『登山の日だから』

[400字小説 / 02]

『そこに山があるから登るんだ』
そんな名言を遺したひとを私は知らない。車で登るドライブとは違い、歩き登山は遠足でしかしたことがない私にとって、歩いて登ることは未知の世界だ。

苦労して登った山頂からの景色は最高らしいが、それが初日の出だったりしたら、もう夢物語でしかなくて。そんな私にとって山とは山そのものを眺めたり、山の景色を楽しむものであって、決して山頂から眼下の景色を楽しむものじゃない。だから、
「山に登ろう」
恋人にそう言われた時は、一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「ドライブじゃなくて?」
思わずそう聞いてしまったけど、仕方がないと思う。
「そうじゃなくて登山ってやつ」
そう言われてピンと来た。真の登山好きなら『やつ』なんて付けない。またいつもの思い付きに違いない。
「なんでしたいか聞いていい?」
そう聞いてみたら思った通りで。単純でとても可愛いひとを私はよく知っている。

『登山の日だから』

2022/10/03

【備考】
こちらは上限400字のショートショート投稿サイト『ショートショートガーデン』に『野辺りな』名義で投稿したものです。登山の日に登山をお題に書き下ろさせて頂きました。

『登山の日だから』

単純明快な君が好き

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-28

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