還暦夫婦のバイクライフ12

ジニー&リン、ちょっと遅い初詣に行く

 ジニーは夫、リンは妻の共に還暦を迎えた夫婦である。
 新年になり、あっという間に正月休みも終わった。12月は大雪でどこにも行けず、三が日はバイクで近場をちょろっとしか走れず、ジニーもリンもフラストレーションがかなり溜まっていたようだ。
「ジニー、今年は初詣も行かなかったし、ほかにも何やかや忙しくて、今日だって休みが休みになってない。で、今思いついたんだけど、つまらない予定全部放って今から高松行かない?」
「え!今から?」
ジニーは思わず時計を見る。すでに10時を回っていた。
「高松って、一体どこ目指すん?」
「ジニー手袋作りたいって言ってたじゃないの」
「あ~。言ったな。でも営業してるかな?確か去年は昼から営業してたなあ。今年はどうだろう。電話してみるか」
ジニーはスマホでお店のホームページを検索して、表示されている電話番号に電話を掛けた。2~3回の呼び出しのあと、つながった。
「あ、もしもし・・・。あ、すみません。間違えました」
ジニーは通話を切った。そして改めて電話番号を確認している。
「合ってるよなあ。おかしいなあ」
ジニーが首をひねる。
「どしたん?」
「いやね、ホームページの電話番号にかけたら、”はい、高松東署です”って言われた。改めて確認したけど、番号合ってるんだよな」
「あーそれ、去年も同じこと言ってなかった?」
「ん~?・・・・そういえばそんなことが」
「ジニー、学習しないねえ。カタログ来てたから、それ見たら電話番号載ってるんじゃない?」
「そうする」
ジニーはカタログを探し出して、そこの番号に電話した。しかし出ないようだ。
「だめだ、出ないや。さてどうするか?」
ジニーはしばらく考えていたが、案を2つ出した。
「まず一つ目の案。手袋屋さんは端から諦めて、善通寺にお参りに行く。二つ目の案、入野で手袋屋さんに電話して、繋がったら手袋屋さん、つながらなかったら善通寺に行くというのはどう?」
「善通寺ね、分かった。そうしよう。じゃあさっさと支度するよ」
二人は冬支度を始めた。完全装備だが、手袋は普通の冬用だ。リンは前のシーズンホットグローブを使っていたが、年明けから少し暖かくなって、電熱を使わなくて済んでいる。ホットグローブは暖かいのだが、ケーブルが邪魔くさくて少々使い勝手が悪い。ジニーは大型バイクにハンドルカバーを付けていたが、今年はつけていない。とっさに手が出ないのが気になるらしい。
 準備が済んで家を出発したのは11時15分だった。例によってスタンドに立ち寄り給油する。すでに混雑している道路をゆっくりと走り、松山ICから高速に乗る。制限速度でずっと走り、手が冷えて痛くなる前に入野PAに入る。
「寒い、手が冷たい。さすが冬!」
ジニーがコンビニでホットゆずジュースを買ってきて、リンに渡す。
「でも何とかホットグローブなしで行けてる。年明けてから少し暖かいね」
リンはジニーから受け取った暖かいジュースで、手を温める。
「リンさん、電話して出なかったら、今日は手袋屋さんパスするから」
「いいんじゃない?それで」
ジニーは電話を掛けるが、出なかった。
「残念、今回は縁がなかったな。あきらめて善通寺にお参りしよう」
「春までに行ける?手袋作りたいんでしょ?」
「いや、このタイミングで作らなかったら、次の冬までいらないから。行くとしたら秋かなあ」
「ふ~ん」
「それよりリンさん。せっかく善通寺行くんだったら、あのうどん屋さんに行ってみる?」
「香川にうどん屋さん山盛りあるけど、どのうどん屋さんよ」
「去年の秋に行って、帰りに滝のような雨に打たれた、あの~何だっけ?え~っと、K・・・」
「ああ、K屋さんね。時間がビミョーだけど、行ってみようか」
リンに言われて時計を見ると、12時30分になっていた。
「わあ!急ごう」
二人はそそくさとバイクに戻り、支度をしてPAを出発した。
 30分ほど走って善通寺ICに到着し、そこから一般道に降りる。右折してR319を南下する。
「えっと、リンさん確か県道47号だったよね」
「たぶん」
ジニーは行き過ぎないように、ゆっくりと走る。
「あ、ここだ。見覚えある」
ジニーは47号の交差点を左折した。橋を渡ってまっすぐ進む。
「どこ右折だったっけ?」
「え~?もうすぐだと思うんだけど」
「まあまあ広い道だったような・・・これか?」
ジニーが適当に右折するが、全く違う道だった。ジニーがバイクを止める。
「リンさん、ナビ様召喚しよう。うろうろするだけ時間の無駄だ」
「そうだね」
リンがスマホのナビを起動した。二人で画面を注視する。
「え~っと、今ここだから・・・」
リンが目標を見つけた。
「まだ先だった。川渡ったらすぐ右折と思ってた」
「僕もそう思っとった。この先199号右折か。わかった」
ジニーはリンのバイクの向きを変える。その後自分のバイクにまたがり、エンジンを始動する。狭い道幅いっぱい使ってUターンした。
「行きますよー」
二人は47号に戻り、さらに先へ進む。やがて199号の交差点が見えてきた。
「あ~そうそう。ここだ。左手に池の土手が見えてたんだ」
ジニーはそう言って、交差点を右折する。
「あと1Kmくらい先ですよ」
「うん。リンさん閉店してたらどうする?」
「その時は善通寺の方に行けば、なんかあるでしょう」
「まあね」
幸いK屋は営業していた。バイクを駐車場に止めて時計を見ると、13時20分だった。店内に入ると、前に6人ほど並んでいる。香川のうどん屋さんは、どこもてんぷらやコロッケ等、色々あるのだが、13時を回ったうどん屋さんに、それらが残ってたりはしない。
「リンさん、何もないね」
「まあね、食べられるだけでもいいんじゃない?」
二人でこそこそ話をしていたら、前に並んでいたお兄さんが、奥の店員さんにでっかい声で
「肉うどんありますか?」
と聞いた。
「もう売り切れましたよ~」
奥からばあちゃんが答える。
「あーじゃあ、ごめん!やめる」
お兄さんはそういうと、列から抜けた。家族連れ出来ていたようで、4人ほどぞろぞろいなくなった。
「あ、前が空いた。県外の人っぽかったけど、この時間で肉うどんは無いな」
「ほかのうどん屋さんも無理でしょうね」
 順番が早く来て、ジニーはぶっかけ、リンは釜玉を注文する。お揚げを1枚とり、支払いをしてうどんを受け取る。天かすとねぎを適量載せて、テーブルに着いた。
「いただきます」
二人は手早くうどんを手繰り、腹を満たす。
「相変わらずうまいね」
その間にも、お客がやってくる。10分ほどで完食し、次の人に席を譲る。
「ごちそうさまでした」
容器を返却口に返して、外に出る。入り口には準備中の札がぶら下がっていた。
「香川のうどん屋さんって、閉店早いやろ。おかげで愛媛のうどん屋さんまで店閉めるの早くなったし、勘弁してほしい」
「でも開店時間早いし、仕方無いんじゃない?」
「まあね」
ヘルメットを被り、エンジンをかける。うどん屋さんを出発した二人は善通寺に向かって、来た道を戻る。
 県道199号から県道47号へ左折し、R319を横切って道なりに進む。なだらかな丘を越えて突き当たった県道24号を左折、自衛隊善通寺駐屯地の交差点を右折して、ゆうゆうロードに入る。少し走ると善通寺正面に出る。そこを左折してぐるっと回りこみ、西側にある駐車場に向かった。この駐車場はバイク駐輪場がある上に、なんと!バイクは無料で止めさせてくれる。何ともありがたい所だ。
「リンさん、車が多い。気を付けて」
「わかっとる」
不規則で読めない動きをする車を避けながら、二人はバイクを駐輪場に止めた。
「ここはいつ来ても人が多いねえ」
「今日は特に多いわね。もうコロナも気にしないって感じかな?」
「でもみんな、ちゃんとマスクはしているよ」
「マスクするのが普通になったからね。逆になしだと、なんだか落ち着かないわ」
「顔を隠すのには良いアイテムだもんね。みんな個人情報は伏せていたいだろうし」
 大勢の人の流れに乗って、済世橋を渡る。大師堂から先にお参りをして、本堂に向かう。堀にかかる橋を渡り、先に進む。
「リンさん堅パンやさん・・・休みだね」
路地の向こうに見える菓子店は、戸を閉ざしていた。
「今の私じゃあ、あのパンは食べれないわ。歯がもげると思う」
「同じく僕も無理かな」
さらに先に進みながら、周囲を見る。通りには屋台も出ていて、人気の店には長い行列ができていた。
 本堂前にはお参りする人の列ができていた。大人しく列の最後に並び、少しずつ前進する。
「ジニーお線香いる?」
「いるいる」
リンは横に置いてある無人販売の棚から線香とローソクを取り、お金を支払う。長い行列はどんどん進み、あまり待つことなくお参りを済ませることができた。お守り授与所によって、数点購入する。それから大師堂方面に戻り、駐車場手前の物産会館でお土産を物色した。さらに、乾物屋さんの出店で飴と小魚のみりん干しを購入する。
「結構買ったけど、バッグに入るかな」
「さあ?入るんじゃない?」
バイクに戻って、バッグのふたを開ける。中のパンク修理キットや小物類をわきにどけ、お土産をパズルを組むように入れていく。最後に被っていた帽子を収めて、ふたを閉じた。
「おおっ、入った。良かったー」
「ジニー大げさ。入るって。何ならバッグの横を伸ばせばいいんだから」
「・・・そうでした」
「さてジニー、帰るわよ。どこ走る?」
「ちょっと待ってね」
ジニーは自分のスマホを取り出して、バイクにセットする。
「ちょっとナビ様に来てもらって、道を聞いてみよわい」
ジニーは呼び出したナビ画面をしばらく見る。
「ご宣託賜りました。そこの裏通りを通って県道49号に出ろと申しています。道なりに走っていくと、R11号に出るので、さぬき豊中ICで高速に乗って行けとのことです」
「ふーん。じゃあ、ナビ様の言う通りで」
 二人は善通寺の駐車場を出発した。裏通りを走り、県道49号に出る。そのまま走っていくと、ちょっとした山道になる。
「おおっこの道、楽しいかも」
「いい感じ。ちょっとした峠越えのワインディングだわ」
「あ、・・・もう終わってしまった。残念」
「まあ仕方ないでしょ。山というより丘越えの道だからね」
そこからまっすぐ伸びる道をだらだらと走り、R11に乗り換える。
「リンさん、もう少し先で高速乗りますよ」
「オッケー」
R11号を愛媛方面に走り、さぬき豊中ICから高松道に乗る。
「リンさん、どこかで休憩する?」
「今何時?」
「16時10分くらい」
「どれくらいで届く?」
「そうやねえ、ここからだと1時間ちょっとかな」
「じゃあ、止まらずに家まで走る」
「しんどくなったら言って」
「わかった」
ジニーは少し早めのペースでバイクを走らせる。豊浜SAを横目で見ながら通過し、川之江JCTを越えて入野PAもスルーする。時々リンと前後を入れ替わりながら、ペースは徐々に上がってゆく。
「リンさん、次石鎚SAだけど、休憩なしで大丈夫?」
風切り音でとぎれとぎれになりながら、ジニーは確認する。
「何?平気だから行っていいよー」
「はい」
石鎚もスルーしてひたすら走る。程なく道後平野が目前に広がり、1時間ほどで松山ICを降りた。市街地をゆっくりと走り、17時30分家に到着した。
「やれやれお疲れ様。暗くなる前に着いた」
「日が延びたねえ。切るよ」
リンはインカムのスイッチを切る。ジニーは2台のバイクを車庫に片付け、リンはバッグを持って家に入った。
「昼前に出て、日が暮れる前に帰ってこれる。香川は案外近いな。高速を使うのがネックだけど」
ジニーがつぶやく。どうやらちょこっとツーリングの行先に、香川が入ったようだ。

還暦夫婦のバイクライフ12

還暦夫婦のバイクライフ12

  • 随筆・エッセイ
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-04-12

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