還暦夫婦のバイクライフ29

バイク屋さんツーリングで島めぐりをする

 ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を迎えた夫婦である。
 2月のある日、バイク屋さんからLINEが来た。
”2月のツーリングのご案内です。2月12日に、ゆめしま海道を原付でうろうろします。朝8時ふわり集合です。ご都合のよろしい方はぜひご参加ください”
「リンさん、今度のツーリングは2月12日だって」
「11日じゃなくて?あ~そうか。11日は愛媛マラソンか。今治向いては走れんよね」
「うん。久しぶりの原チャだな。しまなみって、何回走ってもイマイチ道が良くわからんのよなあ。まあ、走ってたら思い出すか」
「バイクは?」
「スクーター2台出すよ。あとはケイが行くといえばグロムを出すかな」
ケイというのは長男だ。
「KLXは出さんの?」
「あれは朝エンジンがかからんのよ。なんでか知らんけど。夕方だとセル一発でかかるのに、朝仕事に乗っていこうとすると全然かからん」
「仕事行くのが嫌なんじゃない?」
「そうかもね」
ということで、2月12日はしまなみ海道原付ツーリングとなった。
 2月12日、朝6時にジニーは目を覚ました。ベットから抜け出して、台所に向かう。簡単な朝食を作り、テーブルに並べる。
「お早う」
リンが起きてきて、洗面所に向かう。洗いあがった洗濯ものをかごに入れてベランダに持ってゆく。一通り干し終わると台所にやってきて、朝食を食べる。そこへケイが現れる。
「お早う」
「お早う。お前グロムな」
「わかった。ガソリン入っとる?」
「朝給油していく。飯食えよ」
「うん」
ケイは食卓に着いて、もそもそとご飯を食べる。
 7時過ぎ、三人は準備を終えて家を出発した。まずはいつものスタンドに寄って、ガソリンを給油する。
「ハイオクをがぶ飲みする大型と違って、スクーター共はつつましいな。ましてやグロムなんて40Km/Lは走るし、ハイブリッド車以上の省エネだよなあ」
「みんなバイクにすればいいのにね。車みたいな維持費もかからないし」
「全くだ」
給油を終えた3台のバイクは、北条の道の駅風和里目指してR196を北上する。車の流れに乗って走り、集合時間の8時少し前に到着した。
「お早うございます」
先に到着していた人達に挨拶をする。
「ジニーさん、実は僕のバイクがね」
愛媛バイク商会の店主の岩角さんが、ジニーに話しかける。
「突然不調になって、エンストするんだ。島に渡ってから動かなくなるのは面倒だから、今日は僕は欠席するよ。ジニーさん面倒よろしく」
「え~マジ?今日何人来てる?」
「今日は少なくて、福さんと大君の二人だ」
「うちら入れて5人か。いつもの半分だねえ。了解、じゃあ、引っ張っていきます」
ジニーは一緒に走る人達と、軽く打ち合わせした。それから岩角さんに見送られて、道の駅を出発した。
 R196を今治に向けて走る。浅海を抜けて、菊間のSOLATO石油コンビナートを左に見ながら通りすぎ、大西町の星の浦海浜公園の交差点を左折して、県道15号に乗り換える。波方町まで走って、右手にある、しまなみを走る時はいつも利用するコンビニに止まる。ジニーが時計を見る。
「8時45分か。原付はやっぱりのんびりだな。景色がゆっくり動くよ」
「私、久しぶりにスクーター乗ってお尻が痛いや」
「ジニーさん、次どこまで走る?」
「福さん、大三島の道の駅でどうだろう」
「橋の下の?オッケー」
コンビニで10分ほど休憩して、5人は再び走り始める。
 来島海峡大橋に乗り、途中の料金所でジニーはリンと2台分400円を料金箱に放り込む。橋の二輪走行路は2ⅿほどの幅で、対向になっているのでゆっくり走る。時々やって来る対向車に気を付けながら長い橋を渡り切り、導入路をぐるぐるっと降りて大島に降り立った。そこから伯方大島大橋目指してR317を北上する。しばらく走って導入路にたどりつき、そこを駆け上がって橋に乗る。ジニーは入り口の料金箱に2台分100円を投入して橋を渡り始める。途中にある見近島登降路を横目に見ながら通り過ぎる。ジニーが走りながら下を覗く。
「ジニー何か見えるん?」
「うん。キャンパーの人たちが何組も居るよ」
「相変わらずの人気だねえ」
見近島は人気のキャンプ地なのだ。
 橋を渡り切り、伯方島へ降りる。導入路から右折してR317に乗る。そこから1Kmほど走って大三島橋への導入路に入る。そのまま橋を渡り、出口にある料金箱にジニーは2台分100円を投入する。そこから導入路を下り、大三島に降り立つ。そこからR317に乗り、海岸線を走って多々羅大橋へと向かう。しばらく走ると、橋の下に道の駅多々羅しまなみ公園が見えてきた。5台のバイクは駐輪場に走り込んで、停車した。ジニーは時計を確認する。
「10時か。おつかれー休憩です」
「トイレ~」
福さんがトイレに消える。ジニーとリンは売店を覗きに行く。
「さすがにみかんだらけだ。何か買って帰ろう」
二人はいろいろな種類のみかんを取り、スクーターに載せれるほど買った。
「あ~しまった。今日はみかん買って帰れん」
トイレから帰って来た福さんが、残念そうにする。大のみかん好きなのだが、あまりの軽装のため、持って帰るすべがないようだ。
 展望所に上がると、大君がベンチに座って風景を眺めていた。
「多々羅大橋って、きれいな橋ですねえ」
「うん。それに周辺の景色も素晴らしい」
みんなしばらく景色を堪能して、展望所を降りた。
「さて、10時30分になったし、次行きましょう」
みんなはバイクにまたがり、道の駅を出発する。すぐ横にある導入路から多々羅大橋に上がる。橋をゆっくりと渡り、渡り切った所にある料金箱にジニーが2台分200円を投入する。そこから導入路をゆっくりと下り、生口島に降り立つ。突き当りのR317を左折して、海沿いをずっと走る。しばらく走ると洲江港フェリー乗り場が見えてきた。乗り場にバイクを乗り入れ、フェリーを待つ。ここから対岸の岩城島に渡り、ゆめしま海道を回る予定だ。しばらく待って帰って来たフェリーに乗り込む。船の中で料金を支払う。手荷物原付は450円だ。10分ほどの船旅を終えて小漕港に上陸する。いよいよ岩城島だ。
「リンさん、さっきネットで見たご飯屋さんは、ここ左だよね」
「そうですよ」
「ではまいります」
ジニーはみんなが揃ったのを確認してから出発した。フェリー乗り場から左回りに海岸線を進む。しばらく走ると海沿いに小さな店があり、サイクルオアシスの表示が出ていた。
「T屋さん。ここだ」
みんなは未舗装の駐車場にバイクを止める。スタンドが地面にめり込まないのを確認してから、ヘルメットを脱ぐ。
 11時5分、開店したばかりのお店は、ほかにお客が居ない。店内に入り、みんなてんでに席に着く。ここはカフェなのだが、真鯛を使った創作料理が食べられる。ジニーはダブル鯛めしセット、リンと福さんと大君は鯛のカルパッチョ丼、ケイは鯛カレーセットを注文する。
「お待たせしました~」
ジニーが頼んだダブル鯛めしセットがやって来た。東中予地方の鯛めし(炊き込みご飯)の上に、宇和島鯛めしをアレンジしたものが乗っている。
「なるほど」
ジニーが感心する。次に鯛のカルパッチョ丼セットが出てきた。サフランライスの上に、鯛のカルパッチョが乗っている。最後に鯛カレーセットが出てきた。サフランライスの上に、鯛の切り身フライがのっかっていて、それにカレーがかかっている。
「いただきます」
みんな食べ始める。どれもおいしかったようで、みんなきれいに完食した。
昼食を終えて、まとめて会計を済ませる。5人分で7,000円を支払い、外に出る。
「じゃあ次は、岩城橋渡って生名島に行きます。三秀園という庭園見に行きますので」
ジニーは行先をみんなに告げて、出発準備をする。
 12時丁度T屋を出発する。県道174号を南下して県道338号に乗り換え、岩城橋を渡る。生名島に入り、県道338号を走って島の反対側に出る。海に突き当たった所を左折して、県道173号に乗り換える。そのまま海沿いを走って、因島に渡るフェリー乗り場を通過した少し先に、三秀園はある。道沿いにバイクを止めてヘルメットを脱ぐ。ぱっと見さびれた公園のように見える。園内には真ん中に池があり、その向こうにしめ縄を巻いた巨大な岩が立っている。
「あれはご神体のようだな。ヒンメルだって」
福さんが看板を、みんなに聞こえるように読み上げた。ジニーが横に立って、看板を読む。
「ふーん。もともとこの島の岩じゃないんだって。弥生時代の人々の信仰対象?そんな時代にあんな大岩、どうやって運んだんだ?」
ジニーが首をかしげる。
「いくよ」
リンが園内をぐるっと見て回る。みんなもてんでに歩いて見て回った。そんなに広くない庭園はすぐに回り終えて、みんなバイクの所に戻った。そこに地元の通りすがりのおばちゃんが話しかけてきた。
「ここはね、お祭りの時には人がいっぱい来るんよ。山の上に磐座があって、みんなそこまで登ってね~」
「へえ、そうなんですね」
ジニーが相槌を打つ。
「次はお祭りの時に来ればいいよ」
「はい。ありがとうございます」
じゃあねと言って、おばちゃんは歩いて行った。
「さて、次は佐島に行きますよ。ブルーラインのUターン見に行くよ」
「何ですかそれ」
大君が尋ねる。
「ブルーラインがね、ぐるりんぱしてる所が有るんよ」
「ブルーラインが?ブルーラインって、自転車の?」
福さんが首をかしげる。
「うん。まあ、行ったことは無いんでよくはわからないけどね」
リンが答える。
 12時20分、三秀園を出発して、県道173号を南下する。途中で県道338号に乗り換え、さらに走ってゆくと生名橋が見えてきた。橋を渡って佐島に入り、途中で左折して町へと向かう。そのまま市街を通過して海沿いの道を走るが、途中迷って気が付いたら集落の路地裏をうろうろと走っていた。
「わあ、迷った」
「全く、ジニーの脳内ナビはいつもだめじゃんか。原付じゃなかったら、こんな狭い所通れんよ」
「全くだ。あ、抜けた。海沿いに戻った。やれやれ」
5台のバイクは海沿いの道を走る。やがて道はどんどん狭くなり、みかん畑の中の作業道のようになってきた。しかし道の端には消えかけのブルーラインがある。道は登ったり下ったり、砂が出ていたりしてこけそうになりながらどんどん走ってゆくと、ついに終点にたどりついた。そこにはまさしくUターンするブルーラインがあった。
「写真撮ろっと」
Uターンブルーラインを写真に収め、改めて周囲を見回す。きれいな海と、遠くに見える島々、行き交う船。防波堤から下を覗くと、そこには砂浜があった。
「夏には泳げそうなきれいな砂浜だ」
風景を写真に撮り、LINEで岩角さんに送ろうとするが、アンテナが立っていなかった。
「圏外かあ。対岸は・・・新居浜か。届かんよねえ」
「ジニー何ぶつぶつ言ってるの?次行くよ!」
みんなはすでにバイクに乗っている。ジニーは急いで準備して、出発した。
「次は弓削島行くよ」
「何かあるん?」
「特には。島一周して帰るかな」
「そう。ところでそろそろガソリンが心許無いんじゃない?」
「そうだな。弓削で給油しよう」
5台のバイクは来た道を戻る。来るときに間違えた路地裏はかわして、佐島の南端から北端まで走る。そこから弓削大橋を渡り、県道338号から県道172号へ右折して弓削島循環線を走る。役場の少し先に、営業中のスタンドを見つけ、給油に立ち寄る。福さんが乗るGSX-S125と、ケイのグロムは余裕があるので給油しない。スクーター組のジニーとリンと大君が給油した。
「さて、ガソリンの心配も無くなったし、島をぐるっと回って帰るかな」
ジニーが先頭を走り、その後に4台のバイクが続く。循環線を北上して、少し狭くなった登りを走り、島の反対側に出る。高い所を走る道から、素晴らしい景色が見える。
「いいねえ。海と島と、水平線まできれいに見える」
ジニーは感動したようにつぶやいた。一番見晴らしの良さそうな所で、停車する。
「よし、写真撮ろう」
みんなバイクを降りた。
「すごい景色ですねえ」
大君が歩きながら海を眺めている。みんな写真を撮ったりして素晴らしい景色を堪能する。
「さて、行くよ!」
リンに促されて、みんなバイクにまたがった。
「確か、橋の向こう側に象石というのがあったんだけど」
リンは象石を見たいようだ。
「了解。象石ね」
循環線を一周してスタンドまで戻る。そのまま海沿いに進み、橋をくぐって少し走った所の左手に、象石と書かれた木の立て札を見つけた。
「あった。これだ」
広くなっている歩道にバイクを止めて、石を見に行く。
「う~ん。象に見えなくもないなあ」
福さんがしげしげと眺める。
「少し離れてみたら、確かに象ですね」
大君がみんなから少し離れた所から眺めている。
「そうなん?」
ジニーが大君の横に並ぶ。
「確かに象だな」
「人によって見え方が違うかな?私には象に見えないなあ」
リンは少し不満なようだ。ケイは何も言わずに眺めている。
「さて、帰りますよ」
ジニーが時計を見ながらみんなを促す。
 5台のバイクが、来た道を戻る。弓削大橋を渡り、生名橋を渡り、岩城橋を渡る。そこから県道174号を南に走り、岩城港に向かった。そこにある岩城観光センターに立ち寄るためだ。
「せっかく来たから、何かお土産買って帰ろう」
みんなでセンター内の売店をうろつき、お土産を買う。
「さて、フェリー乗り場まで行きますよ」
各々バイクにまたがり、ジニーが先頭で出発する。県道174号を海岸沿いに走り、途中から山に向かって走る。見えてきた交差点を左折してまっすぐに下り、小漕港に到着した。
「あ、船が出たばっかりだ。仕方ない」
バイクを降りて、みんなでぞろぞろと待合室に入る。
 20分ほど待って、戻って来たフェリーに乗り込む。船内で運賃を支払い、10分ほどで対岸の生口島に上陸した。
「福さん、次どこで休憩しようか」
「ん~今治まで行く?いつものコンビニ?」
「ちょっと距離があるわね。大島のコンビニが良いと思うよ」
リンの意見に、みんながうなづく。
「オッケー。大島で止まって、ふわりで解散で良いかな?」
「いいよ」
「じゃあ、そうします」
ジニーは、港を出発した。
 生口島から大三島へ、大三島から伯方島、大島と、通行料を料金箱に投函しながら走る。道沿いのコンビニに止まり、そこでしばらく休憩する。
「あった~」
リンがスマホのケーブルを買ってきた。
「ケーブル、家においてきちゃって、バッテリーが切れる寸前だったのよ」
「良かったね、置いてあって。でもそれ、長いね」
「仕方ないよ、これしかなかったもん」
リンはバイクのジャックにケーブルを差し込む。1mケーブルは随分余っているが、リンはお構いなしのようだ。
 コンビニでコーヒー飲んだりして20分ほど休憩をして、みんなは再び動き出す。コンビニを出発して来島海峡大橋を渡り、途中で通行料を支払って今治へと下りる。県道161号、R317、県道15号と走り、星の浦海浜公園の所でR196に出る。そこから松山向かって走り、菊間、浅海を通過して17時丁度に道の駅ふわりに到着した。
「お疲れさまでした。今日はこれにて解散です。気を付けて帰ってください」
ジニーが〆の挨拶をする。
「おつかれ~」
「おつかれさまでした」
みんなは三々五々帰ってゆく。
「さて、僕らも帰ろう。何とか陽のあるうちに家に着けそうだ」
「どこ帰る?山向いて帰る?」
「今日はスクーターだし、道なりに帰ろう。本町抜けて帰るよ」
「わかった」
ジニーとリンとケイは、北条バイパスを走り、平田町から鴨川、山越、西堀端と通り抜けてゆく。家に到着したのは18時前だった。
「お~疲れ様でした~」
「あ~ほんと疲れた。久しぶりのスクーターは、お尻が痛い」
リンがこぶしで自分の尻を叩く。ケイは何事も無かったようにさっさとグロムを片付けて、家に入った。ジニーはスクーターに積んでいたお土産を下ろして、家に入る。ササっと着替えて買ってきたみかんを手に取った。皮をむいて、半分リンに渡す。
「あ‼うまい」
「うん。これはおいしい。何だっけこれ」
「えーと、どの袋から出したっけ?」
「ジニー、ボケるには少し早いんじゃない?」
「多分新品種だな。大三島でしか売って無いやつ」
「え~!残念、もっと買えばよかった」
リンがハアッと息をついた。

還暦夫婦のバイクライフ29

還暦夫婦のバイクライフ29

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-13

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