リスキーな道案内

モノレールは、浜松町から羽田空港第2ターミナルへと向かっていた。
もう駅が近いのか、車体の速度が徐々に遅くなっていく。
時期に駅へ着き扉が開くだろうと思ったとき、英語で声をかけられた。
見ると、中国系の方が私を見ている。
目が合うと、彼は私にペラペラと話し出す。
私は英語が話せないし、聞き取れない。
それでも言いたいことを理解しようと努めると、「第3ターミナルはここか?」、と言っている事が分かった。
国際線に乗って帰国する途中なのだろうか。
やや焦っているように見えるのは、出発時間が近いからだろう。
第2ターミナルは、モノレールの終点である。
つまり、第3ターミナルはとうに過ぎている。
私は、どう伝えていいのか困った。
モノレールの開閉扉の上部には、cmや停車駅の一覧を交互に流す画面がある。
私は、画面を指差す。
彼も見た。
「第2ターミナル!」と私は言った。
今の駅が、なんて言葉は出なかった。
「Terminal 2!」と彼が言った。
私は2すら英語で言えてないことに気づき、彼の言葉を真似して「ターミナルトゥー!」と言った。
第3ターミナルでないことは伝わったと思うけど、どうやって第3ターミナルへ行けば良いのか伝えられない。
cmに切り替わる画面。
私は困った。
携帯でモノレールの停車駅一覧の画像を出す。
字が小さいし、見せた所で何と言えば良いのか分からない。
私は説明する方法が分からず、焦った。
翻訳アプリを使おうかと思った。
けれども、今まで使った事がないため手間取る間に時間が過ぎるかもしれない。
それに、すでに私はアプリを淡々と起動するだけの冷静さを失っていた。
「Back!」と、私は言った。
しかし、今乗っている車体はすぐに第3ターミナルへ向けて戻らないし、目の前の彼にもそんな権限はない。
車体が完全に停止し、開閉扉が開く。
私は、どっかに案内板があるかもしれないと思いモノレールを降りた。
「Let's go」という言葉すら頭に浮かばす、無言で降りた。
幸い、彼も一緒に降りてきてくれた。
向かいには、別のモノレールが停車していた。
同時に、停車駅一覧の案内板を見つける。
私は、第2ターミナルの部分に『this station』と書かれているのを発見する。
さも知っていたかのように案内板へ指差しながら、彼に「This station!ターミナルトゥー!」と言った。
述語なんて知らん。
それから、「1,2,3!」と言いながら指を次の停車駅へとずらしていく。
第2ターミナルの次の第1ターミナル、新整備場そして第3ターミナルへと指す指を移動させて「ターミナルスリー!」と言った。
彼は英語で何か言った。
多分、目の前の車体が第3ターミナルに向かうものなのか聞いたのだろう。
私は、「Yes!」と言った。
車内に入っていく彼。
モノレールは、すぐに出発した。
今更ながら私は、出発した便が快速でないかを携帯で調べた。
そうだとしても、もう手遅れだが自分を安心させたかった。
各駅停車だった。
空港で手続きをしながらモヤモヤした。
一歩間違えれば、帰国したい1人の人間を滞在させてしまう所だった。
人助けもリスクがある。
私には荷が重い。

リスキーな道案内

リスキーな道案内

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-16

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