ラブレター

これちかうじょう

託すということ

俺はそれ、を見ている。
結ちゃんにはまだ何も言えていない。
12月22日になってしまった。
「俺の、誕生日」
柚湯をしようとか、ケーキを作るからとか、
結ちゃんは気を遣って俺に話しかけてくる。
「それは何だ?」
「ああ、うん…最期に渡されたんだ、これをいつか、渡して欲しいとだけ言われてた」
「…手紙、か」
緑色の封筒だ。
冬馬が消して欲しいと、もう解放してくれとあまりにも苦しそうに言うので、
俺は嫌だったのに、それを実行した。
確かにはざまの果てでたくさんの人間やそれ以外のものを地獄へは送り込んだけれど、
生身の人間を、
存在している人間を抹消するのは、生まれて初めてのことだった。
だから俺は、自分を人殺しだと、そう感じた。
これが神様の最終形態だろうと納得した。
命を操作することさえ、そうなんだと。
「しかも、2通ある」
「片方は長野宛て?」
「うん、そんでもってもう1通は何故か結ちゃん宛てなんだ。
 俺にはないんだなあってショックだった」
「俺に何か言いたかったんだろうか」
「まあもう結構時間も経ったし、もう俺もそう、くよくよしてらんないし、
 だからはい、これ」
俺は結ちゃんに緑色の封筒をひとつ、渡した。
「俺、あんなに真剣に何かを頼まれたのは初めてだったんだ…
 しかも、前の俺みたいなこと言うから、
 でも俺は行けないぞって言ったんだ、
 俺にはまだ此処に居たいっていう気持ちがあるし、
 でも冬馬は違う意味合いで言ったんだ、
 もう、疲れたって言ってた」
「…疲れた、か」
「うん、何に疲れたのかは俺も分からないけど、
 長野先輩にも言わなかったかも知れない。
 自分が神人類だってことで、人間じゃないってことも話してたのに、
 それ以上は何も言わなかったんだ。
 だから俺に頼んできたんだよ、…消してくれって」
最初ははざまに戻すんだと思っただけなのに、
冬馬は言っていることが違った。
抹消してくれと言った。
それはつまり、永遠の命すら、捨てる覚悟だったんだ。
うまく行ってたと思ってたのに、
違ったのかな。
「ここで読んでいいのか」
「俺も中身知りたい」
「じゃあ、読む」


藤原君へ

生まれて初めて、文を書いている。
ああ、違うな、手紙というものだ。
僕は君みたいに器用に他人を好くことができないようだ。
相手を困らせてばかりで、
酷いことまでしてしまった。
ただ、君にはどうしても頼みたいことがあって、
これを書いている。
簡潔に言えば、冬至君のことだ。
僕は長い時間を生きてきたけれど、
友達とか親友というものを知らずにいた。
だから時計をもらって、今現在の時刻を確認することが多くなった。
もう、昭和も終わり、平成も終わった。
つまりは、僕のいるべき時代は終わったと確信した。
冬至君はすごいと思う。
ゆめんとでもって、眠ることを知らない僕を、癒してくれた。
神人類になる前は確かに眠っていたのかも知れないが、
その重要性や意味合いを思い出せた気がした。
藤原君が羨ましい。
君はずっと冬至君に癒されてきたんだろう。
僕は僅かな期間だったけれど、
それを体験できてすごく感激したんだ。
だから、僕は君たちの中から消えたくはない。
覚えていて欲しい。
僕はもういなくなるけれど、
冬至君を頼むよ。
彼は僕の初めての親友だ。
そして、恐らく今頃、これを君が読んでいる頃には、
成長も終わっていることだろう。
真の神様になっていると思う。
僕は冬至君にたくさん救われた、そして変わることもできた。
愚かだった自分を責めたくもなった。
でもそれすら、いいんだと諭してくれたのが冬至君だ。
だから、僕がいなくなることで冬至君が悲しんだり、
苦しんだりすることを、
是非とも支えてあげて欲しい。
君は冬至君に選ばれた人間だ、
別段相手を神様だと思わなくていい、
普通の男子高校生だと思っていいんだ、
だから彼を支えてやって欲しい。
僕はいろいろなものを手に入れた。
本当に欲しかったのは仲間じゃなく、
理解者だったとも気づいたんだ。

少なくともそちらに理解者が二人もできた。
それが僕は本当に嬉しいんだ。
大河にも謝罪できた、時雨や風馬にも、頑張れとも言えた。
近藤とも、少しだけれど和解できた気がする。
だから後悔はない。

君たちに兄弟ができると冬至君から伺った。
もしその子が大きくなった時には、
きっと藤原家ももっといい居場所になるはずだ、
冬至君にとって。
だからどうか頼む、
冬至君が僕のことで困らないように、
落ち込まないように、
後悔しないように、
藤原君が救ってやって欲しい。
これは僕の我儘だ。
でも頼む。
力の制御の方法も教えておいたから、
もうそちらでも冬至君は生きていけるだろう。
だから、僕の初めての親友を、
これからもずっと、助けてあげて欲しい。
そして、先に逝く僕を許して欲しい。

しかし、恋情がこんなにも疲労するとは思わなんだ。
藤原君が普通にそれを持ち、実行していることが、
不思議でならないよ。
酷く疲れてしまったので、僕はもう去ることを決意した。
できれば、
次の流星群までも、
二人に見てもらいたかったとは思うのだが。

頼むよ、冬至君は僕にとって、最高の恩人だから。
だから冬至君には言わずとも僕の気持ちは伝わるだろうと思う。
彼が自分を責めるようなことのないように、
君が守ってやって欲しい。

では、受験に励みたまえ。
そして、倖せになるのだぞ。

古関冬馬

(結の視点)
「…俺が、殺した」
冬至が両手を見ている。
「冬馬が言ってた、殺さないでくれ、家族がいるんだ、そう敵に懇願されても、
 時間を止めたと。風馬がそれを狙撃して、
 その敵は死んだらしい。
 でもその敵の顔が、長野先輩に似ていると、そう言ってたんだ」
「…殺した、という意味合いではないと、俺は思う」
俺はがさがさと手紙をしまった。
「こう思えばいい、解放したんだと。
 冬馬はこの世界が憎くて、自分を変えた奴らが憎くて、
 それで復讐を考えたんだよな?
 でもその反面で思っていたはずだ、
 俺は人を殺したことがないから分からないけど、
 冬馬は多分、ずっと忘れられなかったんだ。
 その敵の顔も、声も、自分がしたことも。
 だから冬至が悩む必要はない、
 冬至は救ったんだ、
 古関冬馬という存在を、人間にしてやったんだ」
「俺は嫌だったんだぞ、だって親友だぞ、たくさん喋った、
 夢の中で謝罪したいとかもう一度やり直したいとか、
 本気で恋がしたいとか」
「…でも冬至がやったことは殺人じゃない、
 冬馬を戻してやった、解放しただけなんだ。
 普通の人間に戻してやったんだ。
 それを悔やんだりしちゃ駄目だ、
 人を救ったと、親友を救ったと、
 そう考えるようにしろ」
冬至は他人思いだ。
だから他人のことになると、自分さえ投げうってでも、
力を使ってしまう。
でも俺の誓いが、命がある限り、
ここで生きていけるようにもなった。
俺の我儘も聞いてくれるし、やっと話してもくれた。
「冬至、お前も我儘を言っていいんだぞ」
「俺が?散々我儘言ってるけど」
「財布の金、のこととか、いろいろ言いたいことがあるんだと思うし、
 それより何より、俺は頼られたいんだ」
「…ああ、5万な、でもあれはちゃんと使わせてもらった。
 冬馬に誕生日のプレゼントを贈ったんだ。
 発案は橘だったけど、金は俺が出した」
「残りはまだあるのか」
「あるよあるある、でもなんつーか…寂しいな、
 確かに柳瀬橋も親友だけど、あいつは俺のことも理解してくれてたし。
 それに俺を殺せるはずだったのに殺そうともしなかった。
 もう、人を殺すのは嫌だったんだな」
「…そういう、時代の人間だったんだな」
とりあえず、と俺は立ち上がった。
「ケーキを作った。食べてくれるか」
「ああ、今日は22日だっけか」
「冬馬の分もちゃんとあるから、
 だから取り分けよう。
 きっとお前をお祝いしてくれるはずだ」
「うん、ありがとう結ちゃん」
託された。
俺は、冬至を。
それに応えるのが、もう権利じゃない、義務なんだと思い知る。

城善寺千春と藤堂悟の訪問

「ちょい待って悟」
「何で石拾うんだ千春」
「投げる」
「駄目だって、さすがに長野の家の窓を割るのはよくない」
「じゃあ、」
俺はその窓に向かって叫ぶ。
「長野ー!俺だ、城善寺だ!悟も連れてきた!だから入れろ!」
どたんばたんと音がして、窓が開いた。
「…鍵開いてるから勝手に入ってこい」
「な?呼び鈴なんか必要ねえの、こいつんちは」
「千春…もっとさ、デリカシーってもんを学ぼうよ」
お邪魔しまーすと俺たちは勝手に上がり込む。
「弟君はいねえみたいだな、親御さんもいない」
「長野に弟いたんだ?」
「確か10個下の、逢ったことはないんだけどさ」
あいつの弟だろ?ぜってえメンタル強いぞ。
「どうしたんだ急に、二人して」
長野がリビングに降りてきた。
「お前を励まそうと思ってきたんだ、それとこれを託されたんだ」
「…手紙?」
「ああ、中村が結ちゃん通してお前に渡してくれってさ。
 そんで預かってきた」
「…そう、…ああ、何か飲むか?お茶くらいしかないけど」
「俺たちはお前が心配なんだよ、その、古関からはいろいろとは聞けなかったけど、
 中村から聞いてたからさ。
 古関といい仲だったそうじゃないかお前」
「だと、思ってたんだけどね」
やっぱ、元気ないなあ。
「お前、全国模試の結果、どうだったんだ?俺は受けなかったから知らねえんだよ」
「一位だった」
「ほっほー、やっぱ俺がいないとお前が一位か」
「千春、もっとデリカシーを!」
「あ、ああ…」
その、な、と俺は勝手にソファに座らせてもらった。
「古関は次期副部長だと、俺はお前に言ったよな。
 中村とは息が合うから、だから絶対にって思ってたんだけど、さ」
「…うん」
「でもまさかお前らがいい仲だとはな、知らなかったもんで…
 俺も最初はショックだったよ、
 転校でもないし、どこかに編入ってわけでもなかった、
 ただ、いなくなった」
「…藤堂も座って、お茶淹れるから」
「いい、いいから長野も座れ。僕も千春も、お前から何もないから来ただけだし。
 ラインも電話もなかったから、心配した」
「いきなり青陵に来て古関のスマホ渡された時はびっくりしたよ、
 でもあれは駄目、お前が持ってなくちゃ駄目だ」
「だから返したのか俺に」
「そうそ。ちゃんと充電はしてんのか」
「いや、してない。もうかかってこないと、かけることもないと思うと、
 怖くて放置してる」
「中村がさ、」
俺は切り出す。
「古関にかなーりスマホを教えていたんだ。
 つまりは、そのスマホに何かあると思ったんだが、
 普通充電くらいはしとけよ、
 いつでも起動できるようにって」
「でも冬馬は俺が嫌いになったんだよ、だからいなくなったんだろ」
「ばーか、とにかくこれ、読んでみ?
 お前へのラブレターだと思うし、
 もう俺たちは帰るから、充電もして、古関のスマホをちゃんと見とけ」
「…なあ、一つ、いいか」
「ん?」
「全国模試の結果、もう出てるはずだろ、…冬馬が受けるって言ってたから、
 それを見たいんだけどさ、どこにある?」
「村上先生に聞かないと分からないな、担任の。
 でも何でそんなの」
「志望大学だって書く欄があるはずだ、例え1年生でも」
「ああそうだな、じゃあそれは村上先生に聞いておいてやる」
じゃあなと俺たちは立ち上がる。
「二人は」
「あん?」
長野が小さな声で言う。
「もうしたのか、セックス」
「…は?」
何故に今そんなことを聞かれるんだ?
「いや違うな、俺は気づいてたんだよ、お前ら、小学生の時にはもうやってたんだろ」
「そうだけど?」
悟…デリカシーって何だよお前!
「あの頃は長野が憎かったけど、でも今は違う。友達だと思ってるよ、僕たちは。
 だから心配して来たんじゃないか、
 それにその顔、すげえクマ。寝てないな?
 もう受験生になるんだから、ちゃんと寝ないと駄目だぞ」
「おんなじこと言うなよ…」
「は?」
「俺ショックなんだよ、ショック通り越してすげえ寂しいし、悲しいし、苦しいんだよ。
 散々人のこと綺麗だとか美しいとか魅力的だとか言っておいて、
 勝手にいなくなるなんて、…渡したいものもあったのに、
 でももう逢えないって分かるから、だからすげえ、泣きそう」
「…古関は変に時代遅れな部分あったもんな、でもそれ読めば多分分かるんじゃね?
 あいつが言いたかったこととか、多分、
 伝えたかった事があるからそれ書いたんだと思うぞ?
 部長の勘だがな」
「…うん、じゃあ二人が帰ったら読むよ、充電もする」
「お前が元気ねえのは見てて痛いわ。
 お前のいいところはポジティブなところだろーが。
 俺にいろいろ教えてくれたのもお前だし、
 俺もお前にいろいろ教えたろ?
 そういうの、俺は感謝してるから。
 だから自分の道ってのも考えたんだから、ちゃんとしてくれよ、な?」
「…うん、今日はありがとう、遠いところを」
「いいんだよいいんだよ、僕たちは同期じゃないか」
それで俺たちは帰るのだが。
「…あいつ、すげえ好きだったんだなあ、古関のこと」
「千春と一緒で勉強馬鹿だからだよ、
 …でもああいう弱ってるの見るのは、結構きついな」

ラブレター

「…緑色の封筒、か。また緑色なのか」
あの日、12月6日に家に呼んだのは、親に紹介するためだった。
これからもずっと一緒に居られると思ったから、
だから緊張して出ていけなかった。
話を聞いていれば他人行儀に受験に関してのアドバイスなんかして、
せっかく律が取ってくれた寿司だって食わないで、
気が付いたらもう、目の前にいなかった。

俺が機種変したのは、ちょっとしたことだった。
冬馬からのラインが爆笑もので、つい手から落としてしまった。
そしたら見事に画面が割れて、
やべえと思ってすぐにショップに行ったんだけど。

「ラブレターと思ってもいいんかなあ」
怖い。
何が書かれているのかを考えるだけで、足が震える。
でもこれを書いていた時の冬馬を思えば、
俺がなすべきことはおのずと見えてくる。


長野将好様

もし、寂しいと思ってくれたのなら、
是非とも名前を、
僕の名前じゃなく、
あの日教えた星の名前を、
思い出して欲しいのだが。


古関冬馬


「デネブ、アルタイル、ヴェガ…」
何だよ、これだけかよ。
ラブレターじゃないじゃん。


少し寝落ちていたらしい。
ピコーンと音が鳴ったので、目を開けた。
充電が終わったのか。


「…冬馬のスマホって緑色だったんだなあ」
もしかして同じ色、好きだったのかもと思う。
「えーと、起動起動」
どんな記録が残っているだろう。
まさか初期化とかされてたらそれはそれですげえショックなんですけど。

「…お、これは冬馬が撮ったんだな、中村君とのツーショットだ」
しかし自撮りはさすがに難しかったか。
角度が変。
しかしその前に待ち受けにぎょっとした。
俺が何気なく送った、俺の顔の写真だったからだ。
「拝んでてくれたんだ…」
今どき、待ち受けに文字を入れることができるのだが、
それも。
『星よりも美しい人間』
「はは、なんだそりゃ」
それから?と俺はいろいろなアプリを起動する。
「お、ラインは消えてないな。俺とのやり取りも残ってる。
 俺はいっつもすぐ既読つけるんだけど、
 冬馬はあんまりすぐつかなかったっけ」
送信するつもりで打っただけの文字が残っていた。
「…許して欲しい?」
これを俺に送るつもりだったん?と笑える。
「許すわけねえじゃん、俺の童貞もらってくれるって話、
 忘れてたんかよばーか」
それから、謎のアプリを見つける。
ああ、これは独り言をぶつぶつ呟けるやつだ。

『ああ、疲れた』
『風馬、時雨、ごめん』
『僕も眠りたい』
『すごく疲れた』
『謝罪ができた』
『だから大河に僕は勝てなかったんだな』
『冬至君にお願いするしかないな』
『将好は泣いてくれるだろうか』
『でも理解者がいるとは、僕も果報者だな』
『やっと解放されると思うと、何だか』
『何故だろう、まだあいつの顔が忘れられない』
『僕は命令なんか聞きたくなかった』
『律君はすごいな』
『きっともっと、いいことがある』
『それは僕にではなく』
『祈ろう、久々に』
『全ての倖せが、どうか、将好に降りますよう』
『僕はきっと、もう駄目だろうな』
『いいこともできなかったししてこなかった』
『せめて、還ることができたなら』
『その時はもう、すぐだ』
『疲れた』
『恋情とは、すごく疲れるものなのだな』
『将好が東大に受かると、いいな』
『もう23時か、寝ていればいいのだが』
『ああ、疲れた』
『できればもう一度、行きたかったな』
『せめて、この世界に居なくとも』
『僕はいつまでも、君を』
『美しいと思い続けよう』
『ああ、星が綺麗だ』
『疲れた、やはり僕が居るべき時代じゃない』
『ごめん』
『明日はきっと言おう、ちゃんと』

そして12月6日の朝の、最期の呟き。

『命令には、従わないとなるまいな』


「俺、命令なんかしてなかったよお…」
星の名前は覚えている。
冬馬が言ってくれた、六等星の名前まで、全部。
「上官でもないのに、俺は本気で君が好きだったのに…」
冬馬が男でも女でもよかったんだ。
冬馬だったから、俺は好きになったんだ。
変に不器用で、
それでいて笑うと超かっこいい、
そういう君が、本当に愛しかった。

「渡したかったのに、もう渡せないんだなあ」
昔の人間でも理解できるようにって、
今までのバイト代全部つぎ込んで買った、そういう指輪。
「俺が悪かったのかな、フランクすぎたかな、
 おかしい言葉遣いだねって言ったのが駄目だった?
 それに疲れたって何?
 俺の方こそ、緊張しすぎてすんげえ疲れちゃってたよお」


ラインだ、と俺は目を開ける。
また寝落ちた。
「何だ、城善寺か…」
そうだよ、もう冬馬からはラインは来ないんだ。
『村上先生に聞いた、
 古関の成績表、結ちゃんに渡したってさ。
 あとで中村行かせるから、
 ちゃんと見てやってくれ』

藤原君を通して、中村君に行ったのか。
志望大学、どこだったんだろ。

藤原兄弟の訪問

「すまない、俺もついてきてしまった」
「いやいや、藤原君にも逢えるのは嬉しい限りさ。
 そんで、その」
冬至、と藤原君がせっつく。
「これです、冬馬の成績表」
「うーん、どれどれ~?」

志望大学、東京大学
志望学部、医学部


「…お、俺の受けるとこ、」
「長野先輩、ごめんなさい。俺が冬馬を消しました。
 だから殴るなり蹴るなり煮るなり、何でもしてください」
「いやいや、中村君にはそんなことしない、」
「でもすげえあいつ疲れたって言ってたんです、
 でもそれはもう分かってますよね、
 何に疲れたのかは、もう分かってますよね」
「生きること、にだろ?」
ううん、と中村君が首を横に振る。
「考えることに、です。
 長野先輩のことを考えると胸が痛いって何度も言ってました。
 それに、ラインだって送る前に俺におかしいとこないかって、
 何度も相談されました。
 言ったでしょ、あいつは無頓着で、初心者だったって。
 だから人を好きになっている自分が、すごく大変だったと思うんです。
 ましてや自分は人殺しだからとか、
 そういう遠慮までして、
 それでも長野先輩に逢ってもいいのだろうかと相談もされました。
 一番最初に殺した敵の顔が、長野先輩に似てたそうです」
「…だから疲れちゃったんだ」
「確かに長野先輩を好きだっていう気持ちは理解してたんだけど、
 それ以上に、バグるんですよ、
 自分がしてきたことと、これからしようとしていることが、
 果たして正しいのだろうかと、
 だから先輩のことを美しいとか綺麗だとか、
 魅力的だと言ってたんだと思います。
 そう言うことで、何としてでも自分のやってきたことを正当化しようと頑張ったはずです。
 あいつは夢の中でも何度も何度も戦時中のことを思い出してました。
 嫌だ、殺したくない、でも命令だから、と、
 そうせざるをえなかった時代の人間だったんです。
 だからこの世界を壊そうともしたし、俺をも殺そうとした。
 でもそうしなかったのは正解だったとも言っていました。
 長野先輩に出逢ったからです。
 元々は、普通の黒い目を、していたそうです」
「…目、赤かったなあ」
「神人類は目が赤いんです。鬼のようになるべく、そうされたんです。
 だから冬馬は鏡を見るのを嫌がってました。
 でも長野先輩から言われたって、かっけえなあって。
 だから鏡を見るようになったとも言っていました。
 俺も人殺しです、大事な親友を殺した。
 本当は嫌だったのに、あいつが笑ったんです。
 疲れたからって、解放されたいって。
 だから俺はやりました。
 あいつを星に還しました。
 きっとどれかの星が、冬馬です。
 それを見つけてやってください。
 あいつが星好きなのは、星が美しいと魅了するからなんだそうです。
 だから先輩を綺麗だとか言っていたんです。
 それを分かってやってください。
 あいつは自分から望んで星になったんです。
 だからもう、あいつのことを解放してやってください」
するもなにも、と俺は言う。
「俺は束縛なんかする人間じゃないし、嫉妬なんかもしない、
 でも何でかなあ、眠れないで星を見てるとあの日を思い出すんだ。
 俺の誕生日にね、シャーペンをくれた。
 そんでさ、後々になって気づいたんだけど、
 名前が刻んであったんだ。
 俺の名前と、冬馬の名前が」
「人は生まれて、やがて死にます。
 その間にいろんなことを経験する。成長する。
 冬馬はきっと、長野先輩とも経験して成長したはずです。
 できればもう少し待ってくれと、
 俺も頼むべきだったんです、
 まだしてなかったんでしょ…?」
げげ、と俺は苦笑する。
「卑猥な輩だって言ってましたよ、
 でもそう思うってのは、理解してたからですよ。
 俺は時間も戻せますけど、…それはきっと冬馬が嫌がるだろうから、
 だからしません。
 でももし、どこかですれ違うことがあると思います。
 あいつはいいことを最期にしたから、生まれ変われると思います。
 その時は、笑ってあげてください」
「いいことって?」
「長野先輩を、助けたんです。
 俺が言うのもなんですけど、スマホ、機種変しましたよね、最近」
そうそう、つい手を滑らせて落としちゃったってやつだ。
「実はあの機種、漏電の可能性があったんです。
 というか、持ってると発火するっていうのかな、
 そういう危険性があったんですよ。
 だから機種変してくれて助かりました」
「そ、そうなん?俺そんなこと知らないんだけど」
「冬馬は人の痛みが分かる奴だったから、先輩が持ってるスマホの熱にも気づいてたんです。
 だから、無意識にぶっ壊したんですよ」
「…そんなこと、何も聞いてなかったけどなあ…」
「冬馬が消さないでって言うから、記憶は誰からも消してません。
 でもつらいなら、消してあげますけど」
「いんや」
俺は首を横に振る。
「それじゃあ星のことまで忘れちゃうし、
 今までのやり取りとか、一緒にアイス食ったこととか、
 全部なくなるのやだから、やめて」
「…分かりました、でも」
「うん?」
「…きっと大丈夫です、長野先輩明るいし、フランクだし?
 冬馬がいなくても、きっと」
「…自信ないけどなあ」
「それに」
「?」
「あの人みたいにすぐに番人に呼ばれたみたいですから、
 大丈夫です。
 だから、きっと、大丈夫です」
不思議な子だなあと俺は笑った。
「うん、君が大丈夫ってんなら大丈夫なんだろうね。
 俺は頑張るよ、23時にはちゃんと寝るようにするし、
 体にいいものも食べる。
 具合悪かったらすぐに薬飲んだりする。
 忙しい一年になるだろうけど、
 藤原君もさ、お互い頑張ろうな、受験」
「うん」
きっと、大丈夫だ。
俺は手の中の指輪を握りしめる。
「きっと、いつか渡せそうな気がする。逢えなくても、
 見えなくても、
 気づかなくても、
 そういう予感がする」
「じゃあ俺たちはこれで。先輩、俺の勝手な想像なんですけど」
「なに?」
「仲宗根先輩みたいな、そういうの、
 多分ありますよ。
 俺もそんな予感がするから、だから立ち直れました」
「仲宗根…?」
「じゃあこれで。結ちゃん、帰るぞ」
「うん」
まるで因果応報だな、と俺は思う。
星、好きにもなったし。
「そっか…天文学、ねえ」
城善寺は医学部受験をすっぱり諦めた。
俺はただ、城善寺に、藤堂に、謝りたくて医者を目指していたけれど。
「…天文学、ねえ」
もし、望遠鏡があったら、
逢えるかもなあ俺たち。
そう思わん?冬馬。

ラブレター

ラブレター

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日
2022-12-05

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 託すということ
  2. 城善寺千春と藤堂悟の訪問
  3. ラブレター
  4. 藤原兄弟の訪問