ずっと傘さしてただけなのに最強ってどういうことですか?

おはようございます、こんにちは、あるいはこんばんは。
月見おもちことおもちです。
今回は初投稿となります。
過激なシーンなどありませんので気軽にまったりおたのしみください。
また、二次創作など自由となっておりますが何か制作する際はキャラデザインなど
提供いたしますのでお声掛けください。

第1話

雨が激しく体を打つこの日。
多くの人が僕を無視する中僕に手を差し伸べてくれた人がいた。

「大丈夫ですか?」

どくん、と心臓が跳ねる。
僕はどうやらこの人に惚れてしまったらしい。

「あなたの名前は?」
「僕の、名前は……」
「___」
「“___”」
「___!」

…………………

ばっと起き上がる。

どうやら今のは夢だったようだ。
実際僕は自室のベットから上半身だけ起き上がっている状態である。

僕の名前はナツメ。普通の中学生____ではなかった。

僕の周り、正確にいうと半径200メートル以内にはいつも雨が降っている。
つまり、雨男ということだ。
父親も母親も、肉親全員そんな能力なんてないのに僕の周りだけずっと雨が降っている。
そのせいで、僕は………

…このことを考えるのはやめようか。


ところで、この世界は、皆魔法を扱っている。

だから当然、魔法が使えないと使い物にならない。
つまり試験も魔法に基づいて行われる。
学校でも魔法を習う。

僕は雨男だがそれなりに魔法ができる。

だから今日、この世界で最大級に難しいと言われる“魔法高等学校ルーチェ”の試験を受けるチケットを手に入れた。
その試験では5つの試験で合格点を取らなければならない。

ひとつ目は“magic point”略称“mp”の査定。これが一般量以上あるか。
ふたつ目は“hit points”略称“hp”の査定。これが一般量以上あるか。
みっつ目は“実戦”。選ばれた相手と戦い、それによってポイントが付与される。
よっつ目は“記述”。魔法に関しての知識がどの程度あるか。
いつつ目は“属性”。これがあるかどうか。あったら合格。

____この5つだ。


先ほども言ったが異世界の中で最も難しいと言われている高校だ。
魔法高等学校ルーチェのすぐ隣には魔界の“魔法高等学校チェーニ”がある。異種族同士だが、かなり仲がいいみたいだ。

魔界って何って?

この世界は天界と魔界、霊界の3つに分かれている。
天界は天使などと、一般的に光属性、天属性、風属性、水属性の者が住んでいる。
魔界は悪魔など、闇属性、炎属性、血属性の者が住んでいる。
霊界は霊など、色属性、無属性の者が住んでいる。

3つの世界は完全に“バリア”で区切られており、外に出ることは不可能だ。例外もいるが。

バリアがあることでバランスが保たれているが、もし壊れてしまったらバランスが崩れ、この世界は崩壊してしまう。

また、この世界のエネルギー源は“コア”といって、それは莫大なエネルギーを有している。
が、裏を返せば殺人兵器として利用することもできると言うことである。

だから天界、魔界、霊界のそれぞれの最も権力がある者が見守っているらしい。

しかし、そのコアは2億年程前に粉々に砕けたのだ。
それを直したのが、例外____ヴァーという人物。
ヴァーは3つの“界”を行き来していて、今もどこかで旅をしている____らしい。


「さて、いくか」


僕は一階のリビングに降りるため、階段に向かう。
階段を降りると、僕の好きなベリーゼリーの匂いが鼻をくすぐった。

「お母さん、ゼリー作ってくれたの?」
「ええ、今日はナツメの試験の日だもの」
「‥‥! ありがとう!」

僕はゼリーとパンを食べると、靴を履いて玄関に向かった。

「行ってきます!」

扉を開けた。そして、いつもの様に大雨に降られた。

僕は立派な門をくぐった先の校舎のホールの中にいた。
今は第一、二試験。これらは同時に行われる。
順に名前が呼ばれていき、僕の名前が呼ばれた。

そして、中央に設置された台の前に立つ。
そこにいた男性に言われ、水晶に手を置いた。

するとその上に【mp7,00,00,00 hp4,50,00,00】と表示され、男性は目を見開いた。

「あ、あの‥‥なにかあったんですか?」
「これは‥‥前代未聞だ‥‥こんなステータスのものは‥‥」
「えっ?」
「あなたはもう合格です‥‥!」
「ちょっと待ってください! どういうことですか!?」

男性に言われた言葉がよく理解できない。
周りの人までざわついてきてしまった。

「‥‥落ち着いて聞いてくださいね。あなたは最強ステータスの持ち主です」
「はっ??」

もっとよく分からないんですけど。最強?この僕が?

成績はそれなりに良かったけど小学校中学校ではもっと上がいたし…。
ってちょっと待てよ。

小学校と中学校ってあんまり詳しくステータス調べられてなかったんじゃ?

…でもやっぱり何かの間違いでは??

「あなたはもうSクラス確定です」
「いやでも試験は受けさせてください」
「そうですか‥‥では席にお戻りください」

僕は席についた。すると隣や前から声をかけられた。

「ねえ、あなた名前は!?」
「すごかったね!」
「どうやってあんなステータスに?」

「あわわ‥‥」

僕が戸惑っていると一人の女の子が助けてくれた。

「皆、やめなよ。困ってるじゃん」

「「「え?」」」

さらさらストレートのショートヘアを彩度の低い金色に染め、それを上の方でまとめて四葉のクローバーのピンで留めた女の子。
服はパーカーに緑のチェック柄のミニスカ。口には飴を加えていた。

「だいじょーぶ?キミ引っ込み思案なタイプでしょー?はっきり言わなくちゃダメだよー。」
「あ、ありがとうございますっ!」
「ぜんぜーんだいじょーぶ。僕はヨツバ。キミはー?」
「ナツメです」
「ナツメくんかー。いい名前!」

ヨツバさんはにこ、と静かに微笑んだ。
初対面で助けてくれて名前まで褒めてくれて…よっぽど優しくてきっと人気があるに違いない。

「じゃあね。同じクラスになれたらいいねー。」

そういうとヨツバさんは自分の席であろう場所に戻っていった。
僕はやっと静かになったので、目を閉じる。

(次は実戦か‥‥大丈夫かな)

中央に立っていた男性が、何やらメモしていた。
実戦の対戦相手を考えているらしい。

「では、第三試験実戦の対戦相手を発表します」

「「「おお〜」」」

僕は誰とやるんだろう? そう考えていると、名前が呼ばれた。前に出て隣にいたのは____ヨツバさんだった。

「よ、ヨツバさんっ!?」
「おー、ナツメくんかー。ナツメくん強そうだから心配〜。」
「いやいや‥‥」
「がんばろーねぇ〜」

「では両者、庭に出てください」

庭に出ると、老人が何やら呪文を唱えていた。

ルーチェは周りを厚い壁で覆われているから普通は大丈夫なのでは無いかと思うのでは無いか。
しかし、此処は有名な高等学校だ。稀にそれすらも破壊する範囲の魔法を使ってくる猛者もいるらしい。
その対策として、バリアを張っているのだと父から聞いた。
バリアは強力な魔法であれば破壊するのは容易いが、周りに危害が及ぶまではいかないらしい。

「相手に殺す気でかかること。では、はじめ」


「“フリーレン・シールド”!」

僕は開始早々氷のバリアを身の回りに張った。少し空気が凍る。そして周りの音が聞こえにくくなった。

しかし、安心したのも束の間。

「____」

ヨツバさんが風の弾を射ってくる。
バリアの一部に傷がついてしまった。
が、僕のバリアはそう簡単に壊れるものではない。何重にもバリアを張り十分に距離を取った。

しかしそれは誤った判断だったらしい。
ヨツバさんの風の弾は距離が離れると威力が増すようで、5発で遂にバリアは壊れた。

「く‥‥!」
「“テレディション”」

ヨツバさんが地面に触ると割れてしまった。
瞬く間に地面が割れてきて____落ちて____。

「“オブジェクト・メイク”ッ!」

いなかった。

とっさにホウキを作って空を飛んだのだ。飛んでなければ死んでいたかもしれないほどの威力。
下を覗くとが底が見えなかった。間違いなくヨツバさんは殺す気でかかってきている。

(今までの魔法からするとヨツバさんは多分風性だ。だったら次は下から竜巻を起こして攻撃してくるはず!)

「“トルネードウェイク”!」

ヨツバさんは予想通り竜巻を起こしてきた。ならそれに勝る威力の魔法を____!
風に強いのは土だから土で壁を作って‥‥!

「“ソイルヴァント”!」

「うっわ跳ね返されちゃったー。ナツメくんって強いね?」
「今話してる余裕はありません! “ブラッドフィレ”!」

血の魔法。この網に触れたものは無条件で溶ける。
今は手加減してるから死にはしないけど。

しかしこの魔法には少しばかりの弱点がある。
属性は基本的に光属性、天属性、風属性、水属性、闇属性、地属性、炎属性、血属性、色属性の9種類。それによって使える魔法が異なる。
この9つのうちの水属性以外のどの魔法に勝る。

僕のは水に負けない特殊な網。
そして、基本の属性と言ったのには訳がある____例外があるからだ。
その例外というのは“聖属性”。
“女神の生まれ変わり”もしくは“神の生まれ変わり”が生まれつき持っている属性で、その属性を持っている者は“愛されし者”という称号を持っている。
その効果は、残りhpが1/10未満にまで減るとそこまで減らした者のhpをおよそ1/500まで減らすというものだ。
この属性に属する魔法に対しては、どんな魔法も対抗できない。

その時、ヨツバさんがにぃ、と笑った。

「“ホーリーネス・アロー”」

____そんな、馬鹿な。
膝の力が、抜けていく。
聖属性の魔法を扱うなんて‥‥とんでもない猛者だ。
やばい‥‥‥‥あれに当たったら待ち受けているのは死。確実に。

光の矢がもう少しで放たれてしまう。その前にバリアを______。

(‥‥駄目だ。体が動かない。このままじゃ、負け____)

‥‥駄目だ!まだ諦めるな。

僕の家系、エタンセル家の魔法は人の過去を見たり気持ちを読んだり。
ただ僕は少し特殊で時を止められる。
時を止められるのは30秒だけ。その間に対策を!

「“タイム・ストップ”」

僕はヨツバさんにバレないよう透明化し、ホウキも透明化して空を飛んだ。
緊張と風を振り切ってヨツバさんの方へ飛ぶ。


「終了です。お疲れ様でした」

審判の声が響く。しかしそれは、現実より数秒遅れて脳に届いた。

「ちぇー。もう終わり? 早いよー」
「席に戻ってください」
「いい試合だったよー、ナツメくん」
「あ、あの!聖属性なんですか!?」
「うん。そうだよー」

(女神の生まれ変わり‥‥って髪の毛が薄いピンクだったんじゃなかったっけ)

僕は考え事をしていたが、すぐにそんなものは振り払って次の試験に向けての対策本を開いた。


*    *    *    *    *

−ヨツバビジョン−


僕は魔法高校ルーチェに入るために試験会場に来ている。

もともと優等生だった僕は今回も余裕で受かると思っていた。
しかし‥‥mp、hp査定の時とんでもない猛者がいた。それがナツメという人物だ。

許せない。それが一番はじめに沸いた感情だった。そう、今まで僕を超えるものなど誰一人としていなかった。

僕は、優等生でいたい____いや違う。優等生で“いなければいけない”んだ。優等生として持て囃されてきた。もらっていたのはいつも称賛の言葉ばかり。
優等生でいるかぎり人格も完璧でなくてはいけないから、見た目だけは楽にしている。
逆に言えば、見た目は楽にしているから人格も良くなくてはいけないし、成績優秀でなければならない。
ナツメが取り囲まれて困っているとき助けて、おまけに名前まで褒めた。本心ではもちろんそんなこと思ってないけど。
「ありがとう」って言ったナツメが憎たらしい。
本当はナツメを罵倒したくてたまらなかった。
だけど、優等生でいるためにはそんなことをしてはいけない。
チャンスはある。“実戦”だ。
ここで同じになればボコボコにできる。
この試験ではなるべく実力が近い物同士が戦う。ナツメと一番実力が近いのが僕だから、ほぼ確実に同じ組に選ばれるだろう。
そして思惑通り同じ組になって____思惑通り勝利した。
やっぱり、聖属性は強いな。

(‥‥ホントは、“偽”正属性なんだけどね)

僕は魔法作成が得意だ。だから、属性の作成もできた。
研究を続けて5年、やっと完成した。聖属性が。
しかし本物の能力には劣ってしまい、強さが半減した。
そのため弱点の属性ができてしまった。それが血属性だ。だからあの時試合が終わっていなければ確実に負けていた。
いや、負けている。
この勝負、さっきは勝った、って言ったけど、ホントは負けた。
悔しいっ‥‥‥。
きっと仕返しをしてやる‥‥‥‥!

奥歯をぎり、と噛み締めた。


−ナツメビジョン–

「では記述試験を始める。試験会場に移動するのでついてきてほしい」

老人がそう言ったので、老人についていく。
ついて行った先で見たのはずらりと並んだ机と椅子だ。広大な部屋いっぱいに並んでいた。

「わぁ‥‥」

「好きな席に座っていい。全員座ったら試験問題と解答用紙を配る。解答用紙の右下の番号を覚えるように」

(僕の番号は77番か)

こうして試験ははじまった。
問題は解きなれていた。
兄のクロに過去問をもらって何度も解いていたからだ。
全て回答を埋め終わる。
だがまだ油断はできない。徹底的に見直す。
数字の一つ一つまで、問題を解いた時の僕を思い出しながら。
結構自信がある。がんばったかいがあったな。男性の指示で、再び元の場所に戻った。

「最後は属性診断です、順番に並んでください」

僕の順番が回ってきて、本に触れた。そして浮き出てきたのは。

『あなたの属性は  全属性  です』

「‥‥え?」
「どうされました?」
「この本、壊れてるんじゃないですか?」
「これは昨日、今日のために仕入れた新品です」
「ええ!?」
「どれどれ‥‥えええ!?全属性!?」

男性が僕と同じくらい混乱している。
それもそうだ。全属性は1000億人に一人しかいないと言われているのだから。

「素晴らしい‥‥こんな素晴らしい人材がいるなんて!」
「‥‥そうですか‥‥‥はぁ‥‥‥」

目立ちたく無いのにな…。
僕はため息をつくと、再び席に戻る。
このあと記述試験の結果発表があるらしいから、それは楽しみだけど。

「では次は記述試験の発表です。結果を見たら席に戻ること」

えぇと僕は‥‥

『1位 77番‥‥‥300点
 2位 428番‥‥249点
 3位 96番‥‥‥217点』

「やった!」

思わず声をあげてしまう。満点だ。
僕は昔から勉強が得意だったので、記述の試験ではかなり自信があったのだ。

「やはりあなたは才能がある!」
「そうですか‥‥」

男性から声をかけられるが、あまり嬉しくなかった。
目立つのはあまり好きではない。だからと言って妥協はしないけど。
まあいい結果が出てよかった。
総合結果発表は明日。総合結果によって入学合不合、クラスが変わる。

「楽しみだなあ‥‥‥」

そう呟き、席を立ってトイレで用を済ませてから鞄を持って家路についた。今は3時だった。


−ヨツバビジョン–


順位の紙が配られた。それをナツメは鞄に入れたから、それを入れ替えて最下位____2579位にする。これが思いついた方法だ。
最下位の人になり切って紙をもらおう。
最下位は‥‥‥ライってやつか。そいつに似た服装を取り寄せよう。
僕の能力は“イメージオーダー”イメージした物または見たものと全く同じ姿になる。たとえ小さな虫だとしてもだ。
早速ライを見つめ、擬態した。

「すみません、紙をなくしてしまったのでくれませんか」
「そうか。君は2579位だったな。どうぞ」
「ありがとうございます。もうなくしません」

(よし‥‥! 次は入れ替えるだけ!)

ナツメのカバンに入った紙と今持っている紙を交換し、トイレで変装した服、カツラを取ると何もなかったかのように帰った。



−ナツメビジョン−


「ただいまー! ねぇ聞いて、記述試験の結果なんだけど‥‥」

カバンから紙を取り出し母親に見せた。しかし、そこに書いていたのは1位____ではなく2579位だった。

「ま、まさか‥‥ナツメが最下位なんておかしいわ!」
「な、なんで‥‥‥!?」
「どうした」

奥の方から出てきたのは僕の兄、クロだ。
左の目を黒い髪の毛で隠していて、いつもローブのようなものを羽織って月の形のペンダントをしている。

「1位だったはずなのに最下位になってて‥‥‥」
「誰かがすり替えたのかも知れない。過去を見てみる。見たければ目を瞑ってみろ。視界の共有ができるから」
「う、うん」

すり替えたのかも知れない‥‥誰がすり替えたんだろう。
僕はそっと目を瞑った。

『すみません、紙をなくしてしまったのでくれませんか』

そう言ったのは最下位のライだ。実は僕の幼馴染で、家も近いので仲良くしている。

『そうか。君は2579位だったな。どうぞ』
『ありがとうございます。もうなくしません』

そしてライは周りを見渡すと、僕のカバンの紙と入れ替えトイレに向かった。

なんでライが…………?ずっと仲良くしてたのに、なんでっ…………。


すると、そのあとあたりが一瞬光った。
そして、そのあと現れたのは_____ヨツバさん。

__そこで映像は消え、目蓋を開けると光が眩しい。
それよりあの映像は一体…………?

「え‥‥‥ヨツバ、さん?」
「‥‥‥知ってるのか?」
「今日、助けてくれた人、なのに」

どうして‥‥‥?

「お兄ちゃんたちー、何かあった?」

二階から降りてきたのは妹のアンジュだ。
天界の最難関“中学校ルーチ”に通う2年生で、ファンクラブができてしまうほどの人気だ。
大きな薄い水色のリボンがついた白いワンピースを部屋着として着ていて、髪は銀色に近い白といった珍しい色をしている。その髪を腰の下辺りまで伸ばし、中央で軽く結っている。
そして、人の心を読んでしまうという特殊能力を持っていて、その点ではよく助けられている。

「あ、アンジュ!実は僕記述試験で1位を取ったんだ。けどヨツバさんっていう人が変装して僕の順位を変えたんだ」
「ふーん、1位って書いた紙をすり替えたってトコロ?」
「そういうこと!」
「そのヨツバ? っていう人と会わないと心読めないからなぁ‥‥」
「じゃあ受かったら、ヨツバさんに家に来るようにお願いしてみるよ」

僕はそういうと、食卓テーブルの椅子に座って、置いてあったオムライスを頬張った。

「じゃあナツメ、学校に報告したらどう? そうしたら____」
「嫌」
「え?」
「恩人を報告したくない。たとえどんなことをした人でも事情を聞かない限り」
「ふふっ」

アンジュが口に手を当てて笑った。
これはアンジュの昔からの癖だった。

「お兄ちゃんらしーね」
「そうかなぁ?」
「じゃあとりあえず保留か」

クロが言うと、アンジュも、お母さんも頷いた。

「あ、あと気になる点がもう一つ」
「なに?」
「女神の生まれ変わりって髪の毛は薄いピンクだよね?」
「「そうだよ」」

クロとアンジュが同時に言った。

(やっぱりそうなんだ‥‥うーん、なんでヨツバさんは聖属性の魔法を使ってたのかな?)

「心の中読んじゃった。えっとね、属性を作れるって噂だよ?」
「そ、そうなの!?」
「うん、そうみたい。でも結構な技術がいるから、凡人だったら20年くらいかかるの」
「へー‥‥でもヨツバさん天才だから結構早く終わりそう」

なら納得。そう言うことなら聖属性を持っていてもおかしくはない。
そこで、うちのチャイムが鳴った。

「はーい」
『よっ、ナツメ! 遊びにきたよん』

画面越しに元気な声でそう言ったのは、幼馴染のライだ。
僕はライを家に上げると、ソファに座ってもらい、サイドテーブルにサイダーを出した。
ライはよく黒いタートルネックとデニムズボンを合わせて着ていて、白銀色の髪が右目を隠し、ピンで止めていることもある。
そして、黄色いフレームの丸メガネをかけていた。(去年までかけてなかった)
ライは高校二年生で、高校ルーチェの先輩でもある。
いちばんの特徴は魔法の合成が趣味で、属性を作ってしまったと言うこと。
その属性は完全オリジナルで、雷属性という。
そこで、属性を作った張本人に聞いてみた。

「ねえライ、聞きたいことがあるんだ」
「なんだいナツメ。このライになんの御用かな?」
「属性作ったんだよね?」
「そーだよ。10年もかかったけど、作るのに必要なところだけ勉強したからちょっと期間短縮されたけど」

ライはサイダーを飲みながら続けた。

「それで、属性に関する質問?あー、大方誰かさんが偽聖属性持ってたとかでしょ?‥‥それはないか」
「ライは超能力者か何かかな?」
「お、あたりかー?ま、いいよ、話を聞かせてくれたまえ」
「何様‥‥」

後ろでムカついてるクロはいいとして、僕は事情を一通り話した。
恩人が順位表をすり替えたこと。正属性に属する魔法を使っていたが髪が金色だったこと。そこから属性を作ったのではないか? と考えたこと。

「ふむ、そうだね、作った可能性大だよ」
「やっぱり」
「‥‥‥‥その人に会わせて」
「お、怒ってる?」
「まさか、尊敬してるんだよぉ。僕より一個年下なわけでしょ?すごいじゃんか〜!」
「あ、あはは。そうだよね〜」

僕はそう言うと、その後ライの持ってきたと言うテレビゲームをして、ライが満足したと言って帰っていった。

「と言うことだけど」
「やっぱり調査が必要ね。明日受かったら家に連れてきなさいよ?」

アンジュがやや上から目線で言ってくるのが気になったが、返事をしてから今日はお風呂に入ってご飯を食べ、自室のベットに潜り込んだ。

(ヨツバさんってなんで試験のとき殺す気満々で挑んできたんだろ)

そう考えてある仮説を思いついたが、そんなことありえない、と胸の奥にしまっておいた。


次の日。

制服を着て、カバンを持ち、ホウキを手に窓から飛び立った。
今は朝5時。

高校ルーチェの開門は5時30分頃なので早めに向かうことにしていた。

「楽しみだなあ‥‥」

今日、楽しみにしていることがあった。
それは実戦授業。色々な相手と戦ったり、時には魔物と戦うこともある。
家から高校ルーチェまでは20分程。
授業開始が5:30で下校時刻が1:30。部活を含めると3:00だ。

すぐはつかないが、街の景色を眺められるし、何より風が気持ちいい。
門の前に着地すると、空中に椅子を構えて座る。

これは僕が編み出した魔法で、天属生に属する。
魔法を習得するには魔導書と言う難しい本を読まないといけない。
で、そこに書かれているのは古代文字のリーヴ文字。
難しすぎて知らないと全く読めないので魔法習得の基礎の基礎はリーヴ文字とされている。

「あ、おは、ナツメくん」
「ヨツバさん!」

下に立っていたのはヨツバさんだ。制服を着こなしている。制服は長袖だが、この世界には季節がないので関係ない。
季節はないが、基本的に寒いので長袖になっている。

「お、門開いたよ。いこ〜」
「ゴクリ‥‥‥‥」

中に入って、合格発表板を見る。
僕は確か77番だから‥‥

『75 “77” 78 80』

「やった!! あ、ヨツバさんはどうでしたか?」
「僕は428番だから‥‥あったよ」
「よかった!」

そこでアナウンスが流れた。

『合格した諸君はさらに奥にある掲示板を見てクラスを確認して欲しい。確認したらクラスに向かってくれ』

「えっと僕は‥‥Sαクラスか」
「僕はSクラスだよ。いいなー、Sαって最高クラスじゃ〜ん」

そう、高校ルーチェには5クラスがあって、レベルが高い順にSα・S・α・b・Cとなっている。

「じゃあ行きましょうか」

高校ルーチェは5階建ての校舎で、上に行くほどランクが高い教室がある。
5階はSαクラスと校長室。
4階はSクラスと視聴覚室、多目的室。
3階はαクラスと保健室。
2階はbクラスと理科室、家庭科室、。
1階はcクラスと職員室。
地下1階は食堂。
地下2階はプール・シャワールーム。
地下3階は植物園。
地下4階は物置、体育館。
地下5階は図書館になっている。

「ヨツバさん、今日家に来ませんか?」
「いいの? 今日僕も、声をかけたいと思ってたんだぁ」
「じゃあ放課後、門の前で集合ってことでいいかな?」
「はい! じゃあ待ってますね」
「うん。階段まで一緒にいっこか」

それから少し話しながら階段を上って、ヨツバさんとは4階で分かれ、僕は5階に登り、“Sα”と書いた表札がある教室に入った。

「おはようございます」
「おはよう、よく来たね。私はこのクラスを担当しているセド・メモワールだ」

ゼド先生は、髪は黒く水色のメッシュが入っていて、きっちりとしたスーツで堅いイメージだ。

「ああ。黒板に座席表があるから、そこで授業開始の7時まで待ってて欲しい」

見渡してみても12人ほどしかいなかった。
座席を確認し、席に座る。
チラッと横を見て隣の席にいたのは、猫耳が生えミント色と茶色の髪色をした少女だった。

「おはよ〜う!私きみのこと知ってるよ」
「ホントですか!?」
「んもー、堅苦しいなあ。タメでいいって!」
「あ、あはは」

ライムさんは水色のシャツに黒いセットアップを着ていて、所々につけた鈴が特徴的だ。
靴、猫耳近くの黒いリボン、手首、首についている。
上がミント色、下の方が茶色の腰辺りまである髪を二つ結びにした可愛らしい印象。

「言いそびれたけど私はライムっていうのー。君は確かナツメくんだよね」
「うん」
「ミィの属性は音属性。音色を奏でることで攻撃するんだよー」
「つくったんですか?」
「うん、2年くらいで終わったな」
「に、2年!?」
「なになに、そんな珍しいコトなの?」

珍しいも何も、通常あなたの10倍かかるんですよ!?

「ま、そういうこと考えるの苦手だから考えるのやーめよっと」

(ええ‥‥)

「そ・う・い・え・ば! 今日って実戦の日だよね?」
「あ、うん」
「風の噂で聞いたんだけど、今日タイガ・ドラゴンと戦うらしいよ? Sαの私たち全員で力を合わせて」
「た、タイガ・ドラゴン!?」
タイガ・ドラゴンってめっちゃレベル高い魔物じゃないか‥‥。
そんなのと戦っていいの!?
「実戦、6時間目でしょ? そのために1〜5時間目を使って授業をするんだって」
「へえ‥‥」
「じゃあ頑張ろ〜」

僕は席に着くと魔導書を読み始めた。
ちなみにこの魔導書は“ホウキを使わずに空を飛ぶ魔法 II”だ。この魔法は楽に空を飛べるので手に入れようとしている____がこの魔導書は5巻にわたって読まないといけないので取得するのは難しい。

うちは「エタンセル家」で、貴重な書物____特に魔導書____のコレクションをしていたという。
そのため多くの魔法を得ることができ、エタンセル家はとても攻撃性に優れている。
リリー家とは昔仲が良く、現在でもその仲は続いている。
リリー家は大金持ちの一家で、回復が得意な家系の反面毒属性という独自の属性に属する凶悪な魔法を使うことによって知られている。

僕は時計を見てあと5分で授業が始まるのを確認すると分厚い魔導書を閉じた。

「じゃ、ホームルーム始めるぞ」
「「はーい」」

(一時間目は魔法史か……)

この学校には教科が6つある。

1つ目は魔法記述。元の世界では国語。記述、その方法を学ぶ。3〜4pt。
2つ目は魔法化学。元の世界では理科。薬草を使った薬の作り方、道具の作り方を学ぶ。たまに魔法合成もするらしい。2pt。
3つ目は魔法史。元の世界では歴史。この世界がどのように発展してきたかを学ぶ。3pt。
4つ目は魔法論理学。元の世界では道徳、論理学。社会的なルールなどを学ぶ。2pt。
5つ目は実戦。元の世界では体育、実技。7〜8pt。
6つ目は飛行練習。元の世界にはなく、ホウキを使って空を飛ぶ練習をする。6pt。
7つ目は魔法吹奏楽。元の世界では音楽。魔法で楽器を操って演奏する。5pt。
この世界ではポイント制で欠席しても特に何も言われないが、1年間で75pt以上取得しないと留年になる。

「出席とるぞー」

名前が呼ばれていき____僕の名前が呼ばれたので返事をした。

「よし全員いるな。次は魔法史だから用意するように」
「「はーい」」

僕はカバンから魔法史の教科書とノートと筆箱を取り出した。

「ねーねーナツメくんさー、魔法史得意ー?」
「あ、うん得意だよ」
「そっかーいいなあ…魔法史の先生めっちゃ怖いって噂だよ。赤点とった生徒を磔にするんだとか……磔って釘刺さないよね?」
「それはないと思うよ……」

その時、勢いよく教室のドアが開いて、中から男性が入ってきた。
紺色の肩にかかるほどの髪を一つにまとめ、金色の丸メガネをしている。
濃紺のスーツには所々星が描かれていて綺麗だ。

おそらくこの人が魔法史の先生だろう。

「始めまして。俺はステラ・ラスターという」
「え!?ラスター家!?」

僕は思わず声を上げた。ラスター家は大賢者エクラ・ラスターの一家でこの世界で最強と呼ばれている。

「おや君は知ってるのか」
「もちろんです! サインしてくだっ……」

その時目の前からチョークが飛んできた____がそれをギリギリで避けた。

「それは後でにしろ!」
「ふぇ…」
「コホン。まあよろしく。では授業を始めるぞ」
「「よろしくお願いしまーす」」
「まずテキスト5ページを開いてくれ」

今日は____「属性4」か。

「まず中学の属性3の確認から。基本の9属性を答えろ。じゃあ____ナツメ」
「はい。光、天、水、風、地、血、炎、闇、色です」
「正解だ。さすが首席入学」
(首席!? 聞いてない!)
「じゃあ聖属性のものが必ず持っている特徴と称号。____ミミ」
「ギク! え、えと…」
「まさかわからないなんて言わないだろうな? あ?」
「えとと…
(“テレパシー”!)
「はっ! えと、薄いピンクの髪で“愛されし者”を持ってますっ!」
「……正解だ」

ルフレ先生はどこか不満そうに言った。

その後復習が続き、5分ほど経ったところでルフレ先生が言った。

「じゃあ本題に入る」
(十分本題だったけど)
「まずこの属性は3つに分かれている。光、天、水、風と闇、炎、血、地と色。この3つだ」
(ふむ……ここまでは知ってるな)

僕はノートにメモをした。

「これはどうやって分類されてるか、わかるか?____ヒメ」
「はい。それぞれの世界にいるものが持つ属性です」
「正解だ。では初めの属性は何かというと____聖属性だ。エクラ・ラスターという人物がそれから新たに光属性を作りそこから派生していったと記録されている。しかしもう一方でエクラの姉のフォンセ・ラスターが闇、血、炎、地属性を作った。それから我らを生み出したが光派と闇波で戦争が起きてしまった。そのため二人は協力してバリアを張ったわけだ」
「ふむふむ、メモっと」
「そしてその500年後、霊界という世界が完成した。当時エクラとフォンセ何でも生み出すことができた色属性がどちらの界に属するか悩んでいた。そのためもう一つ会を作りそこに色属性を入れた。ここテストに出るから覚えておくように」

それから一通り演習問題を解いて授業は終わった。

「じゃあ授業を終わる、しっかり覚えてこいよー」
「「はーい」」

僕はノートと教科書をパタンと閉じるとルフレ先生を追いかけた。

「先生! ラスターって本当ですか!? だったらサインください!!」
「ん、ああいいけど‥‥なんでだ?」
「偉大だからですよ!」
「……そうか」

ルフレ先生はそういうと、僕の差し出したミニ色紙にサインをした。

「これで満足か」
「はい!」

僕はそういうと、ミニ色紙を席にカバンに大切にしまって席に座った。

次は飛行練習だ。ホウキを持ってグラウンドに出た。
校庭の影になるところにあるベンチには既に僕以外の生徒が座っていたのでその隣に座った。

「じゃ、授業を始めるよ」

そう言ったのは白い髪とまつげをした、赤い瞳の先生だった。

「飛行練習はこれが初めてだよね。自己紹介するよ____僕の名前はルビー・スカーレットだ」

ルビー先生は白いシャツに赤いジャケット、灰色のズボンを履いていた。
その後出席をとると、ルビー先生は手に持っていたホウキを空に掲げ、言った。

「まずはホウキを操るところからですよっと」

ルビー先生はホウキを空中で操って見せた。

「「おおー!」」
「できたら乗ってみたり、逆さになってもいいよ。危ないことはしないようにねー」
「「はーい」」

僕は早速ホウキに乗る。
登校時にも乗ってたし、このくらいは大丈夫だ。
いつもはいないお父さんにめちゃくちゃ叩き込まれた。

「ねーねーナツメっち一緒にやらね?」

そう言って僕の肩を叩いたのは薄いピンクの髪を少しだけ伸ばして銀色の羽の形のピンで止めた男の子で、瞳も髪と同じ色だった。

「え、神の生まれ変わり?」
「違うよもー。この瞳、ちょっと水色と紫が混ざってるだろ」

その男の子が言うように、瞳は純粋な薄いピンクではなかった。

「………君の名前は?」
「ん、ああ俺の名前な。イヴだよ、イヴ・セイクリッド」
「イヴくんか。イヴくんは僕の名前知ってるの?」
「もちろんだよ。ステータスがやばいって聞いてる。しかも首席入学!」
「あ、あはは」
(やっぱり首席入学は初耳!)
「てことでやろーぜ!ナツメっちは飛べんの?」
「あ、うんある程度は……」
「やってみてくれよー」
「え?うん…」

僕はホウキにまたがり、次の瞬間____飛んだ。

「おぉー、すげぇ!」
「そうかな? ん〜………よいしょ!」

僕は空中で一回転して見せた。何ならホウキでサーフィンすることもできそう。

(そうだ!)

僕は見えない大きな球を作り、その中に半分ほど水を入れてサーフィンを始めた。

「すっげ!俺もできるようになりたーい!」

水の入った球を消すと、一斉に拍手が起こった。イヴくん以外にも大勢の人が見ていたらしい。
校庭中の人が、屋上にいた人が、教室にいた人さえもナツメを見ていた。

「「ナツメくんかっこいー!」」

そのほとんどは女子で、男子の中には忌々しそうに睨んでいる人もいた。

「えぇ…………」

そのナツメの下で、ローズ先生はずっと拍手をしていた。

「君の技術は素晴らしいね。ポイントちょっとサービスしよっかな〜」
「そ、そんな! いいですよっ!」
「はは。冗談冗談。君ならハードな修学旅行にもついていけるね」
「ハード…………?修学旅行…………?」
「あーうん。2年生の10月にあるんだけど、大半の生徒が倒れるから。生徒の間では魔のイベントって呼ばれてるんだよね」
「魔のイベント……」
「ま、君なら楽しめると思うよ。ファイト! って言っても後一年あるけどね」
「頑張ります!」

僕はそう言うとゆっくり下降した。
こうして2時間目は終わった。次は魔法科学だから、教室を移動しなくてはいけないので早めに教室に戻り、魔法科学室に向かった。
その時僕は気付いていた。

誰かにつけられている、と。

第2話

その時僕は気付いていた。

誰かにつけられている、と。

(……女か? 千里眼を使いたいところだが今日は戦うからmpを大量に消費したくない)

「あー、わすれものしちゃったー(棒)」
そう言うと僕はくるっと振り返った____が誰もいない。

(あ、あれ? 確かに誰かいたと思ったけど____)

気のせいではない。声が確実に聞こえた。どこからか知らないが。
もう少し様子を見てみよう。


*    *    *    *    * 



「き、気付かれちゃった……」

紫の髪を二つに縛り、黒いカチューシャに黒いワンピースの少女が言った。
私の特殊能力は“クリアネス”。背景に透過するが、触れられると直ってしまう。

____ナツメさんのことが好きだ。

小学校から同じでずっと好きだった。覚えていてくれたら嬉しい___けど、地味だから影が薄い人だと思われているに違いない。
もしくは忘れられているだろう。

(気付かれずに済んでよかった‥‥)

でも、ちょっと気付いて欲しいって言う思いもあった。

*    *    *    *    *    * 


−ナツメビジョン–


歩いていると緑の髪を肩あたりまで伸ばし、右のもみ上げを三つ編みにした____魔法科学の教師、ケトリー先生がいた。

「あ、先生こんにちは」
「ナツメくんか。魔法科学室に行くところかい?」
「はい。聞きたいことがあって‥‥」
「ん? なんだ?」
「mpを回復できる薬って作れますか?」
「ちょうど今持ってるからあげるよ。はい」

ジンク先生は腰に留めてあった小瓶を僕に渡してくれた。

「あ、ありがとうございます!」

僕はそう言うと、早速千里眼を使う。
____まだついてきてるな。薄紫の髪の少女だ。
ん、あれ? どこかで見たことがあるような‥‥あ、ジュレさんだ。

小学校から同じだったナチュラルな服装が似合う女の子だ。

「何で僕をつけてるんだろ。‥‥確かジュレさんってAクラスだな。今度行ってみよ」

千里眼を終えると薬を飲み干したが、結構苦い。
まずいまではいかないけど‥‥なんか複雑な味。

が、効果は抜群のようで、どんどん回復してくるような気がした。

回復したことだし、ジンク先生に感謝して急いで魔法科学室に向かおう。
僕は少し歩き、二階にある魔法科学室の扉を開けた。

「お、来た。じゃあ出席とるから、ナツメくん座ってね」
「はい」

僕は空いている椅子につ割ると、机にノートと教科書を置いた。
出席を取り終わるとジンク先生は黒板に何かを書き始めた。
書きながらジンク先生は説明をした。

「今日の授業は6時間目の実戦に向けて薬草を調合してポーションを作る。そのために知識を確認する。______」

それから薬草の種類、効能などの説明を受け、3時間目は終わった。4時間目も魔法科学なので4時間目は薬草を調合しオリジナルポーションを作った。これを持って実戦に挑むそうだ。
昼休みの余った時間に科学室を使って作ってもいいそうだ。
まあ僕はいいかな。

「お腹が空いたから学食を食べにいこっと」

そう呟くと、一階へと続く階段の近くにあるワープゾーンに向かった。
ワープゾーンとは青い魔法陣で2つが対応していて、片方に入るともう片方にワープできるものだ。
ワープゾーンに入ると選択画面が出てきたので「地下1階」を押す。

初めはいきなり出てきたからびっくりしたけど、今はもう慣れた。

____次の瞬間、地下1階の食堂にワープした。

埃ひとつなく、細部にも掃除が行き届いていてすっきりする場所だ。
もうすでにたくさんの生徒がいた。それはもう昼休みに入って3分ほど経っているからだろう。

食堂はバイキング形式で、○がついているものは無料、●がついているものは有料、さらに☆がついているものはAランク以上の人しか食べられない食材だ。

「何を食べよっかな〜」

僕はトレーとトングを持つと列に並び始めた。

このふわふわのパン美味しそう……このサラダもいいかも。ハンバーグ美味しそう!取っちゃおっと。
トレーに乗ったのはパン、サラダ、ハンバーグ、メロンゼリー。と、何故か蛍光色に光る揚げ物。

席に着くと「いただきます」と言って食べ始めた。

「あなた……ナツメさんなの?」
「!?あっ、はい!」

隣にいたのは気付かなかったのでびっくりした。
隣にいた大人っぽくお淑やかな雰囲気を纏う女の子は金色の長い髪をハーフアップにして、そこにピンクのリボンを巻いていた。
白いレースが多めのブラウスに濃いピンクのスカートが上品な着こなしだ。
そして瞳は漆黒で、その中には虹色の美しい瞳孔があった。

(____この瞳……!)

「私、ヒメ・リリーっていうの。よろしくね」
「令嬢さんなんですね!」
「……そうだけどそう言うことはあまり言わないで欲しいわ。あまり気にしないで」
「は、はい」

本人が気にしないでって言ってるから気にしないようにしないと。

「ナツメさんって確かSαでしたよね。私もなんです」
「そうなんですか! まさか同じクラスだとは……」
「まあ私、影が薄いので……」
「そ、そんなことありませんよ!」
「まあよろしくお願いします」
「はい」

そう言うと、僕とヒメさん話しながら食べ終わった学食を手に席から立ち上がった。

「さようなら」
「ええ、さようなら。また教室で」

そう言うと僕とヒメさんは別れた。
僕は気づいていた。あれは僕を救ってくれた人だ。そして僕がかつて好きになった人だ。

_____________________________


あれは僕を救ってくれた人だ。

これは僕の昔の話。
僕のお父さんとお母さんは僕が中学2年生のとき離婚した。

もともと僕はネーヴェ家だったが、お母さんのもとについて行ってお母さんはエタンセル家の今のお父さんと結婚したため僕はエタンセル家に入った(この時は中学3年生だった)。

だからアンジュやクロとは血が繋がっていないんだ。
これはネーヴェ家にいた時。小学校から中学校でいじめられていた。
雨男ということで遠足に行けなかったりイベントが中止になったりしたからだ。
小学校で3年生からいじめられ始めて中学校3年生までいじめられた。

ある日、僕は雨の中屋上で殴られていた。

この時そこそこモテていた僕が気に入らなかった5人組にだ。
僕がなかなか倒れないのでその5人組は僕を4階建ての校舎の屋上から落とした。
幸い下に風魔法を放って衝撃を抑えられたけど僕の体はもう限界だった。

そんな時黒いレース傘をさした一人の女性が現れた。
黒いショートドレスに黒いリボン、金髪の髪。そして漆黒の瞳。その瞳には虹色の瞳孔が秘められていて、それを美しいと思った。
その女性は僕に手を差し伸べてこう言った。

「大丈夫ですか?」

僕はその人を好きになってしまった。

「____」
「あなたの名前は?」
「僕の、名前は……」
「ゆっくりでいんですよ?」

僕はもう限界だ。
そう伝えようとしたが体力がない。

「“シャムロック・キュア”」
「……!」

彼女が呪文を唱えると僕はみるみる体力を回復していった。

「あ、ありがとう」
「ううん、いいの。名前も聞きたいし家にいらっしゃい?」
「え……そんな悪いよ」
「いいんですよ、遠慮しないで。さ、立てますか?」
「……」

僕は立ち上がると、女性と傘の中に入った。

「あの……あなたのお名前は?」
「わたし……そうね、アイリス・リリーよ」
「令嬢さんなんですか!?」
「ふふ、そうよ。まあ気にしなくていいわ。これのせいで仲がいい友達がいないから」
「……」
「それで……名前は言える?」
「あ……はい。ナツメ・ネーヴェです」
「ナツメくん、ね。よろしく」

それからいろいろなことを話してアイリスさんの家に着いた。

そこは5階建てほどありそうな赤い屋根、白い壁のお屋敷で、庭には大きな噴水、プール、蝶が飛び交う植物園などがあった。
到底僕が買うことのできないような豪邸だ。

「え?このお屋敷がアイリスさんの?」
「ええそうよ。今汚いけど、よかったらどうぞ。お茶でも入れるわ」
「は、はい」

そういうとアイリスさんは門を開け、広大な庭の白いレンガの道を歩き、屋敷のドアを開けてくれた。

「わあ……!」

そこはとてもきれいなところで、床は大理石で光を受けて煌めくシャンデリアが飾ってあり、中央に新そうな赤いカーペーットを引いた大きな階段があった。

階段の右横には大きな時計、左横には観葉植物と絵画が飾ってあり、右奥にはずらりと年季の入った本棚と分厚い本が並んだスペース。
そして左奥には大きな厨房と20人ほど座れそうな大きな縦長のテーブルが置いてある。

「ここで靴を脱いで、スリッパに履き替えてね」
「はい」

僕は靴を脱いで差し出された高級そうな大きなリボンのついた白いスリッパに履き替えた。

「私の部屋は3階なんだけど……今着替えるから待ってて」

アイリスさんは黒いリボン付きのスリッパを履いて、階段を登っていった。
そして少しすると髪を一つにまとめて右肩に下ろし黒いシュシュでまとめて、黒い長袖のルームウェアを着て降りてきた。
ルームウェアはワンピースで、胸元と腰の左右に小さい黒いリボンがついていた。

「おまたせ。じゃあ私の部屋に来て」
「わかりました!」

僕は階段を上がってアイリスさんについていく。
3階について中央にドアがあった。

「ここが私の部屋。どうぞ」

アイリスさんはそう言ってドアを開いた。

「ええええっ!?」

そこは先ほどの玄関ホールの半分ほどありそうな部屋があった。
一番奥にはあたりが一望できる壁一面に張られた大きな窓。
艶々と光る革の黒い大きなソファ。
その横には指紋や埃すら一つもない白いサイドテーブルがあり、大きすぎるテレビも壁にあった。
ベッドは黒い枕に白とピンクのクッションが置いてあり、黒い蚊帳で覆われていた。まるで宮殿の姫のベットだ。

本棚には難しそうな本がぎっしり詰まっているが僕には読めそうもない。

「すごいですね!!」
「そう?待ってて。今お菓子と紅茶を____そうそう。どの紅茶が好みなのか教えて欲しいから一緒に倉庫へ行きましょう」
「え、あっ、はい」

僕は紅茶なんて飲んだことない……!

下に降りて、アイリスさんは図書スペースに入るとある本棚を動かした。
すると奥に地下へと続く階段が現れた。

「ちょっと暗いから電気つけるわね」

アイリスさんは右側の壁にあるスイッチに触れた。
すると瞬く間に優しい光が僕の目に入った。
暗いから急に眩しくならないよう配慮されているのだろう。

「うん、明るくなった」

僕たちは階段を降り、手をついただけで乾いた音を立てる頼りない、でも巨大な木の扉を押し開け、中に入った。

「わあ!」

そこにはたくさんのものが並べられていた。
日用品から機械、食料、植物、道具‥‥ここならなんでもありそうな気がする。
するとアイリスさんは倉庫の奥から何か持ってきたようだ。

「ええと、あなたはこの中だったらどれがいいか選んで欲しいの」

アイリスさんは缶を並べた。

アールグレイ、セイロン、ウバ、アッサム、キャンディ、アップルティ、レモンティ、ミルクティ‥‥など様々な種類の紅茶の名前が書かれた缶が並べられているが僕にはさっぱりわからない。

「ええと……」
「んー……じゃあ私のおすすめの紅茶を入れるわね」
「お願いします!」

アイリスさんのお気に入りの紅茶か。楽しみだなあ。
アイリスは「アールグレイ」と描かれた缶を残して他をしまい、お湯を沸かしはじめた。
ポットにティースプーン2杯を入れて沸かしたお湯を勢いよく注ぐと素早く蓋を閉めた。
そして3分測るとスプーンで混ぜると茶こしでガラをこしながら慣れた手つきでまわし注ぎした。

「できたわよ。マカロンも持ってくから部屋に戻ってていいわ」
「手伝います!」
「あ……そうなの?じゃあトレーに乗せてマカロンを持ってきてくれる?」
「はい!」

僕は棚からマカロンを出すとお皿に入れてトレーに乗せ、先をいくアイリスさんと追いかけたが____見当たらない。

「アイリスさん!?」
「うぅっ……」
「どこからかアイリスさんの呻き声が聞こえる____アイリスさんを助けないと!!」
「アイリスさん、どこですか!」

「はぁ、はぁ……」


どこかで息遣いが聞こえる。

__ここか。地下の階段にひっそりとある扉。
チラッ顔覗いてみることにした。

「はぁっ……はぁっ…………今日の分は抑制できた…うっ⁉︎」

急にアイリスさんの息が止まるように固まり、ふらついてに机にもたれかかった。

「アイリスさん⁉︎」

咄嗟に扉を開ける。
アイリスさんは荒い息遣いをしていた。

「…来ないで‼︎」

アイリスさんはこちらに手を向ける。____魔法を使おうとしている。

「来ないで…貴方もッ…どうせ私を……‼︎裏切ってッ」

アイリスさんは苦しそうに顔を歪めた。
貴方もどうせ裏切る…って……。

「ぅあッ…!」
「アイリスさんッ…!」

倒れそうになった彼女を支えて、近くにあったアンティークの椅子に座らせた。
先ほどの彼女の言動は何だったのだろう。
裏切る…?貴方もってことは今まで裏切られてきたのだろうか。

「アイリスさん。先程のこと話していただけないでしょうか」

アイリスさんはぽつり、ぽつりと語り出した。


私はね、ヒメ・リリーっていうの。

お城で生まれた、リリー家の令嬢。
だけど…10歳くらいの頃かな。急に片目が赤くなったの。
お城のみんなは病気じゃ無いか、と心配してくれたけど、当時10歳の私はそれなりの知識もある。

その片目が赤くなるのは、魔王の生まれ変わり…そうわかっていたの。
それだけならまだいい。魔王は多かったけど弱いのも多かったし赤い瞳の人も、周りにたくさんいたからね。だけどね。

魔王伝記に書いてあったの。

『極悪人の魔王ユーベルを封印した。
だが稀に生まれ変わってしまうらしい。いや、予知で生まれ変わることはわかっている。
その生まれ変わりの特徴は、“瞳の色は右が黒色で虹があり左が深紅”である。
そのようなものを見つけたら直ちに報告すること。懸賞金は1億ジュエルとする。』

いや、お城のみんなもわかっていたんだと思う。だけど気を使ってくれたのでしょうね。

私は、政府に追われるようになった。

お城のみんなは私が小さい頃からずっとそばにいてくれて、優しくて暖かかった。
だからこの事実をみんなに報告して、此処に匿ってくれないかと提案したの。
だけど、私が魔王ユーベルの生まれ変わりだと知るとすぐに掌を返して政府に報告した。

皮肉なものよね。きっと今まで優しかったのは私…いやリリー家の権力、もしくは懸賞金。

他にもっと財を持つものがいれば誰でも良かったのでしょう。

それでね…お金はあるから新たな召使を雇って家を建てて、中学校に転校した。その転校先ですごく仲良くなった子がいたの。
すごく優しくて一生懸命で…そんな彼女なら自分を受け入れてくれると思った私は、彼女に私が魔王ユーベルの馬話代わりだということを正直に話すことにしたの。
彼女は驚いていたけれど、受け止めてくれた。
嬉しかった。自分を理解してくれた、唯一の希望だったから。

でもその次の日、遊ぼうって言われて路地裏に連れてかれた。ちょっと不安だったけど疑わなかったの。
路地裏にいたのは大男二人。
どういうことかと彼女に聞いたの。
…私を政府に突き出す。それが目的なんですって。

友達で、仲よかったのに、と言ったら彼女はこう言い放った。

『魔王ユーベルの生まれ変わりなんかと友達なわけないじゃない』

その言葉は深く、私の心に刺さった。
大男に連れてかれそうになったけど間一髪で逃げ出してね。

学校とか行かないようになって、独学で勉強してたんだけど限界になって…この高校に来たの。

「…こういう生い立ちがあってね……君の記憶は、もうすぐ消すから」
「待ってください!」
「__?」

僕は魔法をかけようとしているアイリスさん___いやヒメさんの手を止めるように声を発した。

「ぼ、僕は…貴方が魔王ユーベルの生まれ変わりだからと言って嫌いになんかなりません…!」
「…なんで」
「……だって…だってヒメさんはとても優しい人だから!」
「___ッ」

ヒメさんは顔を歪めて、すぐ後ろを向いて顔を隠した。

「信じても…いいの…?」
「もちろん」
「もう…怯えなくても…」
「いいですよ。ヒメさんには楽でいて欲しいんです」
「ッ…!」

ヒメさんは一瞬息を止めたように動かなくなった。

「う…うぁあああ!」
「辛かったですよね。もう我慢しなくて、いいんですよ」

いつの間にか僕の涙腺も緩んできた。
彼女の涙が熱かった。でもそれ以上に僕の心の方が、きっと熱かった。


*    *    *    *    *

ーヒメビジョンー

ナツメさんは、今までとは違う。
何となく、そう思う。
きっと裏切る可能性もゼロでは無いけど、その確率は限りなく低いと思う。
だから私は、彼を信じてみることにした。

そして私は、



彼に一目惚れしてしまった。

ずっと傘さしてただけなのに最強ってどういうことですか?

どうでしたでしょうか。
さてナツメの後をつけていたのは誰でしょうか?
次回もぜひお越しください。
それではまた会いましょう。

ずっと傘さしてただけなのに最強ってどういうことですか?

雨男の僕が最強ってどういうことでしょうか??

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-07-09

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

CC BY
  1. 第1話
  2. 第2話