平和軸 一虎くんに彼女がいたら 第9話
第9話「彼女の人生」
梨奈の家からの帰り道。梨奈は戒律を破って体を重ねたことに少し後ろめたさを感じていたらしい。
「明日懺悔しに行こう……」
「俺も行くよ。将来俺が嫁に貰うからさ」
俺は本気だ。ここまで俺を愛してくれる女は他にいねぇからよ。
時が経って高校3年の9月。俺は18歳の誕生日を迎えた。
「とら、18歳の誕生日おめでとう」
「ありがとう。え?ホールケーキじゃん!」
「これからは毎年どっちかが死ぬまでホールケーキで祝ってあげるね」
「死ぬまで……」
俺は感動した。俺と死ぬまで一緒にいてくれようとしてんだぜこの子!!そう思うとすげぇ抱きたくなった。
「梨奈」
「え?」
「すげえ今抱きたい!」
「い、今?!」
「うん、今!」
梨奈は時計を見て「1時間だけだよ?」と言ってベッドの中に入れてくれた。俺は梨奈を優しく抱いたつもりだ。
♡
数ヶ月後。俺たちは高校卒業前に教会に行った。
梨奈がキリストの前で十字架を持って誓いを立てた。
「彼と生涯を共にするため、私は努力します。もちろん専門学校への受験も気を抜かずに頑張ります」
(俺との将来のために……)
梨奈がここまで俺と一緒にいたいのは好きだけの感情じゃねぇからなんだよな。俺もバイト頑張んねぇとな。
高校卒業後。なかなか会えなくてゴールデンウィークに会った俺たちは激しく愛し合った。
「会いたかったよ、とら!」
「俺も会いたかったぜ」
会えなかった時間を愛の確認で埋めていく。
そんな俺たちは付き合って3年経つけど、俺は梨奈がこんな町に越してきた本当の理由を知らない。
俺は梨奈に尋ねた。
「梨奈、こんな町に越してきた本当の理由は?」
俺、うすうす気づいてたんだよな、父親の転勤だけじゃないんだろうなって。
「……いじめられてたからだよ」
梨奈はいじめの温床となった札幌のとある中学校の裏サイトを俺に見せてきた。
「ひでぇこと書いてんな。梨奈の顔とか成績に対して僻(ひが)んでるとしか思えねえ」
「私、耐えられなくて逃げてきたの」
梨奈の目からぼたぼたと涙が溢れる。きっと辛かった日々が蘇ってきたんだろうな。
裏サイトだけじゃなくて、クラスでも一斉無視されたり、金づるにされたこともあったらしい。女子校だったから余計に陰湿だったこともあって逃げる他なかったらしい。
梨奈は俺に全て話してくれた。俺は強く抱きしめる。
「俺もね、梨奈ほどじゃねえけど友達だと思ってたやつに金づるにされてたことあるんだ。小坊の時話だけど」
「とらも?」
「うん。そんとき助けてくれたのが場地だった」
「場地くん……」
場地は俺の親友だ。髪が長くて東京卍會の中では問題児扱いだけど、本当は強くて優しいやつだ。
「あん時、場地に助けてもらってなかったら、今でも金づるだったかもしんねぇな。本当のダチがなんなのかわかんねえまま」
「そうなんだ」
「梨奈、今でも女子どもに虐められてたりしてねぇか?してたらすぐに俺に言えよ?」
「うん……今は大丈夫だけど」
「そうか?もし虐められたらすぐ言えよ?東京卍會のメンバーがすぐに行くからな」
「とら……ありがとう」
平和軸 一虎くんに彼女がいたら 第9話