この感じ

あの子は僕とは違う眼差しでその映画を見ていた。とても単純に、真っ直ぐに画面の中の出来事を捉えていた。
映画に飽き始めていた僕がチラリと彼女を覗き見しながら、何か茶化すような言葉を投げかけた。
でも彼女の耳には僕の声は全く届いていない。
丁度、主人公とヒロインが唐突に離れ離れになってしまうシーンだ。
食い入るように画面を見つめる彼女の瞳は綺麗だった。

あの時から、あるいはそれ以前に、僕は大切なものを失っていたのだ。
僕と彼女は同じ空間に居ながら全く別の世界にいた。

この感じ

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-06-01

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