不合格体験記

 痩せ細った少女がベッドの上に仰向けになり、スマホを操作している。その手つきは大変ゆっくりだった。もうすぐ日付が変わる、夜の真っ暗な部屋で。

「夕方に担任の美奈ちゃんから家電で『今から家族で学校に来てください』と言われて、私は、留年が決まって、それは電話では言えないんだ、と思って学校に行きました。父が会社から帰るのを待ってから出発したので、着いたのは8時くらいでした。美奈ちゃんが出迎えてくれて、そのままみんなで会議室に行きました。すると、教頭、教務主任、学年主任が立っていて、ウチと美奈ちゃんも足して、面談が始まりました。
 いきなり結果だけ、教務主任から。
『卒業が認定されました』と。
 私は喜びと『え?』という気持ちで崩れ落ちそうになりました。パッと美奈ちゃんを見たら、ニコッて笑ってくれて、ほんとに卒業できるんだ……と思いました。
 そのあと、追試の結果を伝えられましたが、物理が不合格でした。
 当たり前だけど、全科目合格しないと卒業できないから、追試が不合格なのに卒業できるのは極めて異例のことなので、電話では言えなかったとのことでした。
 だけど、私が1年間授業後に補習をがんばっていたことや、追試に向けた補習をがんばったこと、手が震えて字が書けないながらもなんとか勉強したこと、しんどくても母に送迎してもらって何とか通ったこと、などなど私が1年間やってきたことを考慮して、会議の結果認められたとのことでした。美奈ちゃんや保健室の先生や1年、2年の時の担任など、私のことをよく知ってくれてる先生たちが、なんとか私の卒業が認められるように、走り回ってくれたと言っていました。物理の教科担の伊口先生も「あなたが努力してたことは忘れてないよ」と追試の前に言ってくれてたので、名前は上がってなかったけど、伊口先生も入っていそうな気がします。
 ちなみに、美奈ちゃんは私がいるから3年5組の担任になったって前に言っていました。部活でよく知ってるから私がいるクラスに立候補したらしいです。なんとなく、父が『あの先生は将来出世するな』と言ってたけど、美奈ちゃんはずっと下っぱのままでいてほしいと思います(悪い意味じゃないです)。
 先生方には感謝しかありません……
 友達も、先輩も、後輩も、この場を借りてお礼が言いたいです。
 ありがとうございました!」

 このメモをスクショして、少女はストーリーに載せた。そしてスマホを枕の横に置き、あっという間に眠りに落ちた。
 この投稿がその後校内で大きな反響を呼ぶことになるが、少女はまだ何も知らない。

不合格体験記

不合格体験記

第2弾です。前回は朝、今回は夜。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-11-08

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