可愛くて世間知らずな妖精さん

初シリーズ作品です。

水の妖精

その子は小さな水溜りから生まれました。

空色のワンピース、おかっぱ頭の女の子はカラッと晴れた空を見上げて呟きました。
「綺麗だなぁ」

木々に縁取りされた空は雲一つありません。もちろん、広い広い空には雲がありましょう。しかし女の子は小さな小さな水溜まりの中、緑色の額縁に入った空色しか知らないのでした。

女の子は水をパシャパシャと蹴り上げます。昨日よりも随分と浅くなった水溜まりは、明日にも干上がってしまいそうです。

「はぁ暇だなぁ」

2日前に降った雨で森の中に水溜りができました。
しかし、水溜りが小さかったので女の子は1人で生まれてしまいました。暇で寂しくてため息が出ます。

ビュォーッ

突然強い風が吹きました。女の子の目の前をたくさんの妖精たちが通り過ぎていきます。
女の子は叫びました。「待って!私も連れて行って!」
女の子は風に巻き上げられ気付けば高い高い森の上
「あ!私飛べない!助けて!」
女の子は叫びました。けれども、どんどん風の妖精たちは飛び去っていきます。どんどん地面が近づいてきます。

「あぁ水溜りで遊んでいればよかった」女の子は後悔しました。まだ生まれて2日です。水溜りが無くなれば消える命です。青空しかまだ知らないのに、ここで消えて……

トシャン

女の子が落ちたのは地面ではなく葉っぱの上、いえ、かき集められた落ち葉の上でした。
「間に合ってよかった。怪我はない?僕たちはここにいるからね」と声が聞こえます。
女の子が辺りを見回しても誰もいません。

「ありがとう。大丈夫みたい。あなたは誰?」
女の子が問いかけます。しかし、返事はありません。その代わり、周りの木々が揺れたように感じました。

生まれて3日目、空色と緑色のワンピース、ツルでポニーテールをした女の子は、とうとう羽が生えました。
生まれて初めて飛んだ女の子は、空へ空へと羽ばたいて木の先端に腰掛けました。
「綺麗」

どこまでも広く広く空がありました。それから雲がありました。いえ、雲だけではありません。目の前には太陽があり後ろには月がありました。昼と夜が繋がり、黄色赤色紫色青色黒色それから雲色が大きなキャンパスにグラデーションを描いておりました。同じ景色は一つとしてない今日限りの空模様。水溜りは水鏡、そこから生まれた彼女はたちまち空に溶け込んで、見えなくなりました。

「私は水の妖精。次は空の妖精になろう」


今日は晴れ。水溜りはもうありません。

あら?今日のキャンパスは雲色が多いようです。
彼女は湯気になって、蒸気になって、雲になったのかもしれません。綺麗なパステルカラーも今日限りの空模様。

おや、山の向こうに黒い雲が見えます。
明日の天気予報は雨のようです。

可愛くて世間知らずな妖精さん

お読みいただきありがとうございます。
更新をお待ち下さい。

可愛くて世間知らずな妖精さん

様々な妖精を書いた小説です。 童話のような絵本のような世界観です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2024-01-24

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted