十二月のロンリー
桜の木の下には、だれもいなかった。胃が、くるしい、と思ったとき、さいきんおぼえた、星が軋む音がきこえた。鼓膜に触れるか触れないかくらいの、感覚で、わたしは、それに、吐き気がしたけれど、胃のくるしさは、改善しなかった。実際に、嘔吐はできなかったから。古びたラブホテルのテレビで、えっちなのではなく、海でイルカが泳いでいるだけの映像を観て、わたしとあのこはたぶん、安堵して、幻滅して、でも、これも正解なのかもしれない、と通じ合ったように頷きあってから、眠った。そういう夜もあって、でも、暴力に屈服して、泣きぬれた夜のことも忘れられなくて、ひとは、いつでも、無情になれる生きものなのだと悟ったときには、わたしも、ひとではなくなっていた。焼きたてのワッフルを食べている、あのこが、わたしのことをはやく、ひとではないナニカとして扱ってくれないかと祈りながら、喫煙ルームでぼんやりしていた。
やわらかにふりそそぐ、あたたかい色の照明が、ニコチンタールまみれの空間にふつりあいで、ちょっと笑った。
十二月のロンリー