十二月のロンリー

 桜の木の下には、だれもいなかった。胃が、くるしい、と思ったとき、さいきんおぼえた、星が軋む音がきこえた。鼓膜に触れるか触れないかくらいの、感覚で、わたしは、それに、吐き気がしたけれど、胃のくるしさは、改善しなかった。実際に、嘔吐はできなかったから。古びたラブホテルのテレビで、えっちなのではなく、海でイルカが泳いでいるだけの映像を観て、わたしとあのこはたぶん、安堵して、幻滅して、でも、これも正解なのかもしれない、と通じ合ったように頷きあってから、眠った。そういう夜もあって、でも、暴力に屈服して、泣きぬれた夜のことも忘れられなくて、ひとは、いつでも、無情になれる生きものなのだと悟ったときには、わたしも、ひとではなくなっていた。焼きたてのワッフルを食べている、あのこが、わたしのことをはやく、ひとではないナニカとして扱ってくれないかと祈りながら、喫煙ルームでぼんやりしていた。
 やわらかにふりそそぐ、あたたかい色の照明が、ニコチンタールまみれの空間にふつりあいで、ちょっと笑った。

十二月のロンリー

十二月のロンリー

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-12-04

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted