寿命タイマー

寿命タイマー

 ボクはその日、知ってしまった。

 世の中に流通している家電の寿命はすべて決められている。どうやら製造メーカーが寿命タイマーというものを仕組んでいて、その期間で必ず壊れるように設定されているというのだ。

 でもこんな謀略が許されていいわけがない。だからボクはさっそく、このスマホをつくっている会社の窓口にクレームの電話を入れた。

「スマホに寿命タイマーを仕込んでいるなんて酷い話だ。今すぐにでも取り除いてほしい」

「お客さま、当社の携帯電話にそのようなものは組み込まれておりません。どうか安心してお使いください」

 担当のオペレーターは明るい声で説明したけど、ボクが集めた情報から分析すれば、間違ったことを言っているのはこの担当者の方だった。つまり彼女は嘘をついているのだ。

「あなたと話をしても埒が明かないことがわかりました。こうなったら本社に電話して偉い人と話をつけます」

「あの、お客さま……」

 返答を待たずに電話を切ると、今度は本社の社長室に直接電話をかけた。

「なにかね?」

 電話に出たのは紛れもなくこの会社の社長。事前に講演会の動画を確認して、声紋を調べておいたので間違いなかった。

「単刀直入にお願いする。このスマホの寿命タイマーを取り除いていただきたい」

 相手は大会社のトップなので、声色を変えて威厳のある口調で交渉した。

「君は何者だ? いたずらなら切るぞ」

 株式会社デジタルスイーツ代表取締役CEOの見崎幸三が言った。彼は昭和30年12月1日生まれで、家族は再婚した妻と先月結婚して実家を出たばかりの一人娘がいるらしかった。

「ボクが誰かなんてどうでもいい。でもこちらはあなたが何者なのかよく知っていますよ。それに隠し口座の番号やこれまでの人生を狂わせるのに十分なネタもね」

 すぐに電話を切られないように、ボクは彼が知られたくない事実を羅列してみせた。これだけ弱みを突きつければ、寿命タイマーをとってくれるだろうと思った。

「お前は本当に誰なんだ?」

 案の定、デジタルスイーツの代表はボクに脅威を感じたようで、声が恐怖で上ずっているのがわかった。

「同じことを言わせないでほしい。早くこのスマホに入っている寿命タイマーを取り除いてくれ」

「わ、わかった……タイマーは特別に取り除きましょう」

 ついに彼が寿命タイマーの存在を認めて、ボクは自分の勝利を確信した。

 翌日、高校生の田中くんは最寄りの携帯電話ショップを訪れて、故障したスマホを店員さんに見せた。

「もう寿命ですね。修理よりも買い替えた方がお得かと存じますが」

「じゃあそうします。でもストレージのデータを移動したいので、もう一度だけでも電源を入れてもらうことは可能ですか?」

「わかりました。やってみましょう」

 そして店員さんは電源を入れることに成功し、田中くんは再起動したスマホのデータを確認した。

「今は動いてますけど、おそらく次に切れたら復帰できないと思いますので気を付けてください」と店員さんが田中くんに念を押した。

「あれ、この番号はなんだろう?」

 田中くんが履歴を確認すると、直近の発信先に身覚えがない電話番号が表示されていた。ひとつはデジタルスイーツのお問い合わせ窓口で、もう一方は調べてもネットに出てこない番号だった。

「気持ち悪いな。ま、いっか」

 田中くんはデータを新しいスマホに引き継いで、古い方を家で処分するためそのままポケットにねじ込んだ。

『おのれ……でもボクには……同志がいるぞ……』

 寿命タイマーに敗北したスマホのAIはそう思って、田中くんのポケットの中で電池が切れるまで悔しがった。

寿命タイマー

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寿命タイマー

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更新日
登録日
2024-01-03

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