朝からモツ

両親と同居する独身女のちょっぴりほろ苦い随筆

   「朝からモツ」

 増える一方の体重。
 これはいかんと筋トレを始めた。
 食事もたんぱく質を中心に。特に朝食は大事と聞く。
毎朝卵焼き、目玉焼き、納豆、焼き鮭、シシャモに干物。そんな折、スーパーで特売の豚モツを見かけた。何かがひらめいた。
 一パック買い、翌朝早速煮てみた。
 失敗だった。さっと煮込むだけでは、食感もゴムのようだ。味も染みず、モツの臭さだけが口に広がった。
 次からは前の晩から、鍋にモツと焼き肉のタレを入れ、ゆっくり煮込むことにした。
 いい感じである。翌朝の飴色に透き通るようになったモツは、臭みもなく深い味だ。
 「幾ら作ってあげる人がいないからって」
 朝からモツ煮込みをかき込む私に、両親は呆れ顔だ。
 考えてみれば、出勤する夫と、食育にも気を配らなければならない子供を抱えていれば、朝からモツなんて作らないだろう。

 一人身の自由を満喫しつつ、両親のいなくなった未来の自分を想像する。きっとつまらなさそうな顔で、もつ煮込みの朝食をもそもそしていることだろう。
 隣の椅子にも向かいの椅子にも誰もいない。ただテレビの音が、部屋の無言を埋めて行く。
 私の唇は寂しく歪むだろう。そのクレイジーな食に突っこむ者がいなくては。
 そう思うと、口の中のモツがやけにしょっぱくなるのだった。

                                        了

朝からモツ

朝からモツ

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-18

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted