C・C の転職

C・C の転職

何処かであった女性が入社した。


 以前から聞いてはいたが女性部員の交代がある。結婚をしてやめていく女性に変わり、中途採用入社の女性。
 源氏光は未決済ケースを全て処理し午後からは外出というパターンを毎日繰り返している。
 其の女性の事はベテランの女性部員に任せる事にした。
 



 信販業界の詰まらない会議だが出席しない訳にはいかず。社を代表して出席しているのだからと、其れだけ。
 結局、会議中は殆ど関係無い事を考えていた。今日から勤め始めた女性を何処かで見た事がある様な気が。
 中途採用社員は経験者であるから、何処かで同じ様な仕事をしていた筈。
 今晩人事課長の京子に聞けば分かるがなど、移動中の車内でふと考える。
 間違いで無ければ、此の国の航空機内で会ったC・Cのような気がする。
海外出張で飛行機を使う事はある。機内での或る笑顔の記憶が蘇る。
 昔は鼻高々だったJALもANAに追い上げられているせいなのか今は愛想も良い。
 機内食も一段上だったが今は変わらないのではなどと思う。
 あれは・・確か、Cokeをオーダーし少し零してしまった時にお世話になった様な気が。
 であれば、世の女性方の憧れであった其の女性がどうして此の業界に入ったのか。
 折角の花形職を辞めてまで転職した事情は一体何だろうか。
 
 


 歓迎会が催された。宴席でひときわ目立つ彼女の名は傘井美知。
 幹事の挨拶も終わり全員打ち解けての飲み会は好評のようだ。
 美知が光のところ迄挨拶に来お酌を受ける。やはり、以前見た記憶があると言って良いのかとは思うが、つい口を滑らす。
 美知は其れを承知だったようで、聞いて貰いたい事があると言うから、この後飲みなおそうかと。
 皆其々思い思いに飲んでいるから、二人の会話を聞いた者は誰もいないようだ。
 歓迎会も滞りなく終わった頃、銀座の裏通りにある待ち合わせ場所のパブの席に落ち着いていた。
 彼女は何とか取り巻き連中をまいてきたようで、この事を知る者はいないよう。
 彼女は開口一番。
「誰か良い人はいないでしょうか」
 と始め出したので聊か驚いたが、考えてみれば彼女が結婚相手を探していたとしても少しもおかしくはない。
 航空機会社を辞めた理由は、ある機長と良い仲になっていたのだが、実は其の男性には別に結婚を約束した相手がおり、要は不倫のようなものだったという。
 言葉は悪いが、相手に弄ばれたのかそれとも男が本気で彼女を好いていたのかまでは聞かず終いと。
 彼女ほどの美女であるのならそんな事があってもおかしくはないとも思う。
 其のまま会社にいれない事は無かったのだが、皆、周囲が次々に結婚をして行くうちに居辛くなったようだ。
 エールフランスの此の国の女性などは、白人男性目当てで就職をしているから、カタカナ名の女性ばかりだが、其れが自慢の用で鼻につく。
 更に、結婚サイトに登録しているとまで話された時には結婚願望は半端ではなさそうだと思う。
 しかし、その様なサイトでは希望条件を満たしそうな相手にはなかなかお目に掛れないばかりか、何とか結婚まで至ったにしても再び離婚などというケースも少なくないと聞く。
 また彼女の弁によれば、会員の女性達の趣味とし海外旅行というのがかなり多いようだ。
 が、散々海外に行っていた彼女にとり今更海外でも?は当然だろうとも思う。
 そういうサイトは離婚経験者が多く、其の原因とし理想が高過ぎるからとも聞いている。
 年収なども高い方が目に付きやすいというのだが。以前の会社に比較すれば給与はかなり下がるだろう。
 其処で光も、取り敢えず一時凌ぎの腰掛と考え、良い相手に出会った段階でその辺りを改めて考えれば?とは言ったものの、そう上手くいくのだろうかと。
 一緒に飲みながら光なりにいろいろ考える。
 光が知人の顔を思い浮かべても特に親しい者などいないし、社内であれば尚の事彼女に見合うような男性はいない様な気もする。
 そうかといい其のサイトやらも程度が良くないとなれば、さて、どうするべきか?
 



 光は海外旅行に以前行った当時の事を思い出した。意外と旅行社の社員は幅広く海外の事を知らない。
 其れだから、彼是希望する客のニーズに答えられないケースも多い。
 ツアーなどについては現地の会社とタイアップしているから契約時だけ熱心で、あとは其方にお任せという事で済ませているような気もする。
 その実、個別に海外の事情とか名所spotや観光地に行くアクセスなどを聞いても、案外分かりませんというケースもあるようだ。
 航空券やホテルの手配なども、実際に航空機会社任せやホテルについては極めて大まかな情報のみで、現地に着いてから宛が外れたという事も。
 航空機でも、例えば荷物のサイズなどについては直接航空機会社に聞く事もある。
 要は初めての旅行者に取ってみれば行ってみなければ分からないという事が多い。
 事前に予約を取ったにしても、何処の街がどうだからという事までは自分で調べるしかない。
 現地に行ってからか、現地に知人がいるとか、或いは始終行っている者の情報に頼るしかない。
 だから、行ってみたら予想外だった、期待外れだったならまだしも、全く予期せぬ事で困ったという旅行者の感想も案外見受けられる。
 その点彼女は定期的に海外の彼方此方に行っていたのだから、実際に現地のホテルに泊まり、時には街を散策する時間もあるC・Cにとっては、不慣れな顧客にとっては歓迎される存在と言える。
 海外旅行は国内旅行と異なり、そういう点が曖昧だから、詳しい状況を知っている者は重宝がられると言えそうだ。
 其処で、光は以前利用した旅行者に問い合わせしてみた。
 そういう方がいるのなら大歓迎と言われる。仮にそういう会社で働くとし、肝心な結婚についてだが、彼女を信頼する者と出会う事が無いとは言えない様な気もする。
 或いは、海外支店などで現地の男性に巡り合う事もあり得る。
 空を飛びまわっていた時に較べれば、落ち着いて仕事と伴侶を見つける事も可能ではないか?
 そんな事を彼女に話してみた。彼女が希望する収入については、会社が必要な人材だと判断されればそれなりの待遇を得て当然か?
 光が、幾つかの旅行会社にあたってみたところ、やはり、needsは高かった。
 是非ともという会社も。
 雇用契約は需要と供給がマッチすれば当然就職は確保できるというのが通常の景気であれば。



 一番好待遇の会社に彼女がじかに面接した後は、彼女の意思に任せるしかない。
 会社側から好待遇の条件が提示される。彼女はと言えば、其れで結構ですという事。
 両者の了解の下で、雇用契約は光が契約条件を確認する事で不備がないようにと万全を図った。
 いよいよ彼女が光の会社を辞め転職をする事になった。長くいた訳では無かったから、履歴を不利に思われる事も無かった様で、寧ろ、一時思い違いで畑違いの業界を経験したという事で理解された。
 



 彼女が転職してから半年くらいし仕事に慣れた頃、タイミング良く伴侶が見つかったようだ。
 彼女の男性の満足度は高かったようで相手にも不足は無く交際が発展したという事。




 京子と待ち合わせをしたホテルで、二人で、彼女の話をしている。
 彼女からメールが来、婚約相手の写真も添付されていた。
 京子が。
「確かに、一見、C・Cと言えば聞こえは良いが、性格的に難がある女性は多い。航空券を買う度に各社の違いが見受けられるし、苦情を言わざるを得ない事も多かった。彼女は違ったから・・」
 光もその見解には賛成だ。実際、その名だけで鼻にかける航空機会社の代表の様なエールフランス。
 カタカナ名を取得できた後の彼女達の愛想の無さは際立つし、virusでキャンセルした際に、現金を返さずクーポン、其れも一定の期限内しか使用できないなど。
 其れでも、吸収合併したKLMHolland航空と共にeuropeの一定地域で周遊したい時には他の会社の便は無く、嫌でも使わざるを得ない。
 海外の事情も大きく左右するが、やはり客商売である事を忘れている航空機会社も少なくはない。
 ホテルの大きな窓からは、月の優しい光や星々の煌めきに加え、夜間飛行の機が軌跡を描いている。
 綺麗に見えるのだがその実情は分からない。
 その点、彼女のような経験豊富な人類は青い惑星の何処から夜空を見ても美しいと思えるのかも知れず。
 二人はその彼女と伴侶が二人で連れ添っている姿が夜空に浮かぶ天の河では無いかなど思う。
 暫くし、二人は此の国に仕事で訪れた夫婦と再会する事があった。
 幸せいっぱいの二人に、光達も圧倒され。
「・・ところで・・私達・・随分長い付き合いの割には・・?」
 京子は何時もに較べやや、口を尖らせていたようだが
すぐに何時もの二人に戻っていた。



 適材適所は最も基本だが、なかなかそううまくいかない事もある。
 其れを考えれば真面目な人材が幸せになれた事は本当に良かった。
 男女の中も思わぬ出来事に左右され、間違った方向に歩む事もあるが、やはり、彼女が最後まで希望を捨てなかった事が幸せに繋がったのだと言えそうだ・・。


「真面目とはね、君、真剣勝負の意味だよ。夏目漱石」


「人間は時として、満たされるか満たされないかわからない欲望のために一生を捧げてしまう。その愚を笑う人は、つまるところ、人生に対する路傍の人に過ぎない。芥川龍之介」

「幸福というものは受けるべきもので、求めるべき性質のものではない。求めて得られるものは幸福にあらずして快楽なり。志賀直哉」



 「by europe123 original」
 https://youtu.be/WOd05LXYI2g

C・C の転職

確かC・Cだったような記憶が。

C・C の転職

何でも無い・・話の中にも、男女の組み合わせの食い違いはあるようだ。 という、何でも無い話。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-31

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