打切り【TL】結婚◯輪

0.5話打切り。18禁展開前ですが18禁モノなので18禁設定?
攻めヒロイン/クール暴君元カレ/美少年風温厚柔和元カレ弟/男喘ぎ

0.5話 打ち切り

 共働きの両親の帰りが遅い環稀(たまき)にとって、大衆食堂「サンロード」はある種の命綱であった。この定食屋の古くからある回鍋肉(ホイコーロー)で健康に育ったといっても過言ではない。そして彼女は、ここで初恋を知るのである。
 相手はゴリラのような男だった。顔が岩のように大きく四角い、猪首で、肩幅の広く、胸板は厚く、上体は逆三角形を描きながらも胴回りも太い。あらゆるパーツが大きかった。毛深さといい、精力的な外貌といい、ゴリラを思わせる。環稀の父親が腺病質な色白で、背丈はあるが華奢な体格のためか、そういう男性というものが新鮮に映ったこともある。
 この環稀の初恋相手の名を、彼女は知らなかった。店の者や他の常連客は彼を「すーさん」と呼ぶ。


 "すーさん"の豪放磊落な笑顔が忘れられない。


 遮光3級のカーテンを透かした朝日で目を覚ます。広いベッドの中を揺蕩っていた。掛けられたダウンケットは身体に巻き付いたように引っ張られ、窮屈に感じられる。
 環稀は隣をおそるおそる振り向いた。枕の上に黒髪に覆われた形の良い頭が乗っている。彼女は身震いした。そしてまだ恋しい布繭の温もりを手放してベッドを降りた。昨晩からおそらくほんの数時間前まで舐め回され、捏ね繰り回された胸の先が気触(かぶ)れつつ疼いている。環稀はきちんと置かれたとは思えない、投げ捨てられたように横たわるバッグの中からハンドクリームを取り出すと、ぴんと勃ってぷくりと腫れたそこに無香料の塊を塗る。暴力的なまでに感度を高められた肉体は、時間を空けてはいるものの、妙な情動を起こす。
 感情と肉体が乖離している。
 懐かしく、温かな、まだ幸せを幸せとすら認識しない、幸福というものに後々気付き縋るような伏線にしてしまえた頃の夢をみたというのに目が覚めれば残酷なものだった。否、それが人の業であり、生き方なのかもしれない。
 身体中に他者の唾液だの汗だの精液だのを纏っていたが、シャワーを浴びる間も惜しかった。彼女はバッグと、散乱した衣類を拾い、音もなく別室へ移動した。
 逃げるなら今だ。無理矢理嵌められた指輪も、今ならば浮腫まずにすんなりと外れた。ネックレスも取った。テーブルへ揃える。バッグに入った手帳に挿さるペンのことも思い出した。曇りのない黄金が輝かしい滑らかなボールペンは文房具屋であればショーケース に並んでいるものだった。手帳の1ページを千切り、この重苦しいペンで走り書きを添える。
 逃げるなら今だ。
 静かにしなければならないが、しかし焦った。ショーツを穿くのにもてこずる。
 家主はまだ起きていないようだ。
 集合住宅だが、一軒家みたいに広い家から彼女は脱出した。5年に及ぶ束縛からの解放である。やっと切り出せた。計画したわけではない。様子を窺ってはいたのだが、常に挫かれていた。しかし今日は夢によって、ふとした衝動が味方をした。



 大学附属の高校から外部進学し、環稀は地元を離れた。ところがまだ元交際相手の束縛は解かれなかった。大学卒業後にも引っ越しをした。今度こそ、苛烈な執着心を持つ元交際相手に知られることはなかった。
 家族も他者に娘のことを話したりはしないだろう。娘は学内排他(いじめ)によって外部進学せねばならなくなったのだから。

 学生時代は散々であったが、就職が決まると不安や多少のストレスは否めなかったが、ひとりでショッピングやカフェ巡り、図書館通いに美術館見学など、好きなことができるようになった。
 恐ろしい男はもういないのである。高額な装飾品や、好みでない服をプレゼントしたり、髪を染めさせたりする男はもういないのである。拷問めいた尋問をし、重箱の隅を突ついて詰(なじ)り、貶し、力尽くで犯すような男は。

 図書館の棚にぎっしりと並ぶ一冊の本を手に取ろうとしたときだった。そう分厚くはなく、そう本格的でもない、どちらかといえば見目に綺麗さを重視した鉱石の図鑑だ。彼女が手を伸ばしたとき、視界の横から伸びてきた手とぶつかった。鱈の切身みたいに白い肌だった。大きさや形から男のようではあるが、瑞々しい皮膚をしていた。
「すみません」
「ごめんなさい」
 言葉が重なる。同じタイミングで両者は互いを見遣った。色素の薄い髪と目に、小さな頭、すらりとした線の細い男である。彼は虹彩の透かせるほど淡い瞳を真ん丸くした。環稀は怒鳴られでもするのかと後退りかける。シマエナガやエゾモモンガの擬人化みたいな外貌でも、結局のところ男である。怒鳴り散らし、拳を振り上げる生き物であるというのが環稀に染みついた氏素性の分からぬ男というものの観念である。
「どこかで……」
 桜色の唇が動いた。しかし彼女には何と言ったのか拾えなかった。環稀の耳には罵倒に聞こえたのかもしれない。彼女は青褪めて逃げ出した。道行く通行人や店員に対してならばこうはならないが、一個人として対峙した途端、恐ろしくなった。楽しもうと思っていた休日が一気に陰鬱なものに変わる。


 翌々日、出勤すると社内は華やいでいた。まだ始業前である。高校時代は人々が屯って何か話しているだけで自分の悪口を言い合っているものと被害妄想に駆られたが、地元を出てしまえばまた別のコミュニティと世界観と地域性というものがあった。環稀は取り立てて問題のあるような人格の持主でもなければ、何かひとつが反感を買う性格的、風貌的な派手さもない。清潔感もあり、控えめで地味で、むしろ存在も拾われないくらいには空気に擬態し、風景の保護色みたいになっていた。一体何故彼女は高校時代、学内排他に遭わなければならなかったのか、彼女にはその理由が分からなかった。いいや、嫌でも知らされたのだ。束縛が三度の飯よりも好きで、女体を苦しめることに至極の悦びを感じ、罵詈雑言と冷嘲を趣味とする独占欲の強過ぎた元交際相手が裏ですべてを操っていた。
 環稀は何かの話題で持ちきりなオフィスの隅のほうにある自身のデスクに着いた。朝の挨拶だけ済ませれば会話に加わらずとも、職場で浮くことはあれど不快感は与えずに済む。
 大学時代は茶髪だった髪を就職に伴い黒く戻し、毛先のパーマもやめてストレートヘアに矯正した。化粧も変えた。元交際相手と万が一 出会(でくわ)したとしても一目でそれとは分かるまい。ヘアセットも変えてある。職場では地味に、かといって野暮ったくあればまた職場内排他に遭いかねない。適度に垢抜けなければならなかったが、この職場にもぽつぽつと野暮ったさの否めない者はいる。しかし職場内排除は環稀とみたところ覚えがない。
 オフィスの風景と一体化した環稀に忍び寄る影がある。壁にぴったりと身体を沿わせ、カニ歩きで近付くと、後ろから彼女の肩に手を置いた。
「青沼(あおぬま)先輩!」
 明るい茶髪は社則的にどうなのかという頭髪の若そうな男性社員だ。環稀はぎくりと肩を震わせた。忌まわしい記憶が脳裏を走り抜け冷や汗が一気に滲み出たが、表には出さなかった。青白い顔で振り向く。
「ああ……おはよう、三(しのまえ)くん」
 1つ下の後輩である。教育係として付いたのがきっかけで、軟派で軽率な態度が苦手なものの、まだ交流がそれなりにある。
「おはようございます!あれ、体調悪いんスか?顔色悪りっスよ」
 それが手前の所為だとも彼は気付く由(よし)もない。
 高校時代は満足にトイレも使えなかった。上から水浸しの雑巾が降ってくるのである。職員室トイレに紛れ込むしかなかった。幸いにも元が優等生だったこともあり、言及されることはなかったけれど。
「大丈夫よ……何か用?」
 この純粋ながらそれゆえに幼稚で迂愚で俗っぽさのある無思慮で無分別さの否めない部下に、まったく悪気はないのである。
「青沼先輩聞きました?本部から派遣されてきた人がめっちゃイケメンらしいんスよ。ヤだな~。ライバル増えちゃう。女子社員が浮ついちゃってさ~っていう愚痴っス!」
 "本部から派遣されてきた人物がいて、その者が"イケメン"か否かという話題は環稀の耳から耳へ流れていってしまった。それよりも彼にされた行動によって起こされたフラッシュバックのほうが彼女にとって受けるものが大きい。
「そう。ごめんなさい。ちょっとお手洗いに……」
「やっぱり具合悪いんじゃないスか?」
「そうではなくて」
 彼女は付いてきそうな部下を半ば邪険そうにしてトイレへ向かった。皮肉にもトイレでの傷が甦り、トイレで落ち着いている。しかし内装も構造も随分と違う。記憶に結びつきやすい匂いもまた違った。
 洗面台に構えていたが、軽微な吐気が引いていく。鏡を見ると、女性社員が入ってきた。
「青沼せんぷゎい、おはようございます~」
 間延びした喋り方の部下がやってくる。成人女性だが、美少女という感じのするあどけなさと可憐さがある。
「おはよう、宵町(よいまち)さん」
「せんぷゎい、聞きました?なんか本社からイケメンエリートが来るらしいんですよぉ~。絶対金持ちの玉の輿ですよね~?あーし狙っちゃおっかな~?」
 彼女はメイクポーチを小脇に抱え、よくカールした毛先を気にしていた。
「宵町さんならイチコロね」
「え~?応援してくれるカンジですか~?頑張ろ」
 会う人、会う人がその話である。始業時間までの間に、噂は尾鰭背鰭胸鰭腹鰭が付いてきて、そのうち鰓(えら)まで付きかねなかった。これで実際は本部からでもなく"エリート"でも"イケメン"でもなかった場合、本人にとってもモチベーションの上がっている一部社員にとっても悲惨だ。そしてついに、"本社のエリートイケメン"がオフィスへやってきた。
 環稀の見方からいうと、"イケメン"とはオオカミやオオワシのような鋭利な美形をいうものと思っていたが、入ってきたのは白ウサギみたいな、ジャンガリアンハムスターみたいな色白で華奢で、獰猛さの気配はない穏和げな高校生みたいな青年だった。体格に合わせた上等なスーツと立派な腕時計さえ見なければ、少年と見紛う。確かに目は大きく、通った鼻梁に小振りな鼻先、桜色の唇は薄く小さく、美貌であることに間違いはない。だが何かが、噂を裏切っている。
 前評判が高いというのも残酷なものだった。環稀はオフィスの隅から、活ける魚までに噂の育ってしまった当人へある種の同情を示す。彼が名を名乗るまで。
 本部から来た青年は、自分に絶大な期待が持たれていて、それがすぐに打ち崩されたことなど知りもしない様子で、爽やかに自己紹介をはじめた。
「本社から来た舞川(まいかわ)昊(そら)と申します」
 その名を聞いたときの環稀は、稲妻で袈裟斬りにでもされたような心地だった。

 舞川……
 その苗字は、環稀が辛々(からがら)逃げてきた男のものである。その者には確かに同胞(はらから)がいた。一卵性双生児で、容姿は似ていない。性格も似ていなかったのではないか。
 あの男と違って、背は特別低くはなかったが、背が高いと印象付けられるような背丈でもなかった。あの男は髪が黒かったが、双子の弟はそうでなかった。兄の根の暗さをすべて吸い取ってしまったらしい社交的な優等生が、確かに記憶に残っている。
 舞川昊。そういう名前だったかもしれない。
 環稀は立ち眩みを覚えた。澄んだ眸子がやって来る前に彼女は目を逸らした。顔を合わせたところで忘れられているだろう。
 しかし不安は残るのだ。火種であることには変わりなく、舞川昊から"あの男"へと情報が漏れないとは限らないのだ。
 逃げられたと思えたが、安寧はそう長く続かないらしい。今の暮らしはやっと得られた居場所である。しかしこの舞川昊という人間は危険だ。もはやこの場所に安息はないのか……
 目の前がちかちかした。まばたきを忘れる。急な体調不良に見舞われて、朝礼中も構わず彼女はオフィスを抜け出した。出入り口の近くにデスクのある、小うるさい後輩の三(しのまえ)に気付かれたが、声をかけられる前にと急いだ。
 自動販売機スペースの壁からせり出た椅子へと腰を下ろす。観葉植物で隠された姿見にも怯えてしまった。そしてそれが鏡だと知ると己の萎んだ顔を認めた。大きく溜息を吐く。そのうち慣れるのかもしれないが……
 高校時代の舞川昊を思い出す。"あの男"に塗り潰されてばかりの記憶である。おそらく二卵性双生児なのだろう。他人と思えるほどに顔が似ていなかったが、確かに兄弟だった覚えがある。何故なら……

『お嬢ちゃん!これ、これ!これがうちの息子!』

 サンロードで見た男子だからだ。豪放磊落といった父親と繊細げで嫋やかな息子は彼女の印象として強く残っていた。しかし自ら思い出そうとすれば思い浮かんでくるだけで、まったく、環稀の中に舞川昊という存在はそう大きいものではなかった。関わりがない。そして父親の面影もない。何よりも彼の兄が彼女には大きすぎる脅威だったのだ。
 おそらく舞川昊は自分を忘れているはすだ。否、兄から何か聞いている可能性が無いとはいえない。しかしあの恐ろしい男の弟だというのに存在感をそう色濃くは覚えていないのは兄弟仲が冷え切っているのではあるまいか。紹介どころか、"あの男"の口からは、双子がいることも、それが弟であることも、同じ高校に通っていることも話されていない。
 舞川昊が何も知らなければ。それか、青沼環稀を忘れていれば。
 少し休むと気が楽になった。わざわざ大人になったこの時分に、職場の人間のことなど話すだろうか。いいや、その偶然性について十分話題にできる。




 彼の風貌は確かに噂と大きな差異はあったものの、可憐で儚く成人していながら美少年であることは間違いなかった。ゆえに周りに人が集まる。
 舞川昊は環稀を覚えていた。彼が覚えてさえいなければ……いいや、環稀は覚えていた。彼が覚えていようといなかろうと、疑心暗鬼は尽きなかった。
 日常が壊れるかもしれない。"あの男"に壊される。舞川昊の登場は、強く彼女に打撃を与えたのだ。この驚愕!一瞬で環稀の人格を塗り替えてしまうには事足りた。彼女は舞川昊を認めた途端からジョロウグモになった。そしてモンシロチョウを待つ。

プロット晒す (コピペまま)

⭐︎結婚◯びわ
DVカレシ→リョナラーヒロイン→ラレ弟

双子兄弟に翻弄されるヒロイン。

▽A舞川統(すべる)…❌ヒロインの幼馴染の兄。⭕️親父?❌美男子⭕️ゴリ系ナイスガイ❌先生?ジムのイントラ?食堂経営?大衆食堂「サンロード」経営。15のときに息子を産ませる→名家だか勘当。33→40。息子がバイトしてることは口止めされている。
▽B青沼環稀(たまき)…ヒロイン。Aに思いを寄せていたがCにレ。性格が歪んでいく。17(18)→22→24(25)。大学時代までは付き合っていた。わたし/三くん/宵町さん/
▽C舞川漣(れん)…Aの弟。双子の兄。ヒロインに横恋慕する。暴力を振るう。クールな一匹狼。❌ジムにいる。親に入会させられた?天才。⭕️陰気の克服と客寄せパンダに働かされている。
▽c舞川昊(そら)…Aの弟で双子の弟。ヒロインに虐待される。感情を表にしない優等生。泣くとやめてくれるところを知ってからは泣くようになる。秀才。罪悪感による情による攻略対象。
▽D宵町(よいまち)陸風(りっか)…ヒロインの友人。ぶりぶりぶりっ子。ヒロインに百合感情を抱く。昊が嫌い。あーし/青沼せんぷゎい/
▽三(しのまえ)十五(さんご)…ヒロインのこと好きだし両想いだけどいじめっ子に似ていて陽キャ苦手なヒロインに怖がられる。ロマンティックな恋愛の攻略対象。
おで/青沼先輩/


・手首を切らせる→上手くいかないと殴る
・罵倒→泣き出す→ベロベロ顔舐める
・剃毛→男体盛りする
・陰部にしか話しかけない
・終盤に告白されて罵倒する→二度と関わらない→ストーカー化→懺悔を込めて受け入れる。ヤンデレ化?
・双子弟の前で双子兄に犯される。
・「男」だから優位という立場に甘んじて「女」のヒロインを軽んじる。

1話…過去編(高校時代→大学生)
2話…出会う
3話…本性明かす
4話…

打切り【TL】結婚◯輪

打切り【TL】結婚◯輪

逃げてきた元カレの弟に八つ当たり復讐を試みる。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2023-07-03

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  1. 0.5話 打ち切り
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