「逢魔が時」

 おばけ
 おばけ
 何処にいる?
 白い姿はためかす
 足跡持たない
 あの
 おばけは何処に

 おや
 子供がひとり
 赤い着物の禿がひとり
 手毬をついて
 五色(ごしき)の紐がさらさら揺れている
 おばけは何処に

 手毬唄
 知らない唄
 耳に渦巻き栓をする
   ここは いづこの やなぎみち
   とおりなさい
   とおりなさい
 おばけは何処に

「こちらへ」
「こちらへ」
 さし招くをみなの声
 呼ぶるはひとり
 言葉繰りかへし
 「こちらへ」
 「こちらへ」
 白きおとがい
 水寄る音
 たなびく袂
 指ぶえの音…
  「こちらへ」
  「こちらへ」
 ここは
 どこの
   「こちらへ」
   「こちらへ」
 冬の道
    「こちらへ」
    「こちらへ」
 柳 揺れて
     「こちらへ」
     「こちらへ」
 淡い緑青の葉が触れた…
      「こちらへ」
      「こちらへ」
 みるまに涙の色に顔染まり
 赤い羽織に袖とおす
       「こちらへ」
     「こちらへ」
 身体 軽く
        「こちらへ」
        「こちらへ」
 まるで
         「こちらへ」
 水の…中…

「逢魔が時」

「逢魔が時」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-09-13

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