お墓参り

お墓参り

夏の週末、ベルリン・アレクサンダープラッツ駅からSバーン(近郊列車)に乗って、(さとる)と潮見はベルリン圏内のカウルスドルフという駅に20分強で到着した。

この駅から徒歩8分のところに、クレセント製薬ドイツ本社事務所の役員秘書室の潮見の同僚が、結婚式を挙げるホテルがあり、潮見も呼ばれたので聡と一緒に出席し、結婚式の後一泊することにした。ドレスコードは、男性はジャケット、女性はワンピースなどのカジュアルなもので、ミッテの家を出る前に、聡と潮見はカジュアルだがきちんとした服装を互いにチェックした。

地元の人には邸宅(ヴィラ)と呼ばれている可愛らしい赤い屋根の、小さなお城風の建物で、スタッフの暖かいサービスを受け、潮見の同僚の女性秘書は、白いベールとウェディングドレスを着て結婚式を挙げ、大きな白いばらの花束を抱えて、やはりばらの花を胸に飾りタキシードをビシッと決めた花婿の隣で幸せそうに微笑んでいた。潮見も聡も二人のところへ行って、心からおめでとうを言った。

その後ガーデンパーティーみたいなお祝い会が午後3時頃まで続いて、新郎新婦は「Just Married」というプレートが後ろに取り付けられた車で北ドイツの島へ新婚旅行に向かい、参列者は散って行った。

聡と潮見は赤い屋根のホテルにチェックインし、シンプルなダブルルームに通された。辺りは住宅街でとても静かで、夜になると、窓から見る夏空にはたくさんの星がまたたいていた。

「やっとロマンチックな雰囲気になりましたねえ」
聡はまたたく星々を眺めてちょっとふざけて言った。
「聡、体調はどう? 疲れてない?」
「ええ、普通ですよ」

その夜、潮見はいつになく激しく聡を求めた。こんな潮見は初めてだったが、自分も大人だし、藤沢さんにも伝えて認めてもらった仲だから、とても不器用ではあったが、その情熱に応えた。緊張し過ぎて、聡は素っ裸でベッドから床に落ちたが、幸い高いベッドではなく、怪我はしなかった。

「聡! 大丈夫か!?」
と潮見は叫びながら、小さなパートナーをベッドに引っ張り上げた。その身体はびっくりするくらい軽かった。その軽さに、潮見はこみ上げる涙を押さえて、小さな恋人を抱きしめた。

それから、聡は萌原でやすゆきにしたことを思い出し、自分から積極的にどうしていいかはよく分からなかったが、まあまあちょっぴりしどけないポーズを取ってみたり、潮見に挿入されたとき、声を出してみたりしてそれなりに頑張った。

「そんな顔や声、どこで覚えたんだ?」
と言いながら潮見が聡の背中に覆い被さってグイグイ責めると、聡は息絶え絶えに
「あなたのために、お友だちで練習した」
と答え、潮見は
「けしからん!」
と笑いながら叫んで、聡の敏感なところをいじめ続けたので、シーツの上は聡の涙と、二人の体液でぐっしょり濡れた。

「バスケットボール48分か、テニスを5セットマッチまで戦ったみたいに疲れた」
と潮見は言い、聡は子どもみたいにケラケラと笑った。

シャワーを浴びて、予備のシーツを発見したので二人で張って、汚れたシーツは恥ずかしいから小さく畳んで部屋の隅に置いた。心地よい疲れで二人は眠りに落ちた。

翌朝、若い二人は意外と早く目が覚め、天気も良いので、7時からの朝食前に散歩に出かけることにした。

途中で黒い犬を連れた女性に会ったので、二人はおはようございます! と元気に挨拶した。女性は、おはようございます、あら、日本から? 今はベルリン・ミッテに住んでるの? まあ、二人はクレセント製薬の同僚? 私この頃腰が痛くてねえ。いいお薬を作ってね!

この辺に散歩するのにおすすめの場所はありますかと聡が聞いたら、この先にカウルスドルフの墓地があると教えてくれた。僕らは誰も縁者がいませんが、お墓参りをしても構いませんか? と聡が続いて聞いたら、5月から9月は朝7時から21時まで門が開いているから、誰でもお参りできるということだった。そこで朝食は少し遅めにして、15分弱歩いて墓地の門の前に着いた。女性が言った通り、門は開かれていた。
「夏にお墓と言うと」
潮見は静かに扉を押して墓地に入り、低い声で言った。
「ヘルマン・ヘッセというドイツの作家が書いた小説に『クヌルプ』って言うのがあって、クヌルプは放浪者なんだが、若い頃、夏の徒歩旅行中に友だちと墓地で休むんだ」
「それは畑の間にある墓地で、農民たちのお墓には、きれいな花がたくさん供えられているんだよ」

二人が墓地に入って行くと、この小さな村のお墓もそうだった。二人で寄り添いながら、(さとる)と潮見はお墓の墓碑銘を呼んだ。

「これはルートさんとマンフレートさん、ご夫婦が仲良く眠っているお墓ですね」
聡はつぶやき、二人で手を合わせた。
墓石は赤いばらや、緑のたくさんの常緑樹、小さな野ばらで囲まれていた。
「いいなあ、僕たちも小さくていいから一緒に埋めてもらいたいな」
と聡は言った。
「そうだね、もし誰かが野の花を供えてくれたら最高だ」
と潮見は答えた。
二人は墓地を回ってほかのお墓の墓碑銘も読み、そうこうするうちにお腹も空いてきたので、墓地に向かって礼をしてから扉を閉じ、ホテルに向かって元気に歩いて行った。

お墓参り

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  • 小説
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更新日
登録日
2023-10-18

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