死の初夜
わたしの生れ落ちた日はけだし死の初夜であった
処女なる不潔のからだは死装束のシイツに巻かれて了った
終末のイマージュをすら孕む絶世の黎明がましろのそれに射して了った
貞操を護りきれなかったわたしは悔恨し 冷然硬質の水晶は歌を呻いた
犬死と云うまっしろな天蓋の背と婚約したわたしは
死と云う運命の旦那は切り裂き分断することによって
薔薇の疵口としての部分のみと結婚しえることを知ることができた
わたしは恋人を吟味するように 死に方を一つひとつ注視したのだった
わたしは生れ落ちるまえの追憶と綾織られてみたく
それがはや実在としてこの世にあるがために不在であることを淋しむ
わたしは幾たびか恋愛の影を肉ですすりとったが
最後の御方こそ永遠のひと──わたしはかれと永久という無名へ侍る
かの幾夜いくやはわたしには夢とし想いおこしえる
なぜと云いその風景は実在するからで からだを音楽するからだ
わたしは最期にかの御方と結われるためにわが身を清楚へと剥く
からだすら光の清んだ淡い水へ変容させねばいけない──不可能
*
死の初夜のためにわたしは肉を俗悪に浸し穢し毀さねばいけない
黎明と世紀末の結びえぬ混濁風景に身を投げ 疎外にいたまねばいけない
実在は死により風景と分離し産れ 結婚により不在という永遠に還る
死の初夜