炊飯器

お米を炊いてる間に、SNS等々を済ませたいと思っています

ドアを一枚隔てた、いや二枚か、二枚隔てた所にリビングがあって、そこから、炊飯器の音がしている。
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう」
炊飯器がお米を炊いている音がする。大分年代物の炊飯器で、いつ買ったのかは覚えてない。あ、っていうか姉からもらったんだ。あの炊飯器。姉が新しいの買うっていうから私がそれを譲り受けた。
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう」
最初その炊飯器を使ってお米を炊いたときは恐ろしかった。恐怖心が芽生えた。今日、今みたいにSNSをやるためにパソコンの前にいる時、リビングから、そういう音がし出した時、何か事故的なものが発生しているんではないかと見に行った。火事とかになってるんじゃないかとかそういう心配もした。
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう」
しかし、炊飯器は特に異状なく、ただお米を炊いていただけだった。蓋を開けた時研いだお米が真っ黒になってたりするんじゃないかと思ったが、そんな事も無かった。
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう」
炊飯器は、姉からもらった炊飯器はただ実直にお米を炊いていただけだった。それからはもう炊飯器が、
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう」
って言っても気にしなくなった。
「今日もやってるなあ」
っていう感じに思うようになった。
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう」
今日も元気だなあっていう感じ。
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう、べぶう、ぴぶう、ぎひい」
あらら、今日はいつも以上に、何時にもまして激しいなあ。元気だなあ。
「ぎいい、ぎいい、いぎぎ、いぎい、きょええ。ひぎい、ぐいい」
あの炊飯器に壊れてもらっては困る。お米が炊けなくなる。実家から送ってもらったりしているし、私自身も業スーでカルローズっていうお安いお米を買ったりして、ブレンドしたりして食べてる。だから、困る。壊れられると困る。でもまあ今の所、姉からもらったその炊飯器はまだまだ壊れるような感じも無い。
ただ、
「ぼふ、ぼふ、ぼふふ、はぶ、ばふう」
っていうだけ。
たまに、今日みたいに、
「ぎいい、いいい、ぎいいい、うぎいい、うげげえ、げええええ、げえええええ」
って言ったりもする。する?
え?
してないような気がする。
いつも、そこまでの激しさはないような気がする。
さすがに、
「げえええ、げええええ」
これは何かあったのかな。
キーボードを打つ手を止めて、部屋のドアを開けた。そのすぐ先に、リビングのドアがある。摺りガラスでリビングの方がちょっと見える。リビングの電気がついてる。さっき消したはずなのに。その光の中に、誰か、人、人間のシルエットがあった。
「えええ」
リビングのドアを開けると、
そこに、
誰かが、
全く知らない誰かが、
リビングの向こうは、ベランダになってる。洗濯ものを干す程度のベランダだ。ベランダの窓が開いていた。
リビングの天井に紐、縄、何だろう。何かが巻き付いている。
そして、
そこに、
そこで、
知らない人が、
全く知らない人が、首を、
そこで、首を吊っていた。
壁に、
寂しくて
ごめんなさい
と書かれていた。
知らない人が家に入ってきて、首を吊ってる。
顔は赤黒く今にも破裂しそうなほど浮腫んで、浮腫んでっていうのかな。
わからない。
でも、とにかく、誰かが、
私の家で、首を吊っている。
ピー。
音のする方を見ると、ご飯が炊けていた。

炊飯器

炊飯器

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-02

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