「哀れな鼠」

 震える涙は
 真珠の髪かざりとなろう
 唇の傷は
 火事を呼ばぬ炎となろう
 重い肉体は
 引力からほどいて軽くなろう
 小さな心は
 日に照る海原となろう
 剝き身の心は
 あたたかな衣を知ろう
 鼠のやうに全神経を震わせて
 鼓動はばくばく脅えています
 暴れ馬の無慈悲な鉄の爪に殴り殺されないように
 じっと息をおとなしくさせて
 瞼の裏でうつくしい景色を見るのです
 此処は小さな馬小屋
 隅にまりやがいらっしゃる
 誰かのお守りであったろう
 ちりめんの布の小さなうさぎもようの袋に
 すうすう寝息を月夜の横笛のやうにさみしく奏でて
 子守唄を聞かせています
 哀れな鼠は
 明日の月夜を見たいと
 それまで生きていようと
 今日もさう思えたやうです
 ほら、やさしい音色と眠っている…

「哀れな鼠」

「哀れな鼠」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-13

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