N M P P

 月のまんなかを撃ち抜いたみたいだ。夜鹿(やか)の声が、あたしの鼓膜には刻まれていて、アンドロイドのネムが、やり場のない怒りを昇華するためにアイスクリームのファミリーパックを、カレーのスプーンで貪り食べている。テレビはさっきから、電源を入れていないのに不快なノイズを発していて、穴のあいた月から、雪に似たものが降ってくる二十四時に、救いはないと嘆く神さまの分身である夜鹿だけが、あたしたちには血がかよっていることを思い出させてくれるように、あたたかかった。アイスクリームを食べても壊れない、ネムをつくったひとの気配を、いつも感じているのは、ネムのひだりうでが、そのひとのひだりうでだったから。あたしの好きだったひと。スマートフォンのなかで飛び交う、憶測と欺瞞。顔も知らない誰かの振り翳す、正義ぶった暴力に傷つく誰か。数がすべての世界で、大多数が正解だと突きつけてくる。いらだちをぶつけるみたいに、半獣の夜鹿とおこなう性交に伴うのは、生命に対する言葉なき敬意。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-17

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