Te prestaré las llaves de  邦題 アパートの鍵貸します

Te prestaré las llaves de  邦題 アパートの鍵貸します

題名は実在の洋画と同名だが内容は知らない。
社内の二人の話。

 地下鉄の改札を抜け銀座通りを歩きながら呟く。
「毎日、同じ事をやって、帰れば冷たい部屋が待っているだけか・・」
 身寄りのない緒方謙介は大学を出て、商事会社で契約関係の仕事をしている。肩書は課長だが、自分ではそんなものを気にした事は無い。
 タイムカードを押し、デスクに座るが、まだ始業時間まで大分ある。コーヒーでも飲もうかと、リースのコーヒーメーカーの前に。
 先にコーヒーを入れている三田ゆかりの後ろに並ぶと、「緒方さんの分、私が持っていきますから、座っていてください」。最近では、何処の会社も肩書などつけずに名で呼ぶ事が多い、いい事だ。
 こんな時間から出勤している彼女も、両親を亡くして一人だが、美人だしよく気が付く女性だと思う。仕事はベテランだし社内の男性の間では人気があるようだ。男性達とは時々飲みに行くようだ。
 謙介も、二度程、彼女と飲みに行った事がある。何れも、飲み会の後などで成り行きでそうなった。だから、彼女の両親の事などを知っている。
 決済箱を空にして、出掛ける準備をする。バッグに書類を詰め込む時に、底に何かあるのに気が付いた。
 子供のおもちゃの様にも見える、先日、レストランに行った際に隣に家族連れがいたが、トイレに行っている間に、いなくなっていた。
 ひょっとしたら、あの子供がうっかり落としたものがバッグに入ってしまったのかも知れない。
 手に取れば、小さな鍵のおもちゃのようだ。そう言えば、あの子供が小さなMagicボックスのようなものを開ける際に盛んに此れを使っていた。
 ゴミ入れに入れようと思ったが、子供の無邪気な顔が浮かんだら、捨てるのはやめにして、机の上に置く。また会う事は無いだろうが、まあ、暫く置いとくか。
 



 丁度ホームに滑り込んできた地下鉄は空いていたからシートに座って、一応、訪問先の順番と地図を確認する。
 なるべく、ロスのあるコースは避けたい。其の後何がある訳では無いが、時間があれば、本でも読めば良い。謙介は本が好きだから、一人で何もやる事が無い時には本を読む事が多い。
 趣味といっても其れと、音楽を演奏したり、イヤーフォーンで聴きながら寛ぐくらいだ。其れも、一人ではなかなか元気が出ない。
 音楽にしても、最近の曲をレンタル屋で視聴したが、良いものが無いから、同じものばかり聴いている。唯一の気晴らしだから、音が無いと淋しくなる。
 訪問客からは書類を貰うが、客によっては自分の周りに起きた事などを話し出す事もある。誰かに話したいのだろう。相槌をうっているだけでも、本人はストレス解消になるのかも知れない。
 仕事は、特段の事情でも無い限り、ほぼ予定通り終わる。最後の客先を訪問する。何と、家族の多い家だ。賑やかでいいなと思う。大した事でも無くても、家族にとってはちょっとした問題なのだろう。
 笑顔で客先の扉を閉めれば、あとは自由の時間が訪れる。帰り道に適当な公園を見つけると、ベンチの埃を持っていた新聞紙ではたいて座る。
 音楽のボリュームを上げる。他の場所では音漏れになると苦情が来るが、此処なら誰にも迷惑はかけない。
 誰もいない公園、しかし、誰もいない部屋にいると憂鬱になるが、どうして、表に出ると気分が良くなるのだろう。
 社内の事や仕事の事は、何時も気にはなるが、帰って適度なその程度の事は、意識下で生きているという自覚を感じさせてくれるから、まるきし迷子にならないようにとの足枷のようなものだ。
 丁度、気晴らしが、と、スマフォが振動する。社からだ、何か揉め事があったというが、連絡してきたのは、役員だから、無視も出来無いだろう、戻らなければ。
 


 
 デスクに座った途端に、役員室迄来るようにと課員から。役員室のドアをノックして入るとすぐに、用件が口をついて出てくるようだ。
 どうやら、男性の課員がこなした案件が役員の目では、いい加減過ぎるから、本人を呼びつけて、釈明させようとしたら、反抗的な態度で、反省の色が窺えないという。
 役員室の内線電話で、課員を呼ぶ。普段は大人しい性格なのだが、どうしたんだろう。課員の主張は契約には瑕疵はないというが、役員は、信用情報の評価が良く無いのと金額からして、保全が甘いという。
 役員には、分かりましたと返事をしてから、私が相当の処置をしますからと、課員と共に一旦課に戻る。課員の判断は間違っていそうも無いが、出来れば保証人をとった方が無難ではある。
 信用情報の見方は間違っていない。裏読みをしても問題は無い、相当過去にネガ情報が一つだけあるが、その後かなりの期間が立っているのに、契約先の業績は上がっている。
 若さゆえ、其れを懇切丁寧に説明する間に、横槍を入れられるから、腹が立ったというだけだ。
 金額も大した事は無い。課員に、妻の保証は取れないかと聞く。妻など働いてもいないし、保証人としての価値は無いというから、誰でもいいんだ、つければ納得する筈だ、君だって妻に保証など面倒だが夫婦なら気にはするだろう、その程度で充分大義名分は通る。
 役員にはそういう事で納得をさせた。課員に、役員が言っている態度とは何だい?と聞くと、今朝、出がけに妻と口喧嘩をしたので、つい、正論だと言い張ってしまったという。
 謙介は笑いながら、まあ、あまり奥さんと喧嘩しないようにした方がいいんじゃないか、夫婦喧嘩は犬も食わないっていうだろと話すと、東という課員は突然、笑顔になり頭を下げる。
 



 デスクに座って一息入れたら、机の上の鍵が無い。間違えて捨てたのかなと、ぼけたかなと思った時、ゆかりが、御免なさい犯人は私ですと。
 あんなもの何か興味でもあったのと聞くと、余り可愛いから、此れお返しします、ちょっと手に取ってみたんです済みませんと。
 其れ、もうあの子供に会う事は無いから、かと言って警察に届けるようなものでも無いしあげるよ、若し、子供にまた会った時は新しく買ってやればいい。
 いいんですか、と、おかしな事に喜んでいる。ゆかりの年は自分と幾らも変わらないだろうが無邪気だなと思う。ついでにだろうが、何か話したい事があると一言。また何か問題でもと思ったが、そんな感じでも無さそうだ。
 健介の机の上には内線電話とカレンダー付のメモがあるだけだが、その後ちょっとしたことがあった。
 再び出掛けて戻って来たら、電話の下に折りたたんだ紙片が見える。一見、何でも無い紙屑の様に見えたからゴミ入れに捨てるつもりで広げた紙片に文字が。二行ほどの短い文章。其れで、今晩の孤独が解消されそうだ。




 待ち合わせは銀座の書店が多い。多いというのは過去にはいろんな事があったから。一言で言えば、懇意にしていた女性が急の病で亡くなったが、待ち合わせは此処だった。
 早めに行って立ち読みしていたら、待ちました?済みませんの声。振り返れば明るいゆかりの目が。
 内幸町の高層ホテルのレストランで夕食を食べる事にする。良く利用するが、社から近いし帰りも駅に近いから便利だ。
 落ち着いた広いFloorの臙脂の絨毯が足に心地良く感じられる。窓は大きな総ガラス張りだから、数寄屋橋から日比谷や東京タワーまで綺麗に拡がっている。
 何回か一緒に飲んでいるから、直接言えば良かったのにと言おうとしたが、流石に課員の目があるだろう。何と言っても社の花だから目立ち過ぎる。
 彼女の身の上は大体聞いているから、話は、東と役員の件から個人的な事に移っていく。互いに孤独な身の上だからと、そういう意味では話題に違和感を感じさせない。
 謙介がゆかりのグラスにワインを注ぎながら、「どう、何かいい事でもありそうかい?」と、ゆかりが軽く首を横に振り、「相変わらずです。緒方さんは、その後、何か素敵な事でもありました?美女と出会ったとか・・」というから、「目の前にいる人の事?フランス人ならもう少しましなjokeを付け足すだろうが・・」。
 ゆかりは、あら、と反応し、「以前、伺った女性の方様に、御不幸は残念でしたが、緒方さんって私はよく分かるんです。何故、男性からも好かれるかって、ああ、だから女性からも・・」謙介は、其れは買い被(かぶ)りじゃないかな、好きな女性は確かにいたけれど、他には・・でも・・」。
 ゆかりは、窓の外から視線を戻すと、健介の目に、「でも・・って?」健介が赤いワインを口に含むと、「人って、何時までも想い出を持っていても、何時かは別の感情が騒ぎ出す事もあるって事かな・・君の事だって、そう思うよ・・」
 ゆかりは、白い顔をやや紅潮させながら、「・・言っている意味が私の考えている通り正しければ、私は嬉しいのですが・・とても・・」
 二人の仲は、間違いなく同じ方向に向かって進んでいそうだ。
 其れから、待ち合わせが続く毎にいろいろな話がされ、二人の間には何等の壁も存在しなくなる。



 社で、異動の噂が出ている。かなり、大掛かりな異動らしいが、其の中にゆかりと謙介が含まれているか、だとしても対処していけるだろうと二人は思っている。
 異動は、役員が一部、系列会社から出向者と交代になり、課は其のまま存続するが、同じく出向社員が加わったから人数は増える。
 発表の後、社長からの訓示があり謙介の課の一層の活躍を期待するとの事だった。系列各社とも入れ替わりや増員などで、今後、これ以上に奮起をと促された。
 やはり、景気の後退に対応するシフト体勢が組まれた事になる。
 ゆかりは、課から外れ系列各社合同の社員で構成される業務部に属すことになった。
 場所は、近くだが別のテナントになる。



 新宿のホテルで二人は待ち合わせをした。異動で同じ建物とはいかないまでも、近くだから二人の関係は寧ろやりやすくなると思われる。
 只、毎日朝から晩まで顔を見るという事は出来なくなった。
 謙介が、ゆかりの慣れるまでが大変だと心配したが、ゆかりは、大丈夫、何が変わるという訳では無いですから、と、余裕がある言葉で謙介も安心をする。
 謙介がゆかりの目を見ながら、「そろそろ、住まいも考えようかと思っているんだ。今すぐでは無くてね・・異動に慣れるまで、一年位か後・・其れ迄は・・どうする・・?」ゆかりは微笑みながら、「あの鍵、覚えています?小さなおもちゃの鍵・・あれ取り敢えず返しておきます・・その代わり・・」。
 ゆかりはバッグから鍵を出す。小さなおもちゃの鍵。其れに、もう一つ鍵を出すと、謙介の手に乗せる。
 謙介が手の上の鍵を見る。
 ゆかりが微笑みながら一言。
「アパートの鍵貸します・・」

Te prestaré las llaves de  邦題 アパートの鍵貸します

管理職の男性と部下の女性。
女性は美人で、二人共此れといった身寄りは無いようである。
社内の異動等もあり、二人の話は其の後どうなっていくのか?

Te prestaré las llaves de  邦題 アパートの鍵貸します

Title通りの展開を期待して構わず、その様な気配が・・。 上司と部下であっても、男女である事には変わりはない。と云う事なら、Titleも気になり一体どのような展開だろうと・・。 説明するより、作品は短いのだから読んでもらった方が分かり易いという事で・・其れではどうぞ・・。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-27

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