Ⅵ 聖域終末少女症候群
台本概要
◆台本名◆
フラグメント・ストーリーズ~アンドラアスタ×ファンタジア~ 第6弾
『聖域終末少女症候群』
□作品情報□
ジャンル:ファンタジー
男女比 男:女:不問=1:4:0(総勢:5名)
上演時間 ●~●分
<注意事項(※必読)>
・性転換は禁止です。
・物語の雰囲気や周りの演者に迷惑をかけるアドリブは止めてください。
・作者と作品に対する誹謗中傷は禁止です。
・有料放送などの金銭が関わる場合のみ報告をお願いします。
・使用報告をして頂けると今後の創作活動の大変な励みになります。
アンドラアスタ×ファンタジアについて
【フラグメント・ストーリーズ~アンドラアスタ×ファンタジア~】はオムニバス形式のファンタジー声劇台本です。
『ゲームのイベントシーンやサイドストーリーを声劇で追体験する』ことをコンセプトに作成しました。
アンドラスタ大陸と呼ばれる魔法や科学が混在する不思議な大陸を舞台に、そこに生きるキャラクターたちの様々な人間模様を描いた群像劇が描かれています。
共通ジャンルはファンタジーではありますが、話によってそれに付加する形での様々なジャンルがあります。
時系列はランダムであり、基本的に単話完結型ですのでシリーズを知らなくても楽しめる仕様になっています。
登場人物
ノルン・ラクリマ Norn Lacrima
性別:女性、年齢:20歳、台本表記:ノルン
この物語の主人公で、グラディス聖教国の国軍『聖ソフィア騎士団』
に所属する騎士。
フランチェスカとは異母姉妹ではあるが、互いに両親を亡くして同じ
孤児院で過ごした。
姉妹の関係性は良好であり、彼女を守るために騎士団に入団した。
ぶっきらぼうで頑固一徹な性格で中性的な口調を話すなど近寄りがたい
雰囲気があるが、それは自身と妹を守るための振る舞いで根は心優しい
性格である。
フランチェスカ・ススピリオ Francesca Suspirio
性別:女性、年齢:17歳、台本表記:フランチェスカ
本作品のもうひとりの主人公であり、グラディス聖教の巫女である
『聖隷姫』の候補生であるシスターで、ノルンの異母妹。
ノルンのことを慕っており、特に姉を馬鹿にする人間は許さない。
彼女とは対照的に、幼さが残るが天真爛漫な性格。
セライア・テネブラルム Seraia Tenebraeum
性別:女性、年齢:32歳、台本表記:セライア
グラディス聖教国出身の舞台女優で、その人気は本国だけではなく、
アンドラスタ大陸全土に響き渡らせている程のトップスターである。
その一方で孤児院を運営していたり、教会に寄付をしているなどの
篤志家の一面がある。
清楚で社交性の高い振る舞いをするが、親しい人物に対しては
小悪魔的な一面を見せる。
クリストファー・ローゼンクランツ Christopher Rosencrantz
性別:男性、年齢:38歳、台本表記:クリストファー
『聖ソフィア騎士団』を統括する騎士団長を務め、冷静沈着で
無口だが情は厚い人物。
しがない修道騎士団でしかなかった『聖ソフィア騎士団』を国軍にまで
の昇華させた功績により「救国の英雄」として人々に崇められている。
マザー・レヴァナ Mother Leveba
性別:女性、年齢:40歳、台本表記:マザー
グラディス聖教団の首席枢機卿を務める聖職者で、教団内
の発言力は強い。伝統と規則に重きを置く人物で、また少々
ヒステリックな部分がある。
実は――
《番人(センチネル)》 The Sentinel
性別:??、年齢:??歳。台本表記:番人
謎の組織『亡国機関』に所属する人物で、重厚な鎧と兜に
身を包んでいる。
傷だらけのその姿から歴戦の戦士であることを示し、組織内
でも上位を争う実力を持つ。
『選定の日』に、単身でグラディス聖教国を襲撃する。
【聖女】グラディス Santa Gradis
性別:女性、年齢:??歳(※見た目は20~30代)
グラディス聖教国の創生神であり、慈愛の笑顔を浮かべる美しい
女性の姿から【聖女(せいじょ)】と畏れ称えられている。
用語説明
アンドラスタ大陸
地母神・アンドラスタと子たる5柱の神によって創られた大陸。
【魔導国家】ロゼッタ大公国、【機鋼国家】エリミネンス=グローリア
帝国、【龍神国家】龍櫻國、【獣人国家】ユグドラシル誓約者同盟国、
【天仕国家】グラディス聖教国の5つの大国と小さな国で形成されている。
五大国(ごたいこく)
アンドラスタ大陸にある5つの大国を指し、他の国々と異なり大陸を創った
地母神の子たる神たちの恩恵を強く受けている。
【魔導国家】ロゼッタ大公国、【機鋼国家】エリミネンス=グローリア
帝国、【龍神国家】龍櫻國、【獣人国家】ユグドラシル誓約者同盟国、
【天仕国家】グラディス聖教国が五大国に数えられている。
グラディス聖教国(-せいきょうこく)
アンドラスタ大陸にある【五大国】に数えられる大国で、【聖女】
グラディスを祖とする〝芸術〟と〝宗教〟の国、別名【天仕国家】。
グラディスの民たちは【地母神】アンドラスタと【聖女】グラディス
への信仰心がとても篤く、そのため彼らは『天に仕える者』から
『天仕』と呼ばれている。
エリミネンス=グローリア帝国が大陸全体に宣戦布告する前に、
国自体が消滅した。
帝国が関与したのではないかと考えられているが、原因は不明。
聖隷姫(せいれいき)
【聖女】グラディスの代行者であり、そしてグラディス聖教国
の象徴となる存在。
グラディス聖教徒の10代女性から複数人を聖隷姫候補生として
選抜され、聖隷姫となるために多くの教育がなされる。
聖隷姫自体が〝最上級の栄誉〟として上流階級の子女も目指す程である。
しかし中身については完全にブラックボックスであり、一握りの限られた
人間しか知らない。
配役表テンプレート
台本名:『聖域終末少女症候群』
URL:https://slib.net/116494
ノルン・ラクリマ:
フランチェスカ・ススピリオ:
セライア・テネブラルム:
クリストファー・ローゼンクランツ:
マザー・レヴァナ:
----------------キリトリ線----------------
※台詞検索にお役立てください。
☆:ノルン
〇:フランチェスカ、少女
△:セライア
□:クリストファー、騎士団員、《番人》
▽:マザー
【アバンタイトル】
☆ノルンN:グラディス聖教国――アンドラスタ大陸の中心部に
〝かつて〟存在した国。
【聖女】グラディスを祖とする「芸術」と「宗教」の国で、
別名【天仕国家】。
グラディスの民たちは、母なる神である【地母神】アンドラスタと、
その子たる神【聖女】グラディスへの信仰心がとても篤く、
その事で彼らを「天に仕える者」から『天仕』と呼ばれている。
〇フランチェスカ:Vanitas vanitatum
☆ノルンN:しかし――今となっては存在しない。
たったひとつの罪を犯してしまったことで……
〇フランチェスカ:Et omnia vanitas
☆ノルンN:――「なんという虚しさ、なんという虚しさ、すべては虚しい」
光の栄華を誇っていた大国は、見誤ったことで亡んでしまったのだ。
〇フランチェスカ:Festina et fuge hinc
☆ノルンN:ひとりの少女(てんし)によって。
〇フランチェスカ:Dominus enim destruet civitatem hanc
☆ノルンN:――『さあ早く、ここから逃げるのだ』
――『主がこの町を滅ばされるからだ』
△セライア:――『人間の一生は彷徨い歩く影法師、哀れな役者に過ぎぬ』
――『己の出番の時は、舞台の上でふんぞり返って喚くだけ!』
神聖なる国の終焉に至るまでの物語を! ある女の悲劇を!!
此処に、万雷の喝采を! さあ、カーテンコールと共に!!
☆ノルン:『聖域終末少女症候群』(※タイトルコールです)
【Scene01】
▽マザー:さあ、聖隷姫候補生の皆さん。
今日も礼拝の時間がやって参りました。
あなたたちの祈りは、グラディス聖教国に安寧と平和
を齎します。祈りましょう。
我が母たるアンドラスタ様に、我が主たるグラディス様に。
〇フランチェスカ:天にまします、我らの母よ、我らの聖女よ。
御心の天になる如く、我らの国に微笑みを。
我らの今日に、生きる糧を与え給え。
我が咎人に赦しを与えるように、我らの原罪にも
赦し給え。
我らは汝の隷属也、主の御言葉は全て従います。
この国に安寧と平和を、我らに笑顔を幸福を、
すべては聖女の恩寵の元に――。
(間)
□クリストファー:総員、抜刀! 構え!!
△セライアN:『聖ソフィア騎士団』――グラディス聖教団、総主教隷下
の軍事組織であり、別名「神の盾」と呼ばれているグラディス
聖教国の軍隊。
団長のクリストファー・ローゼンクランツの号令により、
騎士団員が一糸乱れることなく、同じタイミングで腰に差して
いた訓練用模造サーベルを抜刀する。
そこに騎士団唯一の女性騎士――ノルン・ラクリマがいた。
□クリストファー:本日は、剣を用いた実践訓練だ。
手に持つサーベルは模造品であり、殺傷能力はない。
しかし、我らは神の国を、聖女を、そして無辜の人々
を守るために騎士団は盾とならなければいけない。
目の前にいる騎士団員を、全てを脅かす敵と認識せよ。
手に持つサーベルを本物であると心掛けよ。
――では、始めろ!
△セライアN:二人一組のペアとなった騎士団員たちは、号令と
共に戦い始める。
ノルンの相手は、彼女より一回り大きい男性の騎士団員。
全力で彼女に襲い掛かって来る。
☆ノルン:はああああああ!!
△セライアN:力強い一振りが来るも、彼女も負けじとそれを受け止める。
戦場では男とか、女とか関係ない。
全てが平等。
性別、年齢、身分も関係ない――だから、彼女にとって
心地が良い。
☆ノルン:くっ!
△セライアN:両者ともに果敢に攻撃を次々としかけるも、有効な一手を
決める事は出来なかった。
次第に疲労が身体を蝕み、一瞬でも気を抜いたら相手に隙
を突かれる恐れがある。
ここからは「忍耐」の勝負。
☆ノルンM:次はどう来る?
そろそろここで決めないと……んっ、サーベルを片手
に持ったか……力よりも速さを優先したか。
奴なら力もあって厄介かもしれないが
……でも、私の敵じゃない!!
△セライアN:勝機を見出したと思った瞬間、彼女の顔面
にすさまじい衝撃と痛みが襲い掛かる。
――相手が彼女の顔面を力の限りで殴ったのだ。
勝ったと確信したのか、したり顔をしていたが……
☆ノルン:それで……勝ったつもりか?
△セライアN:目の前の事実に驚きの表情を浮かべる。
吹き飛ばした筈の女が、その場で立っていたからだ。
やがてそれは動揺を起こし、産まれた僅かな隙を彼女
は逃さなかった。
☆ノルン:ここだァ!!
△セライアN:ノルンはそう叫ぶと、身体を回転させ、男の鳩尾に向かって
思いっきり蹴り上げる。
痛みで悶え苦しみ、やがて顔を表にあげた時には彼女は
サーベルを突き付けていた。
勝負は決し、うろたえる騎士団員に対して笑顔を浮かべた矢先、
その顔面に強烈な一撃を加えた。
(間)
☆ノルン:あのヤロウ……思いっきり顔を殴りやがって……
△セライアN:殴られた部分を氷が入った袋で冷やし、不機嫌な表情で
ノルンは修道院内を歩く。
途中でシスターたちや他の騎士団員とすれ違ったが、明らかに
不機嫌な雰囲気を醸し出す彼女に恐れをなして避けるようにし、
誰一人も声をかけてこなかった。
ひとりを除いては――
〇フランチェスカ:おねえちゃーん!!
△セライアN:ひとりの無邪気なシスターが、ノルンの元に駆け寄って来る。
彼女の名前は、フランチェスカ・ススピリオーーノルンの異母妹
妹の嬉しそうな笑顔に、流石のノルンも笑みを浮かべる。
明らかに雰囲気が変わったことに周囲は気付き、安堵の
空気が流れていた。
〇フランチェスカ:訓練、お疲れ――あいたぁ!
☆ノルン:全く、あんたは……お姉ちゃん呼びはやめなさいと言ったはずだぞ。
〇フランチェスカ:えへへ……ごめんね。
☆ノルン:聖隷姫候補生は、規則で騎士団員に近付くべきではないと
されている筈だぞ。
こんなところを見られたら……マザーに怒られるのはゴメンだ。
〇フランチェスカ:で、でも……最近、全く会えていなかったし……
☆ノルン:だからって……
〇フランチェスカ:だって……だって……
☆ノルン:って、おい……泣くなって。
〇フランチェスカ:お姉ちゃんに会えなくて……さみし、かったんだもん……
☆ノルン:まずい、このままじゃ……あー! もう!!
いいから、こっちに来て!!
【Scene02】
☆ノルン:ひとまずは部屋にいれば大丈夫か……
〇フランチェスカ:……ごめんなさい。
☆ノルン:……まったく、弱虫なのは相変わらずだな。
気持ちはわからない訳じゃないけど。
〇フランチェスカ:…………。
☆ノルン:しょうがない……おいで、フランチェスカ。
〇フランチェスカ:いいの?
☆ノルン:んっ。
〇フランチェスカ:……うん!
☆ノルン:おっとっと……危ないだろ、そんな勢いよく
抱きついてくるなんて。
それに強く抱きしめすぎだ。
〇フランチェスカ:だって、寂しかったんだもん……
☆ノルン:はいはい。
聖隷姫の最有力候補性がこんな寂しがり屋で大丈夫なのか?
ちゃんとお務めを果たせるのかどうか。
〇フランチェスカ:……お姉ちゃんもそう言うんだ。
☆ノルン:そりゃあ、騎士団にも聞き及んでいるさ。
〇フランチェスカ:お姉ちゃん。
☆ノルン:んっ、なに?
〇フランチェスカ:私……聖隷姫なんかになりたくない。
☆ノルン:どうして?
〇フランチェスカ:お姉ちゃんと会えなくなるから。
☆ノルン:今年で17だろ? いつまで子供みたいなことを言っているんだ。
〇フランチェスカ:だって! 家族は私たち、二人だけなんだよ?!
☆ノルン:そ、それは……
〇フランチェスカ:私、お姉ちゃんと離れ離れになりたくない!
周りが何と言おうと嫌なの!!
もうひとりは……嫌なの……
☆ノルン:…………。
〇フランチェスカ:お姉ちゃんは〝私の光〟そのものなの。
だから、お姉ちゃんがいない世界なんて……いらない……
☆ノルン:……全く、不思議な子だよ。
だいじょーぶ、いなくなったりしないよ。
〇フランチェスカ:ほんとに?
☆ノルン:あぁ、本当だ。約束する。
〇フランチェスカ:えへへ……あっ、そうだ!
☆ノルン:んっ? 小指を差し出して……なんだ?
〇フランチェスカ:前にね、龍櫻國のしょーぐん様?って言うのかな?
教会に来て、聖歌を披露した時にお話をしたの。
その時に教えてもらったんだけど、「ゆびぎりげんまん」
って言って、お互いの小指を曲げ絡み合わせて約束を守る
誓いを立てるんだって!
☆ノルン:そんな簡単な事で、重大な誓いを立てさせるのか、あの国は……
〇フランチェスカ:それでね――
☆ノルンN:そう言って、フランチェスカは「ゆびぎりげんまん」をする時
の歌を教えてくれた。
歌の一節である「嘘ついたら針千本飲ます」には少々驚いたが、
そもそも、これ自体が子供同士が約束をする時の儀式らしい。
そういった純粋で残酷な事を言うのは、子供らしさなのかも
しれないが……
〇フランチェスカ:いくよ? せーの!
☆ノルン/〇フランチェスカ:『指切りげんまん 嘘ついたら針千本のーます
指切った!』
【Scene03】
□クリストファー:聖ソフィア騎士団騎士団長、クリストファー・ローゼンクランツ、此処に。
▽マザー:御足労ありがとうございます、騎士団長。
――問います、何故呼ばれたのか……貴方は理解していますか?
□クリストファー:いえ……申し訳ありませんが、私の理解に及ばない
ところです。
▽マザー:そうですか、なら教えましょう!
騎士団員、ノルン・ラクリマ――ご存じですね?
□クリストファー:勿論です。
彼女だけではなく騎士団員、全員を把握してます。
▽マザー:なら、彼女はどのような騎士ですか?
□クリストファー:一言で言うなれば、直情的なところは
あれど、模範的な――
▽マザー:模範的? はっ!
あなたがそんなおもしろい冗談を言うなんて!
片腹痛いとは、この事を言うのかしらね!!
□クリストファー:……何をおっしゃりたいのでしょうか?
▽マザー:彼女の妹は、フランチェスカ・ススピリオ。
聖隷姫候補生のひとりで、次代の聖隷姫となる者である
と私だけではなく、教皇猊下も考えています。
にも関わらず……あの者は規則に背いている!
騎士団員は聖隷姫候補生との接触を禁じています!!
穢れが移ってしまう!!
□クリストファー:……お言葉ですが、その規則には例外項目があります。
ひとつは、私が規則から除外されている。
そして、もうひとつは女性との接触は禁じられていない。
騎士団員との接触が禁じられているのは、今まで女性の
騎士団員がいなかった事に起因します。
▽マザー:この減らず口が……!
□クリストファー:ノルン・ラクリマとフランチェスカ・ススピリオは
母親が違えど、同じ父親の血が分け与えられた、
謂わば姉妹の関係性です。
そしてノルンは女性です、例外に該当する人物では?
▽マザー:くっ……いいですか!
そもそも、騎士団は『神の盾』と呼ばれながらも、敵対者の
血を浴びている! まして下賤なる者たちの血も!!
なのに、貴方たちに穢れがないとは言えますか?
言えないでしょう!!
騎士団長たる貴方が、そんなこともわからないのですか?!
□クリストファー:…………。
▽マザー:それに、聖ソフィア騎士団長はグラディス聖教国の国軍
でもありますが、グラディス聖教団総主府隷下の存在
なのです!!
ご自身の立場を理解していらっしゃるのかしら?
□クリストファー:…………。
▽マザー:何か言ったらどうなのですか!?
【救国の英雄】、クリストファー・ローゼンクランツ!!
□クリストファー:(※小さな溜息ついた後に)ええっ、理解しております。
▽マザー:なら、首席枢機卿である私が貴方に命じる事はひとつです。
わかりますね?
□クリストファー:――ノルン・ラクリマとフランチェスカ・ススピリオ
を切り離すこと……それがお望みなのですね?
▽マザー:その通りです! 未来永劫、二度と近付けさせてはいけません!!
フランチェスカ・ススピリオは最高の逸材なのです、きっと至上の
聖隷姫となるでしょう!!
だからこそ、期待していますよ。
我が国の〝英雄〟――あなたも、我らの〝奴隷〟なのだから。
【Scene04】
☆ノルン:んっ? 何の騒ぎだ?
――おい、フリッツ。これは一体何が起きている。
□騎士団員:おっ、ノルンか!
それりゃあ、騒がずにいられないだろ!!
☆ノルン:だから、何が起きたんだ?
□騎士団員:大女優! セライア・テネブラルムが来たんだよ!!
☆ノルン:セライア・テネブラルム? 誰だ、それ?
□騎士団員:お前、マジかよ……そういえば、そういうのに興味が
無かったもんな。
☆ノルン:悪かったな……それで大女優って言うけど、どんなヤツなんだ?
□騎士団員:セライア・テネブラルムは謂わば、この大陸のトップスターさ!
その人気はグラディスだけじゃなく、他国にも轟く程のな!!
彼女の美貌は男女関係なくあらゆる人間を魅了し、そして
彼女の演技は誰もが心を揺さぶられる!
それに、国内のいくつかの孤児院を運営していて、この前
亡くなったエルダージュ枢機卿も彼女が運営する孤児院の
出身だとも言われているしな。
☆ノルン:へぇ……立派なヒトなんだな。
□騎士団員:うちの教会にも沢山の寄付をしてくれているからな!
そのお陰で俺たちの生活も余裕で成り立っている訳さ。
おっ……来た来た!
☆ノルンN:集まった騎士団員とシスターたちが歓声を挙げた。
主役の登場である。
△セライア:皆さま、御機嫌よう。
☆ノルンN:またもうひと歓声が挙げられる。
まるで精巧な美術品かと勘違いさせるほどの、過剰に
整った美貌の持ち主。
人間離れした美しさを持つ彼女から向けられる言葉と笑顔に
誰もが心を打たれる。
まるで神の祝福を受けたかのように周りは喜んでいる。
けれど、私は……彼女の美しさを理解しながらも、どこか恐怖
を抱いていた。
【Scene05】
▽マザー:この度は、我が教団にご訪問を頂きましてありがとうございます。
△セライア:いえいえ、久しぶりに故郷に戻ることが出来ましたので……
それにしても、マザーもお元気そうでなりよりです。
▽マザー:お気遣いありがとうございます。
それにテネブラルム様には感謝してもしにきれません。
あなたの寄進によって私たちは、何も心配なく信仰を深める事
が出来るのですから。
△セライア:そう言っていただけると嬉しいわ。
そういえば……そろそろ『選定の日』ですよね。
どなたが、新しい聖隷姫となるのか決まっているのですか?
▽マザー:……本来であれば、外部の者に教える訳にはいきませんが、
実はほぼ決まっております。
教えましょうか?
△セライア:いいえ、結構です。
きっと誰かに教えたくなってしまいますもの。
▽マザー:もし、まだ滞在されるのでしたら『選定の儀』にご招待
をさせて頂きますが?
△セライア:まあ、よろしいのですか?
私、グラディス聖教徒ではないのに。
▽マザー:これまでの献身から、無碍にする訳にはいきませんよ。
△セライア:慈悲深いお人なんですね、マザー。
では、お言葉に甘えて……ご招待を頂けますか?
▽マザー:ええっ、もちろんです! 教皇猊下もお喜びになるわ。
△セライア:マザー、おひとつ尋ねたいことがあるのですが
……よろしいですか?
▽マザー:もちろん、お答えします。 なんでしょうか?
△セライア:……細やかな興味なのですが、聖隷姫に選ばれなかった
候補生たちは一体どうなるのでしょうか?
▽マザー:――それを聞いてどうなさるつもりですか?
△セライア:あら、そんな怖い顔をしないでください。
言いましたでしょ? 細やかな興味だ、と。
☆ノルンN:二人は笑顔を浮かべていたが、周囲の者たちは彼女たちの
張りつめた空気を察知し、内心穏やかではなかった。
そして、扉の隙間からそんなことを知らない一人の少女が
覗いていた。
〇フランチェスカ:(※小声で)あわわ! セライア・テネブラルムだ!!
本当に来ていたんだ!!
それにしても……マザーと何の話をしているんだろう?
△セライア:あら?
〇フランチェスカ:あっ……
☆ノルンN:フランチェスカに気付いたセライアは、マザーにバレないよう
に手を振った。
〇フランチェスカ:(※小声で)わっー! 手を振ってくれた!!
本当にきれいなヒトだなぁ……
▽マザー:んっ? 誰ですか!!
〇フランチェスカ:(※小声で)まずい……!
□クリストファー:私が見てきましょう。
〇フランチェスカ:(※小声で)間に合わない!
☆ノルンN:扉が開かれると、怯えて腰を抜かしたフランチェスカがいた。
子ウサギのように怯えた彼女を、クリストファーはいつもと
変わらない冷静な表情を浮かべていた。
〇フランチェスカ:(※小声で)わ、わたし……えっ?
☆ノルンN:フランチェスカが謝ろうとした矢先、クリストファーは静かに
するように人差し指を立てた。
そして――
▽マザー:騎士団長、誰かいたのですか?
□クリストファー:いえ……残念ながら誰もいませんでした。
恐らくは来客の御姿を見ようと誰か来た
のかもしれません。
☆ノルンN:彼はそう言って嘘をつき、フランチェスカの姿を見えないよう
に扉を閉めた。
そして彼女は息を殺して、ゆっくりとその場から離れる。
やがて、ある程度離れたところに来たことで呼吸を再開する。
〇フランチェスカ:ぷはっ! 助かったー!
団長さんが黙っていなかったら、マザーに怒られる
ところだった……
それにしても、団長さん……なんか懐かしい気がしたのは
どうしてだろう……?
【Scene06】
△セライア:それじゃあ、そろそろお時間ですので。
お暇させて頂きます。
▽マザー:あら、もうこんな時間なのですね。
△セライア:感謝していますわ、マザー。
とても有意義な時間を過ごす事が出来ました。
▽マザー:それは私も同じ気持ちです。
クリストファー、彼女の御見送りをお願いします。
□クリストファー:承知しました。
△セライア:出来れば、彼ひとりでお願い出来ませんか?
大勢だと目立ってしまいますので……
▽マザー:わかりました。
では、クリストファー、裏口へのご案内を。
□クリストファー:了解しました。
迎えの馬車も裏口に回るように手配しましょう。
では、こちらに。
△セライア:ありがとう、よろしくお願いしますわね。
では、失礼致しました。
マザー、貴女にも、聖隷姫にも、騎士団員にも……
そして候補生たちにも神の恩寵を。
▽マザー:ええっ、貴女にも神の恩寵を……小娘が生意気を言いおって……
【Scene07】
△セライア:あーあ、疲れた。
□クリストファー:……おい、まだ修道院の中だぞ。
△セライア:あら、いいじゃない。
ここは聖教でも限られた者しか知らない極秘経路でしょ?
□クリストファー:油断は出来ない、誰が聴いているかもわからない。
△セライア:相変わらず、堅苦しいのね。
□クリストファー:……おい、やめろ、抱きつくな。
△セライア:あら? 長年連れ添っている仲じゃない?
□クリストファー:お前にも、俺にも立場というモノがある。
△セライア:騎士団長と女優の恋愛スキャンダルって最高じゃない?
□クリストファー:おまえがそれを言うのか……
△セライア:そ・れ・に
□クリストファー:なんだ?
△セライア:立場がどうとか言ってたけど、もう手遅れだから。
あの子に見られちゃっている。
□クリストファー:なっ!
〇フランチェスカ:あうっ!!
□クリストファー:フ、フランチェスカ様……!
一体、いつから――
〇フランチェスカ:ごごご、ごめんなさい!
先程のことでお礼を言いたくて……
それでたまたま、二人を見つけちゃって……
△セライア:あらあら、こんなカワイイ子を怖がらせてしまってはダメよ?
――あなたがフランチェスカ・ススピリオね、聖隷姫候補生の。
〇フランチェスカ:えっ? どうして私の名前を……
△セライア:マザーが貴女のことをすっごく褒めていたわ。
とても優秀な子だって。
候補生にお目にかかることが出来て光栄だわ、私の名前は――
〇フランチェスカ:セライア・テネブラルムさんですよね!
私、大ファンなんです!!
『真夜中の決闘』のエイミー役、大好きです!!
△セライア:あら、デビュー作まで見てくれているのね。
あなたのような可愛らしいお嬢さんに褒められる
のは嬉しいわ、ありがとう。
〇フランチェスカ:あわわ! セライアさんにかわいいって言われた……!
かわいいって……!
△セライア:でも、あなたも大変ね。
〇フランチェスカ:えっ?
△セライア:聖隷姫候補生という重責を背負わされて……
まだ、こんなにあどけないのに……
〇フランチェスカ:い、いえ、そんなこと……
△セライア:ねえ、ひとつ聞いていいかしら?
あなたは候補生として日々努力をしていることはマザー
から聞いたわ。
何故、あなたはそんなに頑張るの?
〇フランチェスカ:……今から言うことは内緒にしてもらってもいいですか?
団長さんも。
△セライア:ええっ、もちろんよ。
〇フランチェスカ:ありがとうございます……実は、私、本当は聖隷姫なんか
になりたくないんです。
△セライア:えっ?
〇フランチェスカ:別に聖女さまの信仰だってそんなに深くないし、
そもそも放り投げる事が出来るなら放り投げたい。
でも、私には叶えたい事があるんです。
お姉ちゃんを少しでも楽にしてたいんです。
私たちは孤児で、暴漢に襲われそうになったところを
騎士団長に助けてもらったんです。
その伝手で私はグラディス聖教のシスターに、お姉ちゃん
は聖ソフィア騎士団の騎士団員に。
私がいた孤児院はひどい所でした。
「孤児は人間ではなく、物である」と院長先生が平気で
言っていたのをよく覚えています。
だけど全てに絶望していた私を、違う孤児院にいた
お姉ちゃんが救い出してくれたんです。
だから……今度は私がお姉ちゃんを助けたい。
離れ離れになるのは嫌だけど、お姉ちゃんが辛い想い
をするのはもっと嫌。
聖隷姫になれば、国がその家族の生活を死ぬまで
保障してくれる。
これが私が出来ること――ごめんなさい、邪な動機で。
□クリストファー:邪ではありません。
〇フランチェスカ:えっ?
□クリストファー:立派だと思います。
〇フランチェスカ:騎士団長さん……
△セライア:『おれは自分に言い聞かせる』
『かごに閉じこめちゃいけない鳥もいるんだと』
『羽があまりにも美しすぎる』
『それが飛び去ったとき自由になってよかったと喜ばない
といけないんだと』
〇フランチェスカ:えっ?
△セライア:とある映画の主人公の台詞よ。
私がお気に入りのね。
いい? フランチェスカ、あなたは美しい羽を持つ鳥よ。
鳥籠に閉じこまれる、哀れな鳥であってはいけない。
この言葉をよく覚えていてね。
〇フランチェスカ:は、はい……
△セライア:あとね、騎士団長さんとは恋人でもないから安心して。
〇フランチェスカ:えっ!?
△セライア:彼とは幼馴染みたいなものよ、というか腐れ縁ね。
そうよね?
□クリストファー:古くからの付き合いです。
〇フランチェスカ:そうだったんですね……
△セライア:だから、安心してね?
あら、鐘の音が……
〇フランチェスカ:いけない! 祈りの時間!!
△セライア:あら、それじゃあお別れね。
また逢いましょうね。
〇フランチェスカ:は、はい! ありがとうございます!!
△セライア:――言ってしまったわね。
本当にかわいい子だわ、私好みの。
□クリストファー:……変な気を起こすな。
△セライア:あら? 心配なの?
そうね、あなたにとって娘の様な存在ですものね。
□クリストファー:やめてくれ、その言葉は俺にとって刃そのものだ。
△セライア:――ええっ、そうね。
でも、それは私も同じよ。
生を受けて初めて抱いたわ、罪悪感というのを。
□クリストファー:面白い事を言うな。
△セライア:あら? これについては嘘はついてないわよ。
それに――やがて真実というのは暴かれるモノ。
彼女も、私たちも、そして……歪んでいる〝この国〟もね。
□クリストファー:ああっ、覚悟はしている。
△セライア:さあ、行きましょう。
少し長居し過ぎたわ、マザーに感づかれてしまう。
行きましょう。
□クリストファー:……さっきの言葉。
△セライア:んっ?
□クリストファー:続きがあるだろう。
△セライア:そうね。
□クリストファー/△セライア:『――とはいっても、鳥が飛び去った後の
世界は前よりくすんでわびしい』
【Scene08】
☆ノルン:えっ……今、なんと?
□クリストファー:総主教府命令が下った。
『選定の儀』が終わるまで、フランチェスカ・ススピリオ
への一切の接触を禁ずる。
☆ノルン:そう、ですか……了解しました!
『神の盾』なる聖ソフィア騎士団の一員として、下命に従います!!
□クリストファー:…………すまない。
☆ノルン:どうして、団長が謝るんですか。
総主教府からの命令である以上は従うしか他にありません。
□クリストファー:正直、マザーの考えについては強引なところがある。
本来であれば、お前と妹の接触を今後禁止にしたかった
そうだが流石に全力で反対した。
――私が出来ることは、ここまでだ。
☆ノルン:なら、むしろ感謝しなければいけません。
団長の助けがなかったら、もっと厳しいものになっていました。
□クリストファー:不満はないのか?
☆ノルン:……不満がないとは言いません。
ただ、フランチェスカが……いえ、妹が明日を迎える事が
私にとって大事ですので。
□クリストファー:どうしてだ?
☆ノルン:えっ?
□クリストファー:どうして、そこまで自身を犠牲にしてまで
他者を守ろうとする。
☆ノルン:――団長は私たちが孤児であることは御存じですよね。
私の父はまともな人間ではありませんでした。
稼いだ金を酒と賭博に全部費やし、機嫌が悪ければ母に
暴力を振るっていました。
暴力に耐えかねた母は私を孤児院に預けました。
――そして、その3年後に痣だらけのアンジェリカが修道院の付属
病院に運ばれました。
孤児院職員による虐待です。
彼女がいた孤児院は地獄でした。
孤児たちを人間扱いしない醜い大人たちが支配している監獄。
私は奉仕活動の一環で、病院の看護補佐として彼女の治療
にあたりました。
□クリストファー:どうして妹だとわかった?
☆ノルン:偶然にも出生に関する資料を見たんです。
最初は目を疑いました、同姓同名の別人だろうと。
けれど、資料を読み進めると確信しました。
□クリストファー:同じ父親だ、と。
☆ノルン: 資料を勧めると父は更生し、地方の没落貴族の令嬢と結婚し、
そして産まれたのがフランチェスカだと。
――「母と私を不幸のどん底に突き落としておいて、どうして幸せ
になっているんだ!」
――「この子は私たちを見捨てた後に出来た子供なの?」
正直、戸惑いと怒りが混ざったような感情を抱きました。
そして、資料の最後には――「浮気を疑った母親によって刺され、
母親も心中した」、と。
□クリストファー:…………。
☆ノルン:それを見て、「私もこの子も家族は自分たちだけなんだ」という
考えがよぎったんです。
孤児院の職員に連れ戻された妹を放っておくことが出来ず、
私は飛び出し、無理やり彼女を連れ戻した。
けれど、運が悪い事に暴漢に襲われて瀕死だった私を団長
が救ってくれた。
そして、今の私がいます。
――きっとここまで生き永られたのは、「妹を守る」ため
なんだろうなって……勝手にそう思っていました。
□クリストファー:そうか。
☆ノルン:あっ……すいません、なんか辛気臭い話をしましたね……
忘れてください。
□クリストファー:立派に育ったのだな。
☆ノルン:えっ?
□クリストファー:ノルン・ラクリマ、お前はいつまでもそういう人間であってくれ。
☆ノルン:団長、どうしたんで――
□クリストファー:時間をとらせたな。
『選定の儀』までの辛抱だ。
すまないが、よろしく頼む。
☆ノルン:あっ……行ってしまった……
(間)
□クリストファーM:ノルンに、フランチェスカに……二人とも
大きく成長した……
あの雨の日は忘れる事はない。
本来であれば……本来であれば、ノルン、お前は
……私が殺すはずだった。
〝計画〟にとって間違った選択であったのは理解してる。
憐憫であったのか、それとも別の感情なのか
……それとも〝彼女〟との間との
――忘れよう、心に乱れがやってきた。
――果たそう、俺の責務を。
――ノルンがそうであったように、俺にも存在するための
理由があるのだから。
――それが間違ったものだとしても。
(間)
▽マザー:――この国に歪みが生じ始めている。
エリミネンスの帝国にも不穏な影を感じる……どういうこと?
私たちの正体を誰かが知った?
いや、そんな筈はない。
私たちの正体など、人間たちが知る由もない。
となると……まさか……いいや、それこそありえない!
私たちが滅ぼしたのだから!!
それとも……あの小娘が存在しているからか?
ノルン・ラクリマ、忌々しいあの小娘が!!
私のお気に入りを穢しよって!!
それに、クリストファー、あの小僧……恩を忘れてあのような
反抗を抱くとは……!
どいつもこいつも忌々しい!!
そうだ……良い事を思いついた……裁けばいい
それでいい……ウフフフフフッ……
△セライア:――昔から変わらないんだから。
相も変わらず、救いようのない醜悪さね。
【Scene09】
△セライアN:天気は快晴。
雲一つのない、晴天の元に壮大なファンファーレが鳴り響く。
市街地はお祭り騒ぎで、多くのヒトで賑わっている。
今日は、『選定の日』。
この国の象徴たる、新しい聖隷姫が決まる日。
街の中心部にある大聖堂へと続く大通りに〝とある集団〟
が現れると、人々は歓喜の声を挙げる。
グラディス聖教教皇を先頭に、首席枢機卿
のマザー・レヴェナ、そして聖ソフィア騎士団長の
クリストファーに列は続く。
そして、主役の登場により場はもっと沸く。
新たなる聖隷姫――フランチェスカ・ススピリオ。
花嫁のような白を基調とした修道服を着て、祈り続ける。
輿によって担ぎ出され、その姿を見た人々は感動して
涙を流している。
☆ノルン:――まさか、参列すら許されないとはね。
△セライアN:群衆から離れた建物の屋上で、妹の晴れ姿を見る
ノルンの姿があった。
本来であれば彼女も参列するはずだったのだが、マザーの圧力に
より自宅待機を命じられてしまったのだ。
☆ノルン:流石に団長だけじゃなくて騎士団員のみんなも抗議してくれた
けど……あのクソババア、まさか参列すら許さないとはね。
□騎士団員:ノルン・ラクリマ。
☆ノルン:げっ……
□騎士団員:どうしてここにいるんだ、自宅待機の命令があったはずだぞ。
☆ノルン:妹の一生に一度の晴れ舞台だ。
姉である私が見ちゃいけないのか?
□騎士団員:マザーに命じられている筈だ。
☆ノルン:はいはい、わかったわかった。
□騎士団員:不敬、不敬、不敬、不敬、不敬!
☆ノルン:えっ?
△セライアN:ノルンは驚きの顔を浮かべた。
天使のように、同僚の背中から純白の翼が生える。
そして額と瞳にはグラディス聖教の十字紋章が
浮かびあがった。
☆ノルン:フリッツ、お前……なんだ、その姿は……!
□騎士団員:拘束する!
☆ノルン:なっ!
□騎士団員:拘束、拘束、拘束、拘束!!
☆ノルン:正気に戻れ!! ちっ、やるしかないのか……!
△セライアN:腰のホルスターから拳銃を取り出し、何発か撃つ。
サイレンサーがつけられていたことで、銃声は沸き立つ
群衆の声によってかき消された。
何発か騎士団員の身体を撃ち抜き、その拍子で倒れるも――
☆ノルン:うそ、だろ……立ち上がった……!
□騎士団員:こう、そく、する……危険、危険、危険、危険……
支援、支援、支援、支援……
△セライアN:大きく息を吸った後に、甲高い叫び声を挙げる。
脳に劈くような声で、あまりの不快にノルンは耳を塞ぐ。
音が鳴りやむと、天使の翼が生えた騎士団員たちが現れた。
☆ノルンM:まさか、増援を寄こしたのか!?
しかも相手は5人……まずい……!
□騎士団員:危険、拘束! 危険、拘束!!
☆ノルン:だったら、その翼を撃ち抜いてやる!
□騎士団員:叛逆、確認! ハンギャク、カクニン!!
☆ノルン:次は一体……なっ!?
△セライアN:彼女の視線の先に、ひとりの少女が立っていた。
怯えた表情を浮かべ、動けずにいた。
〇少女:あっ……あっ……
☆ノルン:逃げろ!!
□騎士団員:秘匿、排除、秘匿、排除!
☆ノルン:させるかァ!!
△セライアN:少女に襲い掛かる騎士団員にノルンは飛び蹴りをくらわした。
強烈な一撃によって吹き飛ばし、間一髪のところで少女
は助かった。
☆ノルン:行こう、一緒に逃げ――えっ?
△セライアN:腹部に痛みを感じる、少女の手にはナイフ。
少女は怯えた顔から笑顔を浮かべていた。
背中には白い翼が、瞳と額にはグラディス聖教の十字紋章。
〇少女:危険、拘束、危険、拘束、危険、拘束。
☆ノルン:騎士団だけじゃ……ないのか……狂ってる……
△セライアN:やがて後頭部に強い衝撃がやってくる。
ノルンの意識は遠のいていき、やがて真っ暗な世界へ。
【Scene10】
○フランチェスカM:お姉ちゃん……どこにいるんだろう……?
騎士団員だから、近くにいるって思ったんだけど……
いないぁ……絶対に見に行くって約束してくれたのに。
――――――――(※小声で会話をしてください)―――――――――
□クリストファー:どうされましたか?
〇フランチェスカ:あっ、いいえ……大丈夫です……!
□クリストファー:ノルンを探しているんですね?
〇フランチェスカ:(※頷きで返す)
□クリストファー:大丈夫です、どこかできっと見ていますよ。
今は儀式に集中を。
〇フランチェスカ:――はい!
―――――――――――(※小声終了)―――――――――――
▽マザー:それでは、ここに集いし皆様に新たな聖隷姫による宣誓と福音を!
第108代目聖隷姫、フランチェスカ・ススピリオ、此処に!!
〇フランチェスカ:はい。
□クリストファー:(※小声で)行ってらっしゃいませ。
〇フランチェスカ:(※小声で)ありがとうございます、行ってきます。
△セライアN:ひとりのあどけない少女が、聖なる純白の服を纏い、
そして華麗な所作で聴衆を魅せる。
誰もが彼女が新たな国の象徴たる存在であることは、その場に
いる者は誰も疑わなかった。
〇フランチェスカ:宣誓。
而して我、聖隷姫フランチェスカ・ススピリオ
は茲に宣誓す。
而して聖女よ、我と茲に手を置く神聖なる福音
を助けたまえ。
主に執り成してくださる【聖女】グラディスの慈愛と神威
を信じます。
諸国の創生神及び諸聖人たちの功徳の祈りで、母なる
全能の神がわたしたちを憐れみ、全ての罪を赦し、
【地母神】アンドラスタの永遠のいのちに
導いてくださいますように。
憐れみ深い全能の主が皆さんに、
全ての罪の免償、赦し及び免罪を、
まことで有意義な償いのときを、いつも回心を
して人生の修正を、聖隷の恵みと慰めを、そして
良い行いを最後まで全うできる根気
を与えてくださいますように。
全能の神、母と子と聖隷の祝福が皆さんの上に
いつもありますように。
△セライアN:彼女の言が終わると万雷の拍手喝采がやってくる。
それは聴衆だけではなく、壇上にいる教皇やマザーも同様。
誰もが笑顔ではあったが、クリストファーのみはいつもの
ポーカーフェイスでありながらも拍手をしていた。
上手く行ったことにフランチェスカは安堵し、壇上から
降りようとした。
その時――
▽マザー:聖隷姫様、貴女はまだ壇上にいてください。
〇フランチェスカ:えっ?
▽マザー:皆さま! この記念すべき日に嘆かわしいことが起きました!!
この素晴らしき日に、大変心苦しいですが、此処に異端審問
を始めます!!
〇フランチェスカ:異端審問……
□クリストファー:枢機卿! その話は聞いておりません!!
▽マザー:当然です、あなたにも伏せていたのですから。
では、被告人を此処に!!
△セライアN:大聖堂の扉が開かれると、
騎士団員たちに連行されるノルンの姿があった。
□クリストファー:なっ!
〇フランチェスカ:おねえ、ちゃん……?
▽マザー:被告人の名は、ノルン・ラクリマ。
『聖ソフィア騎士団』の騎士団員であり、聖隷姫フランチェスカ・
ススピリオとは異母姉妹の関係性である!
被告は聖隷姫の親族であることを利用し、騎士団に
充てられた予算を横領していた!!
被告人、この事について申し出があるか?
☆ノルン:ふざけるな……私はそんなことを……
▽マザー:まだ、そんな戯言を! 咎人の分際で!!
☆ノルン:ぐあっ!
△セライアN:マザーは持っていた鞭でノルンの身体を撃ちつける。
聴衆は突然の事に茫然としている。
再びノルンに鞭が打ち付けられようとした時だった――
▽マザー:何故、邪魔をするのですか? 騎士団長?
□クリストファー:いくら異端審問の被告人であったとしても、
無暗に痛めつける事は禁止されています。
それに、今日は『選定の日』です。
異端審問にかけるなら、彼女を拘束し別日の開催で
良かったのではないでしょうか?
なぜ、今日である必要が?
▽マザー:あなたに口をはさむ権利はありませんよ!
どきなさい! これは命令です!!
□クリストファー:それは承服しか――おい!
おまえたち、一体何をしている!!
▽マザー:部下たちのほうが良く理解されていますね。
己の立場を理解してください、クリストファー。
さて……聴衆の皆様は驚かれているでしょう!
もちろん、私の言葉は真実でございます!!
お見せしましょう!
騎士団の予算が記載された帳簿となります!
そして、これを作成した会計係も被告人に篭絡され、
従ってしまったとの告解がありました!
これらが被告が罪を犯した証拠となります!!
〇フランチェスカ:嘘よ! そんなの絶対嘘!!
お姉ちゃんはそんなことをしない!!
☆ノルン:フラン……チェスカ……
▽マザー:聖隷姫様、例え血がつながった家族とは言えど、
すべてを知っている訳ではないのです。
親が子の全てを知っている訳ではないのと同様に、
子も親の全てを知っている訳ではない。
それは姉妹にも言えます。
ヒトという存在は、他人に知られたくない自らの醜さや矮小さ
を持ち合わせているのです。
それを〝秘密〟という言葉で表現をしているのです。
ですが、被告の秘密は許されないモノ!
横領だけじゃない!
それを自らの欲望を果たすために消費した!!
口に出すのも憚る! 淫猥で、冒涜で、そして悪辣!!
ハレルヤ! 救済と栄光の力とは、我々の神のもの!
その裁きは真実で正しい!!
淫らな行いで地上を堕落させる、この淫婦を裁き、
御自分の下僕たちの流した血の復讐を、彼女に
なさったからである!
ハレルヤ! 淫婦が焼かれる煙は、世々限りなく立ち上る!!
△セライアN:マザーの言葉に呼応するように、聴衆は皆叫び始める。
――「この罪人を許してはならない!」
――「なんと穢れた人間だ、いや畜生だ」
――「神の裁きを以てして、死の償いをしろ!」
――「判決は決まっている、死刑だ」
――「楽に死なせる価値もない」
――「針金で首を吊らすか、それとも生きたまま焼き殺すか」
――「そうだ、淫婦ならば辱めて殺してやろう」
耳を防ぎたくなるような罵詈雑言の嵐が
ノルンに襲い掛かる。
それには憎悪しかなく、理性など存在しない。
〇フランチェスカ:お願い! やめてよ!! お願いだから!!
△セライアN:フランチェスカが泣き叫んでも誰の耳にも届かない。
聴衆たちは目の前の少女を断罪する事に熱狂しているからだ。
〇フランチェスカM:どうして、みんな、話を聞いてくれないの?
やめてよ……お姉ちゃんのことをどうして、
そこまでひどいことを言えるの?
大人だけじゃない、小さな子も全員。
お姉ちゃんはみんなを守るために、
私たちを守るために――
【Scene11】
☆ノルンM:きっと私は「生きる価値がない存在」と思われている。
だからこそ、ここまでのことが言えるんだろうな……
知らない奴に何を言われたって無視をすればいい。
けど……見知った人間にも言われると流石に堪えるな……
団長……フランチェスカ……ごめん、私のせいで、私のせいで――
▽マザー:御気分は如何かしら、ノルン・ラクリマ?
☆ノルン:ああっ、最低最悪な気分だよ……
▽マザー:やはり、貴女はどうしようもない。
いい加減に自覚をしなさい。
ごらんなさい? 誰もあなたの声は聞かない。
あなたはこの光景を見ても、罪を認めないのですか?
☆ノルン:お前は……一体、何が望みなんだ……
▽マザー:簡単ですよ――あなたの存在が邪魔だからです。
☆ノルン:はっ?
▽マザー:折角、やっと優秀な聖隷姫が誕生するというのに……
貴女のせいで彼女が穢れてしまう。
――遊ぶ前に穢れてしまったら、楽しみ甲斐が無くなって
しまいますから。
☆ノルン:何を……言っている……?
▽マザー:特別に教えてあげましょう。
聖隷姫は――神たる聖女の奴隷であり、慰め物である。
血は上等な酒であり、肉は最高級の御馳走――そして
純潔は至宝である。
そこに私が凌辱の限りを尽くす事でより最高のものとなる。
選ばれなかった候補生たちは、全員、枢機卿らに弄ばれる。
――誰もが新品を貰う事は喜んでも、中古品は貰っても
喜ばれないのは当然か、と。
☆ノルン:狂ってる……どこまでヒトのことを侮辱すれば!!
▽マザー:うるさい。
△セライアN:そう言って、ノルンに大きな平手打ちをする。
そして彼女の髪を乱暴につかみ上げる。
☆ノルン:ぐっ……
▽マザー:だから、早く死になさい。
目障りな蛆虫にはもったいない程の、晴れ舞台をわざわざ
用意をしてあげたんだから。
△セライアN:捨て台詞を吐くように、ノルンの元からマザーは離れていった。
やがて巨大な斧を持った死刑執行人がやって来る。
▽マザー:ノルン・ラクリマ、あなたは許されない罪を犯したとは言え、
騎士団員として立派な務めを果たしてきました。
ですから、これは【聖女】グラディスの慈悲。
苦しまずに、一瞬で楽にしてあげましょう。
〇フランチェスカ:お姉ちゃん、逃げて! ノルンお姉ちゃん!!
□クリストファー:ノルン!!
☆ノルンM:あぁ、フランチェスカ……ごめんね、ダメな姉で……
団長もすいません……不甲斐ない部下で……
ダメだ、身体を動かしたくても動けない。
きっと刺されたナイフに毒か痺れ薬が塗られていたんだ……
〇フランチェスカ:いや……いやああああああああああ!!
☆ノルンM:約束……守れなかった……
【Scene12】
〇フランチェスカN:それは突然起きた。
目の前の全てが停まった、写真のように。
先程の耳障りな声も聞こえてくれない。
〇フランチェスカ:何が起きて……
△セライア:マザーったら、ヒドイを事を考えるものだわ。
〇フランチェスカ:えっ……どうして……?
△セライア:妹の目の前で姉を殺そうとするなんて。
〇フランチェスカ:セライアさん……?
△セライア:チャオ、フランチェスカ。
〇フランチェスカ:どうして、ここに? それよりもどうして動いて……
△セライア:ねえ、あなたにとってお姉さんはどういう存在なの?
〇フランチェスカ:えっ?
△セライア:教えて。
〇フランチェスカ:え、えっと……かけがえのない大事な家族です。
△セライア:嘘、あなたは彼女を家族としてみていない。
〇フランチェスカ:そんなことは――
△セライア:姉ではなく、ひとりの想い人、よね?
〇フランチェスカ:っつ!
△セライア:正解のようね、顔に出ているわ。
――彼女に生きていて欲しいよね?
〇フランチェスカ:勿論です! お姉ちゃんは私の光!
お姉ちゃんが私の傍に居れば、聖隷姫なんて身分も
いらないし、全ていらない!!
△セライア:なら、あなたのやるべきことは……わかるわね?
〇フランチェスカ:……お姉ちゃんを否定した教団、人々、そしてこの国を!
全部壊してやる!!
△セライア:ええっ、正解ね。
私がその手助けをしてあげる、あなたの扉の鍵を開けてあげる。
だって――あなたは〝こっち側〟なんですもの。
籠の中の小鳥さん?
【Scene13】
□クリストファーN:大聖堂の扉が勢いよく開け放たれた。
全員の注意がそこに向けられる。
▽マザー:無礼者! 神聖たる儀式の場に――えっ?
□クリストファーN:先程まで熱狂に包まれていた群衆のざわめきが
一瞬にして静かになる。ひとりの大男がいた。
歴戦の戦士であることを示すように、傷だらけ
の重厚な黒鉄の鎧と兜に身を包んでいる。
手には巨大な剣が握られ、巨戟の刃は錆びつき
ながらも戦う道具であり続けている。
そして沈黙の場は崩れる。
誰かが叫び声をあげたのだ。
☆ノルン:フランチェスカ……?
〇フランチェスカ:もう大丈夫だよ、ノルンお姉ちゃん。
□クリストファーN:可愛らしい笑顔に返り血がついていた。
彼女の背中から漆黒の翼が生え、純白な服は赤に染まり、
そして手には死刑執行人の心臓があった。
☆ノルン:あ、あんた……それ……
〇フランチェスカ:あっ、ごめんね。
こんな汚いモノ、早く壊しちゃうね。
□クリストファーN:そう言って心臓を粉々につぶし、足元にあった
死刑執行人の首を思いっきり蹴った。
ノルンは目の前の光景を信じる事が出来ず、
ただ茫然としていた。
〇フランチェスカ:はい、お姉ちゃん。
手を差し出して。
☆ノルン:あ、ああっ……
〇フランチェスカ:治してあげる。
☆ノルンM:怪我と痛みが無くなった……それに問題なく動ける……
☆ノルン:フランチェスカ、その姿は――
▽マザー:きゃあああああああ!
〇フランチェスカ:うるさっ……
▽マザー:どうして、どうして、どうして!
どうして堕天しているの!!
〇フランチェスカ:ほーんとに、耳障り!!
▽マザー:っつ!
〇フランチェスカ:あっ、魔導防壁で防がれた。
▽マザー:『見よ、われ汝らに奥義を告げん』
『我ら、皆、眠り続けるにあらず』
□クリストファーN:魔導防壁を展開したマザーがそう唱えると、
騎士団員たちの額にグラディス聖教の十字紋章
が浮かび、背中に純白の翼が生える。
▽マザー:さあ、使徒たち! この異端者たちを滅せよ!!
□クリストファーN:天使の翼を生やした騎士団員たちが鎧の男と
ノルンたちに襲い掛かろうとした矢先、全員が
真っ二つになっていた。
〇フランチェスカ:うっわ、汚い。
▽マザー:(※悔しさで声にならない唸り声を出す)
☆ノルンM:あんな大剣を一瞬で……それに一振りで複数の
斬撃が見えた……!
何故だろう、得体のしれないのに、どこか
安心感を感じるのは……
□クリストファーN:鎧の男が持っていた大剣は三叉槍へと変形。
そして、それを天井へと向ける。
力を込めて天井に向けて槍を投擲し、
それが天井に突き刺さった。
☆ノルン:まさか……!
□クリストファーN:天井全体にヒビがはいり、その刹那、
巨大な複数の瓦礫が落ちてきた。
出入口は男に塞がれている以上、逃げ場はなかった。
▽マザー:私の教会がああああああああ!
□クリストファーN:そうマザーは叫び、瓦礫は大聖堂
にいる人々を潰していく。
やがて大聖堂全体が崩れ落ちた。
【Scene14】
☆ノルンN:早く大人になりたかった。
妹を守るために、自分を守るために。
それで私は騎士団に入った。
初の女性騎士団員ということもあり、好奇の目で
周囲は私を見てきた。
そして「侮蔑」、「憐れみ」、「嘲笑」
――心無い感情と言葉を私を突き刺す。
正直、後悔した。
それでも抗ってみるも、中々状況を打開する事が出来なかった。。
□クリストファー:ここにいたのか、ノルン・ラクリマ。
☆ノルン:だん、ちょう……?
□クリストファー:ついて来い。
☆ノルンN:ある日の夜。
悔しさで泣いていた私の前に団長が突然現れた。
そして、私たちを訓練所にやってきた。
□クリストファー:剣をとれ、そして構えろ。
☆ノルン:これは一体……
□クリストファー:遅い。
☆ノルン:っつ!
□クリストファー:受け止めたか、早いな。
☆ノルン:一体、何の真似ですか?!
□クリストファー:ノルン、騎士団とは何か?
☆ノルン:えっ?
□クリストファー:騎士団は、この国を守る盾でもあり矛でもある。
そして敵は突如として現れるものだ。
味方の殻を被ってくることもある。
☆ノルン:はあっ!
□クリストファー:剣を弾かれたか……良い動きだ。
だが、咄嗟の判断が遅い。
……ならば、これはどうだ?
☆ノルン:くっ!
□クリストファー:守るだけでは相手に勝つ事は出来ない。
全力で来い、俺を本気で殺すつもりで。
それとも臆病者だから無理なのか?
☆ノルン:こん……のおおおおお!!
☆ノルンN:言に従うように私は攻め続けた。
剣だけじゃなく、近接格闘もしかける。
団長は赤子を相手にするかのように
難なくと、ひとつひとつの攻撃を薙ぎ払う。
でも、私にだって意地というモノがある。
どんなに薙ぎ払われようとも、剣を離すことは無かった。
□クリストファー:チェックメイトだ。
☆ノルンN:足払いをされて、私は尻もちをついてしまった。
顔を見上げた時に、団長の剣は私の喉元に向かって突き付けていた。
☆ノルン:…………団長は、私が女であることから騎士団に向かない
と教えるために、今回の事をしたのですか?
私は――
□クリストファー:違う。お前にそういうことを伝えに来たわけじゃない。
私が創った騎士団に男も、女も関係ない。
――人間は得てして偏見を持つ生き物だ。
感情というものがある以上、持ち合わせる悪癖だ。
それはお前にも備わっている。
だから、そのような下らない言葉は出る。
☆ノルン:くっ……
□クリストファー:だが、それは相手を弱い者だとみなしている
からこそ起きる。
――ノルン・ラクリマ、お前の真の強さを証明しろ。
☆ノルン:私の……真の強さ……?
□クリストファー:そうだ。
お前は、強い人間だ、弱い人間じゃない。
最後まで剣を離さなかったことが証だ。
☆ノルン:どうして……どうして、そんなことを……
□クリストファー:――あの雨の日に、おまえたちを拾ったことの責務だ。
諦めない人間は強くなることが出来る
――ただ、それだけだ。
☆ノルン:団長……
□クリストファー:さて、そろそろいい時間だ。
疲れただろう、宿舎に戻ってゆっくり休め。
☆ノルン:あ、あの!
□クリストファー:んっ?
☆ノルン:ありがとうございました!
□クリストファー:…………礼を言われることはしていない。
☆ノルン:私、絶対に負けませんから!
誰よりも強くなって!!
そして……今度は私が団長に勝ちますから!!
□クリストファー:その大言壮語に期待をしよう。
☆ノルン:はい!
(間)
☆ノルン:っつ、私は……夢を見ていたのか……なっ!
△セライアN:彼女の瞳に焼き付いた目の前に光景に驚き
を隠すことが出来なかった。
横たわる死体、燃え盛り崩れる建物、そして人々の阿鼻叫喚。
☆ノルン:どういうことだ……これは……!
フランチェスカ! フランチェスカ!!
どこにいるんだ、フランチェスカ!!
〇フランチェスカ:あははははは!!
☆ノルン:あっちのほうか……!
〇フランチェスカ:みーんな、死んじゃえ!
こんな国、滅んじゃえばいいんだ!!
△セライアN:ノルンは心の底から目の前で起きている出来事が
夢であって欲しいと願った。
最悪な悪夢でもいい、これが現実のことじゃなきゃいい。
フランチェスカは笑ながら、散歩をするかのように人々
の虐殺を行う。
それは老若男女関係なく、またひとりと、またひとりと。
☆ノルン:やめろ! フランチェスカ!!
〇フランチェスカ:あっ、ノルンお姉ちゃん!
見て見て!
わたし、こーんなに強くなっちゃった!!
☆ノルン:なにを言っているん――
〇フランチェスカ:あっ。
☆ノルン:えっ?
▽マザー:ぐっ……
〇フランチェスカ:まだ生きているんだ、随分と頑丈だね~
▽マザー:『死よ、お前のとげは、どこにあるのか』
『死よ、お前の勝利は、どこにあるのか』
☆ノルン:傷が消えた……!
〇フランチェスカ:やるじゃん、クソババア。
▽マザー:調子に乗るなよ、小娘が!
『すべて肉なるものは草に等しく、人の世の栄光は草の花のごとし』
『何となれば、草は枯れ、花は散るものなれば』
『されど主の言葉はとこしえに変わることなし』
△セライアN:マザー・レヴェナがそう唱えると、周囲を眩い光
によって包み込まれる。
眩しさで目をつむり、光が消えると同時
に〝別人〟がいた。
同じ聖職者ではあるが、威厳が全く異なる。
その神聖さは――人間のモノではなかった。
ノルンは知っている、いや彼女だけじゃない。
この国で産まれた人間なら誰もが知っている。
彼女の名は――
▽グラディス(マザー):我が名は【地母神】アンドラスタの子たる神の一柱
――【聖女】グラディス。
〇フランチェスカ:へぇ……マザーがまさかの、ね。
▽グラディス(マザー):『もし主を愛さない者があれば、のろわれよ』
『われらの主よ、来たりませ』
〇フランチェスカ:ねえ、あなたにとって私たちも含めてグラディスの
国民って奴隷なの?
▽グラディス(マザー):我に叛逆の意を見せた、愚かな人間。
神の裁きを受けるが良い。
〇フランチェスカ:いいよ、返り討ちにしてあげるよ。聖女様。
☆ノルン:まずい……このままじゃ!
△セライアN:大聖堂を襲撃した鎧の男がノルンの元に立ちはだかる。
☆ノルン:邪魔をするな! 今すぐ、そこを――えっ?
△セライアN:信じられなかった。
この国の英雄と呼ばれた男が全身が血まみれで、
身体全身が弛緩している状態だった。
嫌でも理解できる、死体だ。
引き摺られてきたのか、大量の血の跡が
それを確証へと示す。
☆ノルン:ふざ、けるなあああああああああ!!
△セライアN:ノルンは怒りの叫びをあげ、鎧の男へと
突っ込んでいく。
しかし彼女の猛追に怯む事無く、持っていた大剣で難なく
往なして吹き飛ばした。
☆ノルン:ぐあっ……私は……私は……諦める訳にはいかないんだァ!!
□番人:っつ!
☆ノルン:もらったァ!!
△セライアN:彼女は腰のホルスターに差していた銃から一発の銃弾が放たれ、
それが鎧の男の顔面に当たった。
顔を覆っていた仮面にヒビが入り、半分の顔が
露出した。
☆ノルン:どうして……
(間)
〇フランチェスカ:ぐっ! いったぁー!!
ほんとーに、神様って容赦ないなぁ……
▽グラディス(マザー):ここまでだ。
〇フランチェスカ:マザーの時と違って美人だけどさ……
聖女と言うよりは閻魔様でしょ。
あーあ、疲れちゃった~
▽グラディス(マザー):減らず口を――
□クリストファー:【聖女】グラディス。
〇フランチェスカ:騎士、団長さん……?
△セライアN:血にまみれたクリストファー・ローゼンクランツの姿があった。
その表情はいつもと変わらず、冷静であった。
▽グラディス(マザー):生きていたのか……
□クリストファー:殺すのですか、彼女を。
▽グラディス(マザー):あぁ、そうだ! 見ろ、黒い翼を!!
聖隷姫をであることを放棄し、
穢れた小娘は――
△クリストファー(セライア):――私たちを思い出す?
▽グラディス(マザー):えっ……その声は……
△クリストファー(セライア):あなたは昔からそう、最後の詰め
が甘いんだから……
▽グラディス(マザー):あっ……嘘……嘘……
〇フランチェスカ:騎士団長さんが……セライアさんに……?
▽グラディス(マザー):どうして……
▽グラディス(マザー)/☆ノルン:どうして!
☆ノルン:何故、あなたがそこに立っているのですか! 団長!!
□クリストファー:――まさか、お前に一本取られるとは予想外だった。
剣術もそうだが、射撃の腕も悪くない。
☆ノルン:あなたは……私たちを……この国を裏切っていたのですか?
□クリストファー:――そうだ。
☆ノルン:随分とあっさりと認めるんですね。
□クリストファー:お前の言葉に間違いがないからだ、言い訳もしない。
――さあ、戦いの続きをしよう。
これは実践訓練ではない、本物の戦いだ。
目の前には居るのは、討つべき敵だ。
クリストファー・ローゼンクランツは偽りの存在である。
我が名は【番人】、神々の叛逆の徒たる
【亡国機関】の一柱である。
☆ノルン:――『聖ソフィア騎士団』騎士、ノルン・ラクリマ。
『神の盾』の名の元に……いや、そんなのはどうでもいい。
こんな国、滅ぶのはしょうがないことかもしれない。
でも……それでも生きてきた場所だ、守ろうとした場所だ。
どんな理由があろうと、どんな罪があろうと
――踏み躙ったお前を許すわけにはいかない!!
□クリストファー:そうか……そうだ、ノルン……おまえはそれでいい。
【Scene15】
▽グラディス(マザー):ひいっ! 来るなぁ! 来るなぁ!!
△セライア:そんなに怖がることないじゃない。
▽グラディス(マザー):ああっ……ああああああああ!!
△セライア:偽聖女とは言え、あなただって神の一柱なのに……
とんだ為体ね。
〇フランチェスカ:えっ? 偽物……?
△セライア:そうよ、小鳥ちゃん。
目の前にいるこの子はね、【聖女】グラディスじゃないの。
【聖女】グラディスの名を騙る簒奪者。
彼女は神であるけれども、国を創れる程の神性や力
を持たなかった。
だからこそ奪った、自分の劣等感を埋めるために!
そして偽った、自分こそが【聖女】であると!
――すべてが虚構に塗れた、偽りの神。
▽グラディス(マザー):やめろぉ……やめろぉ……!!
△セライア:どんなに嘆いたとしても、結果は変わらないわ。
私は貴女になれるけど、貴女は私にはなれない。
でも、グラディスの名はもういらない。
あなたにあげるわ。
▽グラディス(マザー):えっ?
△セライア:――だから、名乗らせてもらうわ。
私の名前は【女優】、この世界を亡ぼす
【亡国機関】の一柱よ。
――喜びなさい、あなたはこの国と共に亡ぶの、今日ここで。
▽グラディス(マザー):いや……いやよ……やっと、手に入れたのに……
暗い所から明るい所に出れたのに……
そのために、やりたくなことだってやったのに!
あいつらに従ったのに!!
△セライア:安心なさい、私は貴女を殺さないわ。
▽グラディス(マザー):どう、いうこと……?
△セライア:『誰が創るか 死装束を創るか』
『それは小鳥 と私が言った』
『小鳥の糸で 小鳥の針で』
『そして私が創ろう、 死装束を創ろう』
〇フランチェスカ:――許さない。
▽グラディス(マザー):あっ……
〇フランチェスカ:私は偽物の神様のために生きてきたの?
お姉ちゃんとこの世界に生きていくために……偽物……?
▽グラディス(マザー):あっ……許して……許して……
〇フランチェスカ:全部、セライアさんが教えてくれた。
聖隷姫は神の慰め物?
それじゃあ、あの子もこの子も偽物に全て
を奪われたって言うの?
私たちの日々も全て偽り。
御心も、言葉も、この国も……あはははははは!!
わかったよ! わかった!!
ぜーんぶ、壊してあげる。この国を――いや、世界を!!
だから……まずは、あなたからね。
△セライア:『空の上から 全ての小鳥が』
『ためいきついたり すすり泣いたり』
『みんなが聞いた 鳴り出す鐘を』
『かわいそうな駒鳥の』
▽グラディス(マザー):いやあ……いやああああああああああああ!!
△セライア:『――お葬式の鐘を』
【Scene16】
☆ノルン:はぁ……はぁ……
□クリストファー:――終わりだな。
☆ノルン:くっ……まだ、私は……諦めていない……!
□クリストファー:満身創痍にも拘らず抗うか……
どうしてお前はそこまで……
☆ノルン:あんたが……あなたが教えてくれた、ことだ。
――「諦めない人間は強くなる」。
例え、あの時のアンタも偽りであっても……この言葉だけ
は偽りじゃない。
□クリストファー:……っつ!
☆ノルン:私は信じた、だから此処まで生きてきた。
だから、私は!!
□クリストファーM:この力の気配は……!
そうか……〝彼女〟の血が覚醒したか……
〝神殺し〟の力を
☆ノルン:諦める訳にはいかないんだ!!
△セライア:はーい、ストップ。
☆ノルン:あんたは、確か!!
△セライア:邪魔をしちゃってごめんなさいね。
でも貴女は退場しなければならない。
だから――
☆ノルン:魔法陣!?
△セライア:吹き飛びなさい。
☆ノルン:待て! 私はこんな最後を認めな――
△セライア:さて、無事にあの子の元に転移してくれた。
――仮面、斬られちゃったのね。
今の方がカッコよさがあって似合ってるわよ。
□クリストファー:…………。
△セライア:もう黙ってばかりじゃつまらないわ。
□クリストファー:なぜ、このような真似をしたんだ。
△セライア:あら? 怒っているの?
□クリストファー:違う、ただの疑問だ。
△セライア:そんなの簡単な事よ。
ここがひとつの舞台だからね。
決して誰でも上がれるわけじゃない。
選ばれた役者のみ、あなたもそのひとり。
でも、あなたの出番はここで終わり。
だから――あの子から切り離したのよ。
□クリストファー:そうか……わかった。
では、おまえはどうなんだ?
【女優】。
△セライア:今回の私は女優じゃない。
この舞台の監督よ。
だから……ちゃんと終わらせてあげないとね。
▽グラディス(マザー):あっ……あっ……
□クリストファー:こいつはどうする?
△セライア:あなたに任せるわ。
小鳥ちゃんの手で十分痛めつけられたみたい。
再生できない程にね。
▽グラディス(マザー):わ、たしのなま……えは……
せいじょ……ぐら、でぃす……
△セライア:あの子と同じようにこっちも壊れてしまったようね。
どちらにせよ、この国は亡くなる。
それと同時に〝姉さん〟は消滅する。
□クリストファー:そうか。
△セライア:――あっさりと殺すのね、あなた。
しかも、何も言わずに。
□クリストファー:裏切ったとは言え、元は同胞だ。
――多くを語る必要はない。
△セライア:そう……それは情けみたいなものかしら?
人間みたいな考えをするのね、【番人】。
クリストファー・ローゼンクランツという仮初の
姿がそんなに気にちゃった?
□クリストファー:どうだろうな……それよりも早く終わらせろ。
これ以上の長居は他の奴らに感づかれる。
△セライア:ええっ、そうね。さあ、ラストシーンよ。
【Scene17】
☆ノルン:っつ! ここは、どこだ?
どこに転送された?!
〇フランチェスカ:お姉ちゃん♡
☆ノルン:フランチェスカ……あんた……
〇フランチェスカ:いいものを見せてあげる。
じゃーん! 普通は天使の翼って2つなんだけど、
私には6つあるみたい!
わーお、黒い翼だ~
それに力が漲って来るんだ! だからさ、はい!
☆ノルン:く、び……?
〇フランチェスカ:確か男の人はお姉ちゃんの同僚の騎士さんだよね?
それで女の子のほうが、お姉ちゃんを刺した、あの女
の僕だよね? ねえ、お姉ちゃん?
☆ノルン:な、なに?
〇フランチェスカ:褒めてよ。
☆ノルン:えっ?
〇フランチェスカ:私ね、この国の人間を沢山たっくさーん
殺さないといけないの!
☆ノルン:あんた、なにを言っているの……
〇フランチェスカ:だから、おねえちゃんにひどいことをした人から殺してきたの!
お姉ちゃんと私を邪魔する奴はもっところ――
☆ノルン:フランチェスカ!!(※フランチェスカに対してビンタをする。)
〇フランチェスカ:おねえ、ちゃん……? どうして?
☆ノルン:私だって、こいつらがどうなるとどうだっていい。
でも、簡単に命を奪うアンタを肯定しちゃいけない。
ノルン・ラクリマは、アンジェリカ・ススピリオの姉!
だからこそ私は、あんたが間違えた時はそれを糺す!!
〇フランチェスカ:ふふっ……ふふふっ、あははははははははは!!
☆ノルン:フランチェスカ……
〇フランチェスカ:馬鹿みたい……お姉ちゃんには失望したよ。
まだ理解できないの?
この人たちは殺されても自らの過ちを認めなかった。
だから、私が殺した。お姉ちゃんは生きている。
なら、何が正しいかわかるでしょ?
☆ノルン:それがアンタの〝正しさ〟なんだね。
でも、それは私の〝正しさ〟とは違う。
〇フランチェスカ:それ……宣戦布告とみなすよ?
お姉ちゃんは、私に勝つ事は出来ない。
☆ノルン:そうね……きっと私は、アンタに負ける。
だからと言って、諦める訳にはいかない。
来なさい、全力で。
〇フランチェスカ:…………本当にそういうところはさ、お姉ちゃん
らしいよね。
わかった、殺してあげる。
(間)
☆ノルン:はぁ……はぁ……
〇フランチェスカ:ちょっと……疲れたかも……
☆ノルン:(※一度大きな深呼吸をした後に)ぐっ!
〇フランチェスカ:外れてるよ、お姉ちゃん……ちゃんと狙わなきゃ……
って、そんなこと出来ないよね。
……まだ、甘い事を考えているの?
私の心が変わることを期待しているの?
――バカみたい。
今までのことが全て誰かによって創られた偽物だって
気付いた絶望を、どうしてお姉ちゃんは理解できないの?
☆ノルン:例え、今までの事が誰かが用意した偽りであっても……
アンジェリカ、アンタと一緒に過ごした日々も、交わした約束も、
言葉にした想いも、それらは本物だ。
アンタはそれすらも偽物として否定しようとしている。
〇フランチェスカ:くっ!
☆ノルン:フランチェスカ……アンタがどんなに否定しても、
それらを私は肯定する。
じゃないと、私だけじゃない……私までもアンタの
ことも否定することになるから。
〇フランチェスカ:うるさい……うるさい、うるさい、うるさい!!
☆ノルン:くっ!!
〇フランチェスカ:だったら、私が否定してあげる! この国のように!!
――『門よ、こうべを上げよ、とこしえの戸よ、あがれ』
『栄光の王入りたまわん』
『茨冠の王勇を抱擁せよ、巫女の聖骸布』
☆ノルンN:天高く飛ぶアンジェリカの頭上に巨大な魔法陣
が展開された。
そこからは一瞬だった。
魔法陣から放たれた光が世界を包み込んだ。
「あぁ、私はここで死ぬのか……」と思っていた時に、
誰かが私の身体を抱き抱えた。
そして光の世界から元のあるべき世界へと戻った。
けれども、私はそのまま意識を失った。
(間)
□クリストファー:…………聞こえてはいないと思うが、ここにいれば
騒ぎで誰かが来るだろう。
だから、助けが来るまで目をつぶっていてくれ。
そして、いつかは――
(間)
□クリストファー:フランチェスカは眠っているのか?
△セライア:ええっ、かわいい寝顔を浮かべていてね。
――不思議ね、これが子供なのね。
顔が私に似ている。
□クリストファー:……行くぞ。
△セライア:あら? いいの?
□クリストファー:何がだ?
△セライア:あの子、生かしておいたんでしょ?
□クリストファー:何のことだが……
△セライア:嘘をつくのなら、もうちょっと器用にやりなさい?
それに、娘との別れになるのよ。
わざわざ戸籍だけじゃなく、彼女の記憶までも書き換えたんだから。
妬いてしまうわ、あなたの心を射止めた人間がいるなんて……
□クリストファー:…………。
△セライア:あなたって不思議な存在ね。
世界を亡ぼす一員でありながら、
この世界を愛してしまったのね。
――その矛盾はあなたをきっと苦しめるわ。
でも、きっと素晴らしい悲劇を創れると思うわ。
□クリストファー:碌な結末ではないことを自覚している。
だが、それはおまえも同じだろう。
△セライア:そうね……きっと子を不幸にした親は応報が下るわ。
この子は覚醒してくれた。
子を親の元に置きたくなるのは当然でしょ?
□クリストファー:それは愛情か?
△セライア:おかしなことを言うのね、アナタ。
でも……今なら、お母様の気持ちも理解出来るわ。
母は子供の成長を喜ぶものよ。
――わかってる、あなたが言いたい事も。
私たちは咎人。
人間たちが享受できる小さな幸せを得られることは出来ない。
真似しようとすれば破綻する。
だから、この世界に私たちの居場所はない。
だから、亡ぼすのよ。
【令嬢】の御旗の元に、ね。
さあ、いきましょう。この子たちが目を覚める前に。
□クリストファー:あぁ……本当に、さよならだ。
(間)
☆ノルンN:その後――私はロゼッタ大公国の第二皇子である
アーサー・アドルファス・ロゼッタが率いる調査隊
によって救出された。
目が覚めた時は全てが終わった時だった。
――私の生まれ故郷であるグラディス聖教国が消滅した。
――生き残ったのは、私ただひとりだった。
――誰かが私の事をこう言った。
――「死神」だ、と。
――その言葉を聞いた時、悲しみや憤りはなかった。
――笑うしかなかった。
――真実でしかない。
――私が弱かったから、妹を止められなかった。
――結局、あの時から何も変わっていない。
――私はまだ、弱いままだ……
――まるで籠の中に閉じ込められた小鳥だ。
(END)
Ⅵ 聖域終末少女症候群