 嘗て、わたし水面へ跳躍した。



  9 少女衣装と肉



ニ十歳、武装様式(ファッションスタイル)は地雷系、いつや爆発いたします。…
──わが少女衣装、わが肉を久遠に少女として観念と縛る鎧にして、
火の熱情を起爆剤と秘めた、まるで魂の華奢さを誇示したような、
病めるガーリーの過激な装飾、揺れるリボンは澄む神経、わが情緒。

倫理とは、装飾であってはなりません、半ば肉に食い入らねば、
倫理的とはいえないのです。それは鱗でなくてはいけません。
さればわたしの永遠の少女は わたしの倫理であるのだから、
地雷で病みカワな少女衣装、澄む水晶へと硬化させ、切先と磨く。

それの手続は瑕負うこと、その苦痛に同意すること、
清楚な美少女の優美な貌なんてありません、清楚へ向い闘うひとの、
険しい山並みのざらついた貌に、淋しく雪が降るだけです、

わが少女衣装 ブラックとピンクの矛盾の色彩を上澄させ、
裡に透明な水晶が硬化と沈み、さながら魔法少女の変身シーン、
さればその切先を肌に刺す、血が噴毀れる、苦痛に躰捩らせる。…




  4 眼窩に眩暈な蠱惑過剰(グラマラス)の歌




  10 酔いどれ列車



    私は不感な河を下って行ったのだが(…)
       ──アルチュール・ランボオ「酔いどれ船」

 1

寝台列車は薔薇と金でいっぱい、
噎せかえるようなglamorous等は束になり
花と斃れる如く酔いどれどもは織重なって、
快楽の儘に吸い吐きし、薔薇ともみくちゃに戯れる。

まるで空で棚引くけらくのいきれ、
内奥の湿る深淵から吐く水気に従順な者どもだ、
薔薇を掻き分け新たな悦楽さがしては、
金に濡れ、だらしのない豪奢な顔をやつれさせる。

寝台列車は急行で、死と破滅へ──
decadenceに奇奇怪怪なうごきで向かう予定です、
有限の時間をありあまる快楽で埋める遊び人は、
至極真剣 無為に徒に時過ごす、何時や死んでも好いように。

けたたましい笑い声、舞い散る絢爛な金、豪壮な薔薇、
幾重の糸の引き攣り揺れうつろうが如く蠢く酔いどれども、
其処で不断に鳴るのは鎮魂歌、モオツァルトの涙の日、
──扨て、音忽然と吊られました、引き攣る音は断末魔です。

  2

はい 酔いどれどもを曳伴れた、
薔薇と金の快楽でいっぱいな寝台列車は、
その薔薇の体臭吐く尻を、銀に燦るクレーンに掴まれ、
ひねられ吊られ、地に叩きつけられ毀れて了った。

glamorousとdecadence、古代羅馬の時代より
永遠の恋人であるらしく、まるで双方の心中で、
それ愛し合う時点で始まっていた、死ぬ気の恋でありました、
愛の純化に恋愛はなく、恋愛の純化は死でありました。

恋愛の純化は死でありました? はい、おそらくそうであります。
虚栄と生活と幸福諸共様々剥いで、恋愛へ向う恋に酔ってる神殿列車、
不幸と孤立 密室にむっと立ち込めて、しゃんと銀の衣擦れ曳きながら、
まるで地獄へ堕ちて往きます──恐らくや、恋愛の純化は死でありました。

わたし かの酔いどれ列車からの唯一の生存者、
背に負うのは雪の衣装、身の片側に死を背負い、恋人は不在、
曳きずるズタ袋にはわが死骸の幻影を容れ、嘗ての音楽口ずさむ、
涙の日を歌います──恋愛禁止の我、気付くと恋愛の極に在りました。

 3

肉欲の、儘に、うごきましょう、
撥ねる、硝子を、叩くが、如く、
さながらに、glamorousに、decadenceに、
乱痴気、騒ぎと、舞踊りましょう。

扨て、月の光、が、照りました、
無へ、剥きもした、雪の衣装は、
銀の鱗と、わが身縛り、撥ねるうごきを、制約す、
然れば、ひらひら、月の光に、舞踏られましょう──花ぢゃ、我。




  11 舞踊る腰付


  一 象徴画

 暗み くれなゐの火
 ゆらめく どぎつい深紅
 月と浮ぶは 異国の踊り子よ
 焔の照り波うつ 肢体のうつろひ

  二 印象音楽

 ま ゆ ら め く ゐ
 ま ゆ ゑ な を に
 く を ん や ん な
 ま ゆ れ く を ん

  三 わたくしごと

 嗚 結びえぬ 不連続の腰の焔
 脳裡の濡れた夢想へ 星翔ばせ
 淋しさの炎ゆる 淫靡の情景よ
 病める火花 久遠の暗みへ結べ




  12 接吻


恋人よ、
小鳥が とっておきの果実を啄むように、
いつくしむように、くちびるをやわらかくはさみ、
境界線 みずおと立てて霧消し、果てへ連れこみあおうとし、
生と死の際に ただたゆたう。

  *

死よ、
天から降るましろのゆびが 月の翳うつろう如くそっと撫ぜ、
つめたき慈愛で、さみしさ照りかえすひたいにふれて、
孤独に緊張した魂の関節 くんずほぐれつ 生のみ 生のままに、
おもたき瞼 ましろき空蔽うそれとかなさって。



  5 結びを折られる頽廃茫洋の歌



  13 紅椿と白椿


 
紅椿 紅椿──
緋色の情念の重きに耐えかね首を吊り、
豪奢に炎ゆる滅亡の火を頸と折り、
ふっと幽かな翳曳き堕つる天蓋に攣る。

白椿 白椿──
あらゆる色を果実の表皮と瑕に剥き、
げっそり落ちた頬肉に似て骨剥き出し、
しずしず慎ましく墜つる遥か天空へ売淫る。

椿の閃く一季節に──
わたしの情念と核の深みを想起こし、
詩人は双のうごきを綾織り迸り肉散らし、

紅椿 白椿──
洞穴に摺り堕ち乍らも昇る魂の筋力のうごき、
わが夢──花に身投げし天蓋へ歌投げ椿薙ぐ如く果て墜落。



  14 くちびるの結び


わたし、くちびるとくちびるとを結んでみたいとも想っている、
それが恋人のそれであったら とてもとても佳いと想うのだけれど、
それ、はやわたしに禁じられて了ったのでありますから、
せめて 真紅のrougeを、くちびるに拒絶の鎧と蔽わせるのです。

わたしの紅いくちびるはレザーの照り返し、硬き反映、
うぬぼれ? 濡れた硝子めく蠱惑 もしやほうっと薫らせてはいないかしら、
あなた、知ってはいなくって? どぎつい真紅は情欲煽るの、
わたしはわたしの身振に噴き炎ゆる火を、亦身振に秘めなおすのです。

そうして──わたしのくちびるは椿の花となりました、
透して──椿の花は清む管にするすると落ちて往きました、
されば上澄を逆光でもするように──花は水晶へ澄み往くのです、

祝福してくださいませんか? わたしはわたしのくちびるを、
ましろのアネモネの花畑まで墜落させられたのでした、結びつきの情欲を、
匿名の無個性の無辜の透明の淋しさの風景──死へ花剥けもしたのでした。



  15 安息の夜


寝台に身を横臥え、
わたしは夢想の裡で 「我(わたし)」を不在へ指で剥いて、
「わたし」をましろの虚空へ 夢みる吹矢で飛ばして、
「死」の風景と重ね──されば窓辺から月光零れるように、

安息の夜が わたしの不穏な魂の夜に訪れる。
然り わたしは其処に安住してはいけないけれど、
睡りに落ちる落葉の幾夜の時々は、それ赦されるのだと想う、
ひっそりと ひっそりと落葉させて往く、剥がれるように、

わたしはいつや 故郷ふるさとに落葉するのだろう、
幾たびも夢み歌った 月照る湖の風景画へ──一条に。
わたしはいつや 匿名の水晶を抱き墜ちるのだろう──不在に。

其処には わたしの歌った歌とおんなじ歌を香気吐く、
真白なアネモネと真蒼なアネモネ 死と重奏し林立してい、
銀に燦る蜘蛛の巣が──滅びた後の暗みを射していることだろう。




  16 辷り寄る死に濡れたゆびさき


ぼくは墓の如く睡ってもみたのだ、死を想うために!
されどこの歪な躰というガラクタは 依然として、
愛する者等の不在したこの世界に黒蜥蜴の傘とし張っていた。
嗚 所属なぞ生涯するまい、ぼくは何にも属さないために──

ぼくの霊を憧れさせる領域を 愛と美を──天に撰んだのだ!
こいつはけだし躰という容れものを裂くように揺らすが
官能でない其処より深みの失意のグルーヴ──
切れ切れに泡噴き轟々と憐憫の豪奢な惨めになられるわが霊は、
 
  愛すべき死者への甚だしい敬愛に──
どっぷりとアルコホルに漬け込まれている、わが霊は! わが霊は!
  わがゆびさきは嘗て書物の美しい詞をなぞるように

  天蓋の硝子盤を一途に辷った──
ぼくはそのゆびを生活に利用するくらいなら、詩作という自殺に遣う。
  それはわが頸を絞めるためにゆったりとすべること幾たびだ。

  *

死の薫りはいつもすり寄る如くゆったりと辷り来るが、
死という無化へ切断される永久の片恋のぼくは常に生の側にある。




  双頭の神


跪け、わが魂よ、無個性なる心よ、
平伏して、理不尽なる異教徒神に 頭をがしと掴まれて、
地に額を擦られながら、肉を裂かれることよしとして、
憎しみを心臓に刻み、次の風景に跪くことをせよ──かの燦爛たる月光。

呪え、わが魂よ、非人格の領域よ、
貴様の後頭部を掴む、澄みきった硝子製の腕、
背後に拡がり四方を閉ざす硝子盤 彫刻の翳波うつ「現実」なる神、
俺は貴様を憎んでる、つまりは愛し信仰す、故に反逆の刃を投げつけよう。

燦爛たる月光 死と虚空を照り返し、
硝子盤なる現実もまた、それ等孕んでる──俺が、そう還元したからだ。
つまりはかれ等、双頭の一神か?──美しく、冷たく硬いのがその明証、

俺、硝子製の気体に横臥しおよぐよう──
わが身は死と虚空でのみ寛げて、されど憎め、青の血と銀の精を迸れ、
ひとは何かに跪く──されば詩人に必要は、跪く神、反逆を打つ神の双頭。

デカダンスとグラマラスの詩集

デカダンスとグラマラスの詩集

【詩集】 1 硝子の夜 2 レノアの神殿 3 白銀花の眸 4 Drive to The Dead World 5 アフリカの仮面 6 溺れる月 7 星月夜の菫 8 受難の人魚 9 少女衣装と肉 10 酔いどれ列車 11 舞踊る腰付 12 接吻 13 紅椿と白椿 14 くちびるの結び 15 安息の夜 16 辷り寄る死に濡れたゆびさき 17 双頭の神

  • 自由詩
  • 短編
  • 青春
  • 青年向け
更新日
登録日
2024-04-08

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