辷り寄る死に濡れたゆびさき
死を想え? ──ぼくは墓の如く睡ってもみただろう?
されどこの歪な躰というガラクタは 依然として、
愛する者等の不在したこの世界に黒蜥蜴の傘とし張っていた。
嗚 所属なぞ生涯するまい、ぼくは何にも属さないために──
ぼくの霊を憧れさせる領域を 愛と美を──天に撰んだのだ!
こいつはけだし躰という容れものを裂くように揺らすが
官能でない其処より深みの失意のグルーヴ──
切れ切れに泡噴き轟々と憐憫の豪奢な惨めになられるわが霊は、
愛すべき死者への甚だしい敬愛に──
どっぷりとアルコホルに漬け込まれている、わが霊は! わが霊は!
わがゆびさきは嘗て書物の美しい詞をなぞるように
天蓋の硝子盤を一途に辷った──
ぼくはそのゆびを生活に利用するくらいなら、詩作という自殺に遣う。
それはわが頸を絞めるためにゆったりとすべること幾たびだ。
*
死の薫りはいつもすり寄る如くゆったりと辷り来るが、
死という無化へ切断される永久の片恋のぼくは生の側にある。
辷り寄る死に濡れたゆびさき