El fin ...  邦題 とんだ結末・・。

El fin ...  邦題 とんだ結末・・。

部下の結婚だと。 

 社の帰りに山本美智子と居酒屋で飲んでいる。
 彼女は葉山康介が長である法務部の部員だった。 
 だったと言うのは、近いうちに結婚をするので退職をするからだ。
 仕事ぶりでは女性達の中で、彼女の右に出る者はいないと言っても良いだろう。年齢は四十の手前。
 若い部員などは同年齢の女性との交際が多いから、彼女はそういう点では特異な存在とも言える。
 とはいえ器量が良い。其れに加え人から好かれる性格のようで男女を問わず人気がある。
 その彼女が抜ける事となり、洋二は良かれと言う気持ちとは別に、何か寂しさのようなものを感じた。
 仕事の穴埋めは別の女性でも何とかなる。定例の飲み会以外にもちょくちょく何人かで飲みに行った。
 其の中に、必ずといってよいほど彼女がいた。部員達は其んな事など気遣いもしなかった。
 要は、若い者は若い者同士が常というもの。其のせいか彼女以外は往々にしてメンバーが変わる。
 残りもの同士と言うには当たらない。康介とは年齢が異なると言っても良いだろう。
 其れでも彼女は義理堅い様でほぼその都度来てくれていた。
 酒の席では時間が経つに連れ、若い者の関心がある話題に代わって行く事も少なくない。
 



 そんな或る日、飲み会の帰りに偶々彼女と一緒に帰る事になった。
 彼女の家は東急東横線の多摩川園前から歩いても遠くないところにある御屋敷だ。
 洋二の住まいはと言えば同じ東急線でも目蒲線の洗足と大井町線の千束の中間辺りにあるマンション。
 其れで、東横線の始発駅である渋谷のカフェに寄る事にした。
 以前、何かの折に来た事のある店で、程良い薄暗さの落ち着ける雰囲気。
 天井から吊り下げられている洒落たランプが照らし出すテーブルにはCoffeeが二つ。
 洋二は、本当はもう一軒梯子(はしご)酒でもと思ったのだが、又にする事に。
 というのも、何か彼女が話がありそうな素振りを見せたから。
 仕事上の話かとも思った。頭の少し上まで下がっている赤い傘のランプが彼女の瞳に映っている。
「実は、私、会社を辞めようと思い・・」
 洋二はそろそろ・・と思っていたから驚きはしなかったが、やはり・・と、勘が当ったようだと思う。
 洋二は片手に持っていたカップの珈琲を口に含ませ飲み干してから皿に戻す。
「ああ、仕事の引継ぎの事なら気にしなくても大丈夫だから」
 彼女は頷きながらパッと明るくなった様な表情・・?・・やや違うように見える。
「手続きや、そう言う事でなく、葉山さんには随分お世話になったので・・」
 洋二は、彼女は相変わらず律儀だなと思い、そんな事はどうでもいいんだよ、と思う。更に続く言葉に。
「ああ、そうか?そう言えば、休みの日に二人で横浜の海を見に行った事があったね。横浜は東京に近いけれど潮風が心地良く手軽に落ち着けるところだから。港の夜に映えるベイブリッジ、更に其の先は・・」
 美智はカップには手を付けず。
「・・先は、何ですか?」
 洋二はこんな時に余計な事など言いだしたら場に似合わなく、など思いながらも。
「いや、海のずっと向こうには何処かの国がある・・そんな異国情緒を感じさせるのも横浜の港ならでは。ああ、ひょっとし新婚旅行は海外かな?」
 美智は今度はカップに指を触れると。
「いえ、両親が結婚式などにあまりお金を使うより、その後の生活にあてた方が良いと言うので」
 洋二は、彼女の家は裕福だが、案外そう言う考え方をするのだろうかとも思った。
 そう言われてみれば、彼女の年齢から考え何も派手にやるだけが能とも言えないような気がする。
「ああ、其れもいいな。お相手の方もその点につき了解されているんだ?」
 美智は、少し表情を変え。
「相手の方は私より若いし、ご両親や家の方も式はきちんとと望んでいるようで・・」
「其れでは、その辺りの調整もしなくてはならないか。地方によっては結婚式に古風なしきたりがあるところもあるから・・何処なのお相手の方の御実家は?」
「岡山の少し外れなんです。古い町なのでそういったしきたりもあるようです」
「まあ、僕なんかが考えるには、式は形式上の事。本人達が仲睦まじく生活する事が肝心だと思うが」
「実は、彼とは結婚相談所の会員同士でして、相談所を通し三か月間送られてきた写真を元に気に入った相手に申し込んでいたんですが。必ず相手が見つかるものだとは限らないと言われ・・」
「そう・・そういうところの話を聞いた事はあるけれど、今の時代いろいろな相談所があり、いい加減な所もあるようだよ。なかなか双方の希望条件や趣味が合わない事もあるらしいね。其れだから、案外、上手くいった例は少ないとも聞いているけれど。君達は上手くいった方なんだろうね?」
「其れが、そうでもないような・・趣味などは私は何方かと言うと大人しい方なのですが、彼は若いからスポーツなど活発なようなんです」
「うん、まあ、慣れてくれば相手に合わせる事くらい難しくは無いのかも知れないが、あまり違い過ぎるというのであれば難しいのかも知れないな?親御さん同士の考えも一致すれば良いけれど」
 洋二は、其れで相談所とやらに実際に電話を掛けたりし仕組みなどを聞いてみると同時に、パソコンで相談所の口コミを調べて見たりした。
 取り敢えず四件の相談所をあたって見たのだが、案外な事に料金が高い割に、不親切である事が分かって来た。
 何処の相談所も口コミは良くなく、其の数も多いのが気になる。
 一番酷かったのが、あか会という老舗といわゆる相談所で、名は知れているらしいが、健康・・という別法人が実態で、法的には「あか会 こと 健康・・株式会社」と表示する事になる。
 帝国データバンク及び東京商工リサーチの二社に調査データの報告書を提出して貰う事にした。
 その結果、経営内容はかなり好ましくない。其れに、仕組みを調べて驚いた。
 一か月に一度三人の顔写真や簡単な属籍が表示されて来るのだが、其の三人が本当に会員であるという証拠が掴めない。
 其処へ持って来て、片側通行に等しく、仮に片方の会員が指名をしたところで、全く、yes・noの返事が無い。
 という事は、実際には実態が無い会員であってもおかしくはない事になる。
 其れであれば、返事が来るあろう筈も無いのは当然だ。
 其処は、なんやかんやで三か月で退会しても十万以上になってしまう。増してやそれ以上続ければ際限もなく費用が掛かる事になるという事は、「詐欺」と言えない事も無い。
 ところが、彼女の係わった相談所も似たり寄ったりで、その後の彼女の体験談からも酷さが窺えた。
 総じて、この不況時には、この様な業種も経営が厳しいという事になる。
 彼女のケースからは次の様な事実が報告された。年齢の差は十歳くらいだと言う。
 今の女性は年下好みという事も結構多い。中にはprofileにその旨をうたってある場合があり、自らは「十歳若く見えると言われます」との記載がある。
 三十程度なら体力も違うだろうし、美智子は何方かというと確かに若つくりだが家庭的なタイプで、相手に尽くすとは思うが、あまり極端に差が生じれば疲れてしまいそうな気もするのではと気になる。
 其の晩は、その程度の話で終わったが、社内の手続きはどうするのかと思う。
 また、連絡を貰う事にした。



 其れから暫くし、彼女から相談したいのだが・・との申し出があった。
 今度は、二人で立ち寄った事のある横浜のホテルに行く事にした。高層階にあるレストランからの眺めは絶景だ。
 ところが、彼女の顔色が優れない。今晩は料理と共にワインを飲んでいる。
 洋二が気になっていた様に両親同士の考えが異なるようだが、それだけなのか?
 というのも、やはり、相手の方が若いと言う事が、一つネックになる。
 メールや数回のデートでは気が付かなかった思い掛けない事が問題になる事もある。
 彼女が真っ先に言ったのは。
「あの、彼は、どうとかでは無いのですが、孫が欲しいような事を両親から言われたとか?冗談なのか?私の年齢ですとかなり難しい事なんで。其れに、両親同士の式に関する提案もなかなか、合わなく、やはり年齢が逆転しているのが気になってはいたんですが、私に比較し彼は元気一杯で明るいのは結構なんですが、どうも、全てに合わせる事は難しいと思い始めたんです」
 洋二は彼女の言い分はよく分かった。年齢差が逆転しているのもニ~三歳くらいならまだしも、差があり過ぎる。
 やはり20代ならまだしも、それ以上の年齢になると、この様な媒体を介すのも必ずしも安全ではないのかも?と思い始めた頃。
 彼女と会う機会があった。
 一通り話を聞いたところで、彼女が言う。
「こんな事、今更なんですけれど、やはり年齢相応の相手の方が良いのかななど。私が背伸びをしても所詮限界があるような気もするんです。其れが、却って相手に迷惑に感じられるようになったらなど」
 洋二は、彼女を気に入っているのは相手の方なのだからと思っていたから、彼女に背伸びと言う表現はあたらないのでは?どうしたのか?ひょっとしたら彼女は何人かを比較しているのだろうかと。
 まあ、彼女程の器量の女性ならそう言う事もあり得るとも思うのだが。
 レストランから横浜が一望でき、以前とは違った景色に見える。
 以前、二人で来た時には此のホテルで食事はせず、マリンタワーに昇ったり公園を歩いたりした。
 洋二は、彼女と会う度にいろいろな考えが脳裏に浮かんでは消えた。
 若つくりと器量の良いところが第一印象で、相手の男性の心を動かしたのだろうが、いざ生活が始まった時に、其れまでに気が付いていなかった思い掛けない事で生活の破綻につながる事も無いとは言えないと思うのは、単に取り越し苦労だろうか?
 人事では既に彼女の引継ぎを考えているようだ。まだ、洋二がはっきり決めた訳では無いからと話してあるのだが。



 それから何日かが経過したある日の事、彼女が、良かったらお時間ありますか?と。
 彼女の話は当然ながら例の件の続きだろうと思ったのだが。
「あの話はもう一度よく考えてみようと思っています」
 と聞かされた。
 幾ら親しいとはいえ、所詮、上司であるだけの洋二に随分率直に相談したものだと思う。
 彼女は、躊躇うようにしながら自問自答の様に話し始めた。
「何回も会っている内に、お酒が入っていたという事もあったのでしょうが?」
 若し良かったらホテルに泊まっていかないかと言われたと言う。
 相手の男性は遠慮がちだったそうだが、つい口に出てしまったのか。
 彼女はその時には上手く断り帰宅したと言う。家の者も彼女の顔色が優れないからと心配したようだ。
 かと言え、まさか子供でもあるまいし、親に気苦労を掛けまいとも考えた様だ。
 彼女は暫く時間を設けるつもりだと言うが、何時までも其のままという訳にもいかないだろう。
 洋二は彼女の心がかなり揺れ動いているように思えたので。
「余計な事だが、正式に決まっていない結婚式の前でもあるし?ところで、ご両親の考えはどうなったの?」
 彼女は項垂れたままで、両家の見解が合わないと言う。
 洋二は、以前、全く別の件だが、式の事で新郎の親の考えと、花嫁の希望が合わなく揉め事になり破談したというケースがあった事を覚えていた。
 子供の結婚式に親が異言を唱えると言うのもおかしなものだが、実際、世の中にはそう言う事がある。
 格式を重んじるとか、今回のケースの様に実家が田舎のしきたりを重視するような場合だ。
 彼女の話を借りれば、確かに都会でなくかなり地方では、風習を重んじる事も無くはない。
 ある一件では、やはり同じ岡山の津山でしきたりに反した行為により式は取りやめになっている。




 洋二が彼是いうのも限界があるのだが、一体事の次第はどうなっているのかという事と、彼女が交際相手を決めかねているのであれば、先ず、其の事から解決していかなければならないと思う。
 其処で彼女の結婚につき、洋二なりにいろいろ考えてみたのだが、何時までも中途半端な状況では決まるものも決まらなくなると。
 更に詳しい話を聞かせてくれないかと、美智子に提案をしてみた。
 彼女から個人的な情報を聞く権限は無いのだが、其れしか解決法は無い。
 早速、二人は渋谷の居酒屋で話を整理する事になった。此処なら彼女も帰宅するには便利だ。
 洋二は掻い摘んで要点を話し始めた。まるで、法廷での証人尋問のような気もしたが、彼女の方はそうは思わなかったようだ。
 洋二は先ずジョッキーで乾杯をしてから、最初に彼女が何人かの男性を視野に入れ交際でもしているのか?
 先日の男性とは何処まで話が進んでいるのかなどを聞いてみた。
 彼女は臆したような気配も感じさせずきびきびと話をし始めた。
 前回の男性との話は断った。男性には悪い気もしたが、そうするより仕方がなかったと言う。
 他の男性との交際はまだ発展とまで言えないのかも知れないが、相手次第でどうなるかは分からない。
 取り敢えず式の話は中断となった。
 其処までは洋二も、事情がそうであれば彼女の思い通りの展開になる事を願った。
 ところが彼女の話は意外な方向に発展していく。逆に美智子が洋二に質問をし始める。
「葉山さん?どうして独身主義者なのですか?何か過去に其れなりの事情があったのでしょうか?」
 洋二は、想定外の飛び火のような気もしたが、正直なところを答えた。
「いや、特にそういう主義の様なものは無いよ。只、モテなかっただけという単純な理由だ。それに私も全く木石漢(人情や男女間の情を解さない男)という訳でも無いから、其れは自分なりにいろいろ考えた事もあったが。世の中上手くいく事ばかりではないから」
 洋二は、ため息交じりでそう話しながら、ジョッキーを煽れば、小気味よく咽頭を通過する筈の琥珀色の液体に咽(むせ)てしまう。
「私、交際している男性がいるんですが、相手は気付いていないようで」
「ああ、其れが良い話ならまた別の問題だな?」
 そう言いながら、洋二は顎に掌を擦りつけながら考える。




「・・どんな相手なのか、聞いていただけますか?」
「ああ、其れは訳は無い事」
 と、彼女の顔に改めて視線を移す。
「・・何?」
 例え法廷と雖も、いきなり相手方からの口頭又は準備書面などの呈示無しで趣旨を開示されたのでは、幾らベテラン弁護士でも、次に相手方を揺さぶり落とす弁論に支障が生じる。
 其処に、洋二の眼(まなこ)が捉えたのは美智子のやや恥じらうような表情。
 其れも、満更嘘偽りだとは思われずどうにか飲み込んだ液体を落ち着かせた後・・ぽかんと中途半端に口を開けたまま・・。
声になる。
「其れは、いや、光栄ではあるが、しかしおじさんに?」
 追い込まれた以上は、みっともなく弁解も出来まい。
 美智子は面(おもて)を微笑みに変えているが、瞳が煌めいているようなのは、その瞳に移っている男を見事に落としたからだ・・。
 二人の会話は、特段の違和感も感じさせずに続いて行く。
「・・君、親御さんにはなんと申し上げるつもり?」
「此処は渋谷ですから、貴方さえ予定がおありでなければ、私の家まで真っ直ぐです・・」
 美智子の仕事の腕前は先刻承知の助だが、此処までしてやられるとは・・しかし、情けないとも思わなかった・・。
「・・ああ、其れは構わない。君の指示に従うつもりだ。僕の先程の・・以前から考えていた・・ああ、何か良く分からないが・・説明も必要無いか?胸の内の麗人は・・」
 最早、其れ以上何も話さずとも、二人の阿吽(あうん)の呼吸は出来上がっていたと言っても、当たらずしも遠からず。いや、大当たりと言えるだろう・・。
 が、因みに法廷は・・完全敗訴となった・・。  
 



    



 田園調布の次が東横線の多摩川園前でお屋敷町だ。駅から歩いても遠からず、彼女の家に・・。
 既に、美智子から両親には幾度となく同じ話をしてあったようで両親も納得せざるを得なかったのでは。
「・・平生は宅の娘が・・」
 堅苦しい挨拶は抜きにし。
 山本家の応接間の灯りが皆を照らし出す中、にこやかな会話が披露されている・・。
 此処からは、作者でなくとも、どの様なお話が展開するかはお分かりだろう・・。


「離れればいくら親しくってもそれきりになる代わりに、一緒にいさえすれば、たとい敵同士でもどうにかこうにかなるものだ。つまりそれが人間なんだろう。夏目漱石」



「Alien Extra1 by europe123」

https://youtu.be/WzRqRRtj8JY

El fin ...  邦題 とんだ結末・・。

その結婚も、いろいろ問題あり。

El fin ...  邦題 とんだ結末・・。

部下の結婚。 すったもんだの挙句は・・とんだ結末・・。 弁護士とすれば・・完全敗訴・・となる・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-17

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