家路

 ネム。だれかの心音が、まよなかの高架下に響く。やさしさのかたまりである、きみが、青い花に触れて、その冷たさに一瞬、おののく。厚みは、舌に似ているのに、かくじつに不足しているのは、熱。
 月がきれいで、星がよくみえて、飛行機が飛んでいるのが、赤い明滅でわかる、冬の夜空をじっとみつめていると、勝手に出てくるのは、なみだだった。
 どこかで、踏切の音がして、つづくようにして、電車が、急ブレーキをかけたような、悲鳴にも想えるけたたましい高音を発して、わたしは、こわい、と思う。思いながら、横断歩道をはやあしでわたる。赤信号で停まっている車のひとのかおが、暗くてよくみえなくて、夏よりもクリアにきこえる、遠くの音におそろしさを感じながら、ネムのいるところに帰る。

家路

家路

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-26

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