「春の狂い」

 露がりうりうと囀る
 冬の涙
 あたたかき涙
 風はヴァイオリン
 時たまひいひいと眼血走るヒステリイ
 雪どけの
 花の解放
 水の戯れ
 雪は空気に溶け込みて
 冴えた色化粧の
 さみしい空に映えること
 椿は土に
 桜は宙に
 心を散らして目を眠る
 さみしげなる 春景色
 夜には月の光を呑みて
 郷愁の泉に浸るものを
 昼間 人里(ひとさと)離れたなつかしさに
 掻き毟られてゆくは花びら
 土に
 宙に
 眠りて泣きて
 やがて一縷の川をなし
 白露 なみだの首飾り
 ほつれた花の餞別よ
 憎むものはなし
 どうして誰を憎むべし?
 愛し続けることを拒む臆病なわたくしは
 一人首飾りを巻きつけて
 呼吸するたんびに肌に喰い入る
 うつくしきとうめいな瑠璃の水晶
 深く首に抱きついて
 わたくしをまどろませて
 たんと酒を呑ませて
 酩酊さして
 わたくしをプラチナの簪に変えるのでしょう
 花を飾ろう
 花を飾ろう
 簪に花を飾りましょう
 かなしき春に
 別れを告げて

「春の狂い」

「春の狂い」

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-05-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted