zoku勇者 ドラクエⅢ編 15章

光の鎧の入手方法、ルビスの守りのイメージ設定など、今回もオリジナル設定盛りだくさんです。

その1

ジャミルと妖精と、……ヤキモチアイシャ

それから只管、船で南へと下り、ガライが情報を教えてくれたほこらが見えて
来たのだが……。トンチンカンのガライが場所を間違って教えたらしく実際は
メルキドから歩いて行ける距離にほこらはあったのだった……。
 
「あー!疲れた、疲れたっと!……何やってたんだろうな……、バカだな、
俺達……」
 
ジャミルが溜息と欠伸と背伸びをした。……分からない様についでにおならも落とした。
 
「やっぱり地図できちんと確認しないとね……、ほら、こっち側の
ほこらと……、ガライさん勘違いしたんじゃないのかな……」
 
「遠回りしちゃって大変だったけど……、LV上げも出来たから
良かったと思わなくちゃね……」
 
「けど、ほこら回りも結構疲れるねえ……」
 
「早く中に入ろうぜ」
 
「あ、ジャミル……」
 
先頭をきってジャミルが張り切って中に入って行く。
 
「こんちわー!」
 
「あなた達は……」
 
中には妖精の様な……、エルフの容姿の様な女の子が一人でいた。
 
「俺達、大魔王ゾーマを倒す旅をしてんだ」
 
「まさかあなた達が……、バラモスを倒したと云う伝説の……」
 
「へへっ、でも伝説にはまだ早……」
 
「私は精霊ルビス様にお仕えしておりました、妖精です……」
 
「精霊ルビス……?」
 
「お願いします……!」
 
「わわっ!?」
 
「!!」
 
妖精はジャミルに抱き着いてくる。……妖精は身体は小さいものの、
アイシャと比較する様に、意外と胸は巨乳であった。
 
「どうか……、どうか……、ルビス様をお助け下さい……!!」
 
「ちょ、ちょっ……、うわー!」
 
「……」
 
「ルビス様は……、このアレフガルドの大地をお創りになった、云わば
この世界の創造主です!!」
 
「……ひ……、ひひひひ……、く……、くすぐってぇーっ!」
 
妖精の胸がジャミルの身体に当るのでそれが異様にくすぐったいらしい。
 
「……」
 
「ですが、ルビス様の力を恐れたゾーマがルビス様を……、マイラの西の塔に閉じ込めてしまったのです!!」
 
「……」
 
「ああ、あなた!?」
 
「えっ?な、なあに?」
 
先程からボケッと様子を眺めていたアイシャ。はっと我に返ると妖精が
アイシャをジロジロ見ていた。
 
「そのカバンの中に入っている物は何ですか!?」
 
「……ス、スラ太郎の事?」
 
「違います、その笛です!」
 
笛はいつの間にかスラ太郎の入っているショルダーバッグに
押し込められアイシャが管理していたのだった。
 
「この笛はマイラの温泉に沈んでいたの」
 
「ちょっと見せて頂けますか?」
 
「あっ、はい……、どうぞ」
 
「……あああ……、やはり……」
 
じっと笛を見ていた妖精はやがて感極まり、涙を溢し始める。
 
「?」
 
「あなた達は……、ルビス様のおっしゃっていた選ばれし者なのですね……」
 
「は、は……?」
 
「この笛は妖精の笛といいます……、これを見つけられたと言う事は……、
やはりあなた達がルビス様を救って下さる救世主様達なのですね!?」
 
「よくわかんねえけど……」
 
「妖精の笛があれば……、石像にされたルビス様の呪いを解く事が出来る筈です……」
 
「ん?石像……?もしかして……、石にされちまったのか!?」
 
「ええ……、ああ……、ルビス様……」
 
「待てよ……?」
 
 
もうすぐ私の心も完全に石になってしまう……、それまでに全てをあなたに伝えます……
 
 
「……もしかして……、あの声……」
 
「どうかなされたのですか……?」
 
「いや、実は……」
 
ジャミルは夢で聞いた声の主の話を妖精に伝える。
 
「まあ……!間違いなくその声はルビス様ですよ……!!ルビス様が
あなた方に助けを求めていたのですね……」
 
「はあ……」
 
「どうかお願い致します……、ルビス様をどうかお助け下さい!!」
 
「分ったよ……」
 
ジャミルは妖精に向ってこくっと頷いた。
 
「……勇者様!!ああ、光の救世主様!」
 
「わーっ!!」
 
妖精はまたもジャミルにしっかり抱き着いてくる。うっかりすると、
ドサクサに紛れ、この妖精はジャミルに接吻をしかねない勢いである。
 
「……ぴきっ……」
 
そして、……等々アイシャが噴火寸前に……。
 
「ルビス様からお預かりした大切な物があるんです、もしも勇者達が此処を
訪れたなら、渡して欲しいと……」
 
そう言って妖精は一本の杖をジャミルに差し出す。
 
「雨雲の杖です、私の思いを込めて……、どうか受け取って下さい……」
 
「それって……、ゾーマの城へ渡るのに必要なアイテムの一つだよね?」
 
ダウドがジャミルの肩越しに横からぬっと割り込んでくる。
 
「はい」
 
「後は聖なる守りだけか……」
 
「まあ……、太陽の石もお持ちなのですね……、凄いわ……、流石は
勇者様ですね……」
 
「あん?い、いや……」
 
「……用事済んだ!?私、先に船に戻ってるからね!」
 
今まで黙っていたアイシャが急に大声を上げた。
 
「な……、何怒ってんだ……?」
 
「プッ……」
 
「じゃあ、俺達そろそろ……」
 
「行かれるのですね……」
 
「……ああ」
 
「勇者様、お気をつけて……、どうかご無事で……」
 
そして男衆も船に戻るが。アイシャの機嫌は悪いまま。ちなみに。先程、
アイシャはジャミルが妖精に抱き着かれた際のあそこの尖り具合もしっかり
チェックしていたのである。
 
「なあ……、さっきから何怒ってんの!アイシャあ!!」
 
「知らないもん……、それに別に私……、怒ってないよ……、おっきい胸と
スケベなジャミルになんか怒ってないったら怒ってないのよう……」
 
誰がどう見ても明らかにアイシャは機嫌が悪く、焼きもちを焼いて膨れているのだが。
 
「……これは……、ちょっとやそっとじゃ収まりそうにないね……」
 
「ねー……」
 
アルベルトとダウドがヒソヒソ話をする。
 
「あーあ、折角なあ、今度一緒にたこ焼きでも食いに行こうと
思ってたのになあー!」
 
「行くわよ……、もうお腹破裂するまで食べてあげるんだからね、ヤケ食い
するんだから……、覚悟しなさいよ……」
 
「はは、機嫌治ったかい?」
 
「……ジャミルのバカ……」
 
「一昔前の少女マンガ見てるみたい、青春だねえ~……、臭あ~っ……」
 
手でダウドが臭い臭いと言う様にパタパタと空気を仰いだ。


王者の剣、奪われる……

マイラの村
 
 
「大分日が立った事だし、そろそろ剣も焼き上がってる頃だよな……?」
 
「だよね……、僕も大丈夫だとは思うけど」
 
「あう~、もしもまだだったら、又修行だあ~……」
 
「とにかく確認してみなくちゃ!行きましょ!」
 
早速、4人は道具屋へ足を運ぶが……。又、大変な事件が……。
 
「……ああ、勇者様!」
 
奥さんと子供が血相を変えて店から飛び出して来たのである。
 
「どうしたんだい?」
 
「主人が……!主人が……!」
 
「父ちゃんが……、連れてかれちゃったよー!」
 
「な……、何だって!?」
 
「変な3人組が店に突然押し掛けて来て……!王者の剣をよこすのねー!と
言って……、……主人と出来上がったばかりの王者の剣を……!あああ……、ああ……」
 
「……母ちゃーん!」
 
奥さんは其処まで言うと、貧血を起こしひっくり返ってしまい、
気絶してしまった……。
 
「……お、おかみさん、大丈夫ですか!?」
 
アルベルトが慌てて奥さんを助け起こした。
 
「こりゃ又厄介な事になっちまったな……、おっさんと王者の剣が……!
なんてこった……!」
 
ジャミルが唇を噛み、悔しげに地面を蹴った。
 
「もう少し……、僕らが戻るのが早ければっ……!」
 
「まさかこんな事になるなんて……、ああう、誰も思わないよおー!」
 
しかし、この話だからこそ、油断してはいけないのである。毎度の事だが。
 
「その3人組って……、のねー……、って……、変な言葉を使っていたの……?」
 
顔を青くして、アイシャが子供に聞いてみる……。
 
「そうだよ!子分えーとか、子分びーとか……、親分とか……」
 
「まさか……」
 
ジャミル達4人は顔を見合わせた……。
 
「い、嫌な予感しか……、しないよお……」
 
「あの馬鹿カネネーノネートリオも此処に来たのかよ……、
マジか……?」
 
「そうとしか考えられない……、いや……、考えなくてもそうなんだけど……」
 
アルベルトが複雑そうな顔をする……。
 
「母ちゃーん……」
 
「取りあえず……、おばさんをお家に運びましょ……、私、お台所を借りて
濡れタオルを作らせて貰うわ……、ね?」
 
「姉ちゃん……、ありがとう、おれ、嬉しいよう……」
 
子供が嬉しそうにアイシャの顔を見つめ、アイシャも子供を安心させる様に
抱擁する。ジャミルはこんな時、女の子のアイシャがいてくれて心底
良かったと思うのであった。
 
「……母ちゃん……」
 
……奥さんは結局そのまま熱を出し寝込んでしまった。子供が心配そうに
奥さんの手を握り、側にずっと寄りそう。
 
「ごめんな……、俺達の所為で……、迷惑掛けちまって……」
 
「……ううん、兄ちゃん達のせいじゃないよ……」
 
拳で涙を拭いて子供が無理にジャミルに笑顔を見せた。
 
「あ、あんな変な奴らに……、王者の剣使われたらそれこそ大変な事に
なるよお!」
 
「おじさんも助けて一刻も早く取りかえさないと……!」
 
「ああ、絶対許さねえ!……あいつら今度は髪の毛切り刻むだけじゃ
済まさねえぞ!」
 
「そうよっ!……関係の無いおじさんにまで酷い事してっ!絶対許さないわ!」
 
「これ……、あいつらが……」
 
子供がジャミル達に手紙を持って来て見せた。手紙は凄まじい文字と内容であった。
 
ばかゆうしゃたちにつぐのねー、ぼくたちはぞーまさまのしもべに
なったのねー、とことんおまえらのじゃまをしてやるのねー、
おうじゃのけんをつくれるおやじはぼくらがらちしたのねー、
けんをつくれるおやじはじゃまだからけんもこわしてついでに
おやじもぐでぐでのちょんちょんにしてやるのねー!あははのは~
ぼくらがどこにいるかって?おしえないのねー!あははのは~、
へがでた、ぶっ!
 
「……あいつら!何処まで……!!」
 
ジャミルが手紙をぐしゃぐしゃに握りしめ、足で踏みつぶす。
 
「それにしても何て読みにくい……、酷い手紙なんだ……、
全部平仮名だし……」
 
こめかみを押え、頭を抱えるアルベルト。
 
「でも……、居場所が判らないんじゃ……、手の打ち様がないよお……」
 
「……こんな時……、スラリンがいてくれたら匂いで居場所を見つけて
くれたかも知れないのに……」
 
アイシャが淋しそうにバッグの中のスラ太郎にそっと触れた。
 
「匂い?……ちょっと待って……」
 
子供が急いで部屋を出ていく。
 
「どうしたんだろ……」
 
「さあ……」
 
「これ……、父ちゃんが前に作った……」
 
子供が店に行き、変な物を持って戻って来た。
 
「ロ、ロボットか……?」
 
「父ちゃん、武器だけじゃなくて、他国の事も研究して趣味で
色んな変な物作るから……、ニオイ探索器ロボだよ」
 
「うわあ……、動くの?これ……」
 
ダウドが珍しげにロボットに触る。
 
「これ、父ちゃんの靴下、これの臭いをロボットに嗅いで貰えば……、
とうちゃんのいる場所に……」
 
「連れてってくれるんだな?」
 
「うん、多分……」
 
「よし……、これ悪ィけど、借りるな!」
 
「うん、お願いします……、父ちゃんを助けて!」
 
4人はロボットを借り、マイラの外へと飛び出す。
 
「けど、本当に大丈夫なのかなあ……」
 
「今はロボットさんに頼るしかないわ……、おじさんの命と王者の剣の
重みが掛かってるんだもの……」
 
「よし、頼むな……」
 
ジャミルがロボットに靴下の臭いを嗅がせる。
 
「……なんかさあ……、変な実験してるみてえ……」
 
「文句言わないんだよ……、仕方ないだろ……」
 
そう言ってるアルベルトも自分達は一体何をやってるんだろうと、
何だか内心は複雑である。
 
「クンクン……、クンクン……」
 
ロボットが何かにヒクヒク、反応し始めた。
 
「お、反応しだしたぞ!」
 
「ロボットさん……、お願いよ……!」
 
アイシャがぎゅっと目を瞑り、祈りを込めた。
 
「……くさい……」
 
「……」
 
「これ……、やっぱりポンコツなんじゃねえの……?」
 
「……くさい……、クサイ……クサイ……クサイクサイクサイーッ!!」
 
「!?」
 
「ちょ、ちょ……」
 
ロボットが急に暴れ出し、猛スピードで走り出す。
 
「……クッセーデスーーーッ!!」
 
「あっ!?あいつ、い、行っちまう!」
 
「追い掛けなくちゃ!」
 
ジャミル達も後を追うがロボットが高速で走る為、俊足のジャミル以外
なかなか追いつけない。
 
「クッサ……」
 
ロボットがようやく動きを止めた場所は、マイラから南の距離にあった洞窟だった……。
 
「また洞窟か……、ま、洞窟以外にねえか……」
 
「はあ~……、やっと追いついた……」
 
やや遅れてアルベルト達3人もロボットとジャミルに追いつく。
 
「しかし、あのおっさんも……、碌なモン作んねえな……」
 
「でも、此処の洞窟も毒の沼地の中よ……」
 
「しかも……、毒の幅がサマンオサの時よりもかなり広いよ……」
 
愚痴を言うのはやっぱりこの人、ダウド。顔が真っ青である。
 
「今は僕がトラマナも使えるし、大丈夫だよ、行こう」
 
アルベルトにトラマナを掛けて貰い、4人はロボットを連れ、
洞窟へと進んだ。
 
「クサイ……」
 
ロボットが又ヒクヒクしだした。
 
「おじさんの居場所が近いのかしら?」
 
「いや……、本当に何か変な臭いがすんぞ……、ガスの様な……」
 
「あ……!あそこに……」
 
洞窟の入り口付近に数人の炭鉱夫らしき男が固まって皆倒れていた。
 
「……大丈夫ですか!?」
 
「しっかりして、おじさん達!」
 
アルベルトが急いで炭鉱夫達に回復魔法を掛けると、炭鉱夫達は
どうにか意識を取り戻す。
 
「う、うう……、お前達……、此処は危ないぞ……、早く逃げろ、
遊びで来る所じゃねえ……」
 
「わしらはこの先の……、リムルダールヘ通じるトンネルを掘ってたんだが……」
 
「いきなり変な3人組が現れて……、奇妙なガスを……、洞窟中に
ばら撒いて……、うっ……」
 
「……クサイーッ!」
 
ロボットが又バタバタ暴れ出す。
 
「こいつ……、今度はこの嫌な臭いに反応してるのかな……」
 
「……!」
 
「ダウド、どうした……?」
 
「ジャミル……、来るよ……、嫌な臭いの元凶が……、近づいて……」
 
 
           ♪のね~のね~、のねねのねえ~……

その2

逆襲の馬鹿トリオ

「おひさしぶーりい、なのね~」
 
「なのね~」
 
「ね~」
 
ガスマスクを装着したカネネーノネー、……馬鹿トリオがぬっと姿を現した。
 
「出たな……!マジ基地変態集団め!」
 
「おじさんをどうしたの!?返しなさいっ!」
 
「相変わらずギャーギャーやかましい小娘なのね……」
 
「犯すぞコラ……、なのね……」
 
「ボクらはあの後……、サマンオサの洞窟の地底湖から、ここ、
アレフガルドまで……、……何故か気が付いたら
流されてたのね……、お前の所為で髪の毛はなくなるし……、
全裸だし……、ボクらつるっぱげになっちゃって……、
うう……」
 
「……アニキ~!」
 
「……アニキ~!」
 
ジャミルを睨みながら抱き合って泣き出す馬鹿3人。
 
「……はあ……、知るかっつーの……」
 
関係ないと言う様にジャミルもウンザリする。
 
「そう言うわけで……、お前らもやっつけた後、全員つるっぱげにしてやる!!
美味しいクソくらうのね!!やれ、子分A!」
 
ガスマスクを着けている為、子分AだかBだか判らないのが
バズーカ砲からガスを発射した。
 
「……マホカンタ!!」
 
アルベルトが咄嗟に反射バリアを張り、汚物攻撃を防ぐ。奴らは
ガスマスク着用の為、直にガスに当たりはしないが、それでも
弾き返されたガスは忽ち消滅する。
 
「うわあ、凄いっ!魔法じゃなくても大丈夫なんだ?」
 
興奮しながらダウドがアルベルトに聞いた。
 
「うん、大抵の物はね……」
 
「……おのれ……、ちょこざいな~……、なのね……」
 
「お前らいい加減にしとけ……、絶対俺らになんか勝てないから……、
大人しくしといた方が身の為だぜ……?」
 
呆れたジャミルが一応忠告するが……。
 
「じゃあ……、これはどうね~?」
 
「?」
 
「MPスイトール、ハイパー毒ガス……発射……!!」
 
「……あああっ!?」
 
「きゃあーーっ!!」
 
「アル!アイシャ!」
 
「ふ……、二人とも大丈夫!?」
 
ダウドが心配するが、アルベルトもアイシャもその場に膝をつき、
しゃがみ込んでしまう。
 
「……身体が……重い……」
 
「MPを……吸い取られちゃった……みたい……」
 
「ふはははは!バカめ~!魔法系の弱点ね~!お前らなんぞ魔法が
使えなきゃおしまいなのね!」
 
「……くそったれ!」
 
ジャミルがはやぶさの剣を構えて3馬鹿に立ち向かおうとするが……。
 
「すっとぷ!」
 
「!?」
 
「バカガキ……、早く剣を捨てるのね、さもないとこいつらに
毒ガスお見舞いするぞ!なのね!」
 
「MPは魔法使いの命~、MPが無くなればこいつらももうお終いね~
動けないのね~」
 
「……僕らは大丈夫だから……」
 
「戦って……、ジャミル……、お願い……」
 
(ど、どうしよう……、オイラにも何か出来る事があれば……)
 
「卑怯だけは一人前だな……!」
 
ジャミルが目の前の馬鹿トリオをキッと睨んだ。
 
「それからボクら馬鹿トリオじゃないのね!偉大なるカネネーノネー
三兄弟様って呼べこのやろ、なのねー!」
 
「ついでにお前には麻痺付き毒ガスをお見舞いしてやるのね!」
 
「MPも一緒に吸い取ってくれるわ!なのね!」
 
子分2人が今度はジャミルにバズーカを向ける。
 
「……クサイクサイクサーイ!早くボタン押してくれー!
いやな臭いけしたいー!もーくさくてくさくてたまらんちー!
くっさああーー!!」
 
「は……?ボタン……?」
 
ダウドがロボットの異変に気付く。ロボットは勘弁してくれと
言う様に3馬鹿の方を見て暴れている。よく見ると、ロボットの
背中に何やらスイッチの様な物が付いているのを見つける。
 
「これはボタン……!もしかして……!」
 
「ん?なんなのね……、その変な生物は……」
 
カシラがロボットに目を付けてしまったらしく、ロボットの方へと
近づいて来る……。
 
「ロボット君……、お願いだよお!」
 
祈る様な気持ちでダウドがロボットの本体についていたボタンをぴっと押した。
 
「……クサイのキライ……!!みんなきれいにシマス……!!」
 
 
         ~ぱあああああ~
 
 
ダウドがロボットのボタンを押した途端、芳香剤の様な香りが
ふわっと洞窟中に立ち込めた。
 
「な、何なのね……?」
 
「クサイ臭い……、排除モード…発動!」
 
「?……ガスの臭いが……、しなくなったか……?」
 
「……アル……、私達、吸われたMPが元に戻ってるみたい……」
 
「あ、あれ……?本当だ……」
 
「何だい?」
 
「どうした……?」
 
倒れていた炭鉱夫達も皆、ガスが消えた事で完全に元気になり、
首を傾げて起き上がった。
 
「わーい!ロボット君が臭いガスをみんな消してくれたよおー!」
 
ダウドが喜んでぴょんぴょん跳ねる。
 
「アニキ……、バズーカの中のガスまでみんな無くなってるのね……」
 
「からっぽなのね……」
 
「ココノ毒ガス……、排除カンリョウシマシタ……」
 
「すげーな、ダウド!助かったぜ!」
 
「ダウド、ありがとう!」
 
「よく、ロボットの機能に気が付いたね、凄いよ……」
 
「えへへ~!皆無事で良かったよお~!」
 
4人はハイタッチし合って喜ぶが……。
 
「馬鹿ガキ共、そこまでね……!」
 
「お、おっさん……!」
 
道具屋の親父を無理矢理引っ張り、頭にバズーカ砲を
付き付けた子分Bが現れた……。
 
「ばかなのね~、お約束展開ね~、おほほのほ~」
 
「おー!子分B!お前は何てお利口さんなのね!」
 
「こんな親父、ガスが無くたってバズーカの本体だけで
すぐに殴り殺せるのね!」
 
「皆さん、すみません……、私の事はいいですから……、
ど、どうか早く逃げて下さい……!」
 
「……うるせー黙れなのね!」
 
「……あうっ!」
 
「きゃあ!おじさんっ……!!」
 
子分Bが親父の頭をガツンとバズーカ砲で思い切り殴った。
……親父の頭からは忽ち血が流れ出した。
 
「お前ら……、これ、返して欲しいのね~?え~!?」
 
「あっ!」
 
「お、王者の剣……!くそっ!」
 
「な、なんつー卑怯な奴らだ……」
 
「こりゃ許せねえな……、酷え事しやがって……」
 
一部始終を見ていた炭鉱夫達も怒りの目を馬鹿トリオに向ける。
 
「この親父の腕……、へし折ってやるのね~、こんなモンも
もう二度と作れない様に……」
 
「……やめろっ!!」
 
「♪と、言われても~、へいへい」
 
「なのね~」
 
「のね~」
 
4人を見ながら小馬鹿にした様に馬鹿トリオが踊り出した。今にも
すぐ奴らに飛び掛かりたい程ジャミルも怒りで腸が煮えくり返って
いるのだが、親父が人質になっている為、手も足も出せない……。
 
「ジャミル……、このままじゃおじさんの体力が……」
 
「アル……、俺だって分ってるよ……!だけど……」
 
「お前ら!」
 
「!?」
 
「少しだけ遊んでやるのね、そこのメス餓鬼!」
 
カシラがアイシャに小指を向け、ちょいちょいする。
 
「な……、何よ……」
 
「ちょいちょい……、カモン、こっち来るのね、いい事してあげるから!」
 
「……ふざけんじゃねーぞ!馬鹿野郎!!」
 
ジャミルが怒鳴るがカシラは激怒し、ジャミルに向かって怒鳴り出す。
 
「お前には何も言ってないのね!黙るのね!!」
 
「殺すの少し考えてやるって言ってやってるのね!なのに
僕らの親切を無駄にするのね!?」
 
「……なんだよお!元からそんな気無いくせに!!」
 
「やーめた!もうこの親父殺しちゃおーっと!もう殺っていいのね、
子分A、子分B!」
 
「うう……」
 
苦しむ親父の姿を見て我慢出来ず、アイシャが等々3馬鹿に
向けて口を開いてしまう……。
 
「おじさん……!やめて、お願い!今すぐそっちに行くわよ!
……だからもうやめて……、お願い……!」
 
「駄目だっ!アイシャ……!!罠に決まってんだろっ!!」
 
「クサイ……」
 
「ロボットさん……?」
 
ロボットが又動きだし、馬鹿トリオに自ら近寄って行った。
あまりにも臭すぎた所為か、ロボットは混乱し、
喋りが全てカタカナ表記に……。
 
「……クンクン……、クンクン……、オェェェェ~……、
スッゲークセェ~……、サイアクノニオイ……、
カクニン……、ケツノアタリカラ……、サイアクデス……」
 
「な……、なんなのね……、不愉快な……、大体さっきから
この変な生き物、チョロチョロ目障りなのね!」
 
「失礼にも程があるのね……!!」
 
「……ワタシノシッタイデス……、コンナニキョウリョクナ
アクシュウガマダノコッテタ……、オェェェ~……」
 
「子分A、子分B!この不愉快極まりない機械を
先に壊してしまうのね!!」
 
「了解……、のね~!!」
 
「のね~!!」
 
「臭いの元凶……、マダアリキ……、……排除!!」
 
「……あっ!ロボットさんっ!!」
 
「壊れやがれー!!なのねー!!」
 
「……きゃあああっ!!」
 
「……間に合えーっ!!……くっ!!」
 
ジャミルがはやぶさの剣をロボットのスイッチ目掛け、
思い切り放り投げた。
 
「……!!」
 
はやぶさの剣の先がロボットの本体のスイッチに命中し、見事に突いた……。
 
「……クサイのキライ……!クサイのまだノコッテタ……!!
ユルサナイ……!!アクシュウ排除モード発動……!!」
 
ロボットが馬鹿トリオに向けてオーラを放つ。途端……。
 
「……ぺえええええ~?……なのね~……」
 
「なんなのねえ~……、これわ~……」
 
「力が……、ぬけるのねえ~……」
 
馬鹿トリオはそのまま座り込み……、眠ってしまった。
 
「はあ~……、良かった……、何とか……、間に合った……」
 
ほっと安心したのかその場にジャミルもしゃがみ込む。
 
「凄い命中力だったね……、ジャミル……」
 
「ホント、凄いよお!」
 
「凄いわっ、ジャミルっ!」
 
「すげーな、坊主……、おい……、あんなに的確に的に当てるとは……」
 
事の成り行きをハラハラとずっと見守っていた炭鉱夫達も感心する。
 
「ぐ……、ぐっじょぶ……」
 
ジャミルが皆に向けて親指を立てた。
 
「……あっ、おじさん……!大丈夫!?」
 
アイシャが急いで親父を解放すると、アルベルトが
直ぐにべホマで傷を癒した。
 
「…何とか平気です……、勇者様……、皆様……、有難うございます……」
 
「……良かった~……、王者の剣も無事だ……、ははっ……、良かったあ~……」
 
漸く王者の剣を取り戻せた嬉しさのあまり、ジャミルが王者の剣に
思わずスリスリしてしまう。
 
……ぷしゅっ……
 
「あ……」
 
「ちょっ……、何やってんの!ジャミル……!!」
 
「……血が出ちまった……」
 
「きゃーっ!?」
 
「アル……、俺にもべホマ……」
 
「刃物になんか頬ずりするからでしょ!?あ~……、たく、も~!!」
 
「……随分おもしれえ連中だな……」
 
「そうでしょ……?オイラ達、いつもそうなんだよお……!」
 
「ははははっ!」
 
「ふふっ!」
 
ダウドと炭鉱夫達が声を揃えて笑いだした。
 
「ジャミル……、処でこいつらの後始末……、どうしようか……」
 
「それなんだよなあ……」
 
「危険物はこのまま海に流しちゃおうよお!」
 
「……こいつら……、俺達に渡してくんねえか……?」
 
「えっ!?」
 
「折角だからこのままトンネル堀りを手伝わせようと思ってよ……、
丁度人手も足んねーし……」
 
「だけど……、こいつら何するかわかんないよお!?」
 
「危ないわ……」
 
「平気だろう、危険なモン持たせたりしなければ、どうせ何も
出来ない雑魚なんだろう?」
 
「力は俺達だって並じゃないぜ?なんせ、俺たちゃトンネル掘り続けて
この道、何十年……」
 
そう言って炭鉱夫達は自慢の力こぶをジャミル達に披露する。
 
「……確かにな……」
 
炭鉱夫達は馬鹿トリオが他に危険物を所持していないか、
奴らが眠っている間に馬鹿トリオの身体検査を始める。
 
「……このまま預けようか……、もしかしたら改心するかもしれないし……」
 
「……だと、いいけどな……」
 
多分、改心は無理だと思ったものの、ジャミル達は馬鹿トリオを
炭鉱夫達に任せ、親父とロボットを連れて
マイラに戻る事にした。
 
「モウ、クサクナイ!クサクナイ!」
 
「またな、坊主ども!」
 
「何年掛かるか判んねえが、必ずトンネルを開通させるぞ!
そん時は是非立ち寄ってくれよな!」
 
「ああ、頑張ってくれよ!」
 
「……ボクら~……、一体なんでこんな事してるのね……」
 
「はたらくのキライなのね~……、とほほ~……」
 
「腕がいたいのねえ~……、もう、いやなのね~え……」
 
「真面目にやれオラッ!!さもねーと、ツルハシで頭かち割んぞ!?」
 
「……きゃー!こわいのね~え……」
 
「おしっこもうんちももれちゃいそうなのね~……」
 
「こんな生活……、もうイヤなのね~……」


伝説の剣、復活

ジャミル達はマイラへ戻り、王者の剣の最後の調整と鍛冶を
道具屋に頼んでもう一晩をマイラで過ごす事にした。
4人にとって、最後の温泉浸りでもあった。
 
「……明日はいよいよルビス様を助けに行くんだねえ……、う~ん、
過ぎて見ればこの村で過ごした時間も……、
あっと言う間だったよお……」
 
「マイラの村の皆ともお別れなのね……」
 
「今夜はしっかり休憩をとっておこう……、明日から又大変になるからね……」
 
「あら?ジャミルは……?何処行っちゃったのかしら……」
 
「……!?」
 
お湯しぶきを上げてジャミルが勢いよく風呂から飛び出した。
 
「何してんの……、ジャミル……」
 
「……急に消えたと思ったら……、何処かに流されちゃったのかと思ったよお」
 
「シンクロの練習」
 
「……しかし、相変わらず、緊張感無いね……、君は……」
 
「ほっとけっての!」
 
今日の夜は宿屋には泊まらず道具屋の家でお世話になる事に。
夕ご飯は魚や野菜を衣に漬け、油で揚げたジパング特有の珍しい料理、
テンプラをお腹いっぱい頂く。
 
「本当に皆様……、有難うございました……」
 
親子は揃って皆に何度も何度も頭を下げた。
 
「……やめてくれよ……、元々は俺らの所為なんだからさ、本当、危険事に
巻きこんじまって……、こっちこそ
申し訳ないよ……」
 
「いいえ……、今のご時世です……、こんな商売やってる以上、
いつ何処で何が起こるか……、それは我々も
覚悟はしているのです……」
 
「おじさん……」
 
アイシャは改めて親父の頭部を見る。アルベルトにべホマを掛けて
治療して貰ったものの、頭部には魔法では完全に消す事の出来ない、
殴られて負傷した際の生々しい傷跡が残ってしまった。
 
「でも、本当にすげえよ、このロボット……、いや、最初は正直……、
どうしようかと思ったけどさ……、こいつのお蔭で本当、助かったよ……」
 
「……ピクッ……」
 
ロボットがジャミルの方を見て首を傾げ反応しだす。
 
「クサイ……」
 
「え……、えー!?」
 
「ガス漏れ確認……、危険なニオイ……、排除シマス……、クンクン……」
 
「どさくさに紛れて……、まーたおならしたね……」
 
アルベルトが横目でジャミルを見る。……さっきから異様にロボットを
ベタ褒めしていたのは、これを誤魔化す為だったのかとも思いつつ。
 
「やめろよー!こ、コラ!やめろっ!!」
 
「排除!排除!有毒ガス排除!」
 
ロボットがジャミルを追い掛け回し、困ったジャミルは家の外まで
逃げて行ってしまった。清潔なロボットは
しつこく後を追い掛ける。
 
「これじゃうっかりおならも出来ないね、ジャミル……」
 
「やだもう……」
 
「……野獣がいない隙に!チャンス!」
 
ジャミルが逃げ回っている隙にと、ダウドは、がつがつテンプラを食べ捲る。
 
「ぎゃははははっ!兄ちゃん、ばか!」
 
ジャミルを追い掛け回すロボットを見て子供がゲラゲラ大声で笑いだした。
 
「……はははははっ」!」
 
「ふふふふっ!」
 
道具屋の夫婦も笑い出す。その夜、道具屋の家では久しぶりに
楽しく明るい笑い声が響き渡った。
 
次の日の朝……。
 
「……勇者様……、大変お待たせ致しました……、漸く、王者の剣……、
此処に今、完成致しました……」
 
親父はそう言って光り輝く剣をジャミルに差し出す。
 
「これが……、完全に焼き上がった王者の剣なんだね……」
 
「はえー、改めて見てみると……、本当凄いねえ……」
 
「素敵っ!」
 
「いよいよ……、来る処まで来たって感じだ……」
 
ジャミルは王者の剣を手に取り、手ならしに試しにブンブン振り回してみる。
 
「持ってみた感じはどんな感じだい?」
 
「うーん、伝説の剣て言うぐらいだから、使い心地は結構重いのかなと
思ってたけど、案外そうでもねえや……」
 
「へえ……、本当に凄い剣なんだね……、流石……」
 
「いいなあ~、ジャミルってば……」
 
戦うのが好きでないダウドも、王者の剣のカッコよさを見て
ちょっぴり羨ましくなるのであった。
 
「とにかく今後はこれで強敵とも有利に戦えそうだ……、おっさん達、
長い間本当にどうも有難うな!」
 
「いえいえ……、此方こそ……、お役に立てて本当に嬉しいです……」
 
「兄ちゃん達……、いよいよ行っちゃうんだね……、頑張ってね……、
怪我には気を付けてね……」
 
子供が淋しそうにジャミル達を見上げる。
 
「ああ、また遊びに来るからな!」
 
「うんっ!」
 
「……何かありましたらどうぞいつでも立ち寄って下さいね、私達は
いつでも皆様をお待ちしております……」
 
奥さんも心からのお礼の言葉をジャミル達に述べた。
 
「……いつでもセイケツ……、コレ、一番デス……、クサイのは排除です……」
 
「うわ!?」
 
ぬっと現われたロボットにすっ飛び上がるジャミル。
 
「……何びびってんのさあ……、ジャミル……、気が小さいなあ~」
 
「ヘタレのダウドにびびるとか言われたくねーっての!」
 
「……ふ~んだ!」
 
「あはっ、ロボットさんもお見送りに来てくれたのね!有難うー!」
 
「あっ!」
 
「……!!」
 
アイシャがロボットにチュウをした。……ロボットは興奮したらしく、
身体中からぷしゅ~と煙を吐き、噴気している……。
 
「感謝感謝……、いいニオイ……、最高デス~……」
 
「……ロボットの癖に……、くそっ……」
 
「嫉妬は駄目だよ、ジャミル……」
 
含み笑いをしながらアルベルトがジャミルを突っつく。
 
「……あ、ああ~!ほら、もう行くぞ!お前ら!!」
 
「はいはい……」
 
マイラの村とも別れを告げ、次はいよいよ、西の小島の塔へと、
ルビス救出へ向かうのである。

その3

……あの男との再会

ジャミル達は船に乗って北西の小島の塔へ……。早速、塔の中に入ると
既に何人か人が集まっていた。
 
「お、兄ちゃん達もこの塔へ来たんか?」
 
「おっさん達は何してんの?」
 
「……わしらにも何か出来る事がなかんべかと、ルビス様を助けようと
塔にやって来たんじゃが、どうにもモンスターが強すぎてなあ……、今、
逃げて来たところだ」
 
「何とか2階までは行けたんだけんどよ……」
 
「無理すんなよ、ルビスは俺達で助けに行くから……」
 
「……なんと?兄ちゃん達が?そんな、もやしと牛蒡みたいな
貧弱そうな身体して……」
 
「おい……、こいつらもしかして……」
 
もう一人のおっさんがジャミル達をジロジロ見ながら
仲間同士で耳打ちする。
 
「ハ?勇者じゃと……?」
 
「んだ。間違いねえ」
 
「おーい……」
 
「あんた達……、本当にそうなのか……?」
 
「一応な……」
 
「うふーっ!おったまげたぺ!」
 
「……」
 
「勇者様達が来てくれたんならもう、俺たちゃ引き上げて
だいじょうぶだば」
 
「うんだうんだ」
 
「んじゃ、ここは皆様にお任せして我々は帰るとすっか」
 
「おう」
 
「……」
 
「えいこらえいこら!」
 
おっさんの集団は塔からぞろぞろと引き上げて帰って行く。
 
「あ、そだ」
 
「ん?」
 
外に出ようとした最後の一人が立ち止まリ、4人の方を振り返る。
 
「この塔の2階には開店する床があるんだなあ……」
 
「開店じゃねーぞ、回転だぞ!」
 
「ああ、そうだ……、回転だ、よーく床を見て考えて進まんと
結構イライラすんど」
 
「分った」
 
「んじゃあな」
 
親父集団はえいほいほ完全に撤退していった。
 
「はあ……、何しに来たんだか、もうじいさんとおっさんの
大群はいいや……、見飽きた……」
 
「何かヒントをくれたみたいだね、2階にどんな仕掛けがあるんだろう……」
 
と、アルベルト。
 
「ああ」
 
「さあ、僕らも先に進もう、ルビス様を助けなくちゃ……」
 
「よし、行くか……!」
 
4人は塔の最上階目指して歩き出す。が、1階の途中の通路に
差し掛かった処で……。
 
 
      ……ぎゃああーーーっ!
 
 
「……何!?今の悲鳴……、誰かモンスターに襲われてんの……!?」
 
ダウドが脅え、いつも通りビクビクする。
 
「この塔の中に残っていた人がまだいたのかしら……?」
 
 
「親分ーーっ!しっかりーー!!」
 
 
「……ん?親分……?」
 
「向こうの方から声したよお!」
 
「行きましょ、ジャミル!」
 
「あ、ああ……」
 
4人は急いで声のした方向へ。……其処で見た人物達の姿とは……。
 
「……親分……!しっかりして下せえ……!」
 
「……ちっ……、情けねえなあ……、世界の大盗賊カンダタ様と
あろう者がモンスターにやられて、くたばっちまうのか……」
 
何と。モンスターに囲まれ、ボコられていたのは、上の世界で
悪事を働きその都度ジャミル達に邪魔をされて成敗されていた、
カンダタと子分共……、であった。やはり彼らも、この下の世界に
来ていたのは本当だったらしい。
 
「……親分ーーっ!」
 
「……いいから……、お前らだけでも早く逃げろ……」
 
「親分を置いてなんかいけません…!!」
 
「バカヤロウ!とっとと行け!」
 
「俺達、ずーっと親分と一緒だったじゃねえですかい!」
 
「俺ら死ぬまでカンダタ親分にずーっとついて行きます!」
 
「本当ですぜ……!」
 
「……お前ら……、くっ……、馬鹿野郎め……!!」
 
 
「……」
 
「……なーに臭い任侠芝居やってんだか……」
 
黙って状況を見守っていたジャミルがつい吹いてしまう。
がめついが、カンダタは意外と子分思いの処があった。
 
「笑っちゃ失礼だよ、ジャミル……」
 
 
「早く逃げろっつってんだよ、お前ら!!」
 
「……嫌だ!俺たちゃずーっと親分の側にいるんだっ!」
 
「いいから早く逃げやがれーーっ!!てめーら言う事聞けーーっ!!
……ブン殴られてえのかーーっ!!」
 
「……親分ーーっ!!」
 
 
「……」
 
「あれ……?」
 
「うはー……、すっげー切れ味……」
 
「!て、てめーらは……」
 
「あ……」
 
死を覚悟?したカンダタ達が異変に気づく。ふと、周りをみると……。
モンスター達は全てその場に倒れており、代わりに其処に立っていたのは……。
 
「たく……、弱ぇー癖に無理すんなよ」
 
「……何い!?」
 
「後は僕達に任せて!」
 
「大人しくしてるのよ!」
 
「はう~、行かなきゃだよねえ~……」
 
「お前ら……」
 
「……行くぞ!皆!!」
 
目の前にはサタンパピーや初顔のラゴンヌなど、強敵モンスターが
ずらりと並んで待ち構えていたが、それでもジャミル達は躊躇する事なく、
次々と敵を蹴散らしていく。
 
「……すげえ……」
 
「あいつらいつの間に……、こんなに……」
 
「キシャァァァァッ!!」
 
「うるさい!!」
 
「……ギャァァァァッ……!!」
 
「うわ……、マジですげえ……」
 
「あんな弱そうな剣で……、俺達が苦戦してた
モンスターを一網打尽ですぜ……」
 
「でも、ほんとすごいんだねえ、王者の剣て……、オイラもほれぼれよお~」
 
「ああ、破壊力半端ねえよ……、俺も手が震えてる……」
 
「お……、王者の剣……!?」
 
「あんな弱そうな剣が本物の王者の剣なのか……?」
 
「……横からうるせーぞ!黙って見てろ!!」
 
「ま、まあ……、ジャミル……」
 
ジャミルを宥めるアルベルト。
 
「ジャミル!まだ気を抜かないで!」
 
呪文を連呼しながらジャミルに向かってアイシャが叫ぶ。
 
「お、おう……」
 
「カンダタ親分……、あいつら本当に何者なんですかね……」
 
「……」
 
カンダタ達が何も出来ず呆然と立ち空くしている間に、
ジャミル達はカンダタ達を襲おうとした全てのモンスターを
一網打尽に始末してしまっていた……。
 
 
……
 
 
「ホラ、腕を出して……」
 
「……余計なお世話だ……」
 
一番ダメージの多いカンダタだけ特別に魔法で
アルベルトが治療しようとするが、やはり頑固な
カンダタは拒否する。
 
「んとに可愛くねえな……、この緑パンツ豚め……」
 
「……なんだと!?このノータリンの馬鹿ガキめ!」
 
「あんたの子分の方がよっぽど素直じゃん……」
 
両手を頭の後ろで組んでジャミルが溜息をつく。
 
「大丈夫?痛くないですか?」
 
「平気っスー!」
 
アイシャは子分達の傷に薬草を塗り傷を治療している。
 
「私は回復魔法が使えないの、だからとりあえず薬草で我慢してね」
 
「よいしょっと……、しょうがないなあ~」
 
ダウドも手伝い子分達の傷に薬草を塗っていく。
 
「……俺達……、上の世界にいた時は皆さん方にあんな酷ぇー事
したっつーのに……、どうして……」
 
アイシャは子分達の顔を見てにこっと微笑んだ。
 
「……な、なんて優しいお嬢さんなんだ……、ウォォーーッ!!」
 
「天使だーっ!」
 
「女神様だーっ!」
 
アイシャの優しさに絶叫する子分達。
 
「……怒れば怪獣なんだけどな……」
 
「ジャミル……、なあに……?」
 
「い、いや……、何でもないです……」
 
「……チッ!」
 
「ん?何処行くんだ?……親分……」
 
「テメーらの世話になんか誰がなるかっつーんだ!」
 
「ほおー……」
 
「親分ーっ!意地張っちゃ駄目っスよー!」
 
「うるせえ!この腰抜け共めが!」
 
「カンダタ」
 
アルベルトがカンダタに向ってちょいちょい手招きする。
……しかし、その顔には黒い笑みが……。
 
「いい物があるんだけど……」
 
「何っ!?何だ!?」
 
「ちょっとこっち来て……」
 
「何だ何だ!?」
 
 
         パンッ!!
 
 
「……ううう~……」
 
「……ああっ!親分ー!!」
 
「さ、この間に治療しちゃうよ、やっぱりスリッパは役に立つよ……」
 
「……アル……、お前って……」
 
「何?」
 
「いや、何でもねえ……」
 
……やはりこの男は怖い。大魔王ゾーマよりも最強かも知れないと
ジャミルは思う。
 
「はい、これで終わりだよ」
 
「あたっ!」
 
無事治療も終り、アルベルトがピシャッとカンダタの腕をひっぱたいた。
 
「良かったね!カンダタさん!」
 
アイシャが嬉しそうに笑う。
 
「……ふ、ふん!」
 
「あー!親分てば……、赤くなってるう!!」
 
「……馬鹿どもめ……!てめーら全員解雇してやる!」
 
カンダタがのしのし歩きだす。……その歩き出す方向は
お宝を諦め出口へと向かっていた。
 
「あ、親分!」
 
「待って下さーい!」
 
「置いてっちゃ嫌ですよー!」
 
「……お宝が眠ってるからって来てみれば碌な所じゃねえや!」
 
「あ、それじゃ皆さん……、お世話になりやした」
 
「したー」
 
「どうもッスー」
 
「じゃな、気を付けて帰れよ……、ちゃんと親分の面倒
しっかりみてやれよ……」
 
「へーい!」
 
「馬鹿共ー!早く来やがれー!!」
 
「♪へへーい!!」
 
「……何てこった……、この大盗賊カンダタ様ともあろう者が……、
糞奴らに借りを作っちまうとは……、チ……」
 
そうぶつぶつカンダタが呟いていたのは誰の耳にも聞こえなかった。
 
「さて、俺らも先進むか……」
 
カンダタと子分達は塔から素直に引き上げて行く。4人は
ルビスを助ける為、引き続き塔の探索をする事に。


アトラクションじゃないんだど

2階に辿り着いた4人、下の階でおっさん集団の言っていた
問題の回転床らしき仕掛けがある場所に来た。
 
「何だか変わった変な仕掛けねえ……」
 
「右側部分だけが黒い印のひし形の床とか、逆で……、左側部分だけが
黒い印のひし形の床とか……、一体なんだろう……?」
 
「……この訳の分からん仕掛けの先に宝箱もちらほら見えるな……、
ふーん……」
 
「怖いよおおお!」
 
「何が怖いんだよ、バカダウド!」
 
「だってぇぇぇ……、怖い物は怖いんだよお……」
 
「たく……、しょうがねえな!」
 
試しにジャミルが代表で上に乗ってみると……。
 
「おりょ!?」
 
床が進みたい方向と逆方向に滑って回りだし先に進めない。
 
「どうなってんだ……?これ……」
 
「なんか……、面白そうだね……」
 
怖がっていたダウドが興味を持ち始めた。
 
「この仕掛けを解くには……、床の矢印の向きをよく確認して……、
えーと……」
 
「きゃー!私も乗るーっ!」
 
「だから……」
 
アルベルトが真剣に仕掛けについて考えている処に、……他の3人は
床に乗って遊びだす。緊張感も何もあった物ではない。
 
「結構楽しいな、これーっ!」
 
「オイラ癖になりそう!!」
 
「あはははは!」
 
「ここは遊び場じゃないんだよ、君達……」
 
「ねえ、アルも一緒に滑ろ!楽しいよ!」
 
「う……、うん……」
 
ついついアイシャに乗せられ、釣られてしまうアルベルト。
 
「アルー!あの宝箱の近くにバリアーがあんぞ!滑って落ちても
平気な様にトラマナーっ!」
 
「はいはい……」
 
……その日……、回転する床で遊ぶ変な4人組がモンスター達の
間で目撃されたと云う……。
 
「つ、疲れた……」
 
「大体アルは普段から運動不足すぎんだよ!もっと身体は鍛えろよ!」
 
「う、うるさいなあ……、これだから体育会系馬鹿は……、はあ……」
 
「適当に上に乗ってたら宝箱もみーんな取れちゃったしね、ほくほくだよお!」
 
そう言ってダウドが取ってきた宝箱を開封し始めた。
 
「中身はなあに?」
 
「見せろ、見せろ!」
 
「こ、腰痛い……、いたた……」
 
「……まるでアルベルト爺さんだな……、おいアルじいちゃん」
 
「なんだよお!……あ……」
 
「……アル、可愛い♡」
 
「えーっと……」
 
「ふーん、お前もダウド語尾で洗脳されたな……?」
 
「……ち、違うよー!何言ってんだよっ、バカジャミルっ!」
 
顔を赤くして必死に否定しようとするアルベルト。しかしもう遅い。
 
「いいじゃん、一緒に発音しようよおー!ね?癖になるでしょー!」
 
「ならないよっ!……は、早く宝箱の中身……!何だったの!?」
 
「えーと、博愛リング、960ゴールド、命の木の実が2つと、
ちいさなメダルに、力の指輪……」
 
「……メダルについては最初の時以外、全然触れてねんだよな、この作者……」
 
「その内追加でどうにかその辺書きたいとは言ってたけどね……」
 
「一応はちゃんと集めてる事になってる設定みたいよ……」
 
「……おい、まーたミミックだ……、ケツ噛み付かれた…」
 
「ごめん……、油断してインパス掛け忘れた……」
 
「とりあえず……、早く取ってくれや……」
 
……やはりLV成長以外はジャミルのまま。進歩していない様である。
 
「それと、後は……、炎を纏った形のブーメランみたいだよお、
はっ、はっ……」
 
「武器か……、ん?」
 
「……」
 
ダウドがジャミルをじーっと見ている。何故かわんこの様に……。
はっははっは、……息が荒い。
 
「装備するか……?」
 
「うんっ!」
 
ダウドが嬉しそうに炎のブーメランを装備する。
 
「それ、装備したからには真面目に戦ってくれよ……」
 
「うんっ!よいしょお!」
 
「……あてっ!」
 
「あっ!ごめん……」
 
ダウドが嬉しがって放り投げた炎のブーメランがジャミルの
後頭部に当る。
 
「……いっつ~……」
 
「だ、大丈夫……?」
 
「……不用意に振り回すな!武器扱うの下手なんだから!おめーは!」
 
「だぁってえ~……、嬉しかったんだよお~だ、新しい武器でさあー……」
 
ダウドがブーブー口を尖らす。……実はちょっとジャミルに
ブーメランを当ててみたかったのかも知れない。
 
「でも、これで又戦力が上がったと思えば、良かったじゃないか……」
 
「……よかねえやい!ったく……」
 
ブリブリ怒るジャミルに他のメンバーは笑いを堪えつつ……、
次の階へと進んだ。3階で道を行き詰ったが、北の外寄り通路の
回転床でダウドのうっかり落下により道が開け、落ちて戻った先の
1階からの別通路で何とか上に進む事が出来た。そして……、漸く
最上階の5階へ……。最上階には美しい女性の石像が……。恐らく、
この石像が精霊ルビスに違いなかった。
 
「……はあ……、この人が……」
 
「ルビス様……、なんだね……」
 
「綺麗な人ねえ……」
 
「……」
 
美しい女性の石像の前で4人は思わず言葉を忘れ立ち空くす……。
 
「さあ早く……、ジャミル、君が笛を吹いて……」
 
「お、俺が吹くの……?何か緊張すんなあ…」
 
「……君が緊張する玉……?」
 
「う、うるせえなあ……、腹黒めっ!」
 
「いいからっ、早く吹いてよお!」
 
早くルビスと話をしてみたいらしく、興奮しながらダウドが急かす。
 
「わ、分ったよ……」
 
ジャミルは石像の前に立ち、やはり緊張しつつも、
妖精の笛を吹いた……。すると……。
 
「……おおっ!」
 
……石像が光出し、ルビスの身体を覆っていた硬い石が
パラパラ崩れ出した……。そして、……精霊ルビスが
ゾーマの呪縛から解放され、遂に目覚める……。
 
「……わ、私は……」
 
「ルビス様が……!」
 
「やっと目を覚ましたよお!」
 
「……ルビス様!」
 
石像から解放されたルビス。……その美しい本当の姿に仲間達も
驚きと歓喜の声を上げた。
 
「……ジャミル、あなたが勇者ジャミルなのですね……、そして、仲間達よ……」
 
「ルビス……、様……」
 
「私の呼び掛けに答えてくれて有難う……、漸くこうして
現実世界でやっとあなたに会う事が出来ました……」
 
目覚めたルビスがゆっくりと……、4人に近づいて来た。

その4

ジャミル、遂にルビスと対面する

「んっ!?……んんんーーっ!!」
 
……ジャミルの側に近づき、ルビスはジャミルを自分の胸の谷間へと
引き寄せた。ルビスの巨乳の間に顔を挟まれたジャミルは息が出来なくなり、
もがいてバタバタ暴れる……。
 
「……うへえ~……、いいなあ~……、ジャミルってば……」
 
……羨ましげに指を銜えて見ているダウド。
 
「こうしてまた元の姿に戻れるなど夢の様です……、よくぞ封印を
解いてくれました……」
 
「……」
 
相手が精霊ルビスとあっては文句も言えないのか、アイシャはただ黙って膨れている。
 
「もう知っているかと思いますが……、念の為に……、私は精霊ルビス、
このアレフガルドの大地を創った者です……」
 
「……く、苦……、ん~、むぎゅ……!!」
 
「ルビス様……、ジャミルが窒息しちゃいますよ……」
 
「あ、あら……、ごめんなさい……、つい嬉しくて…」
 
アルベルトが注意すると、ルビスは慌ててジャミルをパフパフから解放する。
 
(それに……、こうして改めて見ると、小さくてとても
可愛いんですもの……、ふふ……)
 
「……大丈夫?」
 
アルベルトが心配する。ジャミルは呼吸困難寸前になりそうであった。
 
(ふう……、俺……、巨乳が嫌いになりそう……)
 
(……何でこんな人達ばっかりなのよ……!)
 
またまたアイシャがブン剥れる。運がいいのか何だか。どうにも
ジャミルは巨乳美女と縁が有るらしい。
 
「さて……、話を進めましょう……、ご存じの通り、大魔王ゾーマは
バラモスを上回る何倍もの邪悪な力を持っています……」
 
「……」
 
「僭越ながら私もあなた方の力になりましょう、ジャミル」
 
「へ、俺?」
 
「さあ、こちらへいらっしゃい」
 
「ハア……」
 
「……」
 
(……まーたパフパフだったらどうしよう……)
 
後ろで黙って膨れている不機嫌なアイシャをちらちら見るジャミル。
 
「2つの魔法の力をあなたに授けます……」
 
ルビスはそう言ってジャミルの手を取り、静かに祈り呪文を送る。
 
「……」
 
「呪文?ああ、魔法か……」
 
「……一つは……、電撃系最強の魔法、ギガデイン……」
 
「ほへ?」
 
「この魔法はどんな相手にでも必ず致命傷を与えます……」
 
「へえー!すごいね、ジャミル!」
 
「ああ、すげえや!!」
 
「もう一つは……、ホイミ系の最強回復魔法、べホマズンです……、
この呪文を唱えればどんなに深い傷を負おうとも、忽ちのうちに一瞬で
味方全員を全回復する事が可能です……」
 
「便利ねえー!」
 
「すごーい!」
 
「但し……、この2つの魔法はあなた自身のMPを大量に削る事になります……」
 
「え……」
 
「ここぞと言う時に使うのですよ……」
 
「両方とも多用は出来ねえって事か……、当たり前か……」
 
「大事に使わなくちゃね……」
 
「……そして……、もう一つの力をあなたに……」
 
「……?」
 
ルビスはジャミルの頭にそっと手を置き静かに祈りを込めた。
 
「どうかこの者に……、邪悪な力に負けぬ輝きを……!」
 
ルビスがそう言った瞬間……、ジャミルの体が光に包まれた。
 
「……何だ……?何が……どうなって……、あ……!!」
 
「……ジャミルっ!!」
 
「うわああああーーーっ!!」
 
「ジャ……、ジャミルっ!!」
 
飛び出して行こうとしたアイシャをアルベルトが止める。
 
「……アルっ!いやっ、放してよっ!!」
 
「アイシャ、落ち着いて!ジャミルは大丈夫だから!!」
 
「……あーーーーっ!!……あ、あれ……?」
 
「……」
 
「ほらね、大丈夫だろ?」
 
「で、でも……」
 
「……俺……、どうしたんだ……?」
 
「ジャミル……、その鎧は……?」
 
ダウドがおずおずと聞く。
 
「ジャミル……、あなたに今……、聖なる力が宿りました……」
 
「……はえ……!?」
 
「光の鎧がその証拠です……」
 
「ほ、本当に……?何だこの格好……!?」
 
「きゃー!ジャミルかっこいいー!!」
 
「これでゾーマと戦える装備が揃ったんじゃない!?勇者の盾と、
王者の剣と、光の鎧と……」
 
「凄いよお……!」
 
「でも、光の鎧だって持ってかれて行方不明だったんだろ……?」
 
「王者の剣と同じですよ、例え壊されても造る事は出来ます……、でも、
私には光の力の再生しか出来ませんが……」
 
「そ、そうか……」
 
「そして……、光の玉は持っていますか……?」
 
「ん?ここに……」
 
「……コホン、ジャミル……、その玉じゃ……」
 
 
          パンッ!!
 
 
「ないでしょっ!!」
 
「ジョークだよ、ジョーク!!ムキになるな、腹黒っ!」
 
「……なるよっ!」
 
「……ああっ、なんて可愛らしいんでしょう……!!」
 
「わーっ!タンマタンマ!!」
 
「こんな愛しい子を何故戦場へと送らねばならないのでしょう……」
 
ルビスはどさくさに紛れ、再びジャミルの顔を自分の胸で
サンドイッチする。……案外抜け目のないミーハーな精霊……、
なのかも知れなかった。
 
「……むう~……、鎧の所為で余計苦しい……、いたた……」
 
「ルビス様、僕らそろそろ……」
 
「あ、ああ……、そうでしたね…淋しいですわ……」
 
ルビスは名残惜しそうにジャミルを手放した。
 
「……」
 
「それで、光の玉は……」
 
「うん、竜の女王に貰ったんだ、ホラ」
 
「まあ……、竜の女王様が……、それでゾーマの闇の衣を
剥ぎ取る事が出来る筈です……」
 
「ふーん……、よく判んねえけど……、色々やってみる」
 
「ええ、どうか無理はしない様に……、それから、これは
私から皆さんへのプレゼントです」
 
そう言ってルビスは光輝く石と指輪をジャミル達に差し出す。
 
「この石は賢者の石と云い、使うだけでべホマラーと同じ効果があります」
 
「へえー、便利だな……」
 
「MPを消費しませんから魔法と違い何度でも使う事が可能です……」
 
「じゃあ……、ダウドに持ってて貰った方がいいかもね……」
 
アルベルトがダウドの方を見た。
 
「そうだな……、ふらふらと危なっかしい武器振り回すよりは
その方が確かに有難いな……」
 
「ん……、分った、オイラが預かるね……」
 
(やっとオイラも真面に仕事が出来るよお……)
 
「それと、この指輪って……?」
 
「私の愛を込めたお守りです……、必ず必要になる時が来る筈です……」
 
ルビスはそう言い、指輪をそっとジャミルの右手の薬指にはめた。
 
「わ、分った……」
 
「……そろそろ行こうよ、ジャミル……」
 
今回は大人しく見守っていたが、むっつり顔でアイシャが言った。
 
「えーと、ルビス様……、あんたはどうするんだ?一緒に行くか?」
 
「ここは私の塔ですからゾーマが大人しくなるまで此処にいます……」
 
「大丈夫なんですか?」
 
「此処の階にモンスターが入って来れぬ様、結界を張っておきます、
さあ、あなた達はもうお行きなさい……」
 
「色々ありがとな、ルビス様!」
 
「……あなたは本当に小柄で可愛くて……、愛着が持てますね……、ふふ……」
 
「はい?……小柄?(つまり……、チビ……!ですと……!?)」
 
「ジャミル……、どうか忘れないで……、あなたは独りではありません、
あなたの側にはいつでも大切な仲間……、友がいる事を……」
 
「ルビス様……」
 
「あなたの本当の力は……、剣の力でも魔法の力でもありません、
あなた自身の優しさ、勇気……、それはきっと何者にも敵わない……、
例え相手が闇の大魔王ゾーマでも……、最強の力へと変る筈……」
 
「……」
 
「私の愛おしい子供達……、私はいつでもあなた方の幸せを祈っています……」


ジャミル、背の低さを気にし始める

ジャミルも最強装備が揃い、最終決戦への胸の高まりを感じ
改めて結束を誓う4人だったが……。
 
野宿時……。
 
「……はあ……」
 
「ねえ、ジャミル……、どうしたのかなあ?」
 
ルビスの塔を離れて数日。ずっとジャミルは元気があらず。
ダウドが構ってもあまりムキになって突っ掛って来なくなった。
 
「ルビス様に鎧を貰ってから……、最近ずっとああなんだよ……」
 
「鎧は嫌いだって言ってたし、でも……、我慢しなくちゃね……」
 
「そうだよお!贅沢なんだから!」
 
「……」
 
「ジャミル、少しは鎧に慣れなよ、見た感じそんなにゴテゴテの
分厚い鎧でもないだろ?」
 
「んー、そうなんだけどよ……」
 
「小型タイプの軽鎧みたいだし、君に合ってるじゃないか……」
 
「小型……」
 
「ジャミル?」
 
「どうせ俺は小型だよ……」
 
アルベルトが折角フォローするも、どうしたのかジャミルは
機嫌を損ね、そっぽを向いてそのままふて寝する。
 
 
……あなたは本当に小柄で可愛くて……、愛着が持てますね……
 
 
「小柄に……、小型……」
 
(……俺だって……、もっと背が高かったら……、鎧着ても
全然おっけーなのによ……)
 
「はあ……、背が高くなりてえ……」
 
「ジャーミルっ!」
 
「!?」
 
「肉焼けたよおー!ほらほら、食べないとー、なくなっちゃうよお!」
 
肉の串焼きをジャミルの目の前でちらかせる空気の読めないダウド。
 
「……ダウド、お前、短足で不便だって思った事ねえ?」
 
「なっ!?……いきなり何言うのさあ!」
 
「冗談だよ……、お前は足長いね、はいはいおやすみー!」
 
「わっけわかんないなあー!なんだよお……!」
 
「ダウド、ジャミルだって疲れてるんだよ……」
 
「そっとしておいてあげましょ……?」
 
「ちぇっ、オイラだって心配してるのに……、わかったよお……」
 
ダウドはジャミルをあまり刺激しない様にアルベルト達に諭される。しかし、
ジャミルが元気がないのがつまらなく、堪らなかった。
 
 
夜中……。
 
焚火の見張りのダウドはこっくりこっくりと眠ってしまっていた……。
一人眠れないでずっと狸寝入りをしていたジャミルは呑気なダウドの姿に呆れる。
 
「……強く……なりたい……」
 
「ダウド……?」
 
「オイラも……、強くなって……、みんなの……役に……むにゃ……」
 
「なんだ、寝言か……」
 
「むにゃ……」
 
「こいつもこいつでコンプレックスがあるんだよな……」
 
「……」
 
「だけど、ダウドはダウドだ……、無理すんなよ……、
お前らしくでいいんだから……、けどあまりへタレすぎんのも、
ま、困りもんだけど」
 
ジャミルはそう言って座ったまま寝ているダウドを寝かせ、
布を掛けてやった。
 
「……お前らしく……、か……」
 
焚火の火を消し、ジャミルも漸く眠りにつく。……そして、とんでもない、
非常にキモい夢を見たのだった……。
 
 
「ジャーミルっ!」
 
「う、うわ……、ダウド……!な、何だ!その恰好は……」
 
「じゃーん、見てー!オイラ戦士に転職しましたー!」
 
「戦士……?」
 
「うん、見てー見てー!筋肉ついたー!ムッキムキだよおー!」
 
「……うわああーーっ!!キモーーっ!!」
 
「もうこれでオイラも足手まといじゃないよおー!ビバマッチョマンー!!」
 
「……やめろーっ!頼むから……、ヘタレの……、元のダウドに
戻ってくれーーっ!!」
 
 
「……お願いだーーっ!!」
 
 
「ジャミル……?」
 
「……うわああーっ!!」
 
ジャミルが慌てて飛び起きる。目の前には起きてしまった
ダウドの姿が……。
 
「たく……、昨日から……、本当失礼だよお……、アルもアイシャも
起きちゃうじゃないかあ、二人とも疲れてぐっすり寝てるんだから……」
 
「ダウド……、ああ夢か……、良かった~」
 
いつもの見慣れた細っちい体格のダウドの姿にジャミルは
ほっと胸を撫で下ろした。
 
「お前……、転職なんかすんなよ?」
 
「なんでえー?オイラこれが一番いいんだもん、転職なんか
しないよーだ!」
 
「ダウド……」
 
「なんだい?」
 
「俺は……、俺のままでいいのかな……」
 
「何言ってんの……、当り前じゃない……、やっぱ昨日から
おかしいよお!」
 
「ははっ!そうだよな!」
 
「?」
 
「さーて、朝になったら皆と朝飯何食うかなー!楽しみだなーっと!」
 
「???」
 
(……チビでも何でもいいや……、これが俺なんだ……、へへっ!)

その5

最後の休息地

ジャミル達は船で行ける事の出来るまだ訪れていない最後の大陸へ……。
長かった旅もいよいよ本当に終盤、クライマックスが近づいていた。
 
「この指輪が聖なる守りなんだろうな……」
 
「そうでしょ?私の愛♡ウッフン!を込めたー!……」
 
「わわっ!」
 
カマポーズを取るダウドを慌ててジャミルが押えた。
 
「……」
 
「なんだよお!」
 
「そこんとこ強調して言うのやめろや……、後ろが怖い……」
 
「だって愛を込めた♡うっふん!な、お守りなんでしょ!
ルビス様の……!!」
 
「だからやめろってば……!」
 
「なあに?ジャミル、いいのよ別に、だって私なーんにも
気にしてないよ?ほんとよ?」
 
「やっぱり……、怖いわ……」
 
「……だねえ……」
 
「みんな、新しい大陸が見えて来たよ、さあ、船を降りる準備をしよう」
 
「……アル、ほんとか?助かった……」
 
「うん、行こう」
 
4人は船を降りて新しい大陸の地を進みだす。
 
「うふっ、やっぱり知らない所って大好きー!今回は
どんな場所なのかしら?」
 
どうにかアイシャの機嫌も良くなったので少し安心するジャミル。
 
「どんなに世界が真っ暗でもアイシャは本当に好奇心旺盛なんだね」
 
元気なアイシャの笑顔を見てアルベルトが微笑んだ。
 
「うん、どんな時でも気持ちは明るく前向きでいたいの!でも時々……、
落ち込んじゃう時もあるけど……」
 
「……本当に落ち着かない奴だなあ……」
 
「いいのっ!!」
 
「いてて!」
 
「だけど……、3つのアイテムが揃っても一体これらを
どうすればいいんだろう……」
 
考え屋のアルベルトが考え出す。……と、ダウドが急に燥ぎだした。
 
「あ、街だよお!」
 
暫く歩くとやがて湖に囲まれた大きな街が見えてきた。
 
「んじゃあ、休憩と情報収集だな」
 
「うわーい!」
 
「でも……、ここが最後の休息場になりそうね……、これ以上の場所は
地図を見ても何も無さそうだし……」
 
「恐らくな……」
 
 
リムルダール
 
 
「旅人さんいらっしゃいませー、ようこそ、リムルダールヘ!」
 
「……リムルダールって、確か沼地の洞窟のおっさん達が
此処の街へのトンネルを掘っていたんだな……」
 
「いつかトンネルが開通すればもっと早く此処に来れる様になるんだろうね」
 
「頑張ってほしいよおー!」
 
「あの変なトリオ……、真面目に働いてるのかしら……」
 
「やめようぜ……、あいつらの話は……、考えただけで
頭痛くなる……、それより、早く宿屋を探そう、足も疲れたしな」
 
宿屋を見つけフロントでチェックイン、早速部屋に荷物を置きに行く。
 
「はあ、やっと鎧が外せる……」
 
「つかれました!ぐう!」
 
部屋に着くなりダウドは早速ベッドで就寝してしまう。
 
「まだかなー、まだかなー、飯はまだー?」
 
光の鎧を外し、いつも通り身軽になりベッドに座って
ジャミルが足をバタバタさせる。
 
「僕に聞くな……、それよりまだ16時だよ……、
幾らなんでも早いでしょ……」
 
アルベルトが時計をジャミルに見せる。確かに時刻はまだ17時前。
 
「そうか……、外が常に暗いからマジで時間があまりよく
判らねーんだよな……」
 
(プ……、よく言うよ、食べる事には時間関係ないくせに……)
 
「何だ?アル」
 
「何でもないよ……」
 
「うーん……、オイラ寝てませんよー……、起きてますよー……、
すいませーん……」
 
「変な寝言だな……」
 
そして、時間が過ぎジャミルお待ちかねの夕御飯タイムになり、
別部屋のアイシャに声を掛け一緒に食堂へ……。が、楽しい筈の
夕ご飯タイムにまた一騒動が起きるのだった。
 
「ねえねえ、ご飯食べ終わったら、皆で街に行ってみない?」
 
ご飯を食べながらウキウキでアイシャが提案。嬉しそうに
男衆に声を掛けた。
 
「そうだね、玉には皆で歩くのもいいよね」
 
「そうだよね~、いっつもオイラ達、気を利かせてるもんねえ~……、ちらっ!」
 
「なぜ俺の方を見る……」
 
「ジャミル……」
 
「ん?何……」
 
アルベルトに突かれ、返事を言い掛けてジャミルが
隣のテーブルを見ると……。
 
「げ……」
 
又角女が座っていて大盛りの飯を食っていた。
 
「……もう、このパターンにも慣れて来ちまったよ……」
 
「おい!そこの4人のガキ共!」
 
「あ、はい……?」
 
声に反応し、アイシャが真っ先に返事をしてしまう。
 
「アイシャ!」
 
ジャミルが慌ててアイシャを引っ張った。
 
「……なあに?」
 
「いいから……!相手にすんなよ!」
 
「あの……、僕達、お会いした事有りますよね……?何回か……」
 
「……アルっ!」
 
「悪いけど、あんた達なんかあたしは知らないよ!」
 
「……」
 
「もう勘弁してくれ……」
 
「大体あんた達ひょろひょろして自らに弱そうだね!男の癖に!」
 
「あの、私……、女です……」
 
「だから……、構うなよアイシャ……」
 
係わりたくないのかダウドは横見ず只管スープを啜っている。
 
「おい、金髪の坊や!」
 
「僕ですか?」
 
「名前はなんつーんだい?」
 
「アルベルトですけど……」
 
「あんた、あたしの知り合いにそっくりだね!名前も同じたあね!」
 
「はあ……」
 
(標的がアルに変わったな……)
 
ジャミルは安心した様に再び料理に手を付けた。
 
「飲め!」
 
「僕、未成年ですけど……」
 
「いいから飲め!」
 
「はあ……」
 
 
30分後……。
 
「……じゃーみぃー……、ヒック……!」
 
「うわっ!アルか……!?」
 
角女につき合わされ、アルベルトはすっかり出来上がって
しまっていた……。
 
「ひっく……」
 
「何杯飲んだんだよ……」
 
「スぺシウム光線……!てめーこの野郎!」
 
「おーい……、酒臭えなあ……!何がスぺシウム光線だよ……!」
 
「く……、きゅ……、きゃははは!」
 
そしてアイシャが狂った様に笑い出す……。
 
「まともに現場見れた事なかったけど……、マジで
性格変わるのな……」
 
「でしょ~?」
 
「はーい、スタジオのみなさ~ん、現場のアルベルトれーす……」
 
「これじゃ出掛けらんねえな……」
 
「えー……」
 
「いいよ、アルはオイラが見てるから二人で行って来てよ」
 
「4人で行こうよー!」
 
「中継がつながっておりまーす!」
 
「駄目っぽいな……」
 
「オイラ特に用はないから」
 
「……そう?」
 
「何か悪ぃな……」
 
珍しくジャミルがダウドに気を遣う。酔っ払いの世話を
押し付けて二人だけで遊びに行ってしまうのも本当に
申し訳ないと思っているのだが。
 
「いいのいいの、ほら、アル、部屋まで行くよ!」
 
「ウス!」
 
「……」
 
ダウドは酒乱アルベルトを引っ張り、部屋まで連れて行った。
 
「ダウドにお土産買ってきてあげようね……」
 
「う、うん……、そうだな……」
 
「……お客さん……、こんなとこで寝ちゃ駄目ですよ、
お勘定っ!お客さーんっ!」
 
「ウーン!」
 
「お客さーん……!!もしもーし!?」
 
 
              ……バキッ!!
 
 
「……うわーっ!!寝ぼけてテーブル破壊しやがったーっ!!」
 
「やるよ!?」
 
「……何がやるよだ!金払えーっ!!角女あーっ!!」
 
「宿屋のご主人……、泣いてるわ……」
 
「……ハア……」


リムルダールでもぐもぐデート?

騒動の中、ジャミルとアイシャは漸く宿屋の外に出る事が出来た。
 
「結局……、俺達二人だけだけど……、ま、いいよな」
 
「えっ?う、うん……」
 
二人は夜の街を歩いてみる事にした。夜だけは街にも
街灯が付くので外も少しは明るい。
 
「遅いわねえ、あの人!」
 
「何やってんだろ、あいつ!」
 
待ち合わせをしているらしいカップルに出くわす。が、二人とも
すぐ近くに来ているのにお互い気が付かないらしい。
 
「見てるとおもしれえな……」
 
「駄目よ、教えてあげましょ」
 
「ちぇっ」
 
「あの……」
 
「あら?何か御用かしら、娘さん」
 
「やあ」
 
「ん?何か御用ですか、坊や」
 
二人はアベックの片割れそれぞれに、相手がすぐ近くに
来ている事を教える。
 
「えっ!」
 
「あっ!」
 
「……」
 
「ごめーん、気が付かなかったー!」
 
「すぐ近くにいたのねー!」
 
「……プ……」
 
「ありがとう、二人とも!」
 
「それじゃあね、行きましょう!」
 
無事会えた二人は手を繋いで何処かへと歩いて行った。
 
「……」
 
「私達もそろそろ行こう」
 
「ああ……」
 
「……色んな天然な奴らがいるんだな……」
 
「本当ね……」
 
「……」
 
アイシャはジャミルの横顔をじっと見つめた。
 
(何だか……、今日のジャミル見てると何か変……、
胸が苦しい……、ドキドキするよ……)
 
「アイスクリーム……」
 
「え、えっ!?」
 
色気より食い気のジャミルはアイス屋を見つけるなり
走って行ってしまう。
 
「……本当にムードないんだから……、ジャミルのバカ……」
 
アイシャがぷっと膨れた。やがてジャミルが走って戻って来る。
 
「ほれ!」
 
「きゃ!?な、何!?」
 
「……何ってアイスクリームじゃんか……」
 
「あっ、ありがとう……」
 
「けど、俺そんなに金ねえし、一つしか買えなかった、先食えよ」
 
「こ、これって……、関節……、キ……、キ……、
きゃあああーっ♡」
 
「?」
 
「どーしよーっ!どーしよーっ!でも何回もしてるじゃないっ!
でもっ……、キャー!!」
 
「……いらねえの?」
 
「食べるーっ!!」
 
二人は一つのアイスを半分こ。突っ立ったまま、美味しそうに食べた。
 
「……」
 
「ママー!あれ、アベックだあーっ!ふたりでいっしょにアイス食べてるーっ!」
 
「ジロジロ見ちゃいけません、失礼ですよ」
 
「アベックーっ!」
 
「ほらほら、こっち来なさい……」
 
(親がいなきゃ一発叩いてやる……)
 
「お、美味しかったよ、ごちそうさま……」
 
……アイスを食べ終えたアイシャ。……顔から煙が吹き出て
ショートしている。
 
「そうか、良かった……、んじゃ、次んとこ、行ってみるか」
 
「うん、そうだね……」
 
暫く街をふら付いていると、池の側で座り込んでいる
おじいさんに出くわす。アイシャが早速ご挨拶。
 
「こんばんは……」
 
「あんたら……、勇者オルテガの行方、その末路を知っているかね……?」
 
おじいさんは如何にもジャミルを待っていたとばかりに、ぼそぼそ喋り出す。
 
「……えっ!?」
 
「じいさん……、いきなり何だよ……」
 
「哀れな男よ……、勇者オルテガ……、魔の島に渡る術を
知らず……、そのまま海の藻屑へと消えたそうじゃ……」
 
「死んだのか……?」
 
「あくまでも……、噂じゃがの……」
 
「あの……、ジャミル……」
 
アイシャがジャミルの顔を不安そうに見た。しかしジャミルは
オルテガの話になっても今までと違い、吹っ切れた様に
明るく喋る。
 
「ま、ゾーマの所まで何とか辿り着けりゃ真相も
はっきりすんだろ!だけど……、貰った3つの
アイテムの使い道がな……、どうすりゃいいんだか……」
 
「この街で出来る限り情報を集めてみましょ、それしかないわ……」
 
「そうだな……」
 
「ええ!」
 
「とりあえず肉まんでも食うかな!」
 
「……まだ食べるの……?」
 
二人は肉まんをぱくつきながら更に夜のリムルダールを
歩いた。金に余裕がない為、肉まんも半分こである。
 
「次は何処に行こっか?」
 
「そうだなあ……、大体は見て回ったなあ、何か
他に面白い場所ねえかな?」
 
「……あ、ジャミル見て見て!ここ、占いの館だって」
 
ぽつんと街の片隅に建っている、いかにもな怪しいテント状の小屋。
 
「占いか……、俺、あんまりそういうの興味ねんだよな……」
 
「えー、面白いよ!」
 
「うーん……、じゃあ……、入ってみるか」
 
「すいませーん、占って下さーい!」
 
アイシャが早速中に入って行く。
 
「いらっさいませ」
 
占い師はまだ若い男だった。
 
「へえー……、大抵はじいさんとかばあさんとかが
経営してんのにな、珍しいな……」
 
「恋愛運、金運、その他、何でも占いますよ」
 
「わあー、私は何占って貰おうかしら……」
 
「ちょっとそこのお兄さん!」
 
「え?俺か?」
 
「ハアー……」
 
「な、何…?」
 
占い師はジャミルの顔をジロジロ見る。
 
「あなた……、もう手遅れですよ……」
 
「……なっ……、病気か!?」
 
「……はい……、それも重症です……、僕、こういう仕事
何年もやってますから……、顔を見ただけですぐ判るんです……、
お気の毒に……」
 
「嘘でしょ……、占い師さん……!」
 
「マジかよ……」
 
「……あなたの病気はアホバカ病と言って……、
100万年に一度に一人の極度の究極のア……」
 
 
        ……すぱこーーん!!
 
 
「……いった~っ……」
 
「俺もう帰る……!あったまきたっ!!」
 
ブン剥れてジャミルが館を出ようとする。
 
「あっ、待ってジャミル!」
 
「だから占いなんか嫌なんだよっ!!」
 
「いやーん!行かないで下さーい!今度こそちゃんと占います!!」
 
占い師が嫌々をする様にジャミルに縋りつく。
 
「……」
 
「今のはちょっとしたぱふぉーまんす!本番はこれからです!」
 
「やれやれ……」
 
「あ、きちんとお金は払ってね、ちゃんと占いますので」
 
「疲れんなあ……」
 
「そこの椅子に座って下さい」
 
「座んのか?」
 
「それじゃ、いきます……!!」
 
「……」
 
「はうあー……、キタキタキター!!」
 
「……何が来たんだか、……で?」
 
「でました……」
 
「なあに?」
 
「あなた達の求める物が……、この大陸の更に
南に位置する地のほこらにあるそうです、いんじょ」
 
どうやら、今度は占いの結果は本当ぽかった。以前地図で
確認した際に、確かにそれっぽいほこらの場所が
表記されていたのである。
 
「へえー……」
 
「占い師さんすごーい!」
 
「本気を出せばこんなもんです、あ、お金下さいね」
 
「幾らだ?」
 
「500ゴールドになります」
 
「高いな……、もうちょっとまけてくんね?」
 
「早く下さい、ほれっ!」
 
「ちぇっ……、俺の全財産……」
 
「確かに500ゴールド頂きました、でわ」
 
ジャミルはしぶしぶ占い師に金を払い、館を出た。
 
「あーあ……、本当に俺の金……、無くなっちまった」
 
財布を逆様にしてジャミルが愚痴を足れる。
 
「あっ、今度は私がおごってあげる!」
 
「マジでか?……いいのか?」
 
「クレープ食べよっ!でも、私もあんまりお小遣い無いから……」
 
「二人で一つだなっ!」
 
ジャミルとアイシャは顔を見合わせて笑った。そして二人は
クレープ屋へ。ストロベリーにチョコとバナナの
トッピングを二人で頬張る。
 
「……それにしても……、今日は本当にいっぱい
食べちゃった……、それも夕御飯の後だったし……、
どうしよう……、体重増えちゃったかな……」
 
アイシャが心配そうに自分のお腹を擦る。
 
「太る時も……、二人で一つ……、だな……」
 
「いやーん……、もう~……」
 
そして、アイシャの残りの小遣いでダウドとアルベルトに
土産のお菓子を買うと二人は宿屋へと戻ったのだった。

zoku勇者 ドラクエⅢ編 15章

zoku勇者 ドラクエⅢ編 15章

スーファミ版ロマサガ1 ドラクエ3 クロスオーバー 年齢変更 オリジナル要素・設定 オリジナルキャラ 下ネタ

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-09

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. その1
  2. その2
  3. その3
  4. その4
  5. その5