月と金星

 暗い空に紫煙を送って、助けてくださいと言った。俺は月と金星のハーフ。休憩が終わり、交信は途切れる。
 なんでいつもそんななの。
 言われてもねぇ。こうなる前のことは自分でも思い出せない。何考えてたのか。どうやって生きてきたのか。
 忘れたよ。帰路も前世もママの顔も。

「ここ行こうや」
 送られてきたそば屋の住所。天ぷらが絶品とのこと。
「なんでこんなおいしいんやろ」
「全然重くない」
「きっと油がいんやろね」
 こうなる前のことは自分でも思い出せない。どう出会ったのか。その時何を話したのか。
 かぼちゃはお前が食べるといい。俺の一番大切なものだから。
「長野行ったときもくれたよなぁ」
「そうだっけ?」

 自転車飛ばして帰る時も、風の中から聞こえてくる。
 なんでこうなったの?――(母さん)に聞いて。
 いつまでこうなの?――金星(父さん)に聞いて。
 本当は自分が一番よく分かっているはずなのに。
 曇天にテレパシーを送って、白い息を吐いた。――ここにいてもいいのでしょうか。
 受信する。
「長野じゃなくて伊勢やったかもしれん」

月と金星

月と金星

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-08-12

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