平和軸 一虎くんに彼女がいたら
第1話「彼女との出会い」
2005年4月の東京。羽宮一虎(はねみやかずとら)がいるクラスに札幌から大橋梨奈(おおはしりな)が転校してくる。
「羽宮くん、よろしくね」
一虎の隣に座った梨奈はかわいらしい笑顔を一虎に向けた。
全てはここから始まったーー。
♡
大橋梨奈は父親の転勤で東京に来たらしい。
美人でスタイルも良く頭もいいからクラスの人気者になった。なのに、なぜか俺に絡んでくる。
「羽宮くん、クッキー焼いたの。食べる?」
他の女子から「羽宮くんはとんでもない不良だからやめとけ」だの、「刺青(タトゥー)入れてんだよ、怖い」だの言われても、本人は全く気にしてない様子だ。
まあ、クッキーは美味そうだったから受け取ったけどな。実際美味かったし。
そんな大橋がある日、帰り道の繁華街でスカートの中を盗撮されてたんだ。
俺は盗撮魔のこめかみ目掛けて拳を振り上げ殴った。
「人の女のスカートの中、撮ってんじゃねーよ!」
……あれ?俺、“人の女”つったか?つまり、大橋は俺の女ってこと?は?
殴られた盗撮魔は脳震盪(のうしんとう)を起こしたのか倒れている。
「に、逃げるぞ!大橋!」
「う、うん!」
俺たちは近くの喫茶店に入った。取り敢えず、走って乱れた呼吸を整えてコーヒー……じゃなくて、メロンソーダを2つ注文した。
「羽宮くん」
「ん?何だよ?」
「助けてくれてありがとう」
「礼なんかいいって」
「でも」
「あん?」
「盗撮から助けてくれたのは嬉しいけど、誰でも彼でも殴っちゃダメだよ。私と神様との約束」
大橋は俺の両手を握った。両手の中には十字架のネックレスがある。俺は初めて女の子と手を握ったから真っ赤だった。
「ねぇ、もう殴らないって約束してくれる?」
俺は約束しちまった。
「うん……約束する」
追い詰められるとダメなのかな、俺……。
平和軸 一虎くんに彼女がいたら