情のない女

情のない女

ずっとこれからも仲良くしようね

ずっと憧れて来たんだよ。ねえ、あなたの外枠も内側も。
親の都合で放り込まれた転校先の中学で、どんなにあなたは輝いて見えたか。
もっさりとした田舎の連中ばかりの中で、あなたはひとり異質だった。
私達はすぐに同類の臭いを嗅ぎ分け、仲良くなった。
ああ、何の話をしたっけ。
……歴史上の人物の話、ミュージカルの話、珍しい昆虫の話、精神の病に関する話、美しい花の話それから運命について。……。そういうのはクラスの誰とも共有できない。あなたとだけだ。あなたとだけ。昼休みの図書室。放課後の音楽室。私達はまるで恋人のように逢瀬を楽しんだ。
(その中学では仲の良い者同士は同じクラスにしないという不文律があったからだ)
やがて月日は流れ私達は大人になった。
少なくとも私は。平凡に就職し平凡に結婚し家庭を持った。
中学生の頃に抱いた野望はどれも実現しなかったが、それを哀しいと思わぬほどに私は大人になった。
けれどあなたは大人になれなかった。
子どもの頃のままの心で、身体だけが年老いていった。
どんどん深まって行くあなたの外枠と内側のギャップに私はただただ怖れ慄いた。
こんな事になるなんて思いもしなかったのだ。あなたこそは私の憧れだった。
誰よりも優雅で誰よりも超越していた。
生意気で小憎らしくてでも可愛らしくて、何よりも大好きだった。
その内面のまま、老いるということをあなたは自分に許さなかったのだ。
その為あなたは中身は中学生で外見は初老の女となり、とてもチグハグな具合になってしまった。

あのきらきらとした青春の日々を思い出す。
あれはあの時だけの宝物だった。私達のかけがえのない宝物。
そして年月を経て今、宝物はただのがらくたになってしまった。
がらくたをいつまでも大切に持ち続ける意味が分からない私はたぶん薄情者なのだ。
あんなに一緒にいたのに。何でも共有したのに。あんなに親友だったのに。
薄情者、裏切り者、許さない。絶対に許さない。離れないから。
そう私をののしるあなたの声が今日も電話口から流れて来る。
私はその間ずっとがらくたの埋葬の仕方を考え続け、けして自分を責めないようにと心を閉ざす。

それがあなたと私の結末。


情のない女

情のない女

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-10-23

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