zoku勇者 ドラクエⅢ・その後編 エピ21~24

エピ21・22

ドワーフの国で

……み……ん……な……
 
 
「……」
 
 
チビ……、はなれててもいつもみんなといっしょだよ……
 
 
「チビ……」
 
 
だから……あきらめないで……
 
 
「ジャミル……」
 
「……アイシャ……か……?」
 
「良かった……、目を覚ましてくれて……」
 
意識を取り戻したジャミルの姿を見て安心したのか
アイシャが涙を溢す。
 
「……真っ暗な世界でチビが俺を呼ぶ声が……、微かに聞こえたんだ……」
 
そう言ってジャミルが自分の体を起した。
 
「私もよ……、きっとチビちゃんが励ましてくれたのね……」
 
「アルとダウドは……?」
 
ジャミルが訪ねるとアイシャは黙って首を横に振る。
 
「私が気が付いた時には……、二人の姿が見当たらなくて……」
 
「……そうか、けど、生きてりゃまたきっと会えるさ……、信じよう、
あいつらの無事を……」
 
「ええ……」
 
「前にチビがブレスでベビーサタンを吹き飛ばしたろ?あの時と逆で
まさか今度は俺らが飛ばされるとはな……」
 
ジャミルが苦笑する。
 
「それにしても……、私達、どこまで飛ばされたのかしら?状況が
全然掴めないのだけれど……」
 
アイシャが回りを見回すが、周囲は自分達の背丈と同じぐらいの
草が邪魔をし、まるでジャングル状態である。
 
「本当、草ばっかで何も見えねえな、まあ海にでも落ちなかっただけ
マシだよ」
 
ジャミルが身体についた泥を払って立ち上がった。
 
「そうね……、運が良かったと思わなくちゃね!」
 
「行くか……、ここでじっとしててもしょうがねえ、一刻も早く
元の大きさに戻って毒マツタケ手に入れて山竜の処まで戻らねえと、
簡単にはあの糞小悪魔もチビの処まで辿り着けねえと思うけどな」
 
「ええ……、行きましょう……」
 
アイシャも立ち上がって二人は未知の世界へ歩き出す……。
 
「俺達、今は体小さいからな……、くれぐれも気を付けないとな……」
 
「うん……」
 
ちなみに、今のジャミル達の背丈は人差し指ぐらいの大きさである。
 
「にしても……、ただでさえ俺、背が低いのに……、更に
縮んじまったよ……」
 
ジャミルがちょっこししょぼくれてみる。
 
「大丈夫よ……、きっと元の姿に戻れるわよ、悲観しちゃだめよっ!」
 
「はあ……」
 
 
 
一方の、山竜の塔の小悪魔は……
 
「通すりゅ……」
 
「帰れ!」
 
「お前邪魔りゅ!とっとと道を開けないと……!痛い目に
あわせりゅよ!」
 
中々道を譲ろうとしない変な顔のエルフと対峙していた……。
 
「そこの……」
 
「ん?」
 
「試練を受けろ、誰でもその回転する床を通らないと上まで
行けない仕組みになっている」
 
チビがブレスで焼いた回転する床はもう元通りに修復してあった。
 
「仕方ないりゅね……、いくりゅ……」
 
意外と素直に従い、小悪魔が床を通ろうとする。
 
「んっぎゃっ!」
 
小悪魔はあっという間に電撃を浴びて気絶した……。
 
「主様……、この汚物はどうします……?」
 
変な顔のエルフは迷惑そうに、倒れている小悪魔をじっと見ている。
ゴミの処理をさせられるのが嫌なのか。
 
 
……とりあえず、外に摘みだしておいてくれるかい……?
まあ、怒って又乗り込んでくるだろうけど……、その間に此処には
封印を掛けておこう……
 
 
「わかりました……」
 
変な顔のエルフは仕方なく、小悪魔を摘んで旅の扉とは別の方向へと、
塔の外へ投げ捨てた。
 
 
……それにしても、あの4人組はちゃんと此処まで戻って
来れるのかな?まさかこの子を置き去りにしたまま、投げ捨てる
様な事もしないと思うけどま、僕は知らないけどさ……、変なのも
来るし、出来れば早くして欲しんだけどね……たく……、こんな事に
なっちゃって、僕はホント迷惑だよ!
 
 
「さいですか……」
 
 
そして、再びジャミル側
 
「くっそ、俺ら小さくなってっから……、少し歩いただけでも
相当疲れんなあ……」
 
ジャミルとアイシャは草茫々の場所を歩き回るが、行けども
行けども先は草ばかりで何も見えず……。
 
「……はあ~……」
 
歩き回って疲れてしまったらしく、アイシャがしゃがみ込んだ。
 
「大丈夫か……?、少し疲れちまったかな……」
 
「……ううん、お腹……すいたの……」
 
アイシャが顔を赤くした。
 
「だよな、俺もだよ……、何せあの距離の階段登って腹が
すかねえ方がおかしいわ……」
 
ジャミルもウンコ座りを始めた。
 
「あのアリさんでもどうにかして食べられないかしら……?」
 
「アリか、アリねえ……、あり……?」
 
「!!!」
 
「……アリだあああああ~~!!」
 
二人は巨大な軍隊アリの集団に出くわし、追い掛け回される羽目に……。
 
「ジャミル!このパターンだと……」
 
アイシャがジャミルの手を掴んだ。
 
「あ?……そうか……、あ……」
 
目の前には巨大な蟻地獄に、後方には巨大な軍隊アリの集団……。
 
「しょうがねえ……、戦うか……」
 
「頑張らないとね!また、アルベルトとダウド、チビちゃんにも
会う為に!!」
 
 
そして、行方不明の二人は……
 
「ダウド、目を覚まして……」
 
「……あ……?アル……?いてててて!」
 
「足に怪我してるんだよ、あまり無理しちゃ駄目だよ……、
回復魔法を掛けてみたんだけど……、魔法の威力が
絆創膏張った程度にしかならないんだよ、ごめん……」
 
「い、いや……、大丈夫だよ、気を遣ってくれてありがとうね、アル」
 
アルベルトを心配させないようにとダウドが笑った。
 
「どうしてだろう、やっぱり背が小さくなってるから魔力も
半減するんだろうか……」
 
「それにしてもここ何処?何でオイラ、ベッドの上にいるの?
ジャミルは?アイシャは?」
 
何が何だか理解出来ないと言う様にダウドがアルベルトに訪ねる。
 
「この人達が助けてくれたみたいなんだ……」
 
「おう、目、さましたな」
 
2人の目の前には厳つい顔の、角兜を被った髭もじゃの小さい
小太りの男が立っていた。
 
「あ、あなた達は……?」
 
ちょっと身を引きながらダウドが尋ねてみる。
 
「おう、おれたち、スモールドワーフ!普通のドワーフより
更に背が小さい」
 
「へえ……、珍しい種族だねえ……」
 
「おう、お前ら、気絶しててアリに食われそうだったから
此処まで倒れてたの、俺達の住処、地底までよいしょよいしょ
よっこらしょと連れてきた」
 
「そうだったんですか……、此処、地底なんですねえ~、
有難うございます……」
 
ダウドが深々と頭を下げた。
 
「リーダー!大変だ」
 
「おう、なんだ?」
 
どうやらこの助けてくれたおっさんがリーダーらしい。他の仲間らしき
ドワーフが部屋に入って来るなり、リーダー格を呼ぶ。
 
「まただれか、上でアリに襲われてる」
 
「おう、大変だ、今日は良くアリが暴れてるな、丁度いい、
また食料確保にでも行くか」
 
「あのっ……!」
 
アルベルトがリーダー格に声を掛けた。
 
「おう、待ってろ、すぐに戻る、行くぞお前ら!」
 
「あ……」
 
リーダー格は武器を持って、仲間をぞろぞろ連れ、地上に
出て行ってしまう。
 
「……あのおじさん、おうおうばっかり言うんだねえ……」
 
「気にかける処、其処じゃないだろ……」
 
「ねえ……、今のうちに…逃げちゃう……?」
 
「悪い人達じゃなさそうだし、もう少し此処にいてみようよ……」
 
「……うん、それにしてもお腹すいたよお、ジャミルとアイシャ……、
大丈夫かなあ……」
 
……ジャミルとアイシャ、二人がさっき、地上で全く同じ事を
呟いたのをダウドは知らない。ダウドは二人に会える事を信じ、
ベッドのシーツの裾を強くぎゅっと掴んだ。
 
「……二人とも……、どうか無事で……」
 
今は二人の無事をただ祈るしか……、アルベルトにも出来ないのだった……。
 
 
「あっ……!?」
 
「アイシャっ!このっ!!」
 
アイシャを狙ってくる軍隊アリからジャミルが必死でアイシャを
庇いつつ王者の剣で攻撃する。しかし、流石の王者の剣でもこの
サイズになってしまっては、玩具の剣程度の威力しか成らない為、
真面に力を発揮出来ないのである。……二人は追い詰められていた。
 
「駄目……、お腹すいて……、もうアリさんがこんなに嫌なんて
初めてだわよ……」
 
後方にはまだまだ大量に軍隊アリの大群が控えている。
 
「俺も……、目、回ってきたかも……」
 
けれど、何が何でもアイシャを守らなければならない為、
ジャミルは自分の頭を叩いて気を引き締めた。
 
「こんにゃろっ!えいっ!……駄目だあ~、全然当たんねえ……、
クソッ……、アリになんか負けたら……」
 
いつもと全然調子を掴めず、ジャミルは苦戦する。
 
「きゃーっ!?ジャミルーっ!!助けてーっ!!」
 
「アイシャっ!チッ……!囲まれちまってる……!待ってろ
今……、あ……!」
 
ジャミルもじりじりと軍隊アリに蟻地獄へと追い詰められていく。
 
「やだっ!あっち行ってったらっ!マヒャド……マヒャド!!」
 
しかし、身体が縮んでいる為か、アイシャの魔法力も半分になり
小さな氷程度しか出せない……。
 
「……ぐすっ……、何でこうなるのよう~……、もう……、
駄目だわ……」
 
軍隊アリの一匹がアイシャ目掛けて今にも針を
突き刺そうとした、その時……。
 
「おうっ、おうっ、おうっ!!」
 
「……!?」
 
アイシャがそっと目を開けると……。
 
「おう、嬢ちゃん大丈夫か!」
 
今の自分達と同じ大きさぐらいのむさ苦しい髭面親父集団が
目の前に集まっていた。アイシャを襲おうとしていたアリの
身体には槍が突き刺さっており、既にこと切れていた。
 
「お、おじさん達……、誰……?もしかして……、助けてくれたの?」
 
「おうっ、話は後だあ!取りあえずこのアリどもを片付けんぞ、お前ら!!」
 
「あ……」
 
小さい親父集団は慣れた手つきで武器を操り、次々と軍隊アリを仕留めていく。
 
「アイシャ!」
 
ジャミルが慌ててアイシャの元に走って来る。
 
「ジャミル!大丈夫だった!?」
 
「ああ、それにしても……、一体どうなってんだよ……」
 
親父集団が軍隊アリを半分ぐらい仕留めた処で、残りのアリ達も
退場していった……。
 
「おうっ、今日は大量だあ!」
 
リーダー格の髭面親父が軍隊アリの山を見てわははと豪快に笑った。
 
「あの……、おじさん達……、助けてくれて有難う……」
 
ドギマギしながらアイシャが親父集団にお礼を言う。
 
「……おうっ!?俺ら、おっさんじゃねえぞ!」
 
「きゃあっ!!」
 
リーダー格が急にドスの訊いた声をだした為、アイシャがびっくりして
ジャミルの後ろに慌てて隠れた。
 
「おうっ!特にオラあ、こう見えても、23だあ!まだ親父じゃ
ねえんだよ!嬢ちゃん!俺たちゃ、みんな30前のぴちぴちだぞ!」
 
「23……、て……」
 
リーダー格はどう見ても、23には見えず……、ジャミルの
目が点になった。
 
「ごめんなさい、まだお若いんですね……」
 
アイシャが慌てて謝り、頭をぺこりと下げた。
 
「おうっ!いいってこった!!」
 
リーダー格が又豪快に笑った。
 
「ところで、今日はやけに珍しい奴らとやけに会うな……」
 
「だな、人形みたいな顔の奴らだ……」
 
そう言って親父集団の仲間がジャミルとアイシャの顔をじろじろ見る。
 
「奴らって……、俺達の他にも誰かいたのかい?」
 
「ああ、片方は足を怪我してたんで、俺達のアジトで寝かしてるぞ」
 
「ジャミルっ!待って!!」
 
「ど、どうしたんだよ、アイシャ…」
 
「きっとアルとダウドだわ……、それしか考えられないもの……」
 
「!そうか、そういやそうだよな……」
 
ジャミルは思い切ってリーダー格に聞いてみる。
 
「あのさ、今、あんたらのアジトにいる奴らってさ、
それって、髪の色が金髪のと、あと一人、顔が困った様な
顔のタレ目の奴いなかったかい……?」
 
ダウドの例え方が酷い……。
 
「おうっ?確か、そんな様な感じの奴らだったかな……?」
 
「きゃーっ!やっぱり!アルとダウドよ、ジャミルっ!!」
 
喜び勇んでアイシャがジャミルに飛びつく。
 
「一緒にあんた達の住処まで連れてって欲しいんだよ、頼む!!」
 
「おうっ!いいぞ、ついてこいや!!」
 
仲間と一緒に軍隊アリの死骸を担いでリーダー格が歩き出した。
 
「ジャミル、おじさん達について行ってみましょ!」
 
「ああ!」
 
「……おうっ!おじさんじゃねえっていってるべや!?」
 
抗議の印なのか、リーダー格はプップと屁をこきながら歩いていく。
 
「きゃー!おじさん、ごめんなさーいっ!!」
 
再びアイシャがジャミルの後ろに隠れた。
 
「……はあ、誰がどう見たって40過ぎのおっさんだよなあ……」


黒幕、始動す……

「おうっ、此処通りゃすぐに俺達のアジトだ!」
 
岩の下に小さいトンネルの様な穴があり、ジャミルとアイシャは
親父集団の後に続き不安に駆られながらも穴の中を通る。穴の中の
先はちゃんと人が生活出来る、不思議な居住空間であった。
 
「こんな地下に住んでるんだ……、まだまだ俺達の知らない
世界ってあるんだなあ……」
 
「おうっ、何もねえところだがゆっくりしていきな!」
 
「あの、その、えーと、おじさ……、えっと、リーダーさん達は
昔からずっと此処に住んでるの?」
 
すぐにおじさんと言いそうになる為、アイシャは慌てて
自分の口を押える。
 
「おう?俺たちゃずっと同じとこに居る訳じゃねーぞ、そうさなあ……、
一年に一回は引っ越しすんだあ!」
 
「そ、そうなの……、こんなにお部屋を作ってですか……?
何だか勿体無いなあ……」
 
「…ヤドカリかよ……、けど、どこ見てもむさ苦しいのばっかで……、
可愛い女の子とかいねーのな」
 
むんむん汗臭い空気にどうしても我慢出来ず、つい、ジャミルが本音を……。
 
「ん?ジャミル、どうかした?」
 
「……なんれもない……いれれれれ!」
 
ニコニコと笑顔を見せつつ、アイシャがジャミルの頬を
引っ張った。
 
リーダー格はジャミルとアイシャをアルベルト達がいるらしき
部屋の前まで案内する。
 
「おう、この部屋に今日連れて来た奴らがいるぞ、行ってやれや」
 
「リーダーさん、ありがとう」
 
「おう、んじゃ、またな!」
 
アイシャが頭を下げた。リーダー格はジャミルとアイシャ、二人を
部屋の前に残すと、のそのそ何処かへ歩いて行った。ジャミルが早速
部屋のドアを開けると……。其処にはアルベルトとダウドの姿が……。
 
「……あっ!ジャミル……、アイシャ……、あはっ!良かったよおおお~!」
 
ダウドが慌ててベッドから降りようとする。
 
「……ジャミル、アイシャ……、二人とも無事だったんだ!!」
 
二人の姿を見るとアルベルトも急いでこちらに駆け寄ってきた。
 
「よお、元気だったかい?」
 
「……ダウド、アル……、良かった……、私……、もう
心配で……心配で……、又会えて本当に良かった……」
 
それぞれの無事を確認し……、安心したのか又アイシャが
ぐしぐし泣き出した。
 
「俺らも上でアリに困ってる処をおっさん達に助けて貰ったのさ!」
 
「ジャミル達もだったんだねえ!オイラも最初はちょっと
びっくりしたけど……、凄くいい人達だよね!」
 
「僕ら、再会出来たのは本当、良かったんだけど……、
まだ問題が全然解決した訳じゃないんだよね……」
 
二人と無事再会出来、さっきまで喜んでいたアルベルトが顔を曇らせた。
 
「とりあえず、この大きさをどうにかしないとな……、けど、
どうすりゃ元に戻るんだか……」
 
腕組みをし、ジャミルが考えてみるが、何もいい方法が思いつかず。
 
「急がないとチビちゃんの所にまたベビーサタンが……、
時間ないよお……、オイラ達、間に合うのかなあ……、チビちゃん……」
 
「それにしても許せないのはあのベビーサタンよっ!あの手この手で、
卑怯な事ばっかりして……、絶対許さないんだからっ……!!」
 
両の手を拳にしてアイシャがキーキー怒る。
 
「……まさか、な……」
 
「ジャミル…どうかしたの?」
 
アルベルトが聞いてみる。
 
「いや……、珍しく考え事だけど……、くだらねえ事だから
別に気にしないでくれ」
 
「そう……?」
 
「……」
 
(……あの小悪魔と、リィトとか言う野郎……、まさか……、な、
んな事有る訳ねえか……)
 
それから一時間ぐらい時間が経過した頃……。
 
「お前達、食事だぞ、来い……」
 
別のドワーフが部屋に呼びに来た。
 
「おっ、飯だってよ!よかったあああ~、俺、腹減っちまってよ……、
皆行こうぜ!」
 
「私達もごちそうして貰えるのね!嬉しい!アルもダウドも行きましょ!」
 
「あっ、うん……」
 
「待ってよお!」
 
アルベルトとダウドも二人の後に続いた。……ドワーフに案内して貰い、
4人は集合食堂へ。
 
「まあ、適当に空いてる所に座れ」
 
スモールドワーフの連中は皆、顔が同じなので誰が誰だか
判別できず……、食堂に密集しているその数は200人以上は
わちゃわちゃいる感じであった。リーダー格だけは頭に兜を
被っているので何処にいてもすぐに判りやすかった。
 
「此処に座らせて貰いましょ!」
 
アイシャが良さそうな場所を見つけると、4人は一番奥の
空いている席に座った。
 
「……きょうわ、はんばーぐ……」
 
ジャミル達の席に目の小さいドワーフが食事の皿をコトリと置いていった。
 
「……美味しそう……」
 
目の前に置かれたハンバーグに思わずダウドがクンクン匂いを嗅ぐ。
 
「しっかし……、これ俺達が元に戻ったら物凄い小さいんだろうな……」
 
「おいしーい!何のお肉なのかしら!ちょっとプチプチしてるけど」
 
「本当だね、でもちょっと変わってる味だね……」
 
「美味しければなんでもいいよお!」
 
……材料がさっきの軍隊アリだと気付かず……、腹ペコの4人は
只管ハンバーグに舌鼓を打つ……。
 
「おう、お前ら、ちょっと……」
 
テーブルの下からいきなり、リーダー格がぬっとむさ苦しい顔を出した。
 
「!?び、びっくりしたあ~、妖怪かと思ったわ……、
たまがせんなよ……」
 
「おう、少々厄介な事になっちまってな……、少し手伝って
貰いてんだが……」
 
「なあに?私達で出来る事なら何でも手伝うわ!ね、皆!」
 
お節介なアイシャがやたらと張り切る。
 
「色々世話になっちまったしな、それぐらいはな……、
で、何だい?」
 
ジャミルも段々話に乗ってきた。
 
「おう、キノコがな……、増殖しちまっててよう……、困ってんだあ」
 
「キノコ?」
 
「おう、俺の部屋なんだがね、最近は湿っぽくてよう、
あっという間に毒マツタケが増殖しちまってさ、これがまあ厄介のなんの……」
 
「……毒マツタケですって!?生えてるんですか!?あなたの部屋に……!!」
 
アルベルトが椅子からガタンと立ち上がった。
 
「おう、わりんだが、数が多いんで……、刈るの手伝ってくんねえか?」
 
「もちおっけー!!」
 
4人は揃ってぴっと親指を立てた。
 
「おう、そうか……、んじゃわりいけど、飯が終わったら
おれんとこまで来てくれ、待ってるからよ」
 
そう言ってリーダー格は再びテーブルの下に姿を消す。
 
「ラッキーだったねえ、こんなとこに毒マツタケって生えてるんだあ~、
どうりで……、誰にもわかんない筈だよねえ~」
 
椅子にもたれてダウドがうんうんと頷く。
 
「これでやっとチビちゃんの所に行けるわ!後はどうにかして
元の大きさに戻るだけよ!」
 
「けどさ、毒マツタケって、相当小さいんじゃね、俺ら元に戻ったら……、
豆粒ぐらいしかキノコの大きさがねえとか……」
 
「……」
 
4人はまた黙り込んだ……。
 
「とにかく……、まずはリーダーさんのお部屋に行ってみなくちゃね……、
じゃないと始まらないわ」
 
「はんばーぐ、おいしかったですか?」
 
アイシャも椅子から立ち上がる。するとさっきのドワーフが
再び4人の皿を片付けに来た。
 
「あっ、ご馳走様でした……、とても美味しかったです」
 
ドワーフに気づいて、最初に椅子から立ち上がった
アルベルトが頭を下げ礼を言う。
 
「そうですか、よかった、きょうのありのお肉はとてもしんせんで
いきがよかったから……、おいしくたべてもらえてよかった、うふーふ」
 
 
「……え……っ……?」
 
 
4人は自分達の現状を漸く理解したのだった……。
 
 
場所変わり……、再び山竜の塔……
 
「……誰だい……」
 
足音が……こつこつと山竜の側に近づいて来た……。
 
「こんにちは、山のドラゴン君……」
 
「……どうやって、結界無視して此処まで来たんだい?」
 
「そんなに怖い顔しないでくれる?僕は君達竜族の友達、
仲間で味方なんだからさ……」
 
「……味方……、だって?」
 
「そう……、地竜に預けておいた大事な子がいなくなってしまって
ずっと探していたんだ……、もう卵から孵っている頃だとは
思っていたけど……、やっと会えたね……」
 
「……フン、そんなの見ただけで判るのかい?」
 
「……判るよ、卵の時代に僕と一緒にいた時に……、卵の中から
感じていた気と同じだ……」
 
謎の声は静かに眠っているチビを見つめた。
 
「……けれど……この子は……僕が探していた子ではない!?
……どう云う事だ……?……どうしてだい……、感じる気は
同じなのに……、どうして光の力の方が強いんだ……?」
 
「あんた、言ってる事がさっぱり判らないんだけど……、
説明してくれる……?」
 
「……どうして……」
 
謎の声は山竜の元から一瞬で姿を消した……。
 
「……次から次へと……、訳が分からない奴ばっかり来るよ……、
……もっと結界を強くしておいた方がいいんだろうか……」
 
ぶつぶついいながら山竜は隣で眠るチビを見つめ、自身も身体を
休める為の眠りについたのだった。

エピ23・24

再び塔へ

「おうっ、ここが俺の部屋だあ!」
 
リーダー格が少しドアを開けただけで部屋から凄い臭いが
漂ってきた……。
 
「……ま、待って、リーダーさん、あなた……、きちんと
お部屋のお掃除してるの……?」
 
顔をしかめながらアイシャが聞くとリーダー格は大口を開け、
豪快に笑いだす。
 
「おう?しねーよ、俺たちゃ元々地下人だあ、そんなもん必要ねえさ!」
 
「……だからって……、う……、ただでさえ臭いのに……、うえっ……、
これ、足の裏が発酵して腐った臭いだよ、ついでにオイラ……、さっきの
アリハンバーグ思い出しそう……」
 
「……言うなっつーの!」
 
ジャミルがダウドの頭をこづいた。
 
「……キノコの臭いと……、この部屋の元々の悪臭が……、
ミックスしちゃってるんだね……」
 
あまりの凄さにアルベルトも自分の口を押える。
 
そして遂にリーダー格が禁断の自分の部屋のドアを全開にすると……。
 
「……うわあ……」
 
部屋の中に……、腐った松の盆栽が放置してあり、その松の
根元にかなり大きめのキノコが沢山生えており、どうやらそれが
目的の毒マツタケらしかった。
 
「おう、この松は俺の趣味だあ!……面倒見きれなくなってな、
放置しておいたら、毒マツタケとかいう、くせえ茸が生えちまった!
おうおう、がはは!」
 
「毒マツタケって……、今の僕らのサイズでこんなに大きいのか……、
普通のキノコと何ら変わりないんだ……」
 
アルベルトが毒マツタケに近寄って行ってみて、あれこれと色々調べている。
 
「んじゃあ、つまり、俺達が元に戻ったら……、これだと普通の
シイタケぐらいのサイズだな」
 
「よくもこれ程の物、生やす気になるねえ……」
 
臭いが強烈なのも忘れそうになり、ダウドも珍しそうに毒マツタケに触る。
 
「おう、んじゃあ、お前ら頼むでよ!」
 
そう言うなり、リーダー格は毒マツタケを、持っていた鎌で
スパスパ刈りはじめると、ジャミル達にも専用の鎌を渡す。
 
「よしっ……、俺達もやるか!」
 
ジャミルが腕まくりをする。
 
「……チビちゃんの為よ……、頑張るわ……!」
 
4人は部屋の中の臭いを堪えながら……、マツタケ狩りならぬ、
マツタケ刈りを始める……。
 
「この臭いって……、やっぱり毒マツタケのなのかなあ~、
マツタケって……、本当は凄くいい香りなのにぃ~、逆だなんて~……、
ううう~くさい……」
 
(これを塔まで持ち歩くのか……、い、いやだ……)
 
「ホント、あんのドラゴンも趣味わりィよな、こんなモン好物とかよ……」
 
「あ~ん!くさいー!水浴びしたいー!もういやーー!!」
 
……それぞれに、ブツブツ文句を言いながら、チビの為に4人は
只管せっせと、悪臭に耐えながら毒マツタケ刈りをする……。
 
 
「……お、終わりだ……、みんな…刈ってやったぞお……、ざまあみろ……」
 
「これで……、100本分ぐらいはあるよ……、ね」
 
部屋の中に生えたすべての毒マツタケを刈り終え、4人は部屋に倒れる……。
 
「おう、ご苦労さん!ホント悪ぃなあ!!」
 
リーダー格は相変わらず豪快に笑う。
 
「さて、ここからが問題だよ……、一体どうやってこの大きい
毒マツタケを地上まで運ぶか、そして、どうやって僕らは元の
大きさに戻ればいいのか、そして見知らぬ土地から、どうやって
山竜の処まで戻ったらいいのか……」
 
倒れていたアルベルトが立ち上がった。
 
「……どうやって尽くしだな……」
 
「おう?お前ら、そんなモン必要なんか?」
 
「事情があってさ、使うんだよ……」
 
「……あのね、リーダーさん……、私達……、実は……」
 
「おう?」
 
アイシャが等々、リーダー格に自分達の素性を思い切って話した。
リーダー格は最初、不思議そうな顔をしていたが、特に4人に
つめ寄る様な真似はしなかった。
 
「おう、そうか……、おめえら人間だったのかい、どうりでなあ」
 
※注 アイちゃんは元々原作じゃ人間じゃないんだけど
 
「騙すつもりじゃなかったんだけどさ、ごめんよ……」
 
「おう、いいって事よ、別におめえらは人間にしちゃ、
初めて見た時から嫌な感じしなかったしなあ、それにしても
おめえらも苦労してんだなあ、ガハハ!」
 
「ははは、いてえ……」
 
リーダー格がジャミルの肩を叩いた。
 
「おう、何だったら毒マツタケは俺達で外まで運んでやるし、
それに山竜の塔なら此処からそれ程遠くねえぞ?」
 
「……ほ、ホントかい!?助かるよ……、って……?塔、近くなのか?」
 
「おう?よく見なかったのか、外出たらもう一回周りよく見てみな、
でけえ塔が立ってるからよ」
 
「そうだったのか……、外なんか見てる余裕なかったしなあ……」
 
「おう、とにかくこの毒マツタケは外まで運んでやらあ、
他の連中にも声掛けてくんぞ」
 
「……何から何まで……、本当にすみません……」
 
お礼を言いながらアルベルトが頭を下げる。
 
「あれ……?ダウド、お前何か背が少し伸びたか……?」
 
「えっ?そんな事ないと思うけど……」
 
「アルもよ……、さっきより何だか背が伸びてる様な気がするわ……」
 
「ちょっと待って、て、事は……」
 
アルベルトがう~んと唸り、考える。
 
「……」
 
「僕ら……、元の大きさに戻り始めてる……、って事かな……」
 
「大変だっ!早く外出ようぜ!!」
 
「あわわわわ!」
 
「……きゃー!早くしないと皆のお家壊しちゃう!!」
 
4人は慌ててリーダー格へと報告に走る。そして、毒マツタケを全て
ドワーフ達に手伝って運んで貰い、4人は地上に出る。
 
「おう、良かったな、これでもう少し時間が立ちゃお前ら元に
戻れんだろう?いやー、良かった良かった!がっはっはっは!」
 
「がっはっはっは!!」
 
リーダー格とドワーフ達は声を揃えて豪快に笑った。
 
「ありがとな……、皆、……すげー貴重な経験が出来たよ……」
 
「本当にお世話になりました、あなた方がいなかったら……、
僕ら今頃本当にどうなっていたか……」
 
ジャミルとアルベルトがドワーフ達に心からのお礼を言う。
 
「おう、オメーらも元気でな!俺達は後半年ぐらいは此処に
居座るから何か困った事があったらいつでも来いよ!穴の前で
大声でも出しゃ、すぐに地下から出てきてやっから!」
 
「……ぐすっ、おじさ~ん……、みなさん……、お世話になりました……、
元気でね……!」
 
お別れにアイシャが涙を溢し、リーダー格に抱き着いた。
 
「……おうっ!おじさんじゃねえって、何回言ったらわかんだあ!?
……たく、しかし、笑ったり泣いたり……、ようコロコロ変わる
娘っ子だなあ……」
 
「ご、ごめんなさい……、え、えへへ……」
 
アイシャが泣きながら照れ笑いし、舌を出す。
 
「おう、タレ目はもう足は大丈夫なのか?」
 
「うん、皆のおかげでもうすっかり平気だよお!ありがとう!」
 
ダウドも笑顔で皆に挨拶した。
 
「おう、んじゃ俺達はこれで!元気でな!!」
 
「風呂入れよ!」
 
「歯、磨けよ!」
 
リーダー格は仲間とぞろぞろ再び地下に戻って行く。やがて、ドワーフ達の
姿も見えなくなった頃……。
 
「……やっと、元の大きさに戻った……」
 
ジャミルが立ち上がり自分の足元を見た。
 
「……おじさん達……、行っちゃった……、本当に又……、
会えるといいな……」
 
アイシャが淋しそうに、ドワーフ達が去って行った方向を見つめ、
呟く。ジャミルとアイシャが軍隊アリに追掛けられた広い草原も……。
元に戻ってみれば足元にただ雑草が生えているだけの場所だった。
 
「……考えてみれば……、あのベビーサタンが小さくして
飛ばしてくれたから……、大変だったけどオイラ達、毒マツタケ
貰えたんだよ……、ね?」
 
ダウドが何だかなあな複雑な表情をし、皆の方を見た。
 
「んなの、偶然だよ、偶然!」
 
ジャミルがダウドに向かって手を振った。
 
「……そうかなあ……」
 
「じゃあダウドはあのクソ小悪魔に感謝しろって言いたいのか!?」
 
「そうじゃないけど……、うーん、何て言ったらいいのかなあ……?」
 
「気にする事ないわよう!考え過ぎなのよ!」
 
アイシャも口を尖らせダウドに注意する。
 
「それよりも……、皆、見てごらんよ、山竜の塔だ……」
 
アルベルトが指差す方向にはリーダー格の言った通り……、
目の前に山竜の塔が聳え立っていた。
 
「チビちゃん……、やっぱり私達……、決して離れたりしない……、
いつも一緒なのね……」
 
「行こう……、チビを取り返すんだ!……んで、竜の涙も
頂戴しねーとな!」
 
悪戯っぽくジャミルがウインクし、皆に笑い掛けた。
4人は三流の塔へと歩き出す……。
 
 
「……どうやら、又あの連中が来るらしいね……、しかし、
よくもまあ、あんな物……、半分冗談で言ったんだけど……、なんて
言ったらキレるね……、……仕方ない、約束は約束だ……、奴らの話
ぐらい聞いてやろうか、確かに僕は同じ種族のこのチビを仲間として
ここまで呼んで導いたけど、人間共の目的は分らないや……」
 
山竜はそう言ってジャミル達が入って来れる様、塔の結界を解いた。


もう少しだけ……

「……本当に持って来たんだ……」
 
山竜の目の前に置かれた大量の毒マツタケを前に、山竜が困惑する。
 
「ああ、持って来たぞ!俺達は約束はちゃんと守るからな!」
 
「ハア……、仕方ない……、君達って意外と几帳面なんだね、
顔に似合わず……」
 
ジャミルの顔を見て山竜が呟いた。
 
「何か言ったか!?」
 
「何でもないよ、僕の方も約束だ、この子は返そう……、その前に、
聞かせて欲しい……、どうして野蛮な人間の君達とこの子が一緒に
いるのかを……、何故君達が此処に用があって訪れたのかも……」
 
「チビの為だよ……」
 
「為とは……?」
 
「あんたも知ってんだろ?竜の女王の城で卵が盗まれたのをさ……」
 
「知ってるよ、僕らの処にも情報は届くからね……、ゾーマに
この塔を封印されて長らくの封印が解け、目が覚めてすぐぐらいかな……」
 
「もしかしたらチビが……、その、行方不明になっている女王の
子供かも知れないんだ……」
 
「なんだって……!?この子がかい……?女王様の……!?」
 
山竜はまじまじと、まだ眠っているチビを見つめた。
 
「なるほど……、確かにね、得体の知れない不思議な力をこの子から
感じるのも頷けるかな……」
 
「私達はね、チビちゃんが卵の時に洞窟で出会って、卵から孵した時から
皆でずっと育ててるのよ!」
 
「……この子を?君達が?卵から孵して今まで育ててたって
言うのかい?……嘘言わないでくれよ、人間の君達が?
信じられない、それにどうして、一年以上盗まれていた筈の卵が……、
ずっと洞窟に置いてあって、どうして君達が洞窟に行くまで
卵が孵らなかったんだい……?」
 
山竜はペラペラとジャミル達に質問攻めをする。山竜は顔を近づけ、
唾を4人に飛ばしてくる。
 
「……俺が聞きてえんだよ……」
 
顔に飛ばされた唾を拭いながらジャミルがぼそっと喋る。
 
「嘘じゃないよ!チビちゃんは色んな奴らに狙われてるんだよお!
密猟組織とか……、魔族とか……、オイラ達……、チビちゃんを
卵から孵した時からずっとずっと守ってきたんだよお!」
 
「本当なんだよ、もしもチビが本当に……、竜の女王様の子供なら……、
僕等は一刻も早くチビをお城にお返ししなければならないんだよ!」
 
真剣に喋るダウドとアルベルトの姿に、山竜は複雑そうな顔を
していたが、やがてもう一度ジャミル達の顔を見た。
 
「……ウソを言っている様でもないようだね」
 
「それを確める為にも、俺達はもう一度、上の世界へ……、
地上に戻って竜の女王の城へ行く……、その為にはあんたの力が
必要なんだよ……」
 
ジャミルはそう言って竜の涙を山竜に見せた。
 
「……私のも……」
 
アイシャも自分の持っていたドラゴンの形見の方を見せた。
 
「……チビちゃんが卵だった時にチビちゃんを守ってくれていた
ドラゴンさんの涙の宝石よ……」
 
「……守ってくれていた……、とは……?」
 
「リムルダールの南の、封印されていた洞窟の中で出会った
ドラゴンさんよ……、密猟者から……私を……庇って……」
 
「……洞窟……、そうか、この子がいた場所は地竜の……、
地竜は死んだのかい……」
 
「私の……所為で……」
 
アイシャは俯き、ぎゅっと唇を噛んだ。
 
「……アイシャ……、もういいよ、思い出すな……」
 
「だって……!」
 
「いいんだよっ!何も言うなっ!」
 
……彼女の心の傷になってしまった辛い出来事を又
思い出させない様……、ジャミルは必死でアイシャを抱きしめ、
落ち着かせようとする。
 
「……で、君達は上の世界に行く為に、僕に涙を流させようと
してるんだね……」
 
「そうなんだけど……、いきなり泣いてくれって言ったって……、
無理だよな……」
 
「……いいよ、君達に協力しよう……」
 
「……ええっ!?」
 
あっさりの山竜のいきなりな発言に一同、驚きの声を上げた。
もっと抵抗するかと思ったが。
 
「正直、地竜が死んだのを聞いた時、僕はますます人間が
信じられなくなった……、この子を君達に返すのを止めよう
かとも思った……、だけど、君達はきちんとこの子を女王の
お城に預ける気でいるんだね……?」
 
「もちろんだ!もしも……、チビが女王と正式な血の繋がりが
無かった場合でも……、あそこにいる方がチビは幸せになれる筈さ、
そう、俺達と一緒にいるよりもな……」
 
「ジャミル……」
 
ほんの一瞬……、アイシャが淋しそうな顔を見せたのを
ジャミルは気が付いていなかった。
 
「それを聞いて安心したよ……、野蛮で馬鹿な人間達なんかと一緒に
ずっといさせるのは正直安心出来ないからね……」
 
「何だか、悲しい言い方だねえ、オイラ達……、チビちゃんの事が
大好きで大切だから……、今まで必死に育てて……、守ってきたのにね……」
 
「……ダウド、仕方ないよ、海竜の時もそうだったけど……、
僕ら人間を基本的にドラゴン達は決して心良くは思っていないんだよ……」
 
アルベルトがダウドを宥めながら、山竜を見上げる。
 
「そうと決まれば、一刻も早くこの子を女王のお城へ届けるんだよ?
約束だからね……?約束したよ?もしも守らない場合、それが
分った時には、痛い目にあって貰うよ?」
 
「脅すなよ……、判ってるよ!たく……、脅迫すんな!」
 
そう言いつつも、心から同じ仲間のチビの事を山竜が心配する
気持ちがジャミルには伝わって来たのだった。
 
「んじゃ……、さあ、いくか……」
 
「?」
 
山竜はそう言うなり……、毒マツタケをむしゃむしゃ食べ始めた……。
 
「……オ……、オエエエ~……」
 
「お、おい……」
 
「まずい……、やっぱり涙がでそうだ……」
 
山竜はそう言って涙を一滴流した。涙は直ぐに宝石へと変る。
 
「……アンタの涙、確かに貰ったけどさ……、お前、好物じゃ
なかったのかよ……」
 
「嘘ついてたの……?」
 
「僕らを騙したのかい?」
 
ダウドとアルベルトが揃って山竜を睨んだ。
 
「そうだよ、冗談で言ったんだけど……、まさか本当に……、
持ってくるとは思わなかったよ……、おえっ……」
 
「じゃあ、私達がもしも持って来られなかった場合、
チビちゃんを返さない気でいたんでしょ!?酷いわ!!」
 
「まあ、結果的に僕に涙を流させたんだから良かったじゃない……、
お、おえええ……」
 
「……納得いかねえ…」
 
ジャミルも不満気な顔をした……。そして無理矢理、毒マツタケを
完食した山竜は……。
 
「ねえ、大丈夫……?お腹痛くない……?」
 
優しいダウド一人だけが山竜を心配する。
 
「……フン、関係ないよ、それよりも早く竜の涙を三つ合わせてごらんよ」
 
言われるままに揃った竜の涙を三つ合わせると……。
 
「……鍵に変わった……?」
 
「このアレフガルドの何処かに、奇跡の扉と呼ばれる場所が存在する、
ゾーマに長い事封印されていた場所の筈……、そこを探し出して
扉をその鍵で開くんだ……」
 
「其処から、上の世界に戻れるのか……?」
 
「……強く念じればどんな場所でも絶対に思った所に行ける筈だよ……」
 
「今度は扉ね、探しましょ」
 
「早い話が……、ど〇で〇ド〇……」
 
「何だい?、何語を喋ってるの?」
 
山竜がジャミルをジロジロ見た。
 
「んでもねえ……」
 
「でも、オイラ達……、竜の涙二つだけでも強く願ったら
旅の扉が出来て此処に来れたんだけど……」
 
「少しの場所まで移動するのと……、上の世界に行くのと格が
全然違うよ……、とてつもない魔法の力が必要なんだよ、判る?
その鍵はそれだけの魔法の力を持っているんだよ、凄い鍵なのさ、
アホな君達に……理解出来る?」
 
ダウドの方を見ながら山竜が呟く。
 
「あうう~……」
 
「とにかく、俺達はもう行くよ……、チビを起してくれよ……」
 
「……分ったよ、起きるんだ……、さあ……」
 
山竜がチビを鼻で突っついた。
 
「……きゅぴ……、みんな……?」
 
寝ぼけ眼でチビが目を覚まし……、皆の顔を見た。
 
「チビっ!」
 
4人は慌ててチビに駆け寄る。
 
「チビちゃん……!!」
 
アイシャが力いっぱいチビを抱きしめた。
 
「……チビ、またねちゃったの、それでね?ゆめみてた……」
 
「……またか、今度は何だ……?」
 
「みんなでおおきいおにくたべてた、そしたらもっとおにくが
おおきくなったからあわててみんなでいっしょにぜんぶたべちゃった……」
 
「よし、今度は独り占めしなかったな、偉いぞ!」
 
ジャミルがぐしぐしチビの頭を撫でた。
 
「きゅぴ、えらいでしょ!」
 
「また……、だからチビの夢の話だってば……」
 
「もう、チビちゃんたら、ホント、食いしん坊なんだから……、
そんなとこジャミルに似ちゃったのね……、ちら……」
 
アイシャが横目でジャミルを見る。
 
「あははははっ!!」
 
又チビに会えた喜びで一杯で……、4人の明るい笑い声が
塔中に響き渡った。
 
(一体何なんだい、この幸せそうな雰囲気はさ……、あのチビドラゴンも
……心から笑ってるじゃないか……、こんなのまやかしさ、僕は信じないよ、
人間なんか……)
 
「……さあ、もう用は済んだろう?早く此処から出て行ってくれよ……、
また変なのに来られたら堪らないからね……」
 
「そうか、んじゃね、もう二度と来ないと思うけどさ!」
 
4人はチビを連れて旅の扉から船に戻って行った。
 
「……これでやっと静かに眠れるよ……、又結界を掛けておかなくちゃ……」
 
 
……チビちゃんが卵だった時にチビちゃんを守ってくれていた
ドラゴンさんの涙の宝石よ……
 
そう……、地竜に預けておいた大事な子がいなくなってしまって
ずっと探していたんだ……、もう卵から孵っている頃だとは
思っていたけど……、やっと会えたね……
 
 
「一つだけ……、あいつらに大事な事を教えるのを忘れていたけど……、
……数時間前に、この塔を訪れたあの変な男は……?……地竜に卵を
預けたと言っていたが……」
 
山竜はジャミル達が去って行った方向を見つめた。ジャミル達、
4人がいなくなった後、既に旅の扉は消滅していた。
 
「どっちみち……、あいつらがあの子ドラゴンを女王のお城まで
連れて行けば……、すべてが円満解決になるだろう……、僕には
関係の無い事だ……」
 
山竜はそう言って再び塔に封印を掛け、眠りについた。
 
 
「アイシャ、チビはもう寝たのか?」
 
「うん、今日、帰って来てから、アルとダウドに一緒に遊んで
貰ってるうちに二人と一緒に寝ちゃったのよ、うふふ!」
 
「……アイシャ……、分ってると思うけど……、上の世界に戻ったら……、
チビは……」
 
「わかってるわ、チビちゃんを孵した時からずっと……、覚悟はしてるわ、
……いつかは……お別れなんだって……」
 
そう言ってアイシャは甲板の手すりから遠い海の彼方を見つめた。
 
「……そうか……、なら、いいけどさ……」
 
「何よ、泣いたりしないわよ、大丈夫よ!」
 
「いや、無理すんなよ……」
 
「チビちゃんの本当の幸せは私達と一緒にいる事じゃないわ、そうよ……」
 
アイシャはジャミルの顔を見ると小さく微笑んだ。
 
「でも……、あともう少しだけ……、時間が許されるのならせめて……、
残された時間を楽しくチビちゃんと過ごしたいの、後悔しない様に」
 
「……アイシャ……、うん、そうだな……」
 
「……うん、皆でチビちゃんと楽しい思い出いっぱい作ろ?……ね?」
 
「ああ……」
 
アイシャがジャミルの顔をもう一度見上げ、ジャミルもアイシャの肩を
そっと抱いた……。
 
 
一方の、塔からつまみ出されたバカ小悪魔は……、結界が強化された塔に
入れなくなり……。
 
「……このっ、このっ、……どいつもこいつも、この偉大なる
魔界の王子リトルデビル様を小馬鹿にしやがって……りゅっ!!
くそっ!!」
 
 
……ジャミル達も元の大きさに戻って船に戻ったのに気付かず……、
塔に入ろうと暫くは塔と戦っていたのであった……。

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  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-30

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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