イケボカフェの面接はオネェだって受けたいのよ、な話 (1:1)

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「イケボカフェの面接はオネェだって受けたいのよ、な話」


◇登場人物
オーナー(♀) イケボカフェのオーナー。自分ではしっかりしているつもりだが、極度の声フェチで、妄想癖あり。思っていることが口にでる癖があるが無自覚。

尾根川(おねがわ)(♂) 面接に来たオネェ。中身はごく常識人。(男声とオネェ口調の使い分けがポイントになります、がんばってください)

上演時間……10分~15分

◆◆◆本文

オーナー:大変お待たせして申し訳ありません。わたくし、本日面接を担当いたします、このカフェのオーナーの……って……あ……あれ?

尾根川:はい?

オーナー:ごめんなさい、部屋間違えたみたい! 
……いや、でもここ以外に控室ないし……あれ? 時間、間違えた? 

尾根川:間違えてないわよ。アルバイトの面接でしょう?

オーナー:え、はい、そうです、けど。え?

尾根川:アタシよ、面接に応募したの。

オーナー:え、え、あのー何かのお間違いでは? ここ「イケボカフェ」なんですよ。
主に男性店員を募集してまして。お姉さんみたいな、色っぽいお姉さんは、募集してないっていうか……。

尾根川:あらうれしい。でも体は男だから条件はクリアしてるでしょ?

オーナー:は?

尾根川:『お姉さん』じゃなくて、いわゆる『オネェ』よ、アタシ。

オーナー:は!? え、え、ってことは、この履歴書の尾根川さんって……え、え?

尾根川:そう、アタシ、尾根川と言います。履歴書の写真も正真正銘アタシよ。男装してる時のやつ。
でも、この格好の方が落ち着くのよね。我ながら似合うと思うし。
アタシのことをてっとり早く理解してもらうには、この方が良いかと思ったんだけど。
驚かせたのは失礼。(にっこり)

オーナー:(困惑)そ、そんなきれいな顔で微笑まれてもですね……ああ……どうしよう、これ……どうしたらいいんだろ? ええーー……?

尾根川:そんなに深く考えることかしら? 声がいい『男』ならいいんでしょ? アタシ、声には自信あるわよ。とにかく面接してみればいいじゃない。

オーナー:ええ……うーん……でもなぁ……

尾根川:いいから、さっさとやんなさい。それがあなたの仕事でしょ、オーナーさん。

オーナー:わ、わかりましたよ、うちの面接ではまずテストをさせていただくことになってます。まずは朝の挨拶から行きますね。

尾根川:いいわよ、任せて。

オーナー:「先輩風に」

尾根川:「あーら、おはよう、今日もかわいいわね」

オーナー:「執事風に」

尾根川:「あーら、おはようございます、ご主人様。今、着換えを、お手伝いしますわね、ふふふ……」

オーナー:「お父さん風に」

尾根川:「あーら、おはよ。ふふ、ご飯できてるわよ。ダメよ、ちゃん食べないと」

オーナー:ちょっとまって、それはお父さんなんだかお母さんなんだか……。他のもなんか全部同じだし。あのー普通の男声(おとこごえ)ってできます?

尾根川:ああ、そっちがよかったの? できるわよ、まかせて?

オーナー:ホントかなぁ? じゃあもう一回行きますね。「先輩風に」

尾根川:「おはよ、なんだ、また遅刻か?」

オーナー:「執事風に」

尾根川:「おはようございます、お嬢様」

オーナー:「お父さん風に」

尾根川:「あ、おはよう。ご飯できてるぞ。コーヒーでいいか?」

オーナー:「関西人風に」

尾根川:「おはようさん! なんや元気ないな? たこ焼き食うか?」

オーナー:「オネェ風に」

尾根川:これはアタシの得意分野ね。
「あら、おはよ。まあ、失礼ね。アタシのお店で酔いつぶれてたから介抱してあげたんじゃない。……ちょっと味見くらいはしたけど、ふふふ」

オーナー:さすがにうまい……でも挨拶じゃないですけどね! 次は「アウトロー風に」

尾根川:「よお、やっと目覚めたか? ああ、騒いでも誰も助けに来ねーよ。恨むんなら自分自身を恨むんだなゴミ」

オーナー:「敬語サイコパス風に」

尾根川:「おはようございます。やっと起きてくださいましたか? では、昨日の続きをしましょうね。ふふ、その目ゾクゾクしますねぇ」

オーナー:「王子様風に」

尾根川:「おはよう、俺の姫。お目覚めのキスは?」

オーナー:……なるほど、確かに。

尾根川:(オネェに戻って)ふふ、なかなかやるでしょ? こう見えてもアタシいろいろ資格持ってるし、接客も得意よ? 採用した方がいいと思うわよ~?

オーナー:オネェの店員かぁ……それはそれで、需要はあるのかなぁ……うーん…?
とりあえず、次は台詞審査行きますね。

尾根川:これ読めばいいの? ふふ、がんばっちゃおうかしら。
「(オネェ口調で)
あーら、かわいい坊や。こういうところは初めて?
体の力を抜いて、リラックスして?
どうしたの? アタシが怖いの? 
(男口調で)
なるほど、こっちの方が好みか?
いいぜ、今日はこっちで相手してやるよ。ほら、来いよ」

オーナー:うっ……

尾根川:読んだけど……あら、どうしたの? 具合でも悪いの?

オーナー:いえ、そうではなくて、オネェが急に「男」出して来るのって、こう……思ってる以上にこう……くるものが……くっ!

尾根川:なんだ、性癖に刺さってるだけなのね。遠慮なくどきどきしていいのよ? そして採用してちょうだい?

オーナー:べ、別に刺さってないし! 平気だし! 
まだ! まだ採用すると決めてませんから! 次はこの台詞お願いします!

尾根川:これね……えっと……
「あら、いらっしゃい。どうしたの?
やあねぇ、悲劇のヒロインですって顔して
そんなんじゃ、また彼氏に逃げられるわよ
……あら別れたの? それは失敬
だめ、今のアンタに出す酒はないわ。レモネードにしておきなさい。
まったく。人生なんてね、どう頑張っても喜劇なのよ
だからズルく生きたもの勝ちなの
ま、ほっといても、アンタはどーせまた恋をするんだろうけど。
……ところで、アタシも男だって、知ってた?」

オーナー:え、それは……そんな急に言われても、だって私よりきれいだし、友達だと、思ってたし……えっと、だからその……

尾根川:は? 何言ってるの?

オーナー:えっとだからその……ちょっと考える時間が欲しいっていうか!

尾根川:何を考えるのよ、さっさと採用しなさい。

オーナー:採用……? は! 私は一体なにを!

尾根川:どこの世界に飛んでるのよ。まったくしっかりしなさい、あなたオーナーでしょ?

オーナー:はい、すみません。どうやら私、声がいい人を前にすると、つい違う世界に飛んでしまう癖があるようでして。

尾根川:あら、うれしい。じゃあ採用ね。いつから来ればいい?

オーナー:えーっとですね、シフトどうなってたっかな? 昼間っていけます? できれば来週から……
……って! そでなくて! まだ面接、終わってませんから! はぁ、ペースに巻き込まれてしまった……。
次は、この台詞お願いします。

尾根川:しかたないわねぇ。これね……ふん、ちょっと長いけど、いい台詞ね。
……よし、いくわね。
「ねぇ、アタシのかわいいドロシー?
貴女はきっと硝子(ガラス)の靴を履けたとしても遠慮するわね
毒林檎(どくりんご)に対価(たいか)を払い
声を奪った魔女にお礼まで言うんじゃないかしら
命を助けた王子の結婚を祝福し
マッチを買ってくれた大人に助けを求めることもせず
ただ、命を燃やすのね
でもね、幸せを恐れてしまう臆病な貴女の話は、もうおしまいにしなさい
いい? よく聞いてドロシー お寝坊ドロシー
誰にも幸せなんて理解出来ないものなの
だからさっさと幸せになっておしまいなさい
さあさ、もう貴女起きてるでしょう?
下手な狸寝入りしている子に、お目覚めのキスはしてあげられないわ」

オーナー:「嗚呼(ああ)、なんて優しい御方(おかた)
私が求めている言葉を、愛を、惜しみなく降り注いでくださるのですね。
ですが、幸せな御伽噺(おとぎばなし)には、誰かの不幸せが必要なのです。
私はもうその理(ことわり)に気づいてしまった
運命と感じていたのは自分だけ
意味も無い涙の跡も
振りほどかれた愛も
耳障りな罵声にも
寒さに震える独りの夜にも慣れました
だからもう私を救う言葉を使わないで
心を溶かしたりしないで
運命に期待して踊らされるのはもう嫌
私はドロシー、ただの歯車
歯車に心は要らないのよ!」

尾根川:……?

オーナー:「ああ、幕が下りるその瞬間まで、どうか目覚めさせないで……!」

尾根川:……ああ、また違う世界に行ってるのね。ほら……もどってらっしゃーい!(手をパンパンと叩く)

オーナー:は! 私は何を。

尾根川:こまった子ねぇ。こんなのがオーナーで大丈夫かしら? 
……ま、見てて飽きないけど。さ、面接は終わり?

オーナー:は、はい……ああ、なんかすいません。

尾根川:で、結果は? 採用してくれるのかしら?

オーナー:あのー、さっきから、気になってたんですけど……なんか必死ですよね。どうしてそんなにうちで働きたいんですか?

尾根川:ぎく……。

オーナー:もしかして、もしかして、うちのイケボ店員目当てだったり……

尾根川:(とぼけて)そんなこと、ない、わよ?

オーナー:ちょっと! そういう不純な動機での応募はダメです! 不採用です!

尾根川:え~? 別にいいじゃない~? アタシ、ノンケの男には手を出さない主義だし? 紳士だし。見てるだけにするからぁ。ね? お願い?

オーナー:……だ、だめです。

尾根川:アタシの声、ダメだった?

オーナー:それは……確かに、声は……よかった、かも……キャラも立ってるし、きっと人気もでるよね……コミュ力も高そうだし……うーん、でも……ダメ! ……ったらダメ!

尾根川:んー? じゃあこうしましょう? 実はアタシ、女装はただの趣味で。どっちもイケるタイプなのよねぇ。だからオーナーちゃん?

オーナー:え、ちょっとなんで近づいてくるの?

尾根川:ターゲットを、あなたにするなら、問題ないわよ、ね?

オーナー:えっ……

【完】

イケボカフェの面接はオネェだって受けたいのよ、な話 (1:1)

≪スペシャルサンクス≫
台詞提供 ぽめちゃん(はらわたちゃん)

イケボカフェの面接はオネェだって受けたいのよ、な話 (1:1)

イケボカフェシリーズ オネェ版 上演時間 約10分

  • 小説
  • 短編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-04-30

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND