七ならべ 2022年10月

“七ならべ”は一行七音ですが、ここには一行十四音のものも含まれています。

紅いわたしは夢を語れず

蒼いわたしは過去を消せない

雪は本音を隠そうとせず

風は無口な夜を越せない
宇宙は未だ混沌として

目を覚ましてもまだうわのそら

ことばの袖に腕を通して

ひつじは泳ぐ秋の青空


夢を譜面に書き残せずに

ひとりで歩く朝の堤防

街の音色を徐々に遠ざけ

未熟な恋を醒ます冷房
まだ燃え続く夏の想い出

捨てられぬまま部屋の片隅

消すに消せないアドレスを消し

すべてを閉じて今はおやすみ


星を数える定めとはいえ

望めば望むほど闇に尽き

疲れ果てても真っ暗な家

伸ばした指に坂道の月
沈まぬ夏の想い出はまだ

音符求めて夜を貫く

徐々に冷めゆく月光の肌

影だけ残し匂い消えゆく


言えずじまいを喉に残すと
ビートが歪む夜の高速

こころの距離を知るキロポスト

遠ざかるほど解ける法則


とどまることは死ぬことだから

明日は違う景色描きたい

だけど変化に戸惑うカラダ

多様な花が咲く共同体
帰る場所などないはずなのに

不意に出された柔らかい手に

こころ露わに剥き出すごとに

時をうかがう深層の鰐



季節の罠に

追い詰められて

ずぶ濡れの夜

冷たい指を

そのままにせず

歩幅合わせる



かもめ鳴く町

街灯に沿い

感情を削ぐ

伝えるわけに

いかない想い
見透かしている

月が昇った



見てはいけない

笑顔に出会う

ことばは辞書を
飛び出して
衝く
青信号に

待ち伏せる獏



釣瓶の落ちた空き地の奥に

誰も気づかぬ落ち葉踏む音
二度と会えないはずの記憶に

小箱を開けてしまう秘め事



夜を引き裂く

鹿の鳴き声

もう雪が降る
正しさなんて

測れないから

さかさまの絵を
指は求める



根雪の道は

遠くなるから
溜息が散る

硬い季節に

ことばを置いて

ぼくの微熱が
伝わればいい



ベテルギウスが

消え去った日に
星を結んだ

声が千切れて
ぼくの名前が

巨人の目から

こぼれ出てくる




俯くたびに

夜が生まれる

やがて町中
夜で溢れる

細いぬくもり

漏れないように
手を差し伸べる


七ならべ 2022年10月

七ならべ 2022年10月

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-21

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted