虹のたもとで待ってるんだよ

うちの猫の話

うちに居たシオは、なんだかとっても人間っぽい猫だった。

転がっていたネズミのおもちゃを通り過ぎようとして立ち止まり二度見したり。

シオより先に居た猫と、仲良くしたいのにできなくて、いつもがっかりしていた。
でも新しく来た猫とは仲良くなれた。そうしたら急に私たち人間に甘えるようになった。
もしかしたら新しく来た猫にやきもちをやいたのかもしれない。
しかもその甘え方といったら、夕飯時に食事中の父の背中に爪を立てることだったり。

弟が帰省すると、弟の頭のてっぺんをバリバリ舐めていた。

私のほっぺたもザリザリ舐めた、けど最後はかじる。

「今朝シオがさ！」と、父、母、弟、弟の嫁が一人ずつバラバラに、私に同じ話を報告する日があった。
どんな話だったかは憶えていないから、多分たいした話じゃない。

ある冬の日、シオを何度目かの病院に連れて行き、行き帰りの車の中で声が枯れるまでニャーニャー鳴く。
家に着いて中に入ろうとしたら玄関の前で逃走した。
雪の中、家の周りを一周して、後ろから父が追いかけ、私はシオの前で待ち受けた。
私のところにたどり着く前に、雪の中でシオは立ち止まって。
途方に暮れたように見えた。
その時私は、猫も途方に暮れるのかと思った。

その姿を昨日、ふと思い出した。

シオが旅立って数年経つ。
向こうへ行って、あんな風に途方に暮れていたらどうしようと思ったら、涙が出た。

だからね、シオ。
虹を目指しなさい。シオは虹を見たことがあったかな？
とにかく明るくてきれいな色の柱が空に見えるから。
そこへ行ったら、シオがよく日向ぼっこしていたベランダのベンチを思い出してほしい。
ベンチがなかったら、柔らかい草の上でもいい。
そこでいつものように手も足ものばしてゴロンと寝転がってグーグー言いながら寝て、待っててよ。
シオは不思議とベンチの上からは動かなかったから、外に出しても逃げたりしないで
しばらく二人でベンチに座ってボーっとしたもんだった。
あの時みたいに、そうやって、虹のたもとで待っててよ。

今は私のそばに居なくていい。
シオは虹のたもとで待ってるんだよ。

私のことは忘れて、先に虹を渡っててもいいよ。
でも、シオのことだから、呼んだら来るでしょ。

いつか私もそっちへ行ったら、虹を目指すよ。
だから。