まだ見ぬ世界

 うらまれているのかもしれない。
 ときどき、(きみ)は無情。

 海がみたかったのに、アルビノのくまは、ゆるしてはくれなかった。森から出してもらえなくて、ナナミとふたりで、たいくつだぁとわめいていた。カメラマンのアンドウさんは、おみやげに、なんだかとげとげして、うずをまいたかたいものをくれて、それはカイガラだと教えてくれた。ナナミは、長い耳をぴくぴくさせながら、ふしぎな音がする、と云った。それが、なんだか、ぼくのからだに耳をあてるときこえる、ざあざあとした音に似ているということだった。アンドウさんが云うには、血液が流れている音であるらしい。カイガラからきこえるそれは、波の音だという。海というところは、こわいところなのだと、アルビノのくまは眉をひそめながら、アンドウさんのために、ハーブティーを淹れていた。おだやかな、冬の午後だった。

 欲望、という目にみえないけれど、だれしもにそなえられた、その、発芽すればどんどんと成長し、摘んでも摘んでも減っていかない、どうにもままならぬものに喰われないためにも、ここにいなさいと、アルビノのくまは云うけれど。

まだ見ぬ世界

まだ見ぬ世界

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-02-05

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