フォークソングは聴こえない

[ 400字小説 / 05 ]

 
カランコロンと下駄が鳴る。なんて言えば風流に聞こえるけど、隣から聞こえて来る音は、ペタンペタンとサンダルが立てる、ある意味耳障りな音だ。
「その歩き方やめてよ」
そう言ってみたけど旦那は何食わぬ顔で、ふわぁと大きな欠伸をひとつして、ポリポリと最近出てきたお腹を掻いた。

今日、調子が悪かったお風呂がとうとう壊れた。湯船に水を張り、沸かしたはずなのに張った水はお湯にはならず。お風呂が教えてくれた『お風呂が沸きました』を信じた旦那の「冷たっ」という悲鳴がリビングのほうまで響き渡った。

ということで、私たちは今、近所の銭湯へ向かっている。銭湯といってもスーパー銭湯というやつで、地元のこじんまりした情緒なんてものはない。カランコロンと下駄の音もしなければ、手荷物も何も持たず手ぶらというやつだ。

結婚して三年。昭和のフォークソングのような同棲生活を送ることはなかったが、私たちは今も当たり前に一緒にいる。

フォークソングは聴こえない

2022/10/10

【備考】
こちらは上限400字のショートショート投稿サイト『ショートショートガーデン』に『野辺りな』名義で投稿したものです。銭湯の日に銭湯をお題に書き下ろしました。
活動の中心は創作系SNS『くるっぷ』とTwitterで、Twitterに140字小説や54字の物語を投稿中。その他、短編系の投稿サイトも利用中です。

フォークソングは聴こえない

当たり前の日常に当たり前に貴方がいる

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted