土方歳三のハラスメント

 土方歳三は薬の行商で各地を廻っていたらしい。そのついでに、あちこちの道場を見て回ったことだろう。土方の慧眼は、太平の世の後の剣法は寸止めを行っているのに気が付く。
 激しく撃ち合っているようだが、実は木剣と木剣を合わせているだけで、体にまでは届いていない。
 まあ確かに当たり処が悪ければ、大怪我か、さもなくば死である。そうそう真剣には打ち込めない。どうしても小手先の技を競い合う。そうなると実戦の役に立たない。浅い撃ちを繰り返すだけの徒労になる。
 天然理心流では木剣を合わせるというより、体と体をぶつけ合うような稽古を行う。それぐらい相手に対して踏み込むことを体に覚えさせる。技は正面からの面打ちと、突き。それぐらいで良い。様々な技で華麗に刀を動かす道場からすれば、まさに田舎剣法である。
 しかし、これが実戦では物を言うのだ。
 新撰組副長となった土方は、さらに推し進める。人を斬ること。技ではない、人を斬ることこそが最重要。新撰組では剣の稽古などというより人を斬る機会を与える。京の都の実戦で臆病と見れば切腹させる。切腹の介錯、つまり首斬りを新隊士に命じて人斬りの経験を積ませる。プーチン氏も顔負けの殺害プログラムではなかろうか。恐るべきハラスメントでもあろう。

土方歳三のハラスメント

土方歳三のハラスメント

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-12-11

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