エンゲージリングはデート商法から

七割くらい本当のデート商法の話

俺は中野晴海
趣味は旅行くらいしかない男だよ
今ここにアクセサリーがある
その額、だいたい50万円
俺の数少ない友達はみんな驚いていたよ
今日はこのアクセサリーについて今から話そうと思う
まぁ、しばらくの間付き合ってくれ


あれは27歳頃の夏に東京に遊びに行ったとき
確か夕方6時頃築地のあたりを歩いていたときのことだ
薄暗くなった路地に立っている女が俺に話かけてきて「いまアンケートをしてまして結婚やアクセサリーには興味ないでしょうか」なんて言う
はっきり言ってアクセサリーも結婚も興味ない…
でもどうせ明日には帰る予定だったし悪い気はしないから「まぁいいか」くらいの感覚で女に応えた
鹿島と名乗る女からアンケート用紙を受け取り必要事項を眺める
名前と年齢、結婚したい年齢、プロポーズの言葉…
ヤバい…名前と年齢以外は何を書いていいのかわからない
結婚したい年齢?そんなの知らん!
36という数字がひたすら浮かんできたので36歳と
プロポーズにはありきたりの言葉を書いて用紙を返す
仕事であるとはいえ、アンケートに答えた俺がそんなに珍しかったのか鹿島は俺について色々聞いてきた
何処からきたのか、用事はなんなのか、明日の予定…
俺は答える
広島から来たこと、旅行で来て特に予定は入れてないこと…
そんな会話のなか何故アンケートに答えたのかと言われ、冗談混じりで「逆ナンかと思った」と言ったら目の前の女は笑顔を見せた

この後の事を考えてみると恐ろしいことなんだが、不覚にもしばらく彼女がいなかった俺にはその笑顔は凄い眩しく、可愛く思えた

鹿島は恋人の有無を聞いてきた
しばらくいない事を伝えると「意外だ」と言われた
俺は同じ質問をそっくり返した
どうやら鹿島は2年ほど彼氏はいないと言う
いよいよ舞い上がって俺は続けて言った
「よかったー、でないとこんなに話をしていたら『俺の女にぃー』とか言われて身ぐるみ剥がされて東京湾に捨てられるのかと思ったよ」
これを聞いて更に笑うんだ

頭の中の俺は警告する「それ以上関わるな!この女は仕事で話しているだけだ」と
うるさい、そんな事は分かっている
でも仕方ない!その時の職場は私語はできない上に役職と名前しか知らない
そんな所に勤めていて、友達も少ないないんだ、仕方なかったんだ!
夕暮れにスーツ姿の同年代の女性…
仕事だとしても俺は凄く嬉しかった
恥ずかしい事に頼んでなくても身体が反応してしまったくらいには嬉しかった…

鹿島は俺の連絡先を知りたいと言う
あぁ、ヤバい!
これを教えれば大変な事になる、今ならまだ間に合うと思っていた…
思ってはいたが、連絡先を交換した…

連絡先の確認の為に俺の携帯に着信がくる
目の前に本物がいるのに「電話の声も素敵ですねー」なんて言ってしまう俺
あぁ、もう全くなんでナンパしているのか…
発言を聞いてまた笑う
もうやめろ、そろそろ引いてくれ
マジで好きになる、本当にヤバい
この後一緒に食事に誘いたくなるくらいにヤバい…

俺は鹿島と今後の予定を話して、次の日彼女のお店に行くことになり解散した
俺は一人、なんとなく銀座を経由して新橋に向かうことにした
うん。寂しいな

少し話はそれるが、俺は旅行に行くとその街の繁華街を練り歩いて雰囲気を楽しむ事にしている
居酒屋やコンカフェのキャッチ、わいわい騒ぐ飲み屋の客…
地元の繁華街でも見られそうな景色でもこの人達はここにしか居ない…
そんな感傷に浸りながら終電近くなるまで歩き続けてその場所でしか味わえないモノを食べる

その日は居酒屋に行ってお好み焼きを食べた…
食べ終わって思う…
いやコレ、地元でも食えるじゃんってね

あたりは駅に向かう人が増えてきたので俺も駅に向かう
今日の宿はいつも行く秋葉原のネットカフェだ
しばらく山手線に乗ると眠気が襲ってきた
どうやら何処かの駅に着いたようだ
このままではいけないと思いとりあえず降りる
そこは鶯谷だった…
ホテルが立ち並び、今夜の相手を待つ人や手を繋ぎあう男女達…
おい…ヤバいぞ…これは超寂しいぞ
この寂しさを胸に抱きながら俺は一人でホテルに泊まった…

さて本題に戻ろう

次の日、俺は鹿島から来た電話の通りに店に向かった
なんというか綺麗な感じなのに何かヤバい
こんな機会がなければ絶対立ち寄らない
そんな雰囲気の店だった

俺は入店時に規約書の確認をする事になった
これには特におかしな点はなかった

店内の案内が終わり、席に着く
店を見渡すとどうやら俺以外にも客はいるみたいだ
俺は鹿島としばらくの間雑談を楽しんだ
ポケモンの話…お互いの個人的な話…
昨日解散してからの話…
本当に楽しく感じた

いよいよ本題に入る…
商品、店、価格、担当
この全てを気に入った上で購入してもらい、購入した人をお得意様と呼ぶらしい
ダイヤモンドのグレードや輝き、いわゆる4cの話やハート&キューピッドとは何か、結婚についての費用の事を話し始め、実物のアクセサリーを見せてくれた

試しにネックレスをつけて貰った時は、そのままその白い手で俺の首を絞めてはくれないだろうか
そんな事すら考えてしまうほどその手は美しかった

会話の中、ふと思う
結婚のイメージが全く湧かないと言えばなんと返すだろうか…
正直わからないのは確かな事だし言ってみよう
するとこう返して来た
「じゃあ、目を閉じてイメージして下さい」
目を閉じる俺
「貴方は眠っています、仕事がある日の朝です」
えっ、何を言ってる?
そんな疑問をよそに女は続ける
俺の肩を叩きながら「起きてー朝だよー」
良くない流れがきてると思ってはいたものの、俺は不覚にも思った
テメー、その手を掴んでこっちに抱き寄せたろか?
いや、ダメだダメだ
こんな訳わからん所で犯罪者になるのは流石にヤバい
だからこう返した
「やめてください、惚れそうです」
これを聞いて女はまた笑った
本当に俺は何を言ってるんだろうな!

時折、そんな冗談を挟みつつも無情にも話は進む
それにしてもなんか良くない流れがきている…
そんな事を思いながら周りの客を見る…
購入の手続きを進める人、さっきの俺と同じようにダイヤモンドの話を聞いたりアクセサリーを見せてもらう人
ダメだ、やっぱり悪い予感がする

話は進んでいきダイヤを買うには費用がどれくらい必要か、今の収入や使途不明金について…
次第に話はループし始めていく…
これは保険の様なものである、私が担当しているお得意様でこういう人がいる、趣味に使うのも良いが結婚の事も意識した方がいい、現状でもいいが結婚はいつになるかわからない、彼女が出来た時から準備しても遅い、うちでは最低でも50万円からで……
それで中野さんはどう思いますか?

そう俺が肯定する意見を言わない限りこのループはずっと続いた

どうしてこうなってしまったんだろうな?
確かに「褒め言葉のさしすせそ」をよく使ってくるとは思っていた
俺は覚えていても昨日話した内容を忘れていたこともあったよ?
それでも貴女の事は本当に個人的に気に入っていたのに、もっと違う関係だったなら良かったのに…

鹿島は焦りを見せている
そして決断のとき…俺は購入を断った

あれから鹿島からの連絡はなくなった
それから2年くらいして東京に行ったとき、店の事を思い出し行ってみた
店は無くなりテナント募集の紙が貼ってある
いま彼女が何をしているかそれはもうわからない

ただ俺は一つ変わった
実際に彼女が出来た時の為に動く事にした
俺には言われた事が忘れられなかった
だから僅かながらでも貯金を始めた
そして迎えた36歳…
不思議な事に付き合っていた彼女にプロポーズすることになった
このアクセサリーは彼女にあげるものだったんだ
あげるはずだったんだ…
何故、コイツは俺と一緒にいるのか?

それはみんなの想像に任せるよ
人生、本当に何が起こるかわからないからね

次回は歌舞伎町のキャッチに捕まって有金を全部失った話でもしようかな

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更新日
登録日
2023-07-26

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