【声劇台本 男3】『それはどこかドンペリの泡に似て』(BL版)

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『それはどこかドンペリの泡に似て』


ユキヤ … 自己肯定感の低い男

レイ … あざとい接客で人気のホスト。クズ。

ナオキ … レイのヘルプ、そして……


★★★本文

ユキヤ:(モノローグ)それはどこかドンペリの泡に似ていた。

(ホストクラブ)

レイ:ねぇねぇ、今日はいくらまで出せそ?

ユキヤ:ごめん、頑張って5万とか……

レイ:あーそう、ふーん……

ユキヤ:ごめん

レイ:なんで謝るの?

ユキヤ:いや、少なくて。

レイ:いいよ別に。ユキヤ、最近、そんな感じだってわかってるし?

ユキヤ:そんな感じ、ってどういうこと?

レイ:そういう感じ。もう俺に飽きたのかなって。ほら、好きな子ができたとかさ?

ユキヤ:そんなことない。

レイ:そう?

ユキヤ:うん……

レイ:あーあ、それじゃあ、あんまりユキヤの席にいられないじゃん。
わかるよね? もっと高いボトル入れてくれるお客さんに悪いからさ。

ユキヤ:だよね、わかってる。

レイ:うん、俺だってもっとユキヤと話したいんだよ? 
色々、聞いて欲しいこともあるし……あ、そういえば、こないださ、すごく変わったお客さんが来て、(席に付くなり、いきなりなんて言ったと思う?)

ナオキ:(前の台詞をさえぎって)お話し中すみません、レイさん、ご指名です。

レイ:えーちょっと待ってよ。せっかくユキヤが久しぶりに来てくれたのに。

ナオキ:……すみません。

レイ:すぐ行かなきゃいけない感じ?

ナオキ:お願いします。

レイ:うーん、ごめんね、ユキヤもう行かなきゃ。

ユキヤ:うん、……いいよ。

レイ:もっと話したかったなぁ。ユキヤ聞き上手だからつい話しちゃうんだよね。
絶対、また来てね、ユキヤ。絶対だよ?

ユキヤ:うん、わかった。

(レイ 去る)(ナオキ 座る)

ナオキ:すみません、ユキヤさん

ユキヤ:いや、いいよ……僕は細客だし……それに……とにかく、いいんだ。

ナオキ:気にしなくていいですよ。どんなお客さんでもお客さんであることに変わりないですし。細いお客さんをたくさん捕まえるタイプのホストもいますから。

ユキヤ:レイは、そういうタイプじゃないよね。

ナオキ:まあ、そうですね。

ユキヤ:レイ、最近ますます人気出てきたからね。俺は、全然役に立ててないけど。
……あ、ナオキ君もいいよ。ヘルプも足りてないでしょ? 他のお客さんについててあげて?

ナオキ:俺のことまで気にしないでください。ユキヤさんのことはレイさんから頼まれてますから。

ユキヤ:ありがとう。でも、今日は……そんなに持ってきてないし。もっと他の、太い女の子接客した方が、コスパいいでしょ? 俺は少し飲んだら帰るからさ。

ナオキ:相変わらず控えめですね。珍しいですよ、そんなお客さん。
みんなちょっとでも担当にいてもらおうと必死なのに。
……まあ、ユキヤさんがそれでいいならいいですけど。

ユキヤ:うん、ありがとうナオキ君。いつも、席についてくれて。

ユキヤ:(モノローグ)俺は多分おかしい。男なのに、ホストクラブに通っている。
きっかけは些細なことだった。
会社の飲み会の後、酔っぱらった女上司を送って行く途中、行きつけらしいホストクラブに引っ張りこまれた。
泥酔した上司は、お気に入りのホストに夢中で、帰るに帰れず、俺は途方に暮れていた。
ウーロン茶のグラスを抱えて、困り果てていると話しかけてきたのがレイだった。

レイ:もしもーし? どうしたんですか? ぼーっとして。

ユキヤ:(モノローグ)レイの姿に俺は思わず息を飲んだ。キレイな銀色の髪、細く引き締まった体。
小づくりなきれいな顔。ブルーのコンタクトが入った瞳は、無邪気な笑みを湛えて(たたえて)俺をまっすぐに見つめていた。

ユキヤ:……いや、その。

レイ:初めてのお客さんですよね? よかったら一緒に飲みませんか?

ユキヤ:あ、えっと……いや、いいよ、俺は上司の付き添いで来ただけだし。

レイ:ああ……なるほど。そっかぁ、それは残念でしたね。んーキャバクラだったらよかったですね?

ユキヤ:……いや、そういう訳じゃ、ないんだけど。

レイ:そっか、嫌ですよね、男に接客されるのなんて。

ユキヤ:そ、そんなことはなくて……嫌なのは、えっと君、っていうか、ホストさんたちの方、かなって。

レイ:あ! 名乗るの忘れてました、俺、レイっていいます。はい、これ名刺。

ユキヤ:あ、ありがとう。じゃあ、一応もらっておくね?

レイ:お客さんの名前は? 聞いていいですか?

ユキヤ:ああ、前橋です……

レイ:下の名前は?

ユキヤ:ユキヤ……

レイ:ユキヤ……うん、いい名前。ユキヤさん、って呼んでいい?

ユキヤ:うん、いいけど。まあどうせもう、来ないと思うし。

レイ:え、なんで? 決定なんですか、それ?
んー、ユキヤさん真面目そうですもんね。ホストクラブとか、気持ち悪い、って思います?

ユキヤ:そうじゃなくて、俺、お金、持ってないし。女でもないし。相手にしてもらえないの、わかってるから。

レイ:え、そんな理由? しますします相手! (ユキヤの手を握る)

ユキヤ:わっ!

レイ:ああ、すみませんっ! 俺、興奮するとすぐ人に触っちゃう癖があって。
こら、ダメだろ、めっ! (自分の手を叩く)

ユキヤ:……(ちょっとびっくりした後、少し吹き出す)

レイ:あ、笑った! 笑った顔、かわいい!

ユキヤ:や、やめてよ。かわいいわけないよ。俺なんて……

レイ:えー俺は好きですよ、ユキヤさんの顔。すごく優しそうで。

ユキヤ:いや、そんなわけないし……

レイ:ねーねー、もっと笑って? 
俺ね、ここに来たお客さんには、みんな笑顔になって帰って欲しいな、って思ってるんです。
ユキヤさんみたいに、成り行きで来ちゃったとしても『案外、楽しかったな』くらいは思って欲しくて。
ねぇ、どうしたらユキヤさんはもっと笑ってくれます?

ユキヤ:さ、さあ、俺にもわからないよ。あんまり笑うことないし。人と話すの得意じゃないし。

レイ:そっかあ……じゃあ、一緒に探していきません? ユキヤさんが楽しいと思えること。

ユキヤ:そんな、いいよ、気を使わなくて。

レイ:使ってないですよ。俺がそうしたいだけです。そだ、連絡先教えてくれません?

ユキヤ:え……?

レイ:俺、なんかユキヤさんに興味がわいてきちゃって。

ユキヤ:そんな、どうして、俺なんか……。

レイ:うーん、どうしてって聞かれると、どうしてなんだろ?
笑ってくれないから意地でも笑わせたくなったのかな?
さっきの笑顔、すごく可愛かったから、また見たいし。
それに、単純に、男友達欲しいなって。

ユキヤ:ともだち?

レイ:もー聞いてくれます? ホストって、超忙しいんですよ。
営業時間外でも、お客さんからずっとメールとか電話とか来るし。
で、女の子とばかり話してるから、ああ、たまには男の人と話したい!って思ってたんですよね。
ね、いいでしょ? 友達になってよ、ユキヤさん。

ユキヤ:とも、だち……?

レイ:そう、ダメ? ホストなんかと友達になるとかない感じ?

ユキヤ:そういうわけじゃ……いいよ、連絡先くらいなら……別に……

ユキヤ:(モノローグ)強引なレイに押し切られる形で、連絡先を交換した。
それがホストの使う手練手管だと、どこかで気が付いていたのか、いなかったのか、今でもわからない……。


(バックヤード)

ナオキ:レイさんお疲れ様です。

レイ:はぁ……あ……(舌打ち)タバコ切れてる。ナオキ持ってる?

ナオキ:はい……どうぞ。(あればライターの音)

レイ:ん……(タバコ吸う)あー、マジ疲れたんだけど。ホント、ありえね。
今日、来るって約束した客が2人も来なくて、ブチキレそう。舐めてんのかっての。
よさげな新規の客が来てたのに、俺に回ってくる前に、リョウ陣営のマナトが場内指名、取りやがって。
はーお茶っぴきですか、俺は。そうですか。

ナオキ:あーそれで……なんか男性客の相手始めたから珍しいなって思って。

レイ:ああ、さっきの? 何ていったっけ? ユキ……ユキオ? 

ナオキ:ユキヤですね。

レイ:あーそうそう、それ。ま、ヒマだったってのもあるんだけどさ、気づいた? 
あいつ、沼る女と同じ目してんの。

ナオキ:へぇ。気が付きませんでした、沼りそうな男っているんですね。

レイ:ほら……めっちゃガッチガチにバリア張って「誰も近寄らないで!」って態度のくせに、「誰か私を愛して!」ってオーラが漏れてる女いるじゃん? あんな感じ。
面白いから、試しに育ててみようかなーと思って。

ナオキ:そんな、毛色の珍しいペット欲しがるみたいな……別にいいですけど。
しかし、金落としますかね?

レイ:さあ、わかんないけど。真面目しか取り柄ありませーん、って感じだったから、それなりに貯めてそうじゃん? 多分、彼女とかいないから、使い道もなさそうだし?

ナオキ:え、もうそんなことまで聞きだしたんですか?

レイ:ううん、聞いてない。でもわかる。あいつこっちだもん。

ナオキ:え、そうなんですか? ……普通の大人しい男にしか見えなかったですけどね。まあでも……レイさんがそう言うならそうなんでしょうね。

レイ:妬くな妬くな。

ナオキ:妬きますよ。

レイ:ばーか。ま、そんなわけで、あいつきたら、お前ヘルプついてよ。

ナオキ:俺が、ですか?

レイ:他に誰に頼めるって?

ナオキ:しかたないですね。わかりました。

レイ:頼むぜ、ナオキ。

ナオキ:はい、レイさん。

(バックヤード終わり)

ユキヤ:(モノローグ)初来店依頼、レイとメッセージのやり取りをするようになった。
それは思いの外、楽しかった。まるで本当に友達ができたみたいに。
俺に友達はいない。
誰かと仲良くなっても、すぐに壊れてしまう。というか、俺が壊してしまうのだ。
いつの間にか誰かと親しくなることを諦めていた。
レイはさすがホストと言うべきか、俺の少ない話題の引き出しをうまく探し当てて、話を盛り上げるのがうまかった。
いつも明るく、無邪気で、好奇心旺盛なレイ。俺には、ただ、まぶしかった。

(メールのやりとり)

レイ:『えー、ユキヤさんもその漫画好きなんですか? 
俺も実家に全巻持ってるんですよ! どのキャラが好きですか? 
あー語りたいけど、語りだすと長くなっちゃう。
ね、やっぱり今度ご飯いきましょうよ! ユキヤさんと話したい!』

ユキヤ:『俺なんかと行っても楽しくないよ』

レイ:『そこは俺が楽しくしますからー? ね、いいでしょ? 一回だけ!』

ユキヤ:『いや、いいよ』

レイ:『やだやだー! ユキヤさんに会いたい! ね、お願い? 優しくするから、ちょっとだけ! さきっちょだけ!』

ユキヤ:『え?』

レイ:『あ、引きました? 冗談ですって!』

ユキヤ:『わかった、じゃあ、お店に行くよ。それでいい?』

レイ:『え、お店来てくれるんですか!? やった! いつ、いつこれます? じゃあ、俺のスケジュール送りますね! 楽しみだなぁ!』

ユキヤ:(モノローグ)これ以上、進んではいけない。心のどこかで自分自身の鳴らす警鐘(けいしょう)に気が付いていたと思う。
それでも、レイに押し負ける形で、俺はまたホストクラブに行くことになった。
そして、一度、行ったが最後、俺はずるずるとレイの手の中に堕ちて行った。

(回想)
レイ:ユキヤさん、来てくれたんですね。嬉しい、ずっと待ってたんですよ。
レイ:ユキヤさんと話すの楽しいな。ねぇ、ユキヤさんも俺といて楽しいですか? だったら嬉しいな。
レイ:あ、もう行かなきゃ。行きたくないなぁ。ユキヤさん、今度はいつ来てくれますか?

ユキヤ:(モノローグ)レイにとっては仕事に過ぎないとわかっているのに。
それでも俺は、レイと居たいと思ってしまった。
一秒でも多くレイに笑って欲しくて、傍にいて欲しくて。
俺のわずかな貯金は瞬く間になくなった。
会社に内緒で、深夜のアルバイトを始めたけど。稼いでも稼いでも、消えていった。
それは、まるでシャンパンの泡のように。
バカなことをしていると思う反面、いっそ、俺が女なら……そんな考えが、頭をよぎることもある。
わかっている。レイとの関係に未来なんてない。
わかっている。わかっていても……俺の足はレイの元に向いていた。


(ホストクラブ)

レイ:ねぇねぇユキヤ

ユキヤ:なに?

レイ:来月、俺、誕生日なんだよねー!

ユキヤ:あ、そうなんだ。おめでとう、ってまだ早いか。確か、ナンバー入ってるホストの誕生日にはイベントがあるんだよね?

レイ:うん、もちろん俺もやるよ誕生日イベント! 今から、めっちゃ気合入ってる!
ユキヤも来てくれるよね?

ユキヤ:うん、来れたら、ね。

レイ:えー絶対来てよ! お祝いしてよー!

ユキヤ:いや、俺が行かなくても、レイのお客さんの女の子達が来るだろうし。

レイ:えーそれとこれとは別だよ。ユキヤが来てくれないと俺、泣いちゃう。

ユキヤ:うん……でも、あんまり貢献できないかも。ごめんね。

レイ:あーそれなんだけどさ。

ユキヤ:うん?

レイ:実は、ユキヤに相談があって。

ユキヤ:うん?

レイ:えっと、実はね。俺の知り合いにユキヤのこと話したら、ぜひ会いたいって言ってるんだよね。会ってみない?

ユキヤ:え、俺に?

レイ:うん、ねぇちょっと会ってみてよ。まずは会うだけ、ね?

ユキヤ:まずは、って、それは、どういう意味?

レイ:うーん、そこは……なんていうか、その後の展開はお二人次第?って感じ?

ユキヤ:その人、いくつくらい?

レイ:さあ? 60? 70? くらいかな? 仕事は、会社経営者的な? 俺も詳しくは知らないけど。
今度、旅行に行くのについてきてくれる人を探してるらしくて。
もちろん旅費やなんか全部その人が持ってくれるから大丈夫。

ユキヤ:それって……

レイ:一週間で100万くらいくれるってさ、すごくない? ユキヤならきっと気に入られると思う。

ユキヤ:………

レイ:100万あれば、けっこういいボトル入れられるよ? 
俺の誕生日プレゼントはユキヤのシャンパンコールがいいなぁ?
やったことないでしょ?
一度、経験してみて欲しいな、自分が主役!って感覚。ユキヤには必要だと思う。

ユキヤ:待って、レイ、それって……俺をその人に……差し出す、ってこと?

レイ:え?

ユキヤ:……いや、その……

レイ:……なに? その言い方。

ユキヤ:ごめん……

レイ:俺はさ、ユキヤが他の女の子みたいに俺に貢献できないのが辛い、って言ってたから。ちょうどいいと思って、提案、してみただけなのに。

ユキヤ:……ごめん。

レイ:ユキヤなら、絶対喜んでくれると思ってたから。俺もう紹介するって約束しちゃったんだけどな。

ユキヤ:ごめん。それは、さすがに……

レイ:でもさ? 他のお客さんで太い子はみんな似たようなことしてるよ?
最初は抵抗ある子もいるけど、やってみたら、なんてことなかった、ってみんな言うよ?
効率的に稼げて、担当ホスト応援できて嬉しいって、感謝されるくらい。
だから、ユキヤもそんなに難しく考えないで?

ユキヤ:ごめん。

レイ:そっか。

ユキヤ:うん、俺には無理だよ。

レイ:……ねぇ、ユキヤ? じゃあ聞くけど、どうしてここに通ってくれるの?

ユキヤ:え?

レイ:俺のこと好き?

ユキヤ:え?

レイ:……ねぇ、いい加減素直になれば?

ユキヤ:え?

レイ:好きなんだよね、俺のこと。

ユキヤ:え、ちが……俺は、そういうつもりじゃ……

レイ:うそ

ユキヤ:……

レイ:俺は気にしないよ。男でも女でも。ユキヤのこと、気に入ってるし。

ユキヤ:……俺は……

レイ:ん?

ユキヤ:レイのこと、友達、だと思ってる。

レイ:友達……そっか。
ふーん、じゃあいいよ。ちょっとこっち来て。
(抱きしめて)友達ならハグくらいいいよね。男同士なんだし?
(耳元で)もっと力抜きなよ。真っ赤になって、ユキヤ、かわいい。

ユキヤ:……やめて、くれ

レイ:やだ、会ってくれるって約束してくれるまで離さない。

ユキヤ:それは、卑怯、だろ……

レイ:ふふ、ねぇユキヤ

ユキヤ:なに?

レイ:タダで、とは言わないよ。ユキヤが頑張ってくれたら、俺もユキヤの言う事聞くよ?

ユキヤ:え?

レイ:なんでもユキヤのお願い聞いてあげる。 ね? だから、お願い?

ユキヤ:……

レイ:いいでしょ? いいって言ってよ。あ、ほら、女の子たちがチラチラこっち見てるよ?

ユキヤ:……!

レイ:キスでもして見せようか?

ユキヤ:レイ、冗談は……

レイ:いいよ、して……(目を閉じる)

ユキヤ:(ためらってからレイを押しのけて)……わかった、会うだけ、なら……

レイ:ほんと? やった、ユキヤ大好き!

ユキヤ:……好き?

レイ:うん、ユキヤのこと、本当に大切で、大好き。

ユキヤ:……そっか、レイが喜んでくれるなら、それでいい。

レイ:もっちろん、そうだ、今度さ(時間あったら、買い物でも一緒にいかない?)

ナオキ:(前のセリフにかぶせて)あ、すみません、レイさん、お時間です。

レイ:おっと行かなきゃ。詳しいことは後で送るね。またね、ユキヤ(ほっぺにキス)

(レイ、去る)

ユキヤ:……(ため息)

ナオキ:どうしたんですか?

ユキヤ:なんでもない……ちょっと強いお酒、貰える?

ナオキ:はい、焼酎でいいですか? 麦でお湯割りがお好きでしたよね。
珍しいですね、ユキヤさんあんまり飲まないのに。

ユキヤ:飲まないと、無理だから。

ナオキ:そうですか、はい、どうぞ。

ユキヤ:ありがとう。

ナオキ:……レイさんになにか言われたんですか?

ユキヤ:いや、別になんでもないよ。

ナオキ:そうですか。あの、差し出がましいようですけど。レイさんは、ユキヤさんのことすごく大事に思ってますよ。

ユキヤ:そうかな。

ナオキ:はい、俺にもよく、ユキヤさんのこと話してくれますから。
……なんか妬けちゃいます。

ユキヤ:え?

ナオキ:魅力的ですもんね、レイさん。男から見ても。俺も好き、っていうか、尊敬してるんで。

ユキヤ:そう……

ナオキ:レイさんああ見えて必死なんですよ。来月の誕生日イベント、実は対決形式だって聞きました?

ユキヤ:え、いや聞いてないけど。

ナオキ:リョウってホストがいて、レイと誕生日が同じ月なんです。
それでどうせなら、『リョウVSレイ』の対決方式にしようってオーナーが言い出して。
今のところ互角か、レイさんがちょい押されてる感じです。
リョウって、えぐい営業する分、強いんですよね。
レイさん絶対勝ちたいって、実は何日も寝てないんですよ。
太いお客さんほど、無茶なこと言いますからね。ど深夜に「今すぐ来て」とか。
レイさんそんなにお酒強くないのに、ボトル入れる代わりに一気させたり。

ユキヤ:そんな……ひどい。

ナオキ:……俺もそう思います。でもそう見えないでしょ?
ユキヤさんには心配かけたくないって言ってました。
優しくて、いつも自分のこと気遣ってくれるユキヤさんの席だけが癒しだって。

ユキヤ:そう……

ナオキ:だから、レイさんのこと、悪く思わないでください。

ユキヤ:……悪く、思ったりしないよ……でも、そうだね、わかった。ありがとう、ナオキくん話してくれて。

ナオキ:はい、じゃあ飲みましょう。俺もいただいていいですか?

ユキヤ:うん、いいよ、ナオキ君の分は薄目に作って。ナオキくんも大変でしょ?

ナオキ:ありがとうございます。本当に優しいですね、ユキヤさん。

(バックヤード)

レイ:くっそ……はーありえねぇ。

ナオキ:おつかれです、レイさん。

レイ:みたか、あれ?

ナオキ:リョウの席、盛り上がってましたね? 相変わらず、敵ながらやりますね。

レイ:知ってるか? あいつ、宿営(やどえい)3人やってんだぜ、どーゆー生活してんだっての。

ナオキ:レイさんだって、2人いるじゃないですか。

レイ:2人はみんなやってるじゃん。2人でもパツパツなのに、3人とかバカじゃねーの?
こないだは、イベントにタワーやってくれって土下座してたし、プライドねーのかよ。

ナオキ:……まあ、そうですね。

レイ:なんだよ。

ナオキ:別に。ところで、ユキヤさんに紹介したのってもしかして、西川さんですか?

レイ:そうだけど?

ナオキ:それは……

レイ:なんだよ。男に大金払うのなんてあの人くらいだろ。気の弱そうなスレてない男が好みだから、ユキヤはお気に召すと思うんだよね。

ナオキ:わかりますけど。えっぐいことしますね。

レイ:なんで? 他の客と同じようなもんじゃん?
お姫様たちを『がんばらせてあげる』為に、俺たちだって大変な訳だし。

ナオキ:相変わらずですね、レイさん。

レイ:なんだよ。知ってるだろ。

ナオキ:知ってますよ。ちゃんとついて行きます。

レイ:さんきゅ。ナオキのこと、一番、頼りにしてる。

ナオキ:はい、レイさん。

ユキヤ:(モノローグ)明るいレイ、きれいなレイ。
レイが月なら、俺は水面(みなも)に映った月に焦がれる醜いヒキガエル。
ヒキガエルが月に会いたいと願うなら、捧げものをするのは当然の事。
すべての時間とお金をレイに捧げた俺が、最後にレイにあげられるモノ……
それはきっと一つしかないのだろう。
レイから紹介されたのは、西川さんという高齢の男性。
彼は……俺を気に入ってくれたようだ。そう、とても……とても……

(イベント当日)

ナオキ:あ、ユキヤさん、久しぶりです!

ユキヤ:あ、ナオキ君……

ナオキ:あれ、大丈夫ですか? なんか顔色悪くないですかー?

ユキヤ:うん、大丈夫。指名、レイで、お願い。

ナオキ:もちろんです、レイさん、ユキヤさんぜったい来るからって席用意してたんですよ、こっちです、どうぞ。

ユキヤ:うん、ありがとう。

ナオキ:あ、でも、さすがに今日は、すぐには来れないと思います。レイさんが担当してるお客さん、ほとんど来てるんで。

ユキヤ:うん、いいよ。俺は……他のお客さん、優先してあげて。

ナオキ:……また、そういう事言うんですね。

ユキヤ:え?

ナオキ:だって普通、お客さんは、担当がすぐ席に来ないとキレますよ。

ユキヤ:そうなの? 俺は別に、レイの顔見て、少し話せればいいから。

ナオキ:……そんなにレイさんのことが好きなんですか?

ユキヤ:え? いや、好きっていうか……なんだろ?

ナオキ:例えば……抱かれたいとか、思うんですか?

ユキヤ:え? ……いや、俺は、そういうつもりじゃ……

ナオキ:違うんですか? 別に変な事じゃないですよ?

ユキヤ:あ、焼酎もらえる? ごめん、今日は薄めに。

ナオキ:わかりました。……どうぞ。

ユキヤ:ありがとう。

ナオキ:……? ちょっと待ってください。腕のそれ、なんですか?

ユキヤ:え?

ナオキ:ちょっと見せてもらっていいですか?
(ユキヤの手首をとる)うわ、すごい青あざ。え、ちょっとこれどこまで続いてるんですか?

ユキヤ:ダメ…!(振り払う)なんでもない、ちょっとぶつけただけ

ナオキ:ぶつけただけ……
ああ、なるほど……そう、ですか……もしかして、店に来てない間、ずっと西川さんと一緒にいました?

ユキヤ:レイには、言わないで。

ナオキ:わかりました。見なかったことにします。

ユキヤ:ありがとう……

(レイ登場)

レイ:ごめん、お待たせ、ユキヤ! わーん、会いたかった!

ユキヤ:うん、久しぶりレイ。イベントどう?

レイ:もー聞いてよ、ユキヤ! リョウ、まじありえない! 反則連発でさ!
俺もなんとか頑張ってるけど、ちょい負けてる。
よかったユキヤが来てくれて! マジ救世主!

ユキヤ:大げさだよ。

レイ:あ、お仕事どうだった? ね、ちゃんとお金くれた? 西川さん金払いいいから大丈夫だと思うけど。

ユキヤ:うん、大丈夫……ちゃんと、くれた。

レイ:あ、やっぱり! 絶対、ユキヤは気に入られると思ってたんだ! 
でも、大変だったよね? ありがとう。
愚痴聞くよ? あ、でも、今日は忙しくてあまり席にいられないけど……

ユキヤ:レイ、少しだけ、2人で話せるかな?

ナオキ:わかりました、じゃあ、俺は席外しますね。

レイ:あ、だったら、ナオキはルルちゃんのところ行って?

ナオキ:わかりました。

レイ:なになに? 話したいことって。

ユキヤ:うん、レイ……俺、もうここに来れない。

レイ:え? なんで?

ユキヤ:……

レイ:もしかして、西川さん紹介したこと怒ってる?

ユキヤ:そうじゃない。それは、俺が決めたことだから。

レイ:じゃあなんで? 俺のこと嫌いになった?

ユキヤ:それも、多分、違うかな。

レイ:じゃあ、なんで?

ユキヤ:西川さんは……確かに、俺のこと、すごく気に入ってくれて、それで……いろいろ話してくれたんだ。
紹介料のこととかも……

レイ:……あ……

ユキヤ:俺がもらった額よりも、ずっと多くレイに渡したって。

レイ:ご、ごめん、違うんだって! これから改めてユキヤに話すつもりだったし、イベントに勝つためには、どうしてもお金必要だったから。
衣装だって新調したし、同伴デートだって毎回女の子に出させるわけにはいかないし。

ユキヤ:もういいよ。

レイ:だから、誤解だって。ね、今日は忙しいから、今度ゆっくり説明させて?

ユキヤ:もう、いいんだ。今まで、ありがとう。レイといられて俺、楽しかった。

レイ:いやだから……なんで? なんで最後みたいな言い方するの?

ユキヤ:最後、だから。ねぇ、レイ。一つ、俺の頼み、聞いてくれるって約束だったよね。覚えてる?

レイ:え、ああ、そういえば……うん、何がいい? 俺にできることならいいよ。

ユキヤ:じゃあ、最後に抱きしめさせて

レイ:え……?

ユキヤ:(そっと抱きしめる)

レイ:ね、ねぇ、ユキヤ?

ユキヤ:黙ってて。

レイ:まさかこれだけ、じゃないよね? ……何、考えてるのユキヤ?

ユキヤ:いいから、黙ってて。

レイ:俺の事怒ってる? でも、ユキヤなら許してくれるよね? ユキヤの優しいところ、俺大好き。

ユキヤ:お願いだから、黙って。少し、こうさせて……
……ありがとう、レイ。俺の友達になってくれて。

レイ:……ユキヤ

(間)

(ナオキ駆け込んでくる)

ナオキ:すみません、レイさん。スピーチのスタンバイしてほしいそうです。お願いできますか?

レイ:(離れて)あ、そっか、もうそんな時間か!
(いつのも調子を取り戻して)ね、ユキヤ? リョウと俺でここにいるみんなに向けてスピーチするんだ。絶対、リョウよりもかっこよく決めるから、聞いていって? 約束! 
じゃ、また後でね!

(レイ去る)

ナオキ:すみません、ユキヤさん。

ユキヤ:うん、大丈夫。……ねぇ、ナオキ君、ちょっと頼みがあるんだけど。

ナオキ:なんですか?

ユキヤ:ボトルを入れたいんだ。

ナオキ:え、いや、でも、これから、スピーチ始まるんで、コールとかもできないし。終わってからでもいいですか?

ユキヤ:わかってる、だから今がいいんだ。男の俺がボトル入れたら、女の子たちが混乱するでしょ?
女の子同士の対立を煽って、お金を使わせるのがホストクラブの仕組み、だよね?
それを、俺が壊したくないんだ。

ナオキ:でも……ちなみにどのボトルですか?

ユキヤ:リシャール、ってある?

ナオキ:リシャール、ですか? ありますけど、でも、500万くらいしますよ?

ユキヤ:いいんだ、それで、お願い。

ナオキ:え、いや、何いってるんですか? せめてレイさんが戻ってきてからにしましょ? スピーチ終わったら来るように言っておきますんで。

ユキヤ:ダメ……(黒服を呼ぶ)あ、すみません、リシャールを。はい、コールはなしでお願いします。

ナオキ:ユキヤさん?

ユキヤ:……といっても、俺は飲めないから。そのまま、開封せずに、レイに渡しておいて? 他の客に使いまわしてもいいから。

ナオキ:ユキヤさん……あなた、一体何を考えているんですか?

ユキヤ:さあ……バカだよね。うん、わかってる、でも、いいんだ、これで。
ナオキくんも今までありがとう。レイのことよろしくね?

ナオキ:ユキヤさん!

ユキヤ:さよなら。


(バックヤード)

レイ:あー疲れた。ふいー、あっぶなかった! ギリギリセーフ!

ナオキ:お疲れ様です。そして勝利おめでとうございます。

レイ:さんきゅ。いやー、びっくりしたー! ユキヤのリシャールがなかったら負けてたわ。

ナオキ:ですね、ユキヤさん、現金で払っていきましたよ。どうしたんでしょうね、あの金。

レイ:なんとなく想像つくけど。想像したくない。

ナオキ:ですね。

レイ:ま、勝てたから結果オーライ? リョウの顔見た? まさか負けると思ってなかったんだろうな? 「参りました」って言わせたときは、超気持ちよかった!

ナオキ:リシャールは大きいですよね。まさにテロ。

レイ:でも、やっぱ、黙って入れて、黙って帰るって……こわ。
もう、うかつに男性客に手をだすのやめよ。
「最後に抱きしめさせて」だよ? 刺されるのかと思ってビビったー!

ナオキ:ユキヤさん、完全にレイさんに堕ちてましたからね。
てっきり、枕でも要求するのかと思ってました。

レイ:俺も。

ナオキ:要求されてたら、どうしてました?

レイ:そんなの、お前と寝るのが一回減るだけだろ。

ナオキ:うわ。ひどい。

レイ:仕方ないだろ。他に削れるところないし。お姫様達は予定ドタキャンしようものなら、後のケアがくっそめんどくさいし。

ナオキ:まったく。……ところで、ユキヤさん、また来ると思います?

レイ:さあ? どっちでもいいや。

ナオキ:クズ。

レイ:お前が言うな。

ナオキ:レイさん。

レイ:ん?

ナオキ:今夜は、どうします?

レイ:あー今夜は無理。でも、明日ならいいよ?

ナオキ:わかりました。

レイ:じゃ、そゆことで……よろしく。

ナオキ:レイさん……

レイ:なんだよ……ここでか?

ナオキ:ダメですか?

レイ:しょうがねーな……ほら、来いよ。
(ナオキにキス)※どこにどのようにするかはお任せします。

ユキヤ:(電話)もしもし、はい、終わりました。すみません、遅くなって。はい、すぐに帰ります。
……わかりました。そうします。……はい、はい……わかってます。
よろしくお願いします。

ユキヤ:(モノローグ)誰かが言っていた。
毒だと気が付かないのが男の愚かさなら、毒だと気が付いていて飲み干すのが女の愚かさだと。
俺は一体どっちなのだろう。
男にも女にもなれない。
そんな俺に、シャンパンの泡のような夢を見せてくれたレイ……
君は、俺の……大切な、友達だったよ。

【完】

【声劇台本 男3】『それはどこかドンペリの泡に似て』(BL版)

【声劇台本 男3】『それはどこかドンペリの泡に似て』(BL版)

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2023-08-05

CC BY-NC-ND
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