聖と生
きれいなかたちのまま、そこにいて。
輪郭を失い、歪んでゆくばかりの街で、あのひとだけが確固たるものとして、生を営み、それ以外のものは皆、逆らうこともできずに、ただ、同化の運命をたどっていた。
いずれは滅びるのだろう。
肉体が。
星が。
崩れて、壊れて、ぐじゅぐじゅに腐っていく。
共に。
こんなきもちでも、バレンタインだから、ごほうびのつもりで、じぶんのためにチョコレートケーキを買って、けれど、しらないあいだに、しらないところで終わってゆくものを、しらないものとして、つまりはさいしょから、なかったものとして、認識すらしていない事物はきっと、おそろしいほどにたくさんあるのだと想像して、なんとなく、かなしくなってる。アルバイト先の先輩である、ツインテールのひとが、コイビトと別れたからといって、自傷行為に没頭している現実くらいには。あくまでイメージだけれど。かなしいと思うきもちは、平等に。ある。アルバイト(真夜中に降る、星屑をひろいあつめるだけのお仕事)のときには、明るく振る舞っていて、だれもしらないところでは、自分自身を傷つけているのだと想うと。余計に。
あしたには、あそこの一画が朽ちるでしょう。
ニュース原稿を読む、アナウンサーの無機質な声を聞きながら、四角いチョコレートケーキにフォークをいれる。
わずかに開けた窓の外からは、星の悲鳴。
聖と生