moon
喰らう。真夜中のバケモノが徘徊する、海岸線。ぼくを呼ぶのは、オルカ。つめたい海で、待っていてくれる。いつも。いつまでも。
ホットの缶コーヒーが、ぬるくなったことをぼやきながら、商業ビルのおおきなスクリーンに投影される、あたらしい映画の予告映像をみている、きみ。あの、アイドルのひと、さいきんよく出てるね。ぼくがひとりごとみたいに言うと、きみは、なまえはしらないけど、かっこいいと思う、と答えて、缶コーヒーをぐいっと飲む。ときどき、爪を噛むのは、きっと、禁断症状。たばこをやめたから。
ふいに。ドーナツを食べたい衝動。缶コーヒーの、缶のふちに、かちかちと歯をあててる、きみの、ちょうど空いている左手に、右手で触れ、指をからめて、にぎる。いまかなり、ドーナツ気分、と告げると、まかせる、と言って、ぼくの手を引いて歩き出した、きみが、さりげなく見上げる空には。
moon