moon

 喰らう。真夜中のバケモノが徘徊する、海岸線。ぼくを呼ぶのは、オルカ。つめたい海で、待っていてくれる。いつも。いつまでも。
 ホットの缶コーヒーが、ぬるくなったことをぼやきながら、商業ビルのおおきなスクリーンに投影される、あたらしい映画の予告映像をみている、きみ。あの、アイドルのひと、さいきんよく出てるね。ぼくがひとりごとみたいに言うと、きみは、なまえはしらないけど、かっこいいと思う、と答えて、缶コーヒーをぐいっと飲む。ときどき、爪を噛むのは、きっと、禁断症状。たばこをやめたから。
 ふいに。ドーナツを食べたい衝動。缶コーヒーの、缶のふちに、かちかちと歯をあててる、きみの、ちょうど空いている左手に、右手で触れ、指をからめて、にぎる。いまかなり、ドーナツ気分、と告げると、まかせる、と言って、ぼくの手を引いて歩き出した、きみが、さりげなく見上げる空には。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-28

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