低学年の時のこと


・一年生の最初のとき、みんなとは全く別の隣の市の幼稚園から来たから早速よくわからんのと人見知りとで心細くなっとった矢先。当時70代後半か80代くらいに見えるお婆ちゃん先生が半分幼稚園みたいなノリでよくわからん遊びを校庭で始めよって、見事に生れて一度も見聞きした事もない遊びやった。
・赤い三画のやつをあっちとこっちに立ててあっちとこっちを交互にみんな行ったり来たりしながら何かしてるようやったけど、わからんわからん。
・この地域の幼稚園独特の遊びか思いたいところやろうが、そもそも俺自体が元の幼稚園でも全然みんなに馴染めてなかった。
・何か知らんけど、遊びに加わろうとしたら白い目で見られて遠ざけられてた記憶はある。泥遊びか何かのとき、泥遊び用の上着を俺だけ着れなかった。ヒーローの必殺技ってどうやるんやったっけみたいな話になった時にも途中で俺が間違ってることに気づいたのに頑なに押し通して変な空気になったりもしたな。他にもあった思うけど何にしても他のみんなの中で俺の知らへん遊びがたくさん共有されとった。
・やから幼稚園が違うとか関係ない。俺が俺なばっかりに早速小学校の最初の最初の出だしでいきなりオロオロして何してええかわからんくなる。然うしてよくわからん内に何か俺の番がやって来た。あっちとこっちを、何時どうやって行き来すんのん?
・「ワカスギ!」。お婆ちゃんに怒鳴られた。
・ああ、オロオロしてるガキが嫌いなんや。俺もオロオロしたくなかった。してた自分が自分でも嫌いやった。それを上からなぞるように怒鳴ってくるだけ。ていうかそもそも怒られたことない。やから餘計に怒られたんやろう。やから餘計に、知らない涙がこぼれ出てきた。
・自分の名前をそんな顔で呼び捨てにされることがどんなに傷つくか。自分の名前の筈なのに、それから自分の名前を呼び捨てにされるだけで怒られてるような感じがしてビクビクしては持ち堪えるようになる。

・その所為かは兎も角どこかとんでもなく知らない何処かに抛り込まれて近くに誰も居ない気がしたんやろうか、小学校生活が始まって間もない或朝にはもう掃除機をかける母の傍で「お腹痛い!」言うて頗る元気に喚きごねてた。行きたくない。それでも母も母で、寄り添うというより何でこの子こんな風に喚いてるの?みたいな感じで不思議そうに眺めてくるだけだった。
・ただその後どうなってか知らんが二、三時間目ぐらいで遅れて登校していった。そしたらみんな絵本を写し描きするみたいな幼稚園みたいなことしてて結局やっぱり来てみて損した気分にはなったけども、じゃあお腹痛い!って言って喚いて休んだところで何になるのかも分らなかったのでその後は普通に登校するようになる。

・周りに幼稚園から知ってる子が居なかったり三月生れで最初は背も小さい方だったり、そんな子はたくさん居るし転校を繰り返したり県を跨いで全く知らない地域の小学校に新しく行かないといけない子も少なくなかろう。然ういう子たち全員が馴染めなくなるわけじゃないので矢張り俺自体がもともと然ういう子なんやろう。強いて言えば然ういうもともとの性質に拍車をかけてしまった。
・友達同士で普通に日常を話し合って何気なく佇み合うみんながどうしても俺から見れば物珍しく思える。基本的に誰かと話すのが面倒なので誰とも成るべく関りたくなかったものの、一年生の序盤はまだみんなも探り探りだったのか俺と関ろう関ろうとしてきてたような気はする。
・でも関られようとする度に俺は俺で違和感を覚えてしまう。なぜ話さないといけないのか。しかし友達みたいに関り合うっていうのも経験してみたい。だからお互い黙って会話もせず絡もうとしないで居ながらにして会話したりじゃれ合ったりしたような充実感を得る方法はないものか、探してた。
・そして気づいたら、周りから茶化されてるような雰囲気を感じる。
・勉強なんてした事ないし授業もイヤやし知識もないし何かみんなの前で知識をひけらかすような真似もした事ないのに、「優等生」みたいな感じで接してこられる。
・具体的にどういう時に然ういうこと言われたか憶えてなくても優等生っていう言葉の次には何となく一年生のみんなの薄ら笑う表情が思い浮かぶ。
・もしかしたら他のみんなは常に子供らしく面白可笑しい振舞いをして過ごし合ってたのかも知れない。然うじゃなかったら比較的に真面目に見える。
・俺からすれば、みんなの方が「一年生」として真面目に「一年生」を全う出来てた。
・何がどうして自分が優等生なのか。みんなの言ってる事が全然わからない。

・内心、キレてかかる部分もあったかも知れん。僕の知らないとこで勝手に僕をつくらないでおくれ。
・そして勝手に、優等生なんだから優等生らしく振舞っとけよ的な冷めた嘲笑うような包囲網を布かないでおくれ。ただここに来て小学生をしてるだけじゃないか。ただここに来て授業の時に席に座ってるだけじゃないか。騒ぐ声一つも挙げず静かにすべき時にちゃんと静かで居るだけじゃないか。忘れ物をして居ないだけじゃないか。宿題を忘れて居ないだけじゃないか。

・すると夏休み明け、工作の宿題で明らかに親に作ってもらったボールタワーみたいな大作を持って行ったりした時にはそれなりの反感を買う。
・面倒なんだから仕方なかろう。こんなもん親にやらせれば良い。父親が丁度こういう工作が得意だったから。何でそんな目で見て来やがるのか。くたばれ。消え失せろ。

・それから、なのかは憶えてへんけど徐々に「優等生」っていうノリから嘲笑めいた部分だけが強調されてって前とは違う居辛さを感じるようになった気はする。でもわからない。後々の二年生の時の大惨事に比べれば然うでもなかったんだろう。



・二年生になってからも常に張り詰めてた。何か、みんなが周りに居る。熱血教師風でありながら然うでもなさそうなオバサンの先生も居る。でも自分に直接の害は与えてこない。別にそれなら毎日をただ淡々とやりこなしてるだけで片づく。所で「優等生」とかいうノリはすっかりと消え去って次は「物静かな部類の子たち」の一員として数えられるようになったのか、割と過ごし易くはなってたかも。
・だから或日、自分の机の足元にバカクソ大きいムカデがウダウダ元気に暴れ回ってて教室中が大騒ぎになって先生がチリトリで校舎裏に捨てに行くぞ言うからその大群に俺も思わずついて行った時には同じ物静かな部類の子たちから随分と冷たい目で見られたことや。
・いや俺ホンマにムシ嫌いやねん。もう足元に見つけたとき声も出ぇへんかったわ。こんなに俺を苦しめたムカデの行く末は見届けとかなアカン思て、みんなと一緒に先生について行ったんや。勝手にガッカリすんなや。何で裏切ったなみたいな顔しとんねん。

・一年生の最後の水泳の授業で「はい二年生からはもっとプールの深いところも使って潜ったりする授業が始まりますからね~」っていうのを思い知らせる為にそれこそ顎ギリギリまで水面が来るようなプールの一番深いとこまで立って歩いてくいうクダリがあって、ああもう絶対二年生からは全部キレイに休んだろ決めてた。謎の頭痛腹痛や謎の安全な風邪を理由に二年生の水泳が始まって早々プールを片っ端から休んだわ。
・先生からだいぶ説得されて別に水に顔つけんくてもええからみたいな事になったから仕方なく一回ちゃんと出てみることにはなったけど。
・最初の準備運動みたいなとこから顔を水につけるノリが来たので無視を決め込み、次に男女二人が一組になってプールの端から端まで顔を半分くらい潜らせながら泳ぎ歩くっていう容赦ない行程もただ水面につけた風を装いながらプールを歩くだけで終始した。
・相方の女子は町の水泳教室からの回し者だったので色黒でギラギラした目で「顔つけてないよね?」ってのを指差しながらキレ気味に言ってきた。知らない。つけなくても死にはしない。寧ろ顔を水につけた方が危ない。いつか大洪水が襲ってきたら分らないだけ。黙ってプールからあがって目線を遮ると水泳教室の価値観を押しつけるような目でその女子も睨み返してきたりする。
・さあ、いよいよ本番ということで、潜りましょーー!ということです。
・頭のてっぺんも全部プールの中に沈めてしまいしょう。全員ですよ全員。
・先生はいざ斯うなった時、いやもうこの際だから「やっちゃえ!できるよ」みたいな感じで促してきた。
・いや、嫌です。ぜったい嫌です。ねえねえ、本当に無理なんです。
・幼稚園児みたいに、嘘っぽい涙目で情けなく先生を片腕で呼び寄せようとした。
・それをまた、みんなも見て居た。白けた目たちを憶えてる。
・熱血そうで優しいようで怒る時はすごい厳しいオバサン先生が流石に慌てて助け?に来て結局それが小学校生活どころか人生でプールに入った最後になってしまう。いつも体操服でプールの日陰で体育座りしてる俺を見てくるみんなの目も餘計に冷めたものになっていく。

・同じ組の背も一番小さい女子の子がどことなく男女各方からイジメられてた。少々ガリガリ気味でメガネっ子でシミが目立ち幼稚園の名残がまだ他の子より見受けられるような雰囲気と挙動をしてる。しかも一年生の時、道路から飛び出して車に轢かれて骨折するとかいう事故を起したことでみんな知ってたと思う。
・近づくなり、キショイ、来んな、うわっ、ケラケラ。色んな角度から特に男子たちがゼッタイ好きになる対象じゃない女子として名指しするように目につくぐらいイジメらしい口を働いてた。女子たちも関らないよう敬遠してたかも知れない。
・よくわかんないけど、良くないと思った。そこまでして何でそんなことするのか。
・そして一学期の時は慥か、その子と席が隣だった。
・はっきり言って全然その子のことなんて好きじゃない。正直いうと周りから気持ち悪いと思われても仕方がない雰囲気をしてるはしてる。
・でもこの子がどう悪いっていうのか、全然わからなかったし可哀相だったので敢て普通に積極的に、どうでも良いことを授業中とかに話し掛けたり会話してみた。西日を受けたカーテンに瞑った目を向けると真っ暗な世界が真っ赤になるねとか、然ういうこと。
・こんな事、自分でも有り得ない。自分から誰かに声を掛けて話をするなんて。
・みんなから見ても色んな意味で有り得なかった。あいつと話すなんて有り得ない。いつも物静かなくせに急に積極的になりやがって、有り得ない。
・好きなんだろ?ヒューヒュー。お似合いだそうで。祝ってくれてる積りらしい。
・なんで?わからない。
・もしかしてみんなヒューヒュー言ってくるかも知れない気はしてた。もちろん俺が好きかどうか云々はどうでも良いから取敢えず茶化してやりたいからそんな風に言ってきてるかも知れないことも何となくわかる。
・それを何となく察した上で、わからない。本当にいったい何の意味があるんだろうか。これ以上この子を追い込んでも何にもならない。
・「悲しい」なんて大人びた感想はありません。当時はただただ、わからない。いちいち周りのみんながしようとする事がわからなかった。

・でもまあ究極的には、早い話が、静かな静かな授業中の教室で、漏らしたことですかね。それがきっと学校での立場的には、大きかったかも知れない。
・何かみんなの中に居ることに常に緊張して居た。全部みんなが敵に思えて全く話題にもついていけない。みんなの知ってるゲームも知らない。マンガも知らない。好きな曲も全然ちがう。誰かと遊んでも俺も相手もつまらない顔してる。誰かと言葉を交わすことがあるだけで胸が締まって落ち着きもない。
・そしてそれぞれみんながノートに問題を解いたりかしてる静寂の時。どうしても急にすごい量のオシッコがしたくなる。もう限界や。でも緊張した。みんなにこっちを向いてほしくない。関らないでほしい。でもこの静寂を破ってオシッコを告げねばならない。
・できなかった。ションベンというションベンが思い溢れて。
・オバサン先生の見た事もない厳しい鬼面がションベン小僧を怒鳴りつけよう。「早くトイレに行きなさい!」。トイレに逃げた。
・他人の黄色いションベンを男女の子供が後処理させられてたとか、これから俺はどうなるのかとか、何もわからないし気にする餘裕もない。男子便所にまで先生が入って来て立ち便器で残りを出しきりながら俯く俺に囁くように何か言ってきてるけど返事しようとも思わない。もう終った。今更何をしても何の意味もない。

・きっとその後みんなの見る目がどうなったのか、悲惨すぎて目も当てられない。男子は男子で帰り道に馬鹿にしてくる奴は馬鹿にしてくる。擁護してくる奴は擁護してくれる。
・でも大半の男子も女子も、無言で遠ざかっていく。もともと距離があった所為か誰がどう遠ざかったか判別できない。
・何より俺も、黙々とした。今日この日が何かわからない。唯あんなことになって落ち込んでる自分が居るのは何となくわかる。それだけだった。



・三年生の時、初めてあった詩の授業で書いた詩を教室全体で大合唱された。
・全員のが教室の後ろに掲示されてるのに俺のだけ休み時間に大勢が寄って集っては嘲りながらみんなで読み上げこっちを見てくる。他の教室の子も加わってくる。
・バカにされた。何でそんな事するの。くたばれ!ふざけんなよ。
・然うして無視して席から動かない。今思えば別に、バカにしてたとは限らないのに当時は絶対そう思った。まあバカにはしてたんやろうけど。日頃から動き一つ一つを小馬鹿にされてるような視線は勝手に感じてたから。今回だけじゃない。何で然うやっていつも笑ってくるのか。何をしても然ういう風になる。それがわからない。



・習字といえば書初めだった。筆と墨汁を見れば、ああ、書初めねって思う。何でか先生の主観でキレイか然うでないかを判定されて中々に苦戦を強いられる。既に習い事か何かでしごきあげられた子は次々と許されていく。俺ときたら全然ちっとも許されない。トメがどうだの、ハネがどうだの、紙を何枚ムダにするのか。文字をキレイに書く人が居たって良い。それは充分わかってるから、俺は別にどうでも良いその方面は。手元の小さなことで縛らないでほしい。



・図書室で図書の時間とかいって本を読まなきゃいけない時間があった。本を読むとか、地味にしんどい。読みたくない。面倒臭い。然うして何時も毎回おんなじ宇宙図鑑を手に取ってみては本当に同じ写真を只々45分間ずっと見つめてるだけっていうひとときを過ごす。銀河の色って何かそれは面白かったし、それ見てるだけでも自分としては読書よりは楽しかった。
・でも何時しか宇宙飛行士になりたい奴みたいに言われ始める。宇宙とか好きなんやろ?なら宇宙飛行士や。宇宙飛行士になりたいんやろ。勝手に目指しとけや。みたいな。え?何で。くたばれ!何で決めつけられなきゃならないんだろう。
・図書室では然うやったけど教室での読書時間いう時間のときには宇宙図鑑じゃなかった。先生の目を遮るには小さ過ぎたので然ういうときは、西欧の洗濯板みたいな島国のオバサンが書いた魔法学校物語のクソ分厚い一冊を机の上に立てて開いてそこに顔を埋めてたな。ちぃとも読んでない。読む気にもならん。でも本当に先生から顔も見えなかったし役には立った。そのおんなじ一冊を一年間ずっと持ち込んでは世話になる。
・するとそれはそれで、みんな「あれ読んでんの~?」みたいに嘲笑してきよるで。
・わからない。たとえ俺が読んでても誰が読んでてもクスクスする要素なんてどこにもない。何でいつもわざわざクスクスしないといけないのか、わからない。



・いつも夏頃になると学校を挙げてのお祭りがあった。子供たちがお祭り全体をつくらねばならない。盛り上げないといけない。文字通り地獄とまではいかない生殺しの祭典だった。果して生徒の内どのくらいの子が体育会的に盛り上げようとしてて何割くらいの子たちが仕方なく行事として仕事として受け流してたかは定かではない。
・でも何にせよ開催が決まってるんだから、やるしかない。いつか大人になるであろう生徒みんなの社会のそんな片鱗を垣間見ては、絶望する。安っぽい装飾と上辺だけの昂揚感と、ふとして見える気がするみんなの無表情。それで居てみんな、紙袋に色んな教室で買った物とか得た賞品みたいなものを成るべく詰めて無意識に楽しんでる感を出そうとした。
・俺の紙袋には何もない。それをいちいち確認して来て、大丈夫かみたいなこと言ってくる。本当にわからない。みんなで寄って集って一体なにをして居るんだろうか。
・ある時に誰か男子に無理矢理に高学年の教室へ連れてかれたことがあった。机やらカーテンやらを駆使して真っ暗な迷路みたいになってて手と膝で這い蹲りながら節々に居る高学年の生徒たちから出される簡単な問題を次々解いてけば抜け出せるというもの。そこで「日本で最も生産されてるものはコメと小麦の内どっちか」みたいな問題が出されたと思う。
・それまで小麦って単語を聞いたことなくて何もわからなかったので、じゃあ正解はよくわからない方かも知れない。「小麦」って答えてみました。
・出題した高学年の人とか同伴してる男子が気まずい苦笑いでその場に固まる。何なら出題した方が優しさからか正解を言ってしまった。ああ然うですか。そこで初めて正解を知った。もらった賞品とか憶えてない。何となくその同伴してた男子とは微妙な空気になったことぐらいは憶えてる気もしてる。



・三年生のある日の給食で時間ギリギリまで食べきれない儘で居て遂に先生が時間だから片づけて下さいって言い始めたので俺もみんなも片づけ始めたが、手元に八割くらい残ってるブドウのゼリーがどうしてもあった。
・でももう周りも一斉に片づき始めてたからもう良いかと思って、黒板前に並ぶ鍋台に食器を重ね合って群がるみんなの腕に紛れながら後ろからその餘ったままのゼリーをみんなのゼリー容器のところに重ねてしまった。
・時間は来たけどそれを扨置いてでも注意しないといけない事だったから先生もめちゃめちゃキレて立ち尽す。若手の女性の先生だった。見た事ない顔でみんなにゆっくり唱え続ける。誰だ。誰ですか。
・残すなら残しますと言ってくれれば良いんです。無断で黙ってこれだけのゼリーを残すのは良くない。正直に言ってくれたら嬉しい。でも誰も手を挙げなかった。俺が挙げないならそりゃ然うなる。
・生れて初めて心の底から自分のことをクソと思った瞬間ときたら一生忘れない。先生も敢て俺の方を見てこない。明らかにわかってる。何でどうせなら無理してでも全部さっき食べてしまわなかったんだろうか。あるいは先生に正直に言えば良い。クソだ。こんなクソだなんて知らなかった。



・入学して最初の頃以外でいったら、一年生とか二年生の時に何日くらい休んだのか憶えてない。そのぐらいその時は割と持ち堪えてたのかも知れない。
・それも苦しくなったのか、三年生では不定期に一週間丸ごと休んでしまいたくなる病が時々やって来た。そして本当に何回か一週間丸ごと休んだ。
・行くか、それとも行かないで母からチマチマ説得らしきことを呟かれながらダラダラするか。いやまあ、その二択というよりも只々しんどい。それでも行きたくなるような場所ではなかったことは確かや。でも学校が急にそんな場所になったらなったで気持ち悪いわ。
・同じ組の男子たちがわざわざその日の授業の分の書類とかをマンションの下まで届けて来てくれる。病人みたい。いやまあ建前上は病気で休んどることになっとるんやけど。一週間も何となく休んでたら然うじゃない事にくらいみんな気づくやろ。
・その時のみんなの目はまだ今思えば優しいもんやったんかもな。まだ純粋でまだ距離がそれほど無い。大人になれば自分の責任や。普段は学校で仲良いとは言えへん奴も蓋を開けてみれば所詮まだまだみんな子供やったんや。いうほど悪い奴らじゃなかったんや。然ういう優しい目がある内に思いきり甘えるなら甘えても良かったんや。
・それを全部、受け流したというか頼りにしなかった。自分で勝手に敵を作ってた。選りにも選ってその敵は学校休んだ日の朝昼の布団の中で現れたりする。モヤモヤ感。何も無い感。全く何にもならない事だなんてわかってる感。然うして色んなものをダメにしてく何この時間。どう倒せば良い?わからないから、そのままにしよう。どうせそのうち時間が経てば、一週間後は学校に行く。授業なんてすぐ追いつくやろ。そのままにした。ずっとそのままにしたままだった。

低学年の時のこと

低学年の時のこと

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-03-04

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