キャンプの茸

キャンプの茸

SF茸少年小説です。縦書きでお読みください。


 大星と大海と大地は仲のよい三人組だ。同じクラスの小学校三年生。三人とも名前に大がついているので、周りから三大人と呼ばれている。学校が終わるとランドセルと放り出して、空き地に行ってあそんでいた。天気のいい日曜日なんかは、バスに乗ってちょっといったところにある小さな山の中の探検をしたりしていた。
 春になると、ワラビやゼンマイをとって、家に持って帰り、お母さんを喜ばせた。秋には茸がたくさん生えるが、毒かもしれないのでとらないほうがいいとお父さんに言われていたので、アケビの実をとってきたり、烏瓜の赤い実をとってきて、自分の部屋につるしたりした。
 小学校四年生になったら夏に三人でキャンプに行こうと約束をした。
 いつも行く山よりもっと奥に、小さいけど綺麗な谷川があって、その周りにはいくつもキャンプ場があった。

 四年生になり、夏休みになった。三人は一泊二日のキャンプの予定を立てた。お父さんやお母さんにキャンプのことを教わって準備をした。子供だけでよそに泊まるのは三人とも初めてだ。しかも自分でご飯を炊くのもはじめて。
 その日、三人ともお父さんの車で、キャンプ場に送ってもらった。終わった日に迎えに来てもらうのだ。
 キャンプ場には小さなバンガローが山の斜面にたくさんあって、三人一緒にねとまりする。バンガローの前は小さな広場になっていて、かまどもあって、飯ごうでご飯を炊いたり、お湯を沸かしたりすることができる。おかずを作るのは難しいので、カレーや暖めて食べることのできるハンバーグなどを用意した。
 キャンプ管理室に行って、担当のお兄さんに案内され、バンガローにはいると、お父さんたちは帰っていった。
三人はまず何処に寝るか決めて、自分の荷物を置いた。
その日のお昼は、おにぎりを持ってきている。それを食べてから夕ご飯の準備まで遊ぶのだ。
おにぎりを入れたリュックをかついで、まず林の斜面を降りたところの谷川にいった。深いところもあるから水に入るのは気をつけなさいといわれている。
水はとても綺麗で、魚が泳いでいるのが良く見える。
三人は川原の大きな石に腰掛けた。
食べながら話した。
「このあとどうしようか」
「森に行ってみるか」
「そうしよう」
川原からバンガローのある林の中に行く間に草原がある。
 草の中を歩いていくと、茶色っぽい丸い茸が転々とある中に、真っ白で、しかも、まあるい茸が草の中にたくさん生えていた。というより、ころがっていた。野球のボールより小さい。
 「これ茸のようだな」
 「茶色いのはホコリタケだ、お父さんに教わった
 大海が茶色い玉を蹴っ飛ばすと、茶色の煙がでた。大星が白い玉をけっとばしたが、煙は出なかった。
 大地が白い丸い玉の茸を拾い上げた。ころっととれた。
 「ふかふかしている」
 「雪みたいに白いな」
 「雪合戦やろうぜ」
 三人は白いボールのような茸をぶつけあった。
当たっても痛くない。時々、白い茸が破裂して、茶色い煙が昇った。
「なんだろう」
物知りの大海が「胞子じゃないのか」と言った。
茸は胞子を飛ばして増えていくことを知っていたのだ。
雪合戦をやめて、白いボールの茸を石にぶつけて遊んだ。破裂して茶色の煙が上がるのが、手榴弾のようだといってぶつけた。
周りがもうもうと煙幕のように薄暗くなった。茶色の煙を吸い込んだ三人はますます走り回って、茸を石にぶつけた。ふーっと少し強い風が吹いてきて、煙を吹き飛ばした。
そのとたん三人は走るのをやめた。
「はやしのほうにいってみようか」
大星がいうと、三人は、草地の白い茸をいくつか拾うとポケットに入れた。家に持って帰って名前を調べようと思ったんだ。
 そのあと、三人は斜面の上のほうにのぼっていった。林の中には夏だからあまりなかったが、それでも色々な茸が生えていた。しかし、お父さんが毒の茸があるから気をつけなさいといっていたので、とらなかった。ただ、綺麗なのでスマホで写真を撮って友達に送ったりした。
 山の上に行くと、遠くに町が見えた。自分たちの住んでいる町だ。
 林の中を歩いていると、山道の脇に茶色の袋があった。これは前に見たことがある。ホコリタケだ。蹴っ飛ばすと茶色のけむりがでた。もしかすると、草原の白いボールもホコリタケの仲間かもしれない。
 探検を終えるとバンガローにもどった。
 夜は星をみることになっている。

 五時になったらキャンプ場のお兄さんが、木の枝やマキをもって、火のたき方を教えに来てくれた。バンガローから飯ごうとお米を持って川原に行った。お米を入れて水を入れた。お父さんに教わったとおりだ。
 お兄さんが、かまどの中に固形燃料をいれて、木の枝をかぶせると火をつけてくれた。太い枝に飯ごうをつるして、かまどの上からつるした。
 そのとき、大地のポケットがぷくっと膨らんだ。
 ポケットに入れておいたボールのような白い茸が膨らんだようだ。
 大地がポケットから茸をとりだした。茸はソフトボールのボールほどのおおきさになっていた。
 「三つも入れていたんだ」大星と大海もポケットから茸を取り出した。まだあまり大きくなってはいない。
 お兄さんが「オニフスベとってきたんだね」と笑った。
 「これキノコでしょ」大星が聞いた。
 「うん若いやつは食べられる茸だよ」
 と教えてくれた。
 「オニフスベ?」
 「ああ、鬼の瘤って言う意味さ」
 お兄さんはかまどの中の枝がよく燃え始めると、「木の枝をたしなさい、分からないことがあったら、管理室においで」と帰っていった。
「鬼の瘤か」大海が三つのオニフスベをかまどの脇に放り投げた。
「捨てちゃうのもったいないよ、食べられるといってたじゃない、ごはんにいれてみようか」
 大星と大海は自分のオニフスベを、蓋をあけて飯ごうの中に放り込んだ」
 合わせて六つのオニフスベ飯ごうの中に重なった。
 「炊き込みご飯だ」
 火の様子を見ていると、飯ごうのふたがちょっとパクパクし始めた。高い山の上では蓋の上に石をのせたほうがいいけど、ここはそんなに高くないから、そのままでいいとお父さんに言われていた。空気の薄い山の上だと、半煮えになっちゃうから、重石をして、山の下のところと同じにするんだという。空気の重さが減ったぶん石を載せるそうだが、そういわれてもどうしてかわからなかった。
 お父さんに言われた時間が経ってから、飯ごうをかまどからおろし、しばらく置いておいた。そのほうがいいらしい。
 その間にお湯を沸かし、インスタントカレーを温めた。バンガローの前には丸太で作った椅子とテーブルがある。
 飯ごうの蓋を開けてみると、ご飯の上に小さくなったオニフスベがのっていた。
 プラスチックのお皿にオニフスベ入りのご飯をよそって、カレーをかけて食べた。
 「オニフスベうまいね」
 三人とも残さずに綺麗に食べた。
 食べた後の食器は、管理室の近くにある洗い場に持っていって洗った。
 用意しに来てくれたお兄さんが「うまくいったかい」と声をかけてくれた。
 「うん、オニフスベも食べちゃった」
 というと、「おやおや、そりゃ良かった、だけど、他のきのこはたべちゃだめだよ」
 と注意された。

 もう日が落ちたが、まだ回りは明るい。バンガローには電気があったが、テレビはない。テレビを見ないのは生まれて初めてだ。スマホも見ないようにしようと三人で約束した。ラジオはつけていいことにして、大海がもってきた。ニュースをやっていた。ラジオで聞いたことがなかったので、新鮮な感じがした。天気予報も聞いた。明日も晴れだ。驚いたのはナイターの中継だった。誰かがホームランを打ったとき、打った球が高く上がって、外野席まで行く間しゃべりっぱなしだった。良くあんなに早く沢山しゃべることができると、三人はびっくりした。
 「暗くなってきたよ、そろそろ星を見よう」
 大星は望遠鏡を持ってきている。大星のお父さんは星の研究者で、そういう名前をつけたんだそうだ。それで、十歳の誕生日のとき天体望遠鏡を買ってくれたんだ。
 大地と大海は10月と12月生まれ、まだ十歳になっていない。
 望遠鏡をもって、バンガローの前にでた。
 空を見上げると、木々に囲まれて、黒というより、濃紺の星空がぽっかりと穴になっていた。
 「北斗七星だ」大星が指差した。他の二人もすでにわかっていた。月は林の木々の間から見えた。望遠鏡で見るには川原まで降りなければ無利だろう。
 だけど、三人ともなんだかそのぽっかりと切り取られた、楕円形の星空の穴をもっと見ていたい気になっていた。
 丸太の椅子に腰掛けて星たちを見ていた。星が流れた。
 「綺麗な空だなあ」
 町からそんなに離れていないのに、家から見る星空とは全く違う世界だ。
 大地が「なんだあれ」とかまどの脇を指差した。
 大きなまん丸なものが三つ、白く光っている。
 「オニフスベがおおきくなったんじゃないか」
 大海が立ち上がって、かまどのほうに歩いていった。
 「やっぱりそうだよ、オニフスベがこんなに大きくなったんだ」
 すると、またオニフスベは膨らんで、三人の頭の高さくらいになった。
 「触るとふかふかだよ、中もやわらかいのかな」
 大地が大きなオニフスベに指で穴をあけた。
 「簡単に掘れる、家を作ろうぜ」
 大地に言われて、大海と大星も大きなオニフスベに穴をあけはじめた。
 入り口は小さく、中をほじくって空洞にした。掘り出したオニフスベのかけらが、明けた穴の前に散らばった。まるで雪が積もったようだ。
 雪で作ったカマクラのようじゃないか。
 「できたよ」大地が叫んだ。「おれも」大海と大星も言った。
 「入ってみようぜ」
 三人はオニフスベのカマクラに入った。
 ふかふかしている。なんだか暖かい。
 「気持ちいいなー」隣のオニフスベのカマクラから大地の声がした。
 三人はでてくると、「今日はこの中で寝ようか」
 「蚊が来ないかな」
 「香取線香をみってきたよ、オニフスベの前においておけばいいさ」
 「そうだな」
 三人はそのあと、大星の天体望遠鏡を持って、川原にいった。
 月にあわせると、かわるがわるのぞいた。
 「でこぼこまで良く見えるぜ」
 「あそこ歩いてみたいな」
 「昔、アメリカの何とか船長というのが歩いたんだ、まだ足跡があるかもしれない」
 アポロという月へ行く宇宙船にのって、初めて月に行った人だ。
 「今火星に行く準備もしているらしい」
 大星が火星に望遠鏡を合わせた。しかし、月のように表面は見えなかった。
 「火星にも行ってみたい」
 みんなもそう思った。
 流れ星は何度も見た。三人は宇宙にいけますようにと願いをかけていた。
 夏でも夜更けてくると寒くなる。
 「そろそろ戻ろうか」
 大海の声で三人はバンガローにもどった。
 バンガローの中で、大きくなったら宇宙旅行ができるかどうか話し合った。今でも大気圏の外まではいけるし、月ぐらいならいけるだろうという結論になった。
 「どうする、オニフスベで寝ようか」
 「あんな大きなキノコ、もう見ることもできないな、せっかくカマクラにしたのだから、あそこで寝ようよ」
 大地の提案で、三人は懐中電灯や香取線香、ペットボトルの水を持って、オニフスベのところにいった。
 大きく、ふんわりとまん丸な白いオニフスベは、三人に笑いかけた。
 「言い夢見ようぜ、それじゃあな」
 三人はオニフスベの中で横になった。
 大星も大地も大海も、すぐにオニフスベがふわっと宙に浮くのが感じられた。外をのぞくと、バンガローの屋根が見えた。林の木が下に見える。上を見ると満天の星空だ。月が煌々と輝いている。
 飛んでいる。オニフスベが宇宙船になった。
 あっという間に地球が大きな丸い玉になった。周りに浮かんで見えるのは、アメリカや中国の宇宙ステーションだろう。
 月だ。月の表面のクレーターが迫ってくる。
 「おーい月に来たぞ」
 オニフスベの中で大星が叫ぶと、二人ののったオニフスベの中に、大星の声が響いた。
 オニフスベの宇宙船は通信機能も持っている。
 「着陸させようぜ」大地が叫ぶと、三つのオニフスベは静かにつきの表面に着陸した。
 三人は月に空気のないことも忘れて外に出た。
 砂漠のような砂と小石のかけらが轢き詰められたクレーターに着陸したようだ。
 「おい、足跡がある」
 大海が指差した先には、靴のあとがあった。
 「ほら、アポロの船長のだ」
 大星が思い出した。「アームストロング船長だ」
 「広いつきの上を歩くのは大変だ。オニフスベにのってみて回ろう」
 大地の提案で、またオニフスベに乗り、月の地表を飛び回った。
 「火星に行こうぜ」
 つきから飛び立ったオニフスベは、宇宙空間に飛び出した。星星の光に囲まれてオニフスベは火星に向かった。宇宙空間には小さな石が漂っている。オニフスベは柔らかいので小さい石でもぶつかると傷がつく。よけろと三人が思うと、オニフスベはうまく石をよけた。
 このように三人はオニフスベの宇宙船を操って、火星までやってきた。
 「火星人なんていないよな」
 「あれはウエルズのSF小説だよ」
 SFの好きな大海が笑った。
 火星の表面は赤っぽかった。降りるのは人類で自分たちが始めてだ。
 オニフスベの宇宙船はふんわりと火星の丘におりた。近くに運河がある。運河といっても水があるわけじゃない。
 三人はオニフスベから降りようと外をのぞくと、たこのような格好の生き物が歩いてくるのが見えた。
 「うそだろ、ありゃウエルズの作った火星人じゃないか」
 だけど、本当に歩いてくる。
 蛸のような火星人にオニフスベは囲まれてしまった。
 その後ろからとてつもなく大きな蛸の形の火星人がにゅるにゅる歩いてきた。
 大きなやつが言った。
 「そのキノコは子供の食べるものじゃありません、毒ですよ、特に中の地球人の子供は猛毒です」
 後ろの大きいのは大人の火星人のようだ。
 「大人になったら食べても大丈夫、これから沢山地球人が来るでしょう、そうしたら食べなさい」
 大人の蛸の火星人が、大きな口を伸ばした。
 そして、三人の入っているオニフスベを次々と吸い込んだ。
 「ひゃー」
 三人の声がオニフスベの中にこだまして消えていった。

 「助かりましたね」
 医者がモニターを見て、三人の心臓の動きが戻ってきたのを確認した。
 「ありがとうございます」
 三人の両親たちが医者にお礼をいっている。
 「シロオニタケの幼菌をオニフスベと間違えて食べたのですね、胃の中を洗ったら、オニフスベとシロオニタケがみつかりました」
 そんな声が聞こえて、三人は目を開けた。
 「聞こえるかい」
 医者の言ったことに、三人ともこっくりとうなずいた。
 両親たちがそれぞれのベッドの枕元にあつまってきた。
 治った後で、三人で話をした。
 なぜか、三人とも同じ夢を見ていた。
 
 古希を迎えた三人がホテルのラウンジで、夜空を見ながら、昔を思い出していた。
 小学生のときあんなことがあった。
 そんな話をしながら、明日のことを考えていた。中学、高校と同じだった三人は、大星は宇宙船製造の会社に入り、ロケット製作部長をして退職した。大海は豪華客船の造船会社に入り、何艘もの客船を設計し、やはり退職していた。大地は世界の山を制覇するほどの登山家になった後は、後輩の指導者として大学の教授をしていたがすでに名誉教授である。
 三人は宇宙船打ち上げの前の日に、種子島のホテルにはいった。彼らの部屋の窓からは日本初めての月着陸船を乗せたロケットが打ち上げられる。着陸船には月探査艇が何台か載せられている。その一つは下にジェットを噴出して低空で飛行し、地上では車輪で移動できるまん丸のガスタンクのような形のものだ。もちろん大星が設計したものだ。パフボールという愛称で呼ばれている。パフボールとはホコリタケの仲間のことであり、オニフスベのことでもある。彼が名づけたのではない。ナサのアメリカ人がそういってから呼ばれるようになった。
 「俺もあれに乗りたかったな」
 大星は始め宇宙飛行士を目指したが、途中であきらめて設計に回った。
 「火星人に食われなきゃいいがな」
 「若いオニフスベは食えるからな」
 明日は晴天の予定である。成功することはほぼ確実だろう。
 三人は星空に囲まれて、準備が整えられて聳え立っている大型ロケットに向かって献杯をした。

キャンプの茸

キャンプの茸

三人の男の子。キャンプで見つけた茸を食べた。茸は彼らを宇宙に連れて行った。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted