還暦夫婦のバイクライフ27

ジニー四国の重心でシュトーレンを買う

 ジニーは夫、リンは妻の、共に還暦を迎えた夫婦である。
「ジニー、この間降った雪解けたかな?」
11月の下旬、寒波の影響で四国の山地は真っ白に雪化粧した。その後暖かくなって雪はほぼなくなったが、標高の高い所は残っている可能性があった。
「さあ?」
ジニーはそう言いながら、スマホを手に取って道路情報を確認する。
「ん~久万高原も地芳トンネル付近も大丈夫っぽいね」
「じゃあ、D屋に今年最後のランチ行かない?」
「いいね。電話してみる」
ジニーはD屋に電話を掛けた。
「あ、ジニーと申します。明日空いてますか?・・・はい、じゃあ13:30頃に2名でお願いいたします」
ジニーはリンに、予約が取れたことを伝えた。
「あ~でも、雨降ったらどうする?」
「リンさん、その時は車で行きますよ」
「そうだよね!」
リンはぱあっと明るくなった。
 11月25日、呑気に朝寝坊したジニーはベッドを抜けだしてカーテンを少し開き、外を覗いた。天気は上々でお日様がまぶしい。時計を見ると8時過ぎだった。寝室を出て台所に向かう。冷蔵庫から具材を取り出して朝食を手早く作る。
「ジニーお早う」
リンが起きてきて洗面所に向かった、しばらくして洗濯物をかごいっぱいに詰めて現れる。そのまま外のベランダに向かい、干し始める。すべて干し終えてから台所にやって来た。
「はらへった。コーヒー入っとる?」
「入っとるよ」
ジニーはリンのカップにコーヒーをそそぐ。
「ありがと」
二人は朝ごはんを食べ始める。
「ジニー何時に出るの?」
「11時に出るつもり」
「間に合う?」
「充分」
「そう。何着てくの?」
「今日は完全冬仕様で行きますよ。絶対寒いもん」
「だよね。私もそうしよう」
11時前になり、二人は支度を始めた。ジニーは冬用アンダー上下に冬用シャツ、その上にフリースの上着、櫛谷の真冬用ジャケットと真冬用パンツを着込む。
「ん~重い。冬はやっぱり嫌いだ」
「パフォーマンス悪くなるよねー」
「凍えるよりはましだ・・・・暑い!汗かいてきた」
「早く走りださないと、大汗かくねこれ」
ジニーは汗をかきながらバイクを引っ張り出す。それぞれバイクの準備をしてからインカムをつなぐ。
「ジニー聞こえる?」
「聞こえるよ。11時か。出発しますか」
ジニーはエンジンを始動する。バイクの様子を見てからクラッチをつないだ。リンが後に続く。
「スタンドは?」
「寄るよ」
いつものG.Sに寄って給油する。それから南環状線に乗り、天山交差点を右折してR33に乗り換える。
「ジニーこっちでよかったん?この前もこっち来て失敗したって言よったよねえ」
「うん。気が付いたらこっちに来てた。まあ、混んでないからいいんじゃない?」
「全く!行き当たりばったりなんだから」
「ははは。リンさん今日は三坂バイパス上がるよ」
「はいはい」
二台のバイクは砥部町を抜け、三坂を登ってゆく。途中でバイパスに乗り換えて久万高原町まで一気に駆け上がる。心配していた雪もなく、通常通り車も流れていた。その流れの一部となって道の駅さんさんを横目に見ながらスルーし、その先の美川道の駅も通り過ぎる。
「リンさん草餅やさんで止まる?」
「いや、通過してください」
「しんどくない?」
「平気」
R33からR440に乗り換えてループ橋を駆け上がり、登り道をひた走り、草餅やさんも通り過ぎて地芳トンネルに突入する。
「さすが完全冬仕様だ。トンネルの中でも全く寒くないや」
「手は冷たいけどね」
「休憩なしで大丈夫だった?」
「大丈夫。むしろ止まって再スタートする方が面倒臭い」
「だよな~」
長い地芳トンネルを抜け、梼原町まで一気に駆け下る。街並みを通過して県道2号線に乗り換え、山中に入ってゆく。途中工事中で通行止めになっていた。
「まだ道直ってないな。う回路に行くよ」
「うん。いつも同じ所が通行止めやねえ」
案内に従ってう回路を進み、元の道に戻る。その先で県道304号に乗り換え、別の谷筋を上がってゆく。やがてD屋が見えてきた。店の前を通り過ぎ、駐車場にバイクを止めた。
「着いた」
「源氏ヶ駄馬がきれいだねえ。空気が澄んでてよく見える」
駐車場から大野ヶ原を見上げる。雲一つない空が、見事に青い。
「ジニー何時?」
「えーと、13時10分。早着したなあ」
二人はバイクを置いて、お店に向かった。
「すみません、予約していたジニーです。予定より早いのですが、大丈夫でしょうか?」
「はーい。大丈夫ですよ」
見たことのないおばちゃんが出迎えてくれた。いつも店主が一人で回していたが、お手伝いが入ったようだ。席に案内してくれる。二人はメニューを手に取り、しばらく悩む。それからオーダーをかける。
「私はイノシシのハンバーグステーキコース」
「僕はパスタランチコースでお願いいたします」
注文してから、置いてある高知の情報誌をパラパラとめくる。
 超絶おいしい野菜、ジャガイモのスープ、メイン料理と食べ進み、デザートとコーヒーを最後にいただく。その後パンとシュークリームを何個か買って、お店を出た。
「おいしかった。次は来年の春だね」
「うん」
「ジニーこの後どこ行くんだっけ?」
「四国の重心に、この前予約したシュトーレン取りに行く」
「吾北のケーキ屋さんでしょ?四国の重心って何?」
「リンさん、この前なんとなく地図見てて思ったんだけど、あそこって四国の中心じゃないんだよね」
「そう?でも重心なんだ」
「うん。海抜0メートルで四国を切って、紐付けてぶら下げたとするとね、山の高さとか半島とかいろいろ考えるとあそこ付近が重心じゃないかと僕は思う」
「何だ、ジニーの頭の中での話か。誰かが計算して出した答えかと思った」
リンがまじめに聞いて損したといった感じで受け答えした。
「で、その重心にはどのルートで行くの?」
「梼原からR197を須崎向いて走って、途中でR439に乗り換えて北上して、R33経由R439でさらに北上して、R194との交差点を左折してR194に乗り換えて700mくらい走った所かな」
「わかった」
「いま何時だ?14時30分か。急ごう。お店が閉まったら嫌だから」
二人は大急ぎで支度して、駐車場を出発した。
 山道を梼原まで走り、R197に乗り換える。建設中の道の駅梼原を右に見ながら走り、新しく出来たトンネルを抜けて先に進む。右手からR439が合流してくる。そこからしばらく走ったブラインドの左コーナーの先に、左に向かうR439の分岐がある。うっかりすると見落とすので要注意だ。R439に乗り換え、二車線の快走路を北上してゆく。途中で道は狭くなるが、走りにくいといったことはない。峠のトンネルを抜け、狭いままの道を下ってゆく。一つ目の集落を抜けた所で再び快走路になる。鳥形山から石灰石を運んでくるベルトコンベアの下をくぐり、いくつかの集落を抜けた所でR33と合流する。R33を高知方面に進み、引地橋を通過して暫く行くと、左に向かってR439が伸びている。R439に乗り換えて、さらに走ってゆく。
「リンさん、いつも思うんだけど、R439のこの区間って、もしかしたら四国で一番の快走路じゃない?」
「言われてみればそうかもしれんね」
「まあ、あくまで僕の個人的な意見だけどね」
「ジニーの妄想ね。でも私もそう思うよ」
2台のバイクは、快走路を気持ちよく走ってゆく。やがて快走路はR194に突き当たる。ここを左折してR194に乗り換え、700m走った左手に目的のケーキ屋さんがある。店の前にバイクを止め、営業中か確認する。
「リンさん、営業中だ」
「良かったね」
二人はバイクから降りて店内に入った。
「いらっしゃいませ」
おばちゃんが対応してくれた。カウンターにはシュトーレンが何個も積みあがっていた。
「今日は何がありますか?」
「今日はこんな感じです」
おばちゃんが冷蔵庫から大きなタッパーを取り出し、ふたを開けて見せてくれた。
「リンさん何にする?」
「そうねえ。私はフルーツのショートケーキで」
「僕はチョコレートケーキをお願いします。それとホットコーヒー2つ」
「ありがとうございます。お持ちいたしますので席でお待ちください」
ジニーとリンは、川が見える窓際のカウンター席に座った。
「そういえば、今何時?」
ジニーが時計を確認すると、16時10分だった。
「D屋さん出たのが14時30分だったから、1時間40分か。そんな遠く無いイメージなんだけど、時間かかったなあ。リンさん走りっぱなしでしんどくない?」
「いやあ?全然平気だけど」
「何だろうね。僕はリンさんのバイクだと30分が限界だな。それ以上は無理だ」
「私の背が低いからかな」
「関係あるかなあ」
丁度そこへ、お皿にきれいに飾り付けられたケーキがやって来た。
「コーヒーは今入れてますので」
おばちゃんはそう言って、引っ込んだ。
「いただきます」
二人はケーキを無言で食べる。おいしいものを食べるときには、不思議としゃべらなくなるものだ。お互い少しづつシェアして、おいしいケーキを堪能する。それから少し遅れて出てきたコーヒーも飲む。
「おいしい」
「うん。ここのコーヒーはおいしい」
「そういえば、D屋さんのコーヒーもおいしいんだけど、今日のは少しおいしくなかったような気がする」
「ああ、リンさん今日は店主じゃなくて、おばちゃんが淹れてたからなあ」
「ええ?そうなんや。できればコーヒーも店主に淹れてもらいたいなあ」
コーヒーは同じ豆、同じ水でも、淹れる手が変わると風味が違ってしまうようだ。
「さてリンさん。そろそろ帰ろう。日が陰って来た」
「あ、もう17時だ。これは完全に夜になるね」
二人は席を立ち、予約していたシュトーレンを受け取って、お会見を済ませてお店を出た。バイクに戻り、そそくさと出発準備をする。
「リンさん出ますよ」
「どうぞ」
ジニーは薄暗くなってきた道を、リンを引っ張る形で走る。R194からR439、そしてR33と乗り継いで、松山向けて走る。やがて日は落ち、気温がどんどん下がって来る。
「リンさん、手が痛くなった。トイレも行きたいし、道の駅に止まるよ」
「いいよ~」
二台のバイクは天空の郷さんさんの駐車場に乗り入れた。そのまま駐輪場にバイクを止める。すでに売店等閉まっていて、止まっている車もまばらだった。
「すっかり夜だな。寒いや」
ジニーは手袋を外して手をもむ。
「さすがにバイクいないわね」
リンも寒そうに手をこすり合わせる。
自販機に暖かいココアを見つけて購入する。それを二人でシェアする。
「ふう、温かい。日が沈むの早いわあ。もうすぐ冬至だっけ」
「もう少し先だな。でもさすがにバイクが少ないな」
「冬に乗るバイク乗りなんて、みんな変人じゃないの?」
「僕らも?」
「そう」
「僕らも変人だったのか」
ジニーがつぶやく。
「ジニー帰ろう。もっと寒くなる前にね」
二人はトイレを済ませてからバイクにまたがり、エンジンを始動する。
「行きますよ」
「どうぞ」
道の駅を出発して松山に向かう。暗くなったのでバイパスを走り、どんどん高度を下げる。砥部の街並みを抜けて重信川の橋を越えたあたりから、気温が高くなる。
「ん~暖かい」
「やっぱり松山って、暖かいんだ」
市内に入ってR33からわき道にそれ、19時丁度に家に着いた。バイクを車庫にかたずけて荷物を下ろす。
「お疲れ」
「お疲れ様」
二人は家に入った。
「おなかすいた。あ、そうだ。D屋でシュークリーム買ったな」
ジニーはバッグを開き、買ったものを取り出した。その中からシュークリームを取った。
「私も~」
リンもシュークリームに手を伸ばす。
「おいしい~」
シュークリームをほおばった二人は声をそろえてにんまりと笑った。

還暦夫婦のバイクライフ27

還暦夫婦のバイクライフ27

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-28

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