「創世以前」

 爛熟した紅りんご
 長机の上にあり
 氷の長机の上にあり
 溶けゆく
 溶けゆく
 一つの小さき紅りんご
 酸化して
 黒ずんだ
 ぐにゅぐにゅになった果実の
 かほりは濃ゆく
 鼻腔にへばり付いて
 蛭の如き
 生命のほんのうの憶念よ
 盲目の空間で
 とおい彼岸の記憶が呼んでいる
 寒い朝 日も未だ現れぬ時分
 底見えぬ青き湖に白靄うねるやうにして
 あまいくゆりの呼べるを聞く
 氷上にへばりつきし紅りんご
 さながら童のおべべ広げたやうな…

「創世以前」

「創世以前」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-20

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