夜の高速道路。隣車線のトラックが私を抜き、銀色だった視界が真っ黒に満たない、しかし紺よりも深い夜で塗りつぶされる。スマホは22時を知らせる。私には好きな人がいる。頭上を埋める闇を遥か遠くまでつたって行けば彼に会える。本当に会えるのだろうか?私はまだ彼がこの世に存在していないような気になる。地球は丸くて、大陸もたくさんあって、色々な国や暮らしや人が存在することを私は知っているように、彼がこの世に存在することも脳では理解している。それでもその目で見なければ証明ではない。そこまで考えて、は。と深い闇は水を含めた墨汁のように白けた。夢を見たような軽い浮遊感を覚える。ともかく、私は彼が好きだ。好きという気持ちは、対象が何であれど持っていい感情であるべきだ。存在することを望むなら見に行けばいい。望まないとしても好きであることに変わりはない。それでいい。今は。墨汁になった夜はいつの間にかビルに彩られていた。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-10-28

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