ポケットモンスター対RPG

世論がポケモンとそれ以外のモンスターを同一視していたポケモン冷遇時代……
魔王がモンスター群に世界侵略を催促した事が発端となり、ポケモンや召喚獣すら極悪害獣として扱われ、人間に虐げられていた。
推奨レベル到達の為なら蹂躙すら厭わない利己的で乱暴な勇者マドノとポケモンの地位向上と名誉回復の為に魔王軍と戦うポケモントレーナー・グートミューティヒがぶつかり合う時、魔王軍に侵略されてポケモンを冷遇する世界の命運が変わる!

pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/11820780

ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/341262/

暁版→https://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~29425

第0話:戦う者……

物語は、ポケモンとそれ以外のモンスターが同一視されていたポケモン冷遇時代。
魔王がモンスター群に世界侵略を催促した事が発端となり、ポケモンや召喚獣すら極悪害獣として扱われ、人間に虐げられていた……
ポケモン以外のモンスターを従えて人間社会を侵略する魔王と推奨レベル到達の為なら蹂躙すら厭わない利己的で乱暴な勇者一行の対立により、ポケモン達は更に窮地に立たされていた……

そんな中、1人の10歳児がある目的を果たすべく旅をしていた。

「んっな!?」
男性は男子トイレから少女が出て来たので驚いた。
「ちょっとちょっとちょっと!」
「どうかしましたか?」
一方の少女は声を掛けられる理由が解らず困惑する。
だが、男性の方は先程の光景が余程凄まじかったのか、どうしても声を掛けずにはいられなかった。
「本当にそっちで良いの?」
「何がですか?」
この違和感に全く気付いていない事に驚く男性。
「何がって……そっちは男性用だよ」
少女は男性が何で慌てているのかが漸く理解し、小さくガッツポーズをした。
「よし!」
一方の男性はガッツポーズの意味が解らず少し混乱する。
「良しって、本当に良いの?」
「何がって、|容姿(これ)の事ですよね?」
少女の言ってる言葉の意味を全く理解出来ない男性。
「これって……どれ?」
少女はここでネタバラシをする。
「|容姿(これ)、実は趣味なんです」
男性は、しばらく沈黙したのち、大袈裟に驚いた。
「……|女装(じょそお)ぉーーーーー!?」
「はい。頑張って女の子ぽい容姿にしたんです」
あっけらかんと答える少女風少年の言葉に困惑する男性。
「あ……そうなの……」
困惑する男性は、ふと少女風少年の胸が気になった。
「で、胸の所に丸い物を2つ入れてる訳ね?」
しかし、この男性が驚くのはまだ早かった。
「いいえ」
「……いいえぇーーーーー!?」
「これは、女性化乳房と言う病気だそうです」
男性の混乱はピークに達しているが、少女風少年のネタバラシはまだまだ続く。
「ただ、僕の場合は転送魔法で皮下脂肪を胸に集めながら治療魔法で乳腺の発達を促進したんです。いわゆる、人工混合性女性化乳房です」
男性はこの少女風少年に話しかけた事を後悔した。
「そんな事……出来るの?」
「出来ますよ。僕はプリーストなんで」
「この歳でもう中級兵種なんだ。君凄いね……って!そうじゃなくて!」
そんな男性の混乱に対し、少女風少年は急に話題を変えた。
「それより、この辺の悪さをしているモンスターはいませんか?」
「?……」

ぽかぽか陽気の平原を歩いていた筈の旅人2人が急な吹雪に苦しんでいた。
「何だこの寒さは……このエリアは温暖と聴いていた筈だが」
「取り敢えず街に急ごう!其処で暖をとるんだ!」
しかし、それを阻む様に複数のコウモリが行く手を阻んで包囲する。
「しまった!?この吹雪は魔王軍の仕業か!?」
2人は咄嗟に剣を抜くが、どこを攻撃すれば良いのかが解らず焦る。
「このコウモリを操ってる親玉はどれだ!?」
「くそ!この吹雪で前が見えない……」
その隙に、1人の貴族風の白服の少年が男の首に噛みつき、一気に血を吸い尽くした。
「がっ!?……あ……あ……ぁー……」
ついさっきまで隣にいた同胞が目の前で死んだ事でもう1人はパニックに陥り、乱暴に剣を振り回す。
「うわぁーーーーー!来るな!来るなぁーーーーー!」
だが、一方の白服の少年は冷静に余裕を魅せながら、脅す様にゆっくりと獲物と見定めた男に近付く。
「もう遅いよ。君はもう……僕様のおやつだ」
旅人の命運は既に尽きた……と思われたその時!
「ブビィ!ひのこ攻撃だ!」
文字通りの火の粉程度の火炎放射だったが、それでも旅人達を食い殺そうとした白服の少年を怯ませるには十分だった。
「あっち!?熱熱熱熱っ!」
これを起死回生のチャンスと捉えた旅人は冷静さを取り戻し、剣を正眼に構え直す。
「これは……初歩的な火炎魔法か?だが何だ?その程度でこの慌て様は?」
旅人がキョロキョロと火炎魔法を使ったと思われる人物を探していると、そこにいたのは、先程男子トイレの前で声を掛けた男性を混乱に陥れた少女風少年で、その足元には3匹の小さなモンスターが仕えていた。
「何だ?あの子の隣にいる小さなモンス―――」
旅人が少女風少年に声を掛ける前に、火の粉程度の炎を浴びせられた白服の少年が怒鳴り散らした。
「誰だ!貴族系モンスターであるヴァンパイアの亜種である僕様に火を浴びせた無礼者は!」
対する少女風少年は気合十分で名乗りを上げた。
「僕はグートミューティヒ!優秀なポケモントレーナー目指すプリーストだ!」
それに引き換え、グートミューティヒの言ってる事が理解出来ない旅人。
「ぽけもん?何それ?」
それを聞いたグートミューティヒは簡潔に説明した。
「ポケモンは……あそこにいる粗暴で不潔な獣と違って僕達人間と仲良くなれる清いモンスターの事ですよ」
でも、旅人はやはり解らない。
「モンスターと……仲良くなる……不可能だ!」
それに対して、グートミューティヒは説教を垂れた。
「直ぐそうやって早々と諦めたら、未来は決められた道を無理矢理歩かされるだけですよ」
「……そう言う物なのか?未来は?」
「そう!そう言う物です!未来と諦めの関係は!」

半ば無視される形になった白服の少年が大激怒する。
「貴様らぁーーーーー!さっき僕様に火を浴びせると言う無礼を働いておきながら、あっさり僕様を蚊帳の外だと?無礼にも程があるぞ!?」
対するグートミューティヒは余裕で挑発する。
「さっきこの近くの街で聞いた『季節外れの吹雪に血を吸われた』と言う都市伝説がどんなものかと思えば、出て来たのは野蛮な小物かよ?」
白服の少年の怒りはMAXに達した。
「そこの小娘……貴様を即死はさせん。手始めに貴様を冷凍保存し、じっくり何十年もかけて血を少量ずつ搾り取り、ゆっくりと貧血死に追い込んでやる」
それを聞いたグートミューティヒが悪戯ぽく白状する。
「僕は男性ですけど、それでも良いんですか?」
だが、助けられた旅人は信じなかった。
「その格好で今更そんな嘘を吐いても、もう通用しないと思うぞ」
一方、白服の少年は6つの雪玉を発生させてジャグリングの様に操りながら浮遊する。
「ふふふ、その減らず口……このスノーヴァンパイアの前で何歳まで吐き続ける事が出来るか楽しみだな?」
白服の少年の名を聞いた途端、グートミューティヒは更なる挑発を加える。
「スノー?つまり君のタイプは氷って事だよね?何が苦手か判り易いから改名した方が身の為だよ」
「!?……そこの糞女……僕様の種類名まで侮辱するか?この……人間と言う名の餌風情があぁーーーーー!」
スノーヴァンパイアはジャグリングの様に操っていた6つの雪玉を次々と投げつけながら6体のコウモリを召喚し、6体のコウモリが次々とグートミューティヒに向かって飛んで行く。
だが、グートミューティヒと2匹の小さなモンスターは簡単に避けてしまった。
これには先程まで翻弄されぱなしだった旅人も感心する。
「凄い……ちゃんと敵の攻撃を冷静に対応している」
スノーヴァンパイアも少しは感心する。
「ほう?少しは動ける様だな?」
だが、これがかえってスノーヴァンパイアを冷静にしてしまった。
「で、今の攻撃を何回躱せるか楽しみだな?」
そして、スノーヴァンパイアは再び6つの雪玉を発生させてジャグリングの様に操る。
だがここで、旅人にとってもスノーヴァンパイアにとっても予想外の事が起こった。
コウモリがスノーヴァンパイアの首を噛んだのだ。
「何!?」
「コウモリがヴァンパイアに逆らった!?」
スノーヴァンパイアは怒り狂った様にその裏切りのコウモリを投げ捨てた。
そして、この裏切りがグートミューティヒのせいだと決めつけたスノーヴァンパイアはグートミューティヒを問い詰めようとするが、
「貴様、何をした!?」
既にグートミューティヒ達の姿は無かった。
「何!?どこへ消えた!?」
その時、積もった雪の中から2つの影が飛び出し、背後からスノーヴァンパイアに飛び掛かった。
そして、グートミューティヒはその2つの影と裏切りのコウモリに指令を下した。
「ピチューはでんきショック!ブビィはひのこ!フシギダネはつるのムチ!ズバットはちょうおんぱだ!」
ズバットの超音波を受けて頭を抱えるスノーヴァンパイア。
「ぐわぁー!?頭が?」
そこへ、フシギダネのつるのムチがスノーヴァンパイアを怯ませる。
「ぐうぅ……」
スノーヴァンパイアの警戒心が前方に集中しているその隙に、ピチューとブビィがスノーヴァンパイアの背中を攻撃し、スノーヴァンパイアを火達磨にする。
「があぁーーーーー!?」
「やったか!?」
そして、力尽きたスノーヴァンパイアが黒焦げになりながら落下した。
「馬鹿な……この僕様が……」
それに対し、グートミューティヒはスノーヴァンパイアの誤算を指摘する。
「馬鹿なって言うけど、アンタは事前対策が取り易かったぞ?その名前のせいでどの攻撃が通用するか解るし、アンタが煙幕代わりに発生させていた吹雪のお陰で身を隠す為の雪の確保も簡単だったし」
そんなグートミューティヒに対して悔しそうに呟きながら力尽きるスノーヴァンパイア。
「……策士……め……」
そして、スノーヴァンパイアが死んだ直後に旅人の行く手を阻んだ吹雪が止んで晴天が広がった。
「おぉー!やった!」

「何ぃー!?今回の事を誰にも言うなどだとぉー!?」
グートミューティヒの懇願を聞いて彼に命を救われた旅人は驚く。
「あんなに大活躍したのに、それを誰にも言わずにか?」
「はい」
だが、グートミューティヒには切実な理由があった。
「僕の正体がバレると、この……」
スノーヴァンパイア討伐に協力してくれた小さなモンスター達をチラッと見ながら残念そうな顔をするグートミューティヒ。
「ポケモン達が可哀想な事になりますから」
旅人は理由を聞いて納得する。
「……確かに。モンスターが魔王軍と戦っていると言っても、誰も信じてはくれまい」
だが、理解は出来ても了承したくない何かが有った。
「だが!それだと君の……君達の手柄や名声はどうなる!?」
その質問に、グートミューティヒは力強く答えた。
「気長に待ちますよ。世界中のみんなが、ポケモンの事を本当に解ってくれるその日まで」
旅人は、グートミューティヒの小さな背中が巨山の様に大きく見えた。
「まるで修行僧の様な生き方だ……あんな歳で。あんな心で」
こうして、グートミューティヒはポケモンに関する陰惨な誤解に苦しみ、ポケモンから手柄や名声を横取りしたと言う罪悪感を背負い、それでも到来を待ち望む未来を切望しながら前へと進むのであった。
ポケモンとそれ以外のモンスターを同一視する世論に支配され、魔王軍の侵攻によってポケモンを含めた全てのモンスターが敵視されるこの世界を旅するポケモントレーナーのグートミューティヒの未来は……光か?闇か?

その後、とある町に訪れていたとある冒険家一行にスノーヴァンパイアの戦死の報が伝わった。
「スノーヴァンパイアが倒されたって!」
一行の一員である女流ウォーロックが慌ててリーダー格の男性に報告するが、肝心のリーダーはどこ吹く風で聞き流した。
「だからどうした?」
「だからって、また先を越されてるんだけど」
「お前は馬鹿か?」
女流ウォーロックは何で怒られているのかが解らず困惑する。
「いや、馬鹿って」
だが、リーダーはそんな事お構いなしに説教を垂れた。
「この俺に功を焦らせる心算か?」
「でも、そのスノーヴァンパイアを斃した冒険家の方が凄いって―――」
女流ウォーロックは食い下がるがリーダーは聞く耳を持たない。
「奴の討伐推奨レベルはたったの10!そんなビギナーズラックでも倒せる奴を先越されたぐらいでビビってんじゃねぇよ!」
女流ウォーロックはもう何を言っても無駄だと判断し、取り敢えず謝った。
「……すいません」
でも、リーダーの説教は終わらない。
「そんな事より、俺達の仕事は魔王の討伐だろ!?ちゃんと経験値を稼いで、ちゃんと魔王討伐の推奨レベルである70以上になれば、この程度の遅れは直ぐに取り戻せる!功を焦ってレベルアップを怠るあわてんぼうなんかほっとけよ!」
「……解りました」
リーダーは説教を終えると、他の仲間に指示を出す。
「と言う訳だから、この先の遺跡でレベル上げするぞ。取り敢えず、牛乗りオーガの討伐推奨レベルである33を目指すぞ」
それを聞いた大男が嬉しそうに頷く。
「うむ!解りました!」
女流ウォーロックも根負けして渋々賛同する。
「解ったわ」
ただ、このメンバーの中で最年長と思われる男性だけは賛同を渋った。
「またかよ。ちょっとはこの町のかわいこちゃんと楽しませてくれよ」
「馬鹿な事を言ってんじゃねぇよフノク。おら、行くぞ」
フノクと呼ばれた男は不貞腐れながら渋々同行する。
「たく、このチームはただでさえ華が少ない上に、唯一の華がこんなに(胸が)小さいのだぞ?」
その言葉に女流ウォーロックが怒った。
「女性を胸だけで判断するんじゃないわよ!この歳でまだ中級兵種のクセに!」
「そう言うマシカルこそ、この歳で上級兵種は早過ぎた様だな?お陰でMPに胸を吸い取られている」
「何ですってぇ!?」
流石にこの展開は不味いと思ったリーダー格が慌ててとりなす。
「解った!解ったから。2人共その怒りをもう直ぐ俺達の経験値になるモンスター共にぶつけてくれ」
それを聞いた大男もリーダーの言い分に賛成する。
「そうですぞ2人共。ここは星空に選ばれた勇者であるマドノ殿の顔を立てると思って」
だが、マシカルは大男のニヤニヤ顔が気になっていた。
「その割には嬉しそうね?」
とは言え、これ以上の揉め事は不味いと思った星空の勇者マドノ率いる勇者一行は、一路経験値稼ぎを兼ねた遺跡探索に出掛けた。
それは……その遺跡やその近くに在る森に暮らすモンスターとポケモンにとっては災厄と終焉の訪れでしかなかった……

グートミューティヒ

年齢:10歳
性別:男性
身長:139.1cm
体重:36.6㎏
体型:B83/W55/H72
胸囲:F60
職業:ポケモントレーナー
兵種:プリースト
趣味:ポケモン飼育、女装、育乳
好物:ポケモン、騎士道
嫌物:ポケモン虐待、卑劣漢
特技:女装

ポケモントレーナーの地位向上を目的に勇者マドノ率いる勇者一行の仲間入りをしようとした新米ポケモントレーナー。だが、マドノの残忍さと冷血さを目の当たりにして早々とマドノを見限った。
普段はお人好しで義理堅いが、感情の起伏が激しく状況によって一人称がコロコロ変わる。基本的な一人称は『僕』。因みに、女の子っぽい容姿は趣味であり、治癒魔法や転送魔法などを駆使して両性女性化乳房(胸部肥満化と乳腺発達の混合)を発症させるなど、かなり徹底的である。
観察と戦術に優れている一方、生来の優しさと前述のマドノへの軽蔑からレベルアップを目的にした経験値稼ぎを疎かにする事が多い。

第1話:失望と決別

とある森でゴブリンの群れと男女4人組が乱闘を繰り広げていた。
そのゴブリンと戦う4人の構成は、

メンバー最年長だが、巨乳好きで女癖が非常に悪い拳闘士のフノク。
一見すると無口で物静かに見えるが、戦闘になると邪な笑みを魅せる事があるアーマーナイトのンレボウ。
生真面目で練習熱心だが、貧乳(AAAA70)がコンプレックスで名声欲が旺盛な女流ウォーロックのマシカル。
そして……星空に選ばれた星空の勇者だが、推奨レベルに到達する為なら蹂躙すら厭わない利己的で乱暴な勇者のマドノ。

と……どれも問題点が多い構成だが、歴代の星空の勇者の名高い功績のせいか、星空の勇者であるマドノとその仲間達に文句を言う者は、今のところ1人もいない。
ま、大衆の殆どがこの言葉を聞いていない事も原因ではあるが……
「お前ら!こいつらを1匹も逃がすなよ!」
マドノの非情な命令に対しンレボウは嬉しそうに頷いた。
「うむ!」
それに引き換え、同胞の絶望的な劣勢に臆した複数のゴブリンが恥を捨てて逃走を図る。
「コンナノト|()リ合ッテタラ、命ガ幾ツ有ッテモ足タリネェゼ!」
「アイツラ強過ギルゥー!」
だが、|運悪く《・・・》マドノはそれを見逃さず、マシカルに非情な命令を下す。
「あいつらを討て!」
マドノの命令に従ってマシカルが呪文を詠唱すると、1人の少女が慌ててマドノの腕を握った。
腕を握られたマドノは、不満そうにその少女を問い詰めた。
「お前、そこで何をしている?」
少女は臆せずマドノに異見する。
「奴らは既に戦意を失ってる!これ以上の攻撃は既に戦闘の外だ!」
だが、マドノは少女の訴えに非情な反論を吐きかける。
「お前は俺達の経験値稼ぎを邪魔する気か?それに、お前は馬鹿か!」
「馬鹿?この僕が?」
「そうだよ!あいつらはただのモンスターだぞ!それを逃がしてどうすんだ?えー!?」
その間もマシカルは詠唱を続けていた。
「で、|竜巻(これ)どうするの?」
少女が慌てて叫ぶ。
「やめろ!この戦闘は既に君達の大勝利で終わっている!これ以上の弱い者虐めはMPの無駄遣いだ!」
しかし、フノクが少女の背後に回り込んで年齢不相応な大きさの胸(F60)を揉んだ。
「わっ!?何だこのおっさん!?」
「うーん、デカくて柔らかいのぉ♪どこぞの堅物魔導士とは大違いだ♪」
女好きで女癖が非常に悪いフノクの悪い癖が出たのだ。しかも、さりげなくマシカルの貧乳を批判したのだ。
「だったら……|竜巻(これ)を|フノク《あんた》にぶつけるよ?」
「ちょっと待って!それだと僕にも当たる!」
だが、マドノはマシカルに向けて非情な命令を下す。
「何をもたもたしている?さっさとさっきのゴブリンを討てよ」
それを合図に、マシカルは風系の上級魔法を発動させる。
「あのアホを撃てないのは心残りだけど解ったわ」
「ちょっと。くすぐったいからやめて。と言うか……両方ともやめろぉーーーーー!」
「エクスカリバー!」
「やぁーーーーーめぇーーーーーろぉーーーーー!」
少女の悲痛な懇願の悲鳴は利己的で乱暴なマドノの耳には届かず、マシカルが発生させた竜巻が逃走中のゴブリン達を次々と消滅させてしまった。
「グギャアァー!?」
「ヒドスギルゥー!」
止められなかった目の前の惨状に、フノクに背後から胸を揉まれ続けながら愕然とする少女。

流石のマドノもフノクの場違いの行為に苦言を呈する。
「何時までやってるフノク?|セクハラ《それ》が俺達の経験値稼ぎに役立つのか?」
「いやぁ、久々の眼福だった者でついな」
そんな蹂躙後とは思えぬ暢気な会話に失望した少女は、自分にセクハラを続けるフノクへのお仕置きを兼ねたネタバラシを実行した。
「……そんなに僕の体を触りたいなら、僕の股間も遠慮無くどうぞ……」
「え?良いの♪」
「おい!?」
マドノの制止を無視して少女の股間を触るフノクだったが……
「それじゃ、遠慮無く♪……何!?」
慌てて後ろにジャンプしながら臨戦態勢をとるフノク。それに対し、マドノ達は何の事か解らず困惑する。
「ん?どうした?他に敵が居るのか?」
フノクは慌てて少女を指差して罵る。
「き……き……貴っ……様……何であんな立派な胸を持つ女のクセに……あそこに竿と玉が有るんだぁーーーーー!?」
マドノ達はやっぱりフノクの言ってる意味が解らない。
「……竿?」
「玉って何よ?」
それに対し、少女は非道なマドノ達を睨みながら自分の正体を明かした。
「竿も玉もどっちも自前!で、転送魔法と治療魔法で作ったこの胸は女性化乳房!つまり!僕は男だ!」
少女(?)の突然の白状に驚くマドノとフノク。
「お前、女装好きだったのか」
「おのれぇ……騙したなぁーーーーー!」
一方、マシカルは少女(?)の巨乳の秘密に興味津々だった。
「え?巨乳って魔法で作れるの?」
しかし、少女(?)はマシカルの質問には答えず、一方的に自己紹介を始めた。
「僕はプリーストのグートミューティヒ!10歳で女装男児だ!」
だが、グートミューティヒの自己紹介はフノクの怒りの炎に油を注ぐだけであった。
「殺すぞ!クソガキ!」
しかし、マドノは経験値稼ぎになるモンスターじゃないと判断すると、急にグートミューティヒへの興味を失った。
「やめろフノク。こいつは人間だ。殺人犯になるぞ」
「何故止める!?こいつへのお仕置きはどうなる!?」
フノクは不満だったが、もう戦闘が終わったからかンレボウは素直にマドノの命令に従った。
「マドノ殿が次と仰っておっれるなら、早々に次へ行くのが筋では」
マシカルもグートミューティヒの巨乳の秘訣を訊き出したかったが、その時間は無さそうと悟った途端に興味を失った。
「どうせ、私は攻撃魔法担当だしね……行きましょ」
フノクだけは不満げな表情を浮かべながらグートミューティヒを睨む。
「許さんぞ……グートミューティヒとその顔、憶えたぞ」
グートミューティヒは、フノクの殺意に満ちた睨みに少し怯え引いた。
(怖いな……あの人達……)
そして、グートミューティヒは困った事になった。
(これで……星空の勇者の仲間になる事は無くなったな!)
とは言え、落ち込んでもいられないし停まってもいられない。
(ま、あんな手加減知らずの人でなし達に魔王退治を任せたら、モンスターどころかポケモンまで絶滅するわな!)

星空の勇者マドノ率いる勇者一行の残酷な本性を知ってしまったグートミューティヒは少しだけ困った。それは、家出してまでこの旅を行った理由に起因する。
元々は人類の安全な暮らしの為にモンスターの研究と観測を行っている学者達の息子だった。
グートミューティヒの育ての親達は、モンスターを観測している内に大きく分けて3つの分類出来ると結論付けた。

狂暴で残酷な『モンスター』。
他のモンスターよりは可愛くて大人しい『ポケモン』。
魔導士が使役する使い魔『召喚獣』。

だが、この論文はモンスターを敵視する世論が否定し拒否し、モンスターを分類する気がまったく無い世論はポケモンや召喚獣をも凶悪害獣として認識してしまう。無論、世論ですらこれなのだから、兵士や冒険者もモンスターだけでなくポケモンすら平気で攻撃する。
この様な状況に対して世論に拒絶された正論しか言えない研究者達は為す術が無く、目の前のポケモンを秘密裏に保護するのが関の山だった……
それを見かねたグートミューティヒは、星空の勇者マドノが遂に魔王退治に出発した事を知り、居ても立っても居られずに育ての親達が開発したポケモン捕縛・携帯用武器『モンスターボール』を持ってマドノ達を探す旅へと出かけて行った。
「行くのか?」
「はい。このまま僕達が動かなければ、ほんの一握りのポケモンしか保護できずにいずれはポケモンは絶滅してしまいます」
研究者達は「自分達の論文が常識を覆すまで待て」と言いたかったが、その結果が世論から狂った非国民扱いされる日々であり、自分達の論文がポケモン保護に全く役に立っていない事は既に明らかであった。
でも、
「戦うと言う事は、何時何処で理不尽な死を迎えるか解らない事を意味するのだぞ」
「実戦はお前が思っている程甘くない。失敗したら痛がりながら死ぬ事になるぞ」
研究者達の言い分に少しだけ引いてしまったグートミューティヒだったが、それでも……彼の決意は固かった。
「確かに僕だって死ぬのは怖いです。でも、ポケモンだって死ぬのは怖い筈です!」
グートミューティヒの目に決意が宿る。その表情はまるで信義のいくさ人であった。
「だからこそ……僕はまだ死にたくないからこそ、ポケモンの事を何も解っていない人達が理不尽にポケモンを殺すのを観ていられないんだ!」
そんなグートミューティヒの固い決意と信義に圧倒される研究者達。
「僕は知ってる。人間とポケモンは仲良くなれる事を。けど、モンスターを恐れ敵視する人達はそれを知らない。それは気の毒だ!だからこそ、ポケモンが魔王の手先となった悪いモンスターを倒して人々を護れは、いずれは解ってくれると思うんです」

と、偉そうな事を言って旅立ったまでは良かったが、その結果がレベルアップの為なら蹂躙や逃亡者への追い討ちすら厭わない勇者一行の殺戮行為の目撃だった……
(駄目だな……あんなのと一緒に旅をしたら、僕まで悪者扱いされちゃうし、それに、あいつらは多分平気でポケモンを殺せるぞ?)
かと言って、今更研究者達の許に帰る訳にもいかない。
(八方塞がりになっちゃったなぁ……どうしよう?)

今後の予定が全てご破算となって困惑するグートミューティヒの近くで不満そうにブツブツ言う男性がいた。
「あれ?どうかしました?」
が、グートミューティヒを年端も行かぬ少女と勘違いした男性は、乱暴な言い方で追い払おうとした。
「お前じゃ無理だよ。家に帰ってママに甘えてな」
マドノの事で少しイライラしていたグートミューティヒは、売り言葉に買い言葉と言わんばかりに男性を挑発する。
「そう言うアンタだって無理って事でしょ?歳って、ただ無駄に増やすだけじゃ何の意味も無いんだね?」
馬鹿にされた男性が激怒した勢いでつい悩みの理由を言ってしまう。
「ふざけるなよ!こっちはホワイトクロウが大量発生して困っているって時に!」
グートミューティヒにとってはそれだけで十分だった。
「つまり、そのホワイトクロウを倒せば良いですよね?」
「はぁー!?簡単に言ってんじゃねぇよ!それが出来れは苦労はしねぇよ!」
「言ったな?もう取り消せないぞ?で、場所は?」

結局、グートミューティヒの挑発に屈してホワイトクロウが大量発生している地域に案内する羽目になった男性。
「ここだよ」
その途端、嘴を赤く染めて所々赤いブチ模様が付いた白鳩達が一斉にグートミューティヒ達を睨んだ。
「これは……確かにホワイトクロウの大安売りだね?」
血肉を喰らい、血肉の味を覚えてしまった白鳩『ホワイトクロウ』。
普段は枝の上に停まって獲物の様子を窺い、隙を視て獲物に飛び掛かる狡猾な鳥系モンスター。1匹1匹は大した力は無いが群れで生活する事が多く、数に物を言わせる戦法は油断すれば熟練者ですら死ねる程である。
「そんなに美味そうかい?僕のこの……転送魔法と治療魔法で作った乳房が」
それを聞いた男性が少し驚く。
「お前、魔法使いだったのか?」
「いいえ、プリーストです」
「プリーストぉー!?なら、その神聖魔法でこいつらを一掃してくれよ!」
だが、グートミューティヒが使用するのは魔法じゃない。ポケモンを保護しようとする少数派の研究者達から選別で貰ったモンスターボールだ。
「いや……こいつらの掃除は、こいつらがやってくれる!」
そう言うと、グートミューティヒはモンスターボールからブビィとバニプッチを取り出すが、
「うわあぁーーーーー!モンスターだあぁーーーーー!」
「ちょっと!違うって!こいつらはポケモン―――」
「うわあぁーーーーー!騙されたあぁーーーーー!こいつは魔王の部下だあぁーーーーー!あぶねぇ逃げろおぉーーーーー!」
「話を聴けぇーーーーー!」
グートミューティヒは、改めて世論がポケモンをどう扱っているのかを再確認させられた事に悲しくなり……そして不満になった。
その間、ずーーーーーと飛び掛かるチャンスを待ち続けたホワイトクロウがまだグートミューティヒを睨んでいた。
グートミューティヒはそんなホワイトクロウ達を睨み返した。
「……丁度良い……しばらく僕達の憂さ晴らしにつきあって貰うよ……」

グートミューティヒを魔王の部下と勘違いした男性が複数の兵士達を連れてホワイトクロウが大量発生している地域にやって来た。
だが、報告を受けた兵士達が見た物は、
「……既に戦闘は終わったみたいだぞ?」
完全に怯えていた男性は言ってる意味が解らなかった。
「……へ?」
しかも、恐怖のあまり前が見えないのも兵士達の言い分の意味が理解出来ない事に拍車をかけた。
「でも……でも!あのモンスターは確かに年端もいかぬ―――」
「いや……既に誰もいないから」
「いない?本当に何もいないんですか!?」
兵士達は臆病過ぎて自分達の台詞を信じない男性の事が段々面倒臭くなってきた。
「そこまで言うのなら、実際にその目で確かめて視ろ!」
「うわっ!?」
兵士達に突き飛ばされた男性は、自分をモンスターに差し出した兵士達を必ず訴えると誓った!
……と思いきや、
「あいて!?何をする……なんだ……この……大量の鳥の死骸は……」
そう。
グートミューティヒは自分を襲ったホワイトクロウを全て撃破して悠々とこの場を去っていたのだ。黒焦げになり氷漬けになり何かでぶん殴られた者までいた。
少なくともその数は30体に及んだ。
「まさか……あの子は本当にここにいた大量のホワイトクロウを」
出番を失った兵士達がお騒がせな男性に悪態を吐く。
「お前、そのホワイトクロウを討伐していた熟練者をモンスターと勘違いしていたのか!」
「でもでも!……」
男性は兵士達の問いに対する返答に困った。
グートミューティヒは確かにモンスター(正確にはポケモン)を従えていたが、それを目撃したのは自分と目の前でくたばっているホワイトクロウ達だけであり、他に証拠が無いのだ。
「確かにモンスターは怖い。だが、だからと言ってモンスターより強い冒険者を魔王の部下と勘違いするのは、いくら何でも恩知らずが過ぎるんじゃないのか」
兵士達はそう言うと、もう用が無いと言わんばかりに持ち場に戻って往った。

グートミューティヒは悔しそうに溜息を吐いた。
確かにグートミューティヒが引き連れているポケモン達が30体のホワイトクロウを退治したのだ。にも拘らず、この手柄が何故かポケモンの物にならないのだ。
この理不尽な展開がグートミューティヒにとっては悔しくて……悲しかった。
「ごめんなブビィ、バニプッチ、フシギダネ、ピチュ……本当はもっとお前達をべた褒めしたかったけど……」
だが、ポケモンに突き付けられた残酷で非情で理不尽で無知蒙昧な現実がそれを許さなかった……
そんな現実がグートミューティヒの悔しさを更に激増させた。
「戦いに敗けて逃げた奴までやっつける危ない奴が勇者だの英雄だのともてはやされて……お前達の様に人間に力を貸してくれるポケモンが害獣や犯罪者扱い……こんなの……こんなの間違ってる!」
この怒りが、勇者マドノに全ての予定を御破算させられたグートミューティヒに新たな目標を与えた。
「ポケモンを悪者扱いする様な信用出来ない輩に魔王退治は任せられないし頼りっきりには出来ない!なら!……ポケモンがそんな危ない奴らより先に魔王を斃してやる!そして……こんな間違った常識を吾輩がぶっ壊してやる!」
興奮し過ぎて一人称が変わってしまったグートミューティヒだが、それでも、目標を得た事で旅を再開する事が出来たグートミューティヒであった。

マドノ

年齢:19歳
性別:男性
身長:172cm
体重:62.13㎏
職業:星空の勇者
兵種:勇者
趣味:喧嘩、乱闘
好物:喧嘩、経験値、冷静で忠実な部下
嫌物:勉強、学問、功を焦る馬鹿、戦闘の邪魔
特技:蹂躙、弱い者虐め

ポケモンに該当しないモンスター達の王である『魔王』を討伐するべく旅立った星空の勇者。
平静な人物の様でいて、推奨レベルに到達する為なら蹂躙すら厭わない利己的な乱暴者。また、世間一般的な大衆同様にポケモンとそれ以外のモンスターの判別が出来ない。ただ、功を焦る行為を嫌うぐらいの冷静さは持っている。
逃走するゴブリン達に容赦無くトドメを刺したところをグートミューティヒに観られて以来、ずっと彼に敵対視されている。
名前の由来は『勇者-男日=』から。

第2話:心の毒

目標は決したグートミューティヒ。
だが、方法は定まっていなかった……
「マドノの奴に付いて行けば必ず魔王に到達すると考えていたから……困った……」
項垂れるグートミューティヒの隣で、気の良さそうな青年も項垂れていた。
「あそこは穴場だったのになぁ……困った……」
そんな青年の声を聴いたグートミューティヒが質問する。
「どうかしました?」
だが、グートミューティヒが10歳の少女にしか見えないせいか、青年は悩みを口にする事は無かった。
「ありがとう。でも、兵隊さん達に頼むからイイよ」
しかし、グートミューティヒは食い下がる。
「それって、モンスターがどこかを占拠しているんでしょ?」
グートミューティヒの予測に青年はドキッとする。
「何故それを!?」
グートミューティヒは自信有り気に答えた。
「貴方は最初に『穴場』と言った。つまり、その場所は貴方にとっては重要な場所である事は容易に想像出来る。でも、貴方は兵士達に相談する事を検討している。と言う事は、その穴場はそこまで秘匿する必要が無い事を意味しますし、その穴場の奪還にはそれなりの戦力が必要である事も容易に想像出来る」
青年はハッとして全てを話す事を決意した。
「君の言う通りだ。あそこは薬草の宝庫なんだ……でも、ある日突然巨大な蛸が其処を占拠してしまってな、幸いセージの採取場所は他にも在るからポーションやマインドアップの作成は可能だが、カモミールとヘンルーダはあそこで採取していたから、アンチドーテやアンカースが……」
それを聞いてグートミューティヒは少し驚く。
「アンチドーテと言えば一般的な解毒剤じゃないですか!それが作れないとなると……」
「だから困ってるんだよ」
「ですよねぇー」
その時、グートミューティヒの頭の中で何かがピーンときた。
「なら、僕がその穴場の様子を視に往きましょうか?」
グートミューティヒの予想外の提案に驚きを隠せない青年。
「何を言ってるんだ!殺されに行く様なモノだぞ!」
だが、グートミューティヒは青年の制止を振り切って勝手に出発する。
「では、行ってきます」
青年は慌ててグートミューティヒを追う。
「待て!本当に殺されるぞ!」
だが、グートミューティヒの足は物凄く速く、青年はドンドン離された。
「何だあの娘は……まるで風だ……」

で、薬草の宝庫を奪還しに行ったグートミューティヒだが、肝心な事を聞き忘れていた。
「取り敢えず突っ走ってはみたが……肝心の大蛸がどこにいるのか解んないや……」
しかし、醜い小人達が突然グートミューティヒを襲った。
「カカレッ!」
「タッタ1人デ馬鹿メ!」
「身包ミ剥イデヤレ!」
その様子に……グートミューティヒは頭を掻きながら呆れた。
「馬鹿は君達の方さ……君達がここで動かなかったら、僕はこのまま迷って例の大蛸に遭えぬまま終わってしまうかもしれないのに!」
そして、グートミューティヒは複数のモンスターボールを投げつけた。
「出て来い!フシギダネ!ブビィ!ピチュー!バニプッチ!フカマル!ポワルン!」
グートミューティヒを襲った小人達は『ゴブリン』と言い、略奪で糧を得る低身長の醜人であるが、そんなゴブリンもまさか自分達がモンスター(正確にはポケモン)に襲われるとは思ってもいなかった。
「ナ!?何ダ!?」
「何デコイツラハ俺達ヲ襲ウ!?」
「コイツラ、魔王様ノ配下ノモンスタージャナイノカヨ!?」
ゴブリン達が予想外の展開に大混乱の一方、グートミューティヒはゴブリン達に悪態吐きながら仲間のポケモン達に的確に指示を出した。
「襲って奪う事しか知らぬお前達とポケモンを一緒にするな!」

ゴブリン達との戦いはグートミューティヒの圧勝に終わり、ゴブリン達と戦ったポケモン達を|治療魔法(リブロー)で治療していた。
「何!?リブローダト!?オ前、兵種ハ何ダ!」
「プリーストだけど」
あっけらかんと答えるグートミューティヒに対し、質問したゴブリンは大袈裟に驚いた。
「プリーストオォー!?ソノ歳デモウ中級兵種カヨ!?」
ゴブリンは漸く戦う相手を間違えた事に気付いたが既に遅く、グートミューティヒは質問したゴブリンの首根っこを掴んで引っ張った。
「さて……薬草の宝庫と呼ばれる場所を占拠している大蛸の所へ案内して貰おうか?」
「何故!?行キ方ヲ訊クダケデ良イダロ!」
「ゴブリンは野盗の様な習性を持つモンスター。なら、ちょくちょく訊き直した方が得策だろ?」
慌てるゴブリン。
「嫌ダ!コンナ状態デ行ッタラ、アイツニ殺サレル!」
が、これがかえってゴブリンを追い詰めた。
「アイツ?つまり、例の大蛸の事を知ってるね?」
「嫌ダアァーーーーー!」

こうして、薬草の宝庫と呼ばれる草原に到着したグートミューティヒ。
「本当にここだな?」
「ソ、ソウダ!ダカラソノ手ヲ離シ―――」
だが、謎の声がグートミューティヒに連行されたゴブリンの逃走を許さなかった。
「そこの役立たず……そこの小娘から離れて何をしようとしている?」
「ゲッ!スカルオクトパス!居タノカアァーーーーー!?」
「スカルオクトパス?」
慌てて逃走するゴブリンだったが、巨大な触腕が巻き付きゴブリンを地面に叩き付けた。
「役立たずの雑魚が……壁にすらならぬか?」
地面に叩き付けられて瀕死のゴブリンを観て不快感を露にするグートミューティヒ。
「……外道が」
グートミューティヒは、マドノ率いる勇者一行への軽蔑と逆恨みを切っ掛けに雑魚蹂躙と過大追撃に対する罪悪感が芽生えていたのだ。
「何で殺した?僕をここに連れて来たからか?それとも、敗北の責任から逃げたからか?」
だが、スカルオクトパスはめんどくさそうに答えた。
「逃げた?連れて来た?下らん。何でそんな判り切った事を今さら訊く」
その時点でスカルオクトパスに褒められる箇所が無いと確信するグートミューティヒ。
「いちいち自分の部下の敗北に過剰に反応する時点で、貴様にリーダーやロードの資格無し!」
しかし、スカルオクトパスはそんなグートミューティヒを鼻で笑った。
「フッ!この様な役立たずを庇うか……愚かだな」
それを聞いたグートミューティヒは、もう話す事は無いと言わんばかりにスカルオクトパスを挑発する。
「愚かか……なら……お前がその愚かをサッサと殺して役立たずの失敗を帳消しにして魅せろよ!」
「……言ったな?……」
その直後、人間の頭蓋骨の姿の大蛸がグートミューティヒの目の前に現れた。
「捻り潰すぞ!小娘!」
そう言うと、スカルオクトパスは口から岩を吐いた。だがグートミューティヒは簡単に避けた。
「おいおい。何で蛸が岩を吐くんだ?普通は墨だろ」
グートミューティヒはお返しとばかりに光弾を発射する。
「ぐっ!魔法が使える!?しかもリザイアか!?」
少しは驚いたスカルオクトパスだが、直ぐに勝ち誇った顔をする。
「だが……次は詠唱の時間は与えぬぞ!」
スカルオクトパスが緑色の液体を何度も放物線を描く様に放った。
「何をしてるんだ?」
グートミューティヒは1回も当たらない液体を無視して再びリザイアを発射しようとするが、気付けば緑色の水溜りに包囲されていた。
「くくく、これで袋の鼠だなぁ」
が、勝ち誇るスカルオクトパスを微弱な電撃が襲った。
「ぐふっ!?仲間!?何時の間に!?」
スカルオクトパスが先程の電撃の元を探そうとするが、今度は砂をかけられて目を傷める。
「ぐあぁー!?目があぁー!?」
そう。グートミューティヒは戦う前にワープを使ってピチューとフカマルを別に場所に移動させてスタンバイさせていたのだ。
「何だお前、大した事無いな!」
「ぐおおぉーーーーー!」
スカルオクトパスが声を頼りにグートミューティヒを攻撃しようとしたが、グートミューティヒは既にリザイアの発射に必要な呪文詠唱を終えていた。
「トドメだ!」
「があぁーーーーー!」
グートミューティヒのリザイアを受けて滅びたスカルオクトパスを見て、グートミューティヒは色々と理解した。
(やはり、ポケモンのタイプ別で戦術を変えるのはポケモン以外のモンスターにも通用する様だな……それが、ポケモンが害獣や魔王軍の手下と間違われる要員の1つにもなり得る……)
そんな事より、グートミューティヒがやるべき事があった。
(そうだった!カモミールとヘンルーダがこれ以上枯らされたら意味無いんだった!)
グートミューティヒは、レストでカモミールやヘンルーダに状態異常を回復する魔法であるレストをかけ、それからピチューとフカマルにリブローをかけて傷を治療した。
(これで……この地域の花の全滅が避けられれば良いけど……)

青年はグートミューティヒの報告を聞いて驚いた。
「倒した!?あの大蛸を!?」
「えぇ。嫌な奴でしたよあいつは」
とは言われても、グートミューティヒを視る限りでは、その様な大それた事をする様には視えない。
「とは言われてもねぇ……」
そこでグートミューティヒは意地悪っぽく言う。
「あー、プリーストは回復魔法しか使えないと思っているでしょう?」
「違うのかい?」
「プリーストは攻撃魔法も使用可能ですよ」
その証拠として、呪文を唱えた。
「エンジェル!」
グートミューティヒが放った光弾が近くに在った岩を破壊する。
「お!?」
これを観た青年は驚きを隠せない。
「どうです」
青年がグートミューティヒに破壊された岩を見て驚いている中、グートミューティヒは青年に進言する。
「そんな事より、例の薬草の宝庫に戻られたらどうです。もうあの嫌な奴はいませんから」
「それはありがたいが、何であんな所に大蛸が出現したんだ?」
その途端、グートミューティヒは真顔になる。
「アイツは、毒を武器にするからです」
「毒を?」
「そうです。だから、せっかく浴びせた毒を完治させるアンチドーテを忌み嫌っていたんだ」
そんな説明に、青年は呆れた。
「……自分勝手な奴だったんですねぇ」
「ええ。嫌な奴でしたよ!」

薬草を採りに行く青年を見送ったグートミューティヒは、青年の視界から消えた途端、罪悪感に押し潰されるかの様に俯き泣き崩れた。
「……言えなかった……本当はポケモンがあいつを倒してくれたって……」
グートミューティヒは本当に言いたかった。ポケモンの大活躍を。
だが、前回のホワイトクロウ討伐での誤解がポケモンの活躍を高らかに言いふらす事を許さなかった。
ポケモンを飼育するグートミューティヒにとっては間違った古い概念だったが、世論や大衆にとってはポケモンもモンスターと同じ危険害獣でしかないし、寧ろポケモンと言う言葉すら知らない人々の方が圧倒的に多い。
故に、グートミューティヒがどれだけポケモンの力を借りても、その事実を人々に伝える事が出来ない。
しかも、モンスターを嫌う者や勇者マドノの様なモンスターを経験値としかみなしていない者と手を組めない以上、ポケモン飼育と大人数旅は両立出来ない。
だから、グートミューティヒはポケモンと共に行った活躍を自分1人の力で行ったと嘘を吐き続けなければいけなかった。
でも、それはポケモンから手柄や名声を横取りしているのではないかと言う罪悪感をグートミューティヒに背負わせる事になる。孤独と戦いながら……

スカルオクトパスLv9

HP:700
EX:50
耐性:毒
弱点:雷
推奨レベル:3

人間の頭蓋骨の姿の大蛸。口から岩や毒液を吐いて攻撃してくる。
冷酷で自分勝手な性格で、敵に脅迫された部下を容赦なく殺害したりアンチドーテ制作を邪魔する為に薬草採取を妨害したりする。
因みに、勇者マドノの予想推奨レベルは7。

攻撃手段

触腕:
腕を振り下ろす攻撃。

締め上げ:
触腕で締め上げる攻撃。

岩:
正面に岩を吐き出して攻撃する。

毒液:
緑色の毒液を山なりの軌道で飛ばす。地面に落ちても水溜りとなってしばらく残り続ける。

第3話:ピカチュウの慈愛

薬草の宝庫と呼ばれる場所を占拠したスカルオクトパス。
自身が起こした吹雪を煙幕代わりにして旅人達を襲ったスノーヴァンパイア。
それらを討伐したグートミューティヒ。
にも拘らず、グートミューティヒの手持ちポケモンが称賛される事は無く、寧ろ……
「……ひどい……」
無数のスピアーの遺体が無造作に散らばっているのを発見してしまい、目の前の地獄絵図を描いた者の残忍さに蒼褪めるグートミューティヒ。
しかもそれだけではない……
ゴブリンに人型豚オークに人型猫ケットルシー、ビードルやコクーンまで大量に殺されていた。
「ポケモンとそれ以外のモンスターの区別無しに無差別かよ!しかも、毒針を持つビードルやスピアーなら兎も角、手さえ出さなきゃ人畜無害な筈のコクーンまで!」
だが、この目の前の地獄絵図を観て怒る人間はグートミューティヒだけであった。
「いやぁ、星空の勇者があれだけ凄まじいとはな」
「でも、お陰でこの森もすっかり平和になったな」
偶然グートミューティヒを横切った商人達の言葉を聴いて、この地獄絵図の犯人が勇者マドノ率いる勇者一行だと知り、改めて勇者マドノの自分勝手な悪意を感じた。
(違う!この森からモンスターを一掃する為なんかじゃない!あいつらは、経験値欲しさにこの様な残忍な虐殺をしたんだ!)
だが、目の前の地獄絵図を観て怒るモンスターはいた。
「なんじゃこりゃあ!?俺が一時的に別の場所に配置されてる間に何が遭ったぁー!?」
仲間を皆殺しにされて激怒するオークは、立ち尽くすグートミューティヒを見て彼が犯人だと勘違いする。
「おい!其処のクソアマ!其処で何をしてやがる!?」
対するグートミューティヒは、怒り狂い過ぎて逆に頭が冷えてしまい、力無く否定する。
「違う……僕じゃない……」
だが、激怒するオークは信じない。
「じゃあ何でテメェはここにいるんだよ!?」
戦う意思を失ったグートミューティヒは、力無く犯人の名を口にする。
「マドノだ……奴らがコクーンを……殺したんだ……」
グートミューティヒの言い分に驚くオーク。
「マドノだと!?星空の勇者がここを襲撃したと言うのか!?」
だが、そんなオークの質問を聞く事無く力無く立ち去るグートミューティヒ。
「えー!?ちょっとおい!本来ならお前ら人間共が喜ぶべきとこだろ!」

勇者マドノ一行がスピアー達と戦っていたが、その戦力差は圧倒的かつ絶望的で、スピアー達がマドノ達の剣や魔法で次々と完膚なきまでに叩きのめされて逝く……
「どんどん(経験値を)稼ぐからな!1匹も逃がすなよぉ!」
自分達を護る為に戦い散るスピアー達を見て恐れ怯えるビードルとコクーン。マドノの無慈悲な命令を聞きながら。
そして、スピアーとビードルが全滅して残るはコクーンだけとなった。
「こいつ動かないけど、どうする?」
その質問に対し、マドノは容赦なく剣を振り上げる。
「決まってんだろ。そこのモンスターの卵もぶっ壊す。例え雑魚でも経験値の取りこぼしは、許さねぇ!」

と言う夢をグートミューティヒが観た。
「やめろおぉーーーーー!」
飛び起きたグートミューティヒは汗だくだった。
そして項垂れた。
「……何やってんだろう……僕……」
そして、グートミューティヒは唐突にこの旅の経緯を振り返る。
育ての親達によると、グートミューティヒは赤ん坊の時から既に孤児だったらしく、とある町の道端で置き去りにされているのを発見して拾ったそうだ。
そんなグートミューティヒを拾ったのが、人類の安全な暮らしの為にモンスターの研究と観測を行っている学者達であり、彼らの息子として育てられた。
その結果、モンスターの中にポケモンや召喚獣の様な人類の味方になり得る可能性を秘めた者も多い事を知るが……
だが、悲しかな、世論や大衆は画一一様、異口同音、単純単調、万人一色ばかりな上に同調圧力と排他主義が横行し蔓延していた。
それを見返したくて星空の勇者に選ばれたマドノの魔王討伐に同行しようとしたが、グートミューティヒが魅せられたのは同調圧力と排他主義に溺れ染まった残酷過ぎる現実のみであり、そこに多種多様や共生共存が入り込む余地が無い絶望的な環境だった……
「これじゃあ恩返しにならなよ……」
宿を出たグートミューティヒが当ても無くトボトボと歩く。
その顔には10歳とは思えぬ暗さがあった。
「はぁー」
これは何度目の溜息だろうか?
そんな時、ただでさえボロボロなグートミューティヒの心を更に傷つける事件が発生した。
「逃がすなぁー!そのモンスターは俺達が狩るんだぁー!」
どうやらモンスターが何者かに追われている様である。
普通の人間であれば、追撃者を応援するか加勢するかだが、グートミューティヒは違った。
「やめろ!そいつは既に戦意を失ってる!」
グートミューティヒは逃げるモンスターを庇ってしまったのだ。
「おい。そこの小娘、何やってんのか判ってんのか?」
どう視ても追撃者達の方が悪人顔に見えるグートミューティヒは臆せず言い放つ。
「それはこっちの台詞だよ。逃げる背中を寄ってたかって追い回して、傷付けて、カッコ悪いと思わないのか?」
勇者マドノと対立する事を決意したグートミューティヒが一貫して貫いて来た美学!それが『逃げる者は追わず』である!
自分が逃げてる時に攻撃されるのも嫌だが、逃げる敵を攻撃するのも嫌なのだ。
するのもされるのも嫌だ。自分がされて嫌な事は、相手だって嫌に決まってる理論である。
だが、グートミューティヒは背後にいるモンスターをチラ見すると、
「ツツケラじゃないか!何で!?」
傷だらけのツツケラに驚いてしまったグートミューティヒは、その隙にとばかりに追撃者に突き飛ばされた。
「退け!」
グートミューティヒを突き飛ばした追撃者達は、勝ち誇ったかの様な邪な笑みを浮かべながら瀕死のツツケラに止めを刺した。
その行為には躊躇も罪悪感も無い……
只々普通に食事をするかの様に、いつも通りを行っている感覚で……
「へへへやったぜ♪」

グートミューティヒは疲れ果てていた……
どんなにグートミューティヒが頑張ってもポケモンが他のモンスターと同じ極悪害獣として扱われ、ポケモンがどれだけ虐殺されても大衆や世論の心は痛まず、寧ろポケモンを虐殺した者達が英雄視されて称賛される……
万人一色の同調圧力の前では、たった1人の善意は無力なのか……
そんな後ろ向きで消極的な良くない考えに、グートミューティヒは支配されかけた。
だが、
「俺達って、結構モンスター退治に向いてねぇか?」
「ああ!さっきの奴も俺達を見た途端に逃げやがってさ」
「もしかしたらよ、このままモンスターを次々と斃して経験値を稼いでいけば……」
「あるんじゃねぇ!勇者マドノ越え!」
「おおぉーーーーー!」
無抵抗に逃げてただけのツツケラを何の躊躇いも無く英雄気取りで虐殺した連中の分不相応で自信過剰な言葉が、グートミューティヒの燃え尽きた筈の怒りの炎に油を注いだ。
「……いい気なものだな……」
「あぁん?何か言ったらそこの小娘?」
「ツツケラの事……何も知らない癖に……」
けど、上機嫌で有頂天になっている連中はグートミューティヒの言葉の意味に気付かずに偉そうな事を言う。
「良いんだぜ。もう直ぐ勇者マドノ越えをする俺達の恋人になっても、よ!」
「おおぉーーーーー!」
この言葉に怒りが頂点に達したグートミューティヒは、モンスターボールからピチューを出してしまった。
「ピチュー!そいつらを倒せ!ツツケラの仇だ」
数の暴力を駆使して1匹のツツケラを虐殺して得意げになっていた連中も、グートミューティヒの予想外の行動に少し驚く。
「な!?……モンスターを飼ってる……だと?」
「何考えてるんだ?」
だが、無抵抗なツツケラを虐殺した事で自信過剰になっている連中は直ぐに臨戦態勢となる。
「落ち着け!さっきのモンスターだって楽勝だったじゃねぇか!こいつも楽勝だぜ!」
「お……おう!」
「そ……そうだな!」
しかし、肝心のピチューが突然光ったので連中は驚き、グートミューティヒも予想外だった。
「どうしたピチュー!?何が遭った!?」
そして、眩しい光が終息すると、ピチューがいた筈の場所に別のポケモンがいた。
「ピカピッカ」
「ピチュー?……もしかして、進化したのか?」
確かに、グートミューティヒは成長したポケモンは進化して別の姿になるとは聴いていたが、まさか今だとは思っていなかった。
「ピチューが……ピカチュウになっちゃった?」
一方、ポケモンの事を何も知らない連中はビックリ仰天した。
「な!……何なんだよこいつ!?」
だが、ツツケラを虐殺した連中のビックリ仰天はまだまだこれからだった。
「おい!」
「今度は何だ!?」
ツツケラを虐殺した連中とグートミューティヒとのやり取りを見守っていたドデカバシ達が、殺されたツツケラの為に戦おうとした上にピチューをピカチュウに進化させる条件を満たしたグートミューティヒに加勢するべく一斉に飛び出したのだ!
因みに、ピチューはとてもなかよしな状態でレベルアップするとピカチュウに進化するのだ。
「何なんだよ!何で急にモンスターが一斉に!?」
それだけじゃない!
ワルビアル、フライゴン、グソクムシャ、リザードンもグートミューティヒに加勢しに来てくれたのだ!
ツツケラを虐殺した連中が慌てて臨戦態勢を整えようとするが、グートミューティヒに加勢したポケモンはどれもツツケラとは違って百戦錬磨な強豪ポケモンばかり!
「駄目だ!こんなのとやりあってたら、命が幾つ有っても足りねぇぜ!」
「逃げろぉー!」
「あいつら強過ぎるぅーーーーー!」
ツツケラを虐殺した連中はあっけなく敗北して逃げ去ってしまった。
それを見たワルビアルがそれを追撃しようとするが、
「駄目だ!それじゃあツツケラを殺した連中と同じになっちゃうよ!」
グートミューティヒの懇願を聞き、ワルビアルは渋々追撃を諦めた。
口汚く罵られれば辛いし、暴力を振るわれれば痛い。
するのもされるのも、グートミューティヒは嫌だった。

グートミューティヒの声は確かに全てのモンスターを例外無く極悪害獣扱いする人類には届かなかった……
だが、グートミューティヒのポケモンの為を思って言った言葉は、ちゃんとポケモン達に届いたのだ。
「みんな……」
自分達を助けてくれた強豪ポケモン達に、グートミューティヒは黙って頭を深々と下げた。
そして……グートミューティヒの力及ばずに虐殺されたツツケラの為に墓を作った。そして、ピカチュウはそんなグートミューティヒの頭を優しくなでた。
そんなグートミューティヒを視て、グソクムシャは同行を願い出たが、グートミューティヒは自分の力不足を理由にそれを断った。
「ありがたいけど、今の僕じゃ君を使いこなせない。だから、また次の機会にさせて貰うよ」
だが、そんなグートミューティヒの顔は非常に明るかった。
グートミューティヒの声は確かに届いてはいるのだ!未だに人間以外ではあるが。
グートミューティヒが置かれている立場は、未だに害虫側から害虫駆除業者を見る様なモノだが、それでも、グートミューティヒの優しい意志を正しく理解してくれる者がいる事実は、グートミューティヒの心を癒すには十分だった。

それからしばらくして、とある町で勇者マドノの到着を待つ商人を発見した。
「えぇーい!星空の勇者とやらはまだか!?」
「どうかしましたか?」
「お前の様な小娘には関係無い事だ!」
商人に冷たくあしらわれたグートミューティヒは、興味を失って見捨てるかの様に去る……と見せかけて商人を尾行する。
すると、
「星空の勇者が通った場所ではモンスターが必ず全滅すると聞くから、宝石採掘所に大量発生したスケルトン共を一掃させようと思ったのに、どこで道草を食っているのだ!?」
いい事を聴いたとニヤッとするグートミューティヒ。
「それじゃあピカチュウ、経験値稼ぎの没頭し過ぎて困っている人をほったらかしな勇者様の代わりに、僕達がそのスケルトンをやっつけますか?」
「ピッカー!」
こうして、グートミューティヒは再び魔王討伐を念頭に置いた地道な人助けを繰り返す旅を行ったのであった!

スノーヴァンパイアLv14

HP:1900
EX:350
耐性:氷、闇
弱点:炎、光
推奨レベル:6

自らの意思で吹雪を起こす事が出来る吸血鬼。常に浮遊しながら雪玉をジャグリングの様に操る。手下のコウモリはいくら倒してもキリが無い。
貴族である事を鼻にかける傲慢で自信過剰な性格だが、予想外の事態には非常に弱い。
因みに、勇者マドノの予想推奨レベルは10。

攻撃手段

雪玉:
6つの雪玉を次々と投げる。雪玉は壊してもキリが無い。

コウモリ:
頭上に6体のコウモリを出現させて襲わせる。コウモリは倒してもキリが無い。

吹雪:
自分の周囲に吹雪を発生させて相手の視界を遮る。

ポケットモンスター対RPG

ポケットモンスター対RPG

世論がポケモンとそれ以外のモンスターを同一視していたポケモン冷遇時代…… 魔王がモンスター群に世界侵略を催促した事が発端となり、ポケモンや召喚獣すら極悪害獣として扱われ、人間に虐げられていた。 推奨レベル到達の為なら蹂躙すら厭わない利己的で乱暴な勇者マドノとポケモンの地位向上と名誉回復の為に魔王軍と戦うポケモントレーナー・グートミューティヒがぶつかり合う時、魔王軍に侵略されてポケモンを冷遇する世界の命運が変わる! pixiv版→https://www.pixiv.net/novel/series/11820780 ハーメルン版→https://syosetu.org/novel/341262/ 暁版→https://www.akatsuki-novels.com/stories/index/novel_id~29425

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-04-05

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 第0話:戦う者……
  2. 第1話:失望と決別
  3. 第2話:心の毒
  4. 第3話:ピカチュウの慈愛