Downpour

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ショートショート4
銀座で起きた出来事とは・・。

 「あ、あれ・・」


 安田明は腕時計を見て呟く、「昼休みもあと十分程で終わりだな」
 銀座七丁目の裏通りを会社に向かって歩いていた。

 突然の雷鳴に雷光。
 明は朝のニュースチャンネルの天気予報を思い出した。
「今日は大気が不安定なので、急な豪雨に注意をして下さい。お出かけの際は、折り畳み傘を忘れずに」
 明は空を見て、「天気予報が当ったようだ。雨だ。参ったな」
 会社まで走ろうとした。

 背後で鈍い音がした。
 明が振り返ると、今通ってきた歩道に置かれている黒っぽい塊を、事務服を着た女性が、右手の人差し指で指さしながら、左手で口を押さえている。あっと言う間に数人の人垣ができた。明は何だろうと思って覗いてみようとしたが、雨は土砂降りになるし、時間が無い、戻らなきゃ。

 明の会社は老舗のデパートだ。昼休みは交代でとるが、時間までに戻らなければ、他の社員に迷惑をかけることになる。交代で、菅野洋子が休憩に入った。
 明の所属は、紳士服及び婦人服売場のブランド店で、メンバーは男女三人だ。
 一応、明が責任者、あとは女性が二人。洋子と今井美紀、美紀と明は三年程前から、付き合いを始めて三年程になる。明は二十代後半、美紀は二つ下、洋子は四十代のベテランだ。洋子が休憩を終え戻って来た。洋子は年の功だけあって、仕事や社内の人間関係などに詳しい。スピーカーというニックネームを持っている位、お喋りでもある。
 売り場では私語は慎まなければならないから、昼休みや三時の休憩時間などに女性専用の休憩室で一気に花が咲いたようにお喋りが始まる。
 今日のトップニュースは何だったのか。
 しかし、彼女の別名はそれだけでは無かった。ベテランで一人者だから、貯金が相当あって、「銀行」とも呼ばれている。つまり、銀行に融資を依頼するように、金を貸してくれと言って、結構多額の借金を依頼してくる者もいるらしい。尤も、社員同士での金の貸し借りが、何処の会社でもそうだろうが、社内で漏れたらクビにもなりかねない。何処からそんな話が漏れるのか。ひょっとしたら、貸借りにトラブルがあって、争い事があるのかも知れない。とんでもない高利で貸し、取り立ては鬼のように厳しいらしいから。

 今日も、明と美紀は待ち合わせをしていた。社を出て少し歩いた処に中華料理屋があるのだが、その横から細い地下道がメトロ銀座四丁目の駅まで繋がっている。近道として或いは人目に付きにくいからと、利用する人達は多い。
 明が地下道の手前にある小さな書店で雑誌の立ち読みをしていた美紀の肩に触れながら、「お待たせ、待った?」
 美紀はびくっとしたように顔をゆっくりとこちらに向けた。
 明が笑顔で、「何、何かあったの?」
 美紀は手に持っていた雑誌を元の場所に戻して、明と歩き始めた。
 美紀は並んで歩きながら、「今日昼頃、社の近くのビルから飛び降り自殺をした人がいて、その人の着ていた黒いスーツがうちのブランドだったらしいの」
 明が昼に見た光景を思い浮かべながら、「ああ、あれがそうだったのか。また、スピーカーからの情報なの?」
 美紀は大きく頷きながら、「それが、また、洋子さんが販売した客だったらしいから、休憩時間はその話だけで終わってしまったくらい」
 夜の銀座を、二人は並んで歩いて、二丁目の裏道にあるパブに入った。
 一番奥のテーブルに向かい合って座るとドリンクと摘みを注文した。
 明がグラスを手にして、「電車に飛び込みっていうのはよくあるが、ビルから飛び降りってあまり聞いたこと無いね。昔はあったかも知れないけれど・・」
 明が笑顔を見せると、「暗い話はそろそろやめにしよう。この前の時に話したけれど、君の実家に行ってご両親に挨拶をしようと思うんだ。もう、二人で決めた事なんだから、その方がいいよね」
 美紀が笑顔を浮かべて、「そうね。うちの親なんか気を使わなくてもいいんだけれどね。まあ、一応、そうして貰えれば喜ぶだろうし、その後は二人だけで海外の教会あたりでやるのもいいしね」
 明も笑顔満面で、「いいね。今、そういうのが流行みたいな事も聞くし。海外か、海の綺麗な・・バリ・ハワイとか・・」
 二人の素晴らしい夢は叶いそうだ。
 美紀が店の窓を見て、「あら?雨かしら?」
 窓ガラスを流れる雨の様子ではかなり降っているようだが。
 話も一段落をして、明が、「そろそろ、引き揚げようか?折り畳み傘は持っているから。ああ、君も持っているの、良かった」

 二人がパブを出た時には土砂降りだった。
 明が、「なるべく一緒に行かないと、傘が小さいから」と言って、美紀に体を合わせるように歩き始めた。



 鈍い音がした。
 降って来たのは雨だけでは無かったようだ。


 黒い塊が目の前に。
 胸にネームが「菅野」


 銀座通りの電光掲示板には・・。「今日は雨時々・・でしょう」

Downpour

このサイトにはショートショートというジャンルが無いようだが実に珍しい。星新一・阿刀田高などで有名。シニカル~皮肉と軽妙なDiscoのディスクジョッキーのようなもの。
大体二千字程度なので、誰でも書けるから、素人でも始めてみたら案外良いものが出来るかも・・。

Downpour

ショートショートというものは平凡な日常な生活というメニューの中に、何かスパイスのようなものを加えてあげれば出来上がり。出来不出来は其れはあるが・・気にする事は無い。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2022-11-27

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